男女比1:20の因習村に転生したけど、俺が生贄ってマジ? 作:飲酒村
突撃お前が晩御飯。
もとい、俺が八尺様の晩御飯。
『ぽぽぽ……』
……ぐにょるぐにょると蠢く肉。
なんというか、生暖かく、そして粘着質な空間。
肉の壁が、絶えずうごめいているのが分かる。
「これが八尺様の体内か……暗くて詳しくは見えないけど」
しかし、内臓を一々洗うような奴じゃないと言ってた割には、他のもの見当たらずにキレイだ。
血生臭いわけでもなく、ただ生温かいだけの粘膜が俺の肌を撫でている。
死ぬよりはマシだが、正直気持ち悪い。
八尺様に食べられてしまったという現実。
それを打破するには、俺は今どうすればいいのか。
生き残るためには、どうすればいいのか。
ぶっちゃけ……分かんねぇ。
なので、とりあえず助けを求めて叫んでみる。
「おーいッ!! 助けてくれーッ!!」
『ぽっ!?』
叫び声が、体内を震わせる。
俺の声が、八尺様の内臓を揺さぶり、肉の壁を微かに振動する。
驚いたのか、俺の周囲の肉壁がより激しく蠢く。
『クックック……おい、八代。元気でやっているか?』
外部から、
ああ、元気ですとも。
一生に一度あるかないかの、体内旅行を楽しんでおりますよ(半ギレ)。
正直、派手噛まれたらアウトだったが、八尺様の舌で舐め回されただけなので、何とか元気に胃の中だ。
「ええい、クソッ! お前も助けてくれよ!
俺は八尺様の内臓の壁に向かって、必死に叫んだ。
ここを抜け出せないなら、もう終わりだ。
俺の革命はここで終わる。
それはあいつも困るはず。
だというのに
『自力で抜け出してみろ。この我の同盟者だろう? そのぐらい乗り越えろ』
「どうやってだよ!? 食べられて体内から抜け出す方法なんぞ、知るわけ──」
その時、ふと閃いた。
そうだ。日本には日本昔話があるじゃないか!
まさにこの状況から抜け出した、偉大なる先輩の勇姿の物語が。
タイトルはそう……一寸法師!
概要は簡単。
一寸法師は、身長が一寸しかなく体が小さい。
それでも食べられても諦めずに鬼を体内から退治し、打ちのめした鬼の宝物打出の小槌を振って、体を大きくしましたとさ。
めでたしめでたし。
そうだ。
一寸法師は、鬼に飲み込まれた後、その体内で刀を振るい、鬼を苦しめた。
そして、外に出たのだ。
「武器だ……俺に武器があればいけるはず…!」
ハンマーは残念なことに外。
武器は残念なことに……いや、待てよ。
俺は、呑み込まれる瞬間まで松葉杖で歩いてたよな?
「杖だ……杖ならあるぞ!」
俺は慌てて、胃壁の上を這いずるながら手探りで探す。
松葉杖。
俺が唯一に頼りにしていた、木の棒だ。
「どこだ……どこに行った?」
しかし、体内の暗闇の中で、松葉杖を見つけることは困難を極める。
生暖かい壁に手で触れながら、必死に探し回る。
「……あった」
肉の壁に引っかかっているのを見つけた。
俺はそれを必死に掴み取る。
「よし、これだ!」
そして、俺はその松葉杖を振りかざして叫ぶ。
「さあ、鬼退治と行こうか!」
そう言い放つと、俺は八尺様の胃の壁を、力任せに殴り始める。
バキッ!
しかし、反応は鈍い。
力が入らない。
子供の体なのだから、無理もない。
だが、俺は諦めない。生きるためだ。
この体の自由のためだ。
「うおおおおッ!!」
何度も、何度も、殴りつける。
肉の壁が、少しずつ削れていく。
気分はもはや一寸法師と言うよりもアニサキスである。
とにかく、胃の中で相手を苦しめ続けるのだ。
「俺は一寸法師! 俺はアニサキス! 胃を破壊する者!!」
そして、ついに──
『ぽぽぽぽぽぽぽっ!?』
悲鳴が、俺の周囲を満たす。
八尺様が苦しそうに声を上げている。
外にいる
『やるではないか、八代! その気概、大変気に入ったぞ! では、我が少しばかり手を貸してやろう』
「うわッ!? 急に胃が狭まって…何が!?」
『お前がこ奴を苦しめたおかげで、隙が出来た。礼として、外から締め付けてやろう。せいぜい、我に潰されるなよ?」
胃の壁が急激に縮こまる。
そして、内側から俺が突きあげる。
まさに、挟み撃ちだ。
『ぽーッ!?』
八尺様の悲鳴が、村中に響き渡る。
そして、最後の最後に、俺がとどめを刺す。
俺の持つ松葉杖が、胃の壁を完全に突き破ったのだ。
効き過ぎ? お前、爪楊枝で胃を突かれるのを想像してみろ。
想像だけで、胃が痛くなってくるわ。
『ぽぽ…ッ!?』
そして八尺様も例にもれず、苦しみにより嘔吐する。
「うおぉおおッ!?」
そうして俺は、胃液と一緒に吐き出された。
地面に転がる俺の傍らには、さっきまで俺を苦しめた八尺様が、ビクビクと震えながら虚脱状態で倒れている。
「はぁ…はぁ……」
全身が、ねっとりとした粘液に塗れている。
当然、八尺様の胃液だ。
生温かくて、若干透明な液だが、地面に落ちるとドロドロとした、何とも言えない質感に変わる。
俺の髪の毛は、胃液でびっしょりと濡れ、顔や服に垂れている。
肌は、胃液の粘性によって、不快な感覚に包まれている。
その上、異臭もする。
腐敗したものの匂いとは違う。
独特の酸っぱい匂いと、生温かい肉の匂いが混ざり合った匂い。
たぶんこの匂いは、しばらく俺の体から離れないだろう。
「何とか生きてはいるか……」
俺は地面を粘液で汚しながら、松葉杖を支えに這い上がる。
足は痛む。
片足は折れたままだ。
だが、俺はまだ諦めない。
ここで倒れたら、俺は死ぬのだ。
俺の革命をここで終わらすわけにはいかない。
『さすがは我の同盟者、見事であったぞ、八代!』
「暢気に観戦しやがっ……て……」
「うそぉ……八尺様を丸飲みしてる」
その様はあまりにもグロテスクで、言葉を失ってしまう。
『なんだ? 先程までお前がされていたことを、やり返してやっているだけだぞ?』
「いや、そうなんだけど……というか、何で丸飲み中に喋れんの?」
『神を舐めるな』
「お前は今、神を舐めているけどな」
そんな軽口を叩きながら、
そして、その巨大な体は、何事もなかったかのように、俺の傍らに鎮座する。
「というか、なんで食べたの?」
『仲間に出来なかった以上は、殺すしかあるまい。だが、それだけではつまらん。そこでだ、神力を奪ってやることにした』
「神力って……」
俺が首を傾げると、
その瞳はこれまでにないほどに、強い光を放っていた。
『言っておくが、今の我は完全な力を持っているわけではない。封印されている間に、力を随分と落としてしまったからな。かつてであればこの体を伸ばせば、ここに尾を残したまま我が故郷まで顔を出すことが出来たというのに』
「まだデカくなんのお前?」
『元に戻るのだ。我らに
何だか分からないが、相手の神を吸収して力を増していくらしい。
まさか、こんな方法で戦力が増強するとは、この海の八代の目にも見抜けなかった。
「それで、力を手に入れて何か出来ることでも増えたのか?」
『ああ、まあ悪くない力だ。血を辿ることが出来るようになった」
「血を辿る?」
俺が尋ねると、
『ああ。先程我が食らったこの手長・足長は、どういう訳か子供を見分ける力に長けていたらしい。その力を吸収した今の我は、器である貴様の親でも見抜くことが出来るぞ』
「血を辿るって、血筋を辿れるってことかよ……え? というか俺の親が分かるの?」
この体の記憶には、両親の顔はない。
いつも狐のお面をつけた飛鳥や文香としか接触がなかったから当然だろう。
長老の言うように、徹底的に親の存在を隠しているようだ。
だが、
『そうだ。貴様の親を見つけ出すことが出来る』
「凄いけど……何の役に立つんだ、それ?」
『なんだ、親に会いたくはないのか? 子供は生みの親を恋しがるものだが』
「いや、まあ……」
少しだけ不思議そうな、残念そうな顔をする
確かに親に会いたいという孤児は多いだろう。
だが、残念なことに俺は厳密には、この体の親とは無関係だ。
感動の再会……というのも出来ない。
まあ、八尺様的には子供をつけ回すための力だったのだろう。
普通は小さな子供の家=親が住む場所なのだから。
『まあいい。我の力が元に戻って来ただけで上々だろう。おまけに、奴の眷属も打ち倒せた。これであの神の力も少しは削れただろう。さっそく次に行くとするか』
「……次に行くのは、明日にしよう」
『何を言い出す。革命を望んだのはお前だろう?』
明日にしてくれと言う俺に対して、
力が元に戻ってテンションが上がっている所に悪いんだが……。
「いや、その……風呂ぐらい入らせてくれない?」
俺は、胃液だらけの体を見つめながら言った。
俺の身体と鼻が、悲鳴を上げている。
ぶっちゃけ臭いので精神的にも、肉体的にも、もう限界だった。
今日はもう休ませてほしい。
『はぁ……まあ、貴様も男児か。身だしなみには気を使うか。仕方あるまい、明日にしてやろう』
「ありがとうな」
しぶしぶといった感じで、
これは貞操逆転世界に感謝するべきだろうか?
女の子だから身だしなみに気を使うみたいな感じで、許された。
やったぜ。
『しかし、貴様は何という手管を使うのだ。敵に丸呑みにされながら、内臓を破壊して脱出するなど、しかも仮にも神を相手に……一寸法師の真似事にしても異常だ』
「人間死ぬ気になれば何でもできるからな!」
『……人間か?』
何かを見通すように、俺の顔を
『とてもそうには見えんがな』
「ああん? 俺が人間以下だって言うつもりか? お前も胃の中から一寸法師するぞ!」
『フン、打ち出の小槌もない小童がよく言う……』
「祠壊しの小槌ならあるぞ?」
『あんなものを打ち出の小槌と一緒にしてやるな!』
そんな軽口を叩き合いながら、俺達は村へと帰っていくのだった。
豆知識。アニサキスは正露丸を砕いて飲むと麻痺して動かなくなります。
まあ、正式な治療ではないので、応急処置ですが。
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