皆から『沈黙の聖騎士』呼ばわりされてますがただのコミュ症なんです。勘弁してください。   作:寡黙なコミュ症

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コミュ症なのと強いのは両立する。

 

 とある都市、とある区画。

 そこはすでに封鎖されていた。

 

 何重にも積み上げられたバリケード。その向こう側を一目見ようと、スマートフォンを掲げる者、不安そうに空を見上げる者、野次馬根性だけで集まった者たちが黒山の人だかりを作っている。

 

 彼らは知らない。

 いや、知ろうともしない。

 そのバリケードの向こう側に、どれほど凄惨な光景が広がっているのかを。

 

 無残に崩れ落ちた高層ビル。抉れたアスファルト。炎を上げ続ける車両。そして、その中心で蠢く異形の怪物。

 バリケードには白い十字架の紋章とともに、『cathedral(カテドラル)』の文字が刻まれている。

 

 カテドラル。

 

 世界各地に現れる『魔物』を討伐するために組織された対魔物機関。気取った言い方をすれば、人類の日常を守る騎士たちの名である。

 

「……ふぅ。」

 

 静かに息を吐く。

 黒い鎧に身を包み、背には白い十字架の紋章。

 その手に握るのは、十字架を模した巨大な剣。

 

 剣先をコンクリートへ擦らせるたび、耳障りな金属音を立てながら火花が散る。

 その視線の先、瓦礫の向こうで鎌首をもたげるのは、巨大な蛇をさらに醜悪へ歪めたような怪物だった。

 

 黒く濁った鱗。裂けた口元からは何本もの牙が突き出し、赤黒い粘液が糸を引いて垂れ落ちる。

 

 あれが『魔物』

 突如として世界に開く歪より現れ、人も街も等しく喰らい尽くす災厄。そして、それを狩ることこそがカテドラルの使命だった。

 

 すでに戦闘開始から三十分。

 騎士の鎧は至る所が砕け、隙間から滲む血が黒い装甲を濡らしている。

 

 それでも彼は剣を離さない。対する魔物もまた無傷ではない。全身の鱗は無数に砕け、肉が抉れ、黒い血液を地面へ撒き散らしていた。

 

 しかし、それでもなお倒れない。上位種。その一言で片付けられるほどの怪物だった。

 次の瞬間。魔物が大きく口を開き、喉奥へ極彩色の光が集束し始める。

 

「……ちっ。」

 

 騎士が舌打ちする……あれを撃たせれば終わる。街も、自分も、すべて吹き飛ぶ……迷う時間はない。いつもの事だ。

 

 騎士は砕けた瓦礫を蹴りあげて跳ぶ。

 

 人間離れした脚力で宙を駆け、崩れたビルの壁面を足場に跳躍。さらに瓦礫を蹴り、一直線に大蛇の頭部へ迫る。

 

 だが、あと一歩届かない。

 

 魔物の口内で収束した光が限界を迎え……次の瞬間極彩色の奔流が一直線に放たれた。

 空気が焼ける。コンクリートが融解する。

 熱波だけで皮膚が裂けるような激痛が全身を襲う。

 それでも騎士は止まらない。

 

「ッ!!!」

 

 腹の底からの音にならぬ咆哮ともに、大剣を振り抜く。

 白銀の軌跡が極彩色の奔流を真っ二つに断ち切る。その勢いのまま、巨大な刃は魔物の頭蓋へ食い込んだ。

 骨を砕き、肉を裂き、脳天から顎までを一刀のもとに切り裂く。

 

 断末魔を上げる暇すら与えられなかった。

 大蛇の魔物は頭部を断ち割られたまま、その巨体をゆっくりと傾けていく。

 

 ビルほどもある身体が地面へ倒れ込むたび、鈍い轟音が周囲へ響き渡り、砕けたアスファルトと土煙が大きく巻き上がった。

 やがて、その巨躯はぴくりとも動かなくなる。

 

 ……それで終わりではない。

 

 黒ずんだ鱗の隙間から、青白い炎が音もなく噴き出した。

 炎は激しく燃え盛ることなく、まるで亡骸そのものを喰らうようにゆっくりと全身を包み込んでいく。

 

 鱗が灰となり、肉が霧散し、骨すら残さず青い火の粉となって夜空へ溶けていく。

 魔物とはそういう存在だった……この世界に現れ、人を喰らい、街を壊し、そして死ねば何一つ残さず消えていく。

 

 後に残るのは瓦礫と犠牲だけ。

 

 まるで最初から存在しなかったかのように、先ほどまで街を震わせていた激戦が嘘だったかのように、辺りは静寂へ包まれた。

 

「……ふぅ。」

 

 騎士は短く息を吐く。

 黒い鎧には無数の傷が刻まれ、ところどころ装甲は砕けている。それでも彼は剣を地面へ突き立てたまま倒れることはない。

 大剣を支え代わりにしながら瓦礫へ腰を下ろすと、兜の側頭部へ軽く拳を当てた。

 

 カチリ、と小さな音……直後、耳元で電子音が鳴り響く。

 

『こちらカテドラル情報処理部!応答願います!』

 

 若い女性の声だった。

 普段は冷静な彼女も、どこか焦燥を隠し切れていない。

 

『先ほど極めて高い熱源反応を確認しました!負傷状況は!?応答してください!』

 

 矢継ぎ早に飛んでくる質問。

 騎士は少しだけ沈黙した。何から答えるべきか考え……呟く。

 

「…………こちら、()()()()

 

 静かな声が通信へ流れる。

 

「今、終わった。」

 

 短く、それだけ。

 数秒の沈黙を挟み、さらに一言だけ付け加える。

 

「……ので、事後処理を頼みます。」

 

 そう語りかけて通信を切る。

 通信の切れた無音の中、兜の内側だけで小さくため息をつく。

 

 (今の返し、ちょっと素っ気なさすぎたか……いや今更取り繕っても遅い。もう手遅れ。うん、手遅れ。)

 

 返答に困った、という方が正しいのかもしれない。

 元々口数の多い男ではない。必要最低限だけを伝え、それ以上を語ることは滅多になかった。

 

 だからこそ、人は彼をこう呼ぶ。

 沈黙の聖騎士――ネツァク、と。それが、彼のいくつかある呼び名の一つであった。

 

 数分後。

 

 封鎖されていたバリケードの一部がゆっくりと開かれる。

 白い十字架の紋章を掲げた大型車両が次々と内部へ入り込み、その後を追うようにカテドラルの事後処理部隊が慌ただしく動き始めた。

 

 瓦礫の撤去、負傷者の捜索、魔物を倒すだけでは街は元に戻らない。その後始末もまた、カテドラルという組織の重要な仕事だった。

 

 すると新人で初々しい一人の若い隊員が駆け寄る。

 まだ入隊して間もないのだろう。緊張した面持ちのまま姿勢を正し、勢いよく敬礼した。

 

「お疲れ様であります!」

 

 鎧の青年は顔を上げる。兜越しでは表情など見えない。返ってきたのは言葉ではなく、小さく手を振る仕草だけだった。

 

「……!」

 

 それだけで隊員はどこか嬉しそうに表情を緩めもう一度敬礼すると、彼は急いで持ち場へ戻っていった。

 

 その背中を見送りながら、ネツァクは何も言わない。

 ただ静かに瓦礫へ腰掛け、剣へ手を添えたまま目を閉じる。

 耳を澄ませば、忙しなく働く隊員たちの声に混じって、小さな囁きが聞こえてきた。

 

「あれが噂のネツァクか……。」

「『沈黙の聖騎士』だろ? やっぱり只者じゃないな。」

「一人であんなデカブツを討伐するなんて信じられねぇよ……。」

 

 称賛。

 畏怖。

 そして、どこか近寄りがたい憧憬。

 そんな視線が黒き騎士へ集まる。ただ静かに、次の任務を待つように瓦礫の上へ座り続けていた。

 まさに、沈黙の騎士……そう、見えていた。

 だが、内心は………

 

(あああああああああなあ!!!怖かったぁ!つか今日も生き残れたぁ!)

 

 冷や汗をだらっだらに流してその日の無事を噛み締めているのであった。

 

(つか皆話しかけ過ぎなんだよ!やめてくれよ本当に!さっきの事が何!?思わず無愛想な返しちゃったじゃん!それで何で妙に嬉しそうなんだよ!!)

 

 内心は寡黙どころかおしゃべりである。これだけおしゃべりでなぜそれが外に漏れ出ないのか……不思議でならない。

 彼がそんなことを考えていると、また隊員たちのひそひそ話が耳へ入ってくる。

 

「しかし、相変わらず無口な人だな。」

「バカッ!寡黙って言うんだよ!仕事人ってやつは余計なおしゃべりはしねぇんだよ!背中で語るもんなんだ。」

 

 隊員達の声が耳に入る中、青年は頭の中で反論する。

 

(余計なおしゃべりしないってか、コミュ症なだけなんだよなぁ……勘弁してくれ……)

 

 本当はもっと普通に喋りたいが上がり性etcで何を話せばいいのかわからなくなる彼にとって、普通に話すというのがどれだけ苦痛か……

 

 どんなに取り繕っても変な間が出来て場の空気を盛り下げる。彼はそれが耐えきれなかった。

 

 才能を見込まれカテドラルに就職し、戦闘員として只管に叩き上げ鍛錬に打ち込むという名目で人との交流がさらに減った結果……彼は今やまともに人の目を見て会話するのが難しいコミュ症モンスターへと化してしまったのだ。

 

 そして周りはそれを見て『寡黙の聖騎士』だのなんだのと好き勝手騒ぐ始末………それに伴い聖騎士、ネツァクこと『柳誠也(ヤナギ・セイヤ)』の期待値は勝手に上がっていってしまうのであった。

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