ペットショップの商品である俺は、
一歳になると殺処分される事を知る。
運命の日、
閉店とともに店長に店の外に連れ出される俺は
いよいよこの時が来たかと覚悟する。
その時、俺が見たものは…

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ペットショップで売れ残った俺はセカンドキャリアでナンバー1を目指す

「子犬さん達は大きくなったらどうなるの?」

これはペットショップで親に聞いちゃいけないタブーな質問で

トップクラスに数えられる質問だ。

そんな質問を無邪気な子供からされて困り顔の親を眺めながら、

「『殺処分』だよ」

と俺は冷めた目のまま呟いた。

勿論、その声はその親にも子供にも届かない。

彼らと俺の間にショーケースのガラスが立ち塞がっているから…

ではない。

俺は犬だからだ。

犬の言葉は人間には伝わらない。

そう俺はこのペットショップの商品なのだ。

ミックスで32,800円の一応、まだ子犬だ。

一応というのは、値札の上のところを見て貰えれば分かる。

「生後11ヶ月」

と書いてあるだろ?

ついでに言うと明日には晴れて生後1年になる。

だいたい犬が子犬と呼ばれるのは生後1年までだ。

それ以降は、「成犬」と呼ばれる様になる。

ちなみにこのペットショップには子犬しかいない。

生後1歳を過ぎた犬はいないのだ。

じゃあ1歳を過ぎた犬はどうなるのか?

その答えは先程、既に言った。

そう「殺処分」されるのだ。

何故、一商品に過ぎない「まだ」子犬の俺がそんな事を

知っているのかって?

俺が今まで何匹の1歳を超えた犬達を見送って来たと思ってやがる!

彼らがどこに連れて行かれるのか?

連れて行かれた先でどんな生活を送っているのか?

その度に気になって仕方が無かった。

特に俺自身が生後10ヶ月を超えた辺りから他人事じゃない。

俺自身の身に近い将来降りかかる事なのだからずっと考えていた。

それが最近になって分かったのだ。

それは先月の事だった。

ここ数ヶ月、目の下のクマがすごい事になって来ている店長が、

他の店員に、

「最近、今まで殺処分してきた犬ちゃん達が、毎晩夢に出てくるの〜。それで撫でてあげようって近づくと、ほら。オオーンって薬飲ませた時、遠吠えするじゃない、あの子達。その遠吠えをして消えるの。毎晩よ、毎晩。ワタシ、こんなワタシを受け入れてくれたワンちゃん。そのワンちゃん達に少しでも幸せになって貰いたくてこの仕事に就いたのに…もう、ワタシ、情け無いやら、悲しいやら…」

とこぼしているのを聞いたのだ。

「えっ?『サッショブン』って何?えっ?薬?病気なの?」

それを聞いて俺の頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされる。

そんな俺に構わず、話しかけられた店員が、

「もう店員!優し過ぎるんですよ!この子達はあくまで商品なんですから、割り切らないと!エサ代だってタダじゃないんだし、場所だって取られちゃうし。だから1年間で売れなきゃ、業者に渡して処分して貰うんです。そこで毒飲ませて殺してあげるのがお互いの為ですって。なのにわざわざ業者に処分の現場見せて貰ったりするから変な夢見ちゃうんですよ!」

あっけらかんとした顔で言っているのを聞いて衝撃を受けた。

「えっ!!こ、殺す!じゃ、じゃあ今まで居なくなってた先輩達は、もう…」

まだ産まれたばかりだった頃、優しくしてくれたチワワの姉ちゃんも、

よく遊んでくれたコーギーの兄ちゃんも、

俺の餌をちょくちょく横取りしてきた芝犬のあいつも、

皆んなもう殺されていたのだ。

そして、この俺も1歳になったら…。

あまりにも残酷な真実にその日はエサを一口も食べられなかったのを

今でも覚えている。

今でもショックは受けているが、最早避けられない運命ならと、

既に諦めの感情の方が大きい。

諦めと死への恐怖。

真実を知ってからこの1ヶ月、俺はすっかり変わってしまった。

今では買って貰おうと客に媚を売る事も止めた。

ただ、ただ、天に召されるその日を粛々と待つ日々だった。

その日もいよいよ今日で終わる。

「さらば、ペットショップでの日々よ!思えばそれなりに楽しい日々だった!」

1年暮らしたペットショップでの日々を懐かしみつつ、

最後の日を過ごした。

そして、閉店時間がやってくる。

店長が俺をショーケースから連れ出す。

不安そうに見つめる後輩の子犬達に、

「達者でな」

とだけ俺は告げる。

もちろん、『殺処分』の事は彼らには話していない。

彼らも時が来れば、分かるのだ。敢えて話すのは不粋の極みだ。

もちろん飼い主が見つかって知らずに済むならそれが一番だ。

だから、今、この時を楽しめば良いんだ。

店長が店の奥に移動するのを見て、俺も後輩達に背を向ける。

「先輩!お元気で!」

「バイバイ!にーちゃん!」

後輩達の見送る声が聞こえる。

その声に振り返る事も無く、店長と共に店の奥に進む、俺。

実は今になって、死の恐怖で、足が少し震えている。

それを気取られまいと部屋の奥に入る。

俺が部屋に入ると、病院に行く時とかに使う

キャリーボックスに入れられる。

カチャリ

と店長がケースのドアの鍵を閉める音がする。

「いよいよか…」

死の恐怖が波の様に押し寄せてくるのが分かる。

「こ、怖い!死にたくない!」

そう叫びたいが、さっきから歯がカタカタと震えて声も出せない。

「1年間、お疲れ様!今日でペットショップは卒業よ」

店長はそう言うと、俺の入ったキャリーボックスを軽々と持ち、

そのまま車に乗り込む。

「そうか、『ギョウシャ』という所に連れて行くのだな」

怖くなり、ドアを開けて逃げ出そうと思ったが、

ドアは鍵をかけられ固く閉ざしたまま動かなかった。

しばらく走るとついに目的地に着いた様で車から降ろされ、

そのまま、店長はシャッターをガラガラと開けて、

どこか店?の様な場所に俺を持って入って行くと

真っ暗なその場所の床にキャリーごと俺を置く。

「ここが『ギョウシャ』か…」

辺りを見渡しても真っ暗で見えなかったが、

恐怖で腰が抜けて動くこともできない。

カチャリ

そんな時、店長がキャリーボックスのドアを開け、

俺を抱き上げる。

店長が笑顔で俺の頭を撫でている。

そんな店長に俺は、体が恐怖でブルブル小刻みに震えている。

「あらあらどうしちゃったの?」

俺が震えているのに気がつき、心配そうな店長。

しかし、

「ああ、そうね…今まで殺してきたあの子達の匂いがこびりついちゃっているのかしらね」

と何かに気づいた様に寂しげに呟く。

「でも安心して!もう私止めたの!せっかくお店で出会えたんだもの!貴方はもう家族!1年でバイバイなんて残酷過ぎるわ!」

そう言うと、何かのスイッチを押す。

カチッカチッと蛍光灯が点滅した後、店内を照らす。

店内は先程のペットショップとは違い、机や椅子が多く並んだ、

俺が見たことのない店の様だった。

「じゃーん!ここが貴方の新しい職場!わんわんカフェよ!」

とやたらとテンション高めの店長。

気がつくと、店内には、

3週間ほど前に店からいなくなったプードルや、

先週1歳を超えたコーギーもいて、俺に尻尾を振ってくれている。

よく見ると店長の目の下のクマも綺麗になくなっていた。

「ようこそ!わんわんカフェ1号店へ!」

と店長は俺を店に招き入れる。

唖然とする俺を、

「ふふっ、驚いたでしょ!私も初めはびっくりしたんだから」

と、もう死んだものと諦めていた仲間達が笑顔で迎える。

『わんわんカフェ』が何かは正直分からなかったが、

どうやら俺は死ななくても良いらしいと言うのは分かった。

「みんな生きていたのか!俺も、生きていて良いんだな!」

兎に角、今は仲間達との再会を心より喜んだ。

その日、俺は生まれて初めてお誕生日会というものを

体験した。

 

さて、次の日からわんわんカフェでの俺の仕事が始まった。

わんわんカフェとは、犬が放し飼いにされている店内で、

犬好きのお客さんが、お茶やケーキを食べながら、

その犬達と戯れるお店なのだそうだ。

本来なら1歳になると殺処分となる運命の俺達を救う為に、

店長が『ホンシャ」と言う所に掛け合って作ってくれた、

俺たちか再就職先だ。

店長は、

「なんとか条件付きの試用期間って事でオープンにこぎつけたの。3年の間に結果出せなかったり、赤字になったら即閉店って条件はつけられたけど、私!頑張るから!」

と意気込んではいたが、俺達、犬側は不安と戸惑いで一杯だった。

なんたって『お客様』と言われても、

今まではガラスケースで隔てられた場所からこちらを

笑顔で見ているだけの存在だったのに、

いきなり無防備な状態で『セッキャク』しろと言われても、

「大丈夫なの?怖くない?」

と正直、尻込みしてしまう。

しかも、ここにいる犬達は俺と、俺がいた店から2頭、

系列店から3頭、皆んな『セッキャク』など

まるで知らない素人だ。

その上、ここにいるという事は

1年間、誰にも買って貰えなかった売れ残りだ。

「3年の試用期間、赤字は即閉店」

その言葉が俺の背中に重くのしかかって来る。

閉店とは即ち俺が処分されるのと同義なのだ。

不安そうな俺達に、店長は、

「大丈夫!あんた達はそこにあるだけでカワイイんだから。ペットショップでもみんなお客様を釘付けにしてたでしょ。自信を持って!あと、お客様が指名してくれれば、おやつも貰えるから頑張ってみて。さあ開店するわよ!」

そうおだてて、励ましてくれる。

同僚の犬達は「おやつ」に色めき立っていたが、

俺は少し違うことを考えていた。

「自分だってオープンで手一杯なのに、店長はいつも俺たちの事を見てくれる。そうだ。ここは店長が俺達の為に作ってくれた店だ。『ホンシャ』とかいう奴に、店長が正しかったって認めてもらう為にも頑張らなきゃな」

これは自分達が生き残る為である前に、店長への恩返しでもあるのだ。

俺は俄然やる気を出して『セッキャク』に精を出した。

もちろん、初めから上手くは行かなかった。

やる気が空回りして、お客様からウザがられる事もあった。

でも、そんな時はペットショップ時代からの同僚の

プードルやコーギーの接客を見習った。

彼らは流石は血統書付きの純血種。

それだけでお客様から指名をして貰えたりするのだが、

それだけではなかった。

ごく自然に甘えられるその所作にお客様は魅了されるのだ。

ここ1ヶ月ほど、ペットショップでやさぐれていた俺が、

失ってしまったものだ。

その失ったものを見よう見真似でやってみる。

そうする事で、空回りする事は減り、

少しずつ。少しずつではあったが

俺にも指名してくれるお客様が増えてきた。

「よし!この調子で指名数ナンバーワンのプードルを追い抜いてやる!」

6匹中まだ指名数最下位の俺だったが、少し手応えを感じていた。

 

そんなある日。

「おいおい、犬カフェって言うから来て見たけど、この店、店員がオカマじゃねえか!ゲイバーにでも看板つけ変えたらどうだ、おい!」

店先からお客様のわめく声が聞こえる。

「お客様、お静かにお願いします。他のお客様にもご迷惑となってしまいますので」

とお客様を静止する店長の声もするが、

「うるせぇよオカマ野郎!犬と一緒にお前も去勢されたのか?おい!」

とさらにヒートアップするお客様の声がする。

その話し声を聞いて、コーギーが、

「僕、これ知ってる!クレーマーって奴らだ!店長が危ない!」

と叫んだ。

「店長の危機」

それを聞いて、俺は店長の元に駆け出す。

それを見て、他の犬達もそれに続いた。

店の入り口まで駆けつけると、

ガラの悪そうな若者数人が、店長を囲んでいる。

いつも笑顔しか見せない店長が、

小さくなってクレーマー達に頭を下げている。

「こちらはゲイバーでは御座いません。ご用がないのでしたらお引き取り下さい」

必死に頭を下げて、クレーマーを追い返そうとしている。

「黙れよオカマが!キメェんだよ!」

「男の癖に化粧なんかしてんじゃねえぞ!」

若者達から口々に罵られながらも、口を真一文字に結び耐えている。

しかし、

「オカマの店にいる犬なんてどうせ汚ねぇ捨て犬だろ?」

「保健所で殺される一歩手前の貰い手の無いカス犬ばっか笑」

奴らの罵倒対象が俺達、犬に向けられ出すと、

「うちの子達は皆んないい子達よ」

頭を下げながらぼそりと、しかし、強く呟く店長。

そんな店長の目にキラリと光るものが見える。

それを見つけた瞬間、

「俺の命の恩人を泣かしてんじゃねぇ!」

体が自然に動き、

俺は店長とクレーマーの間に割って入っていた。

「うううー!」

クレーマーを威嚇する俺。

実は生まれて初めて人間相手に威嚇する。

内心ビビっていた。

なんたって俺は数日前まで文字通箱入り息子だったのだから。

それでも店長を泣かせたこいつらを許す訳にはいかない。

「うううー!」

気がつけば、同僚達も一緒になってクレーマーを威嚇している。

「な、何だよ汗小型犬がイキがっても怖く…」

クレーマーが言いかけた時、奥から、系列店から来た同僚の

セントバーナードとドーベルマンが威嚇しながらのっしのっしとやって来る。

「ひっ!」

クレーマーの誰かがビビって尻餅をつく。

他の連中も、

「い、犬をけしかけるなんて酷い店だ!保健所に通報してやる!」

と捨て台詞を残して逃げ帰っていった。

走り去るクレーマー達をポカンとした顔で見送ると、

俺たちの方へ向き直り、

「あんた達!危ない事して!」

店長は俺達をガバッと抱きしめる。

「でもありがとうね。守ってくれて」

そう言いながら店長は涙を流している。

その時、

パチパチパチパチ!

店内に拍手が鳴り響く。

「偉いぞワンちゃん達!」

「店長さん守る為に!その小さい体で!感動した!」

と店内にいたお客様が口々に俺達を褒めてくれたのだ。

そんなお客様の反応に唖然としながらも、

何か温かいものを感じる店長と俺たち。

しかし、店長がふと、

「いけない!アイツら保健所にある事、ない事言って面倒な事にならないかしら」

と不安そうに呟くと、

「安心しろー今の一部始終、録画しといたから。役所がなんか言ってきたら俺達が証言してやるよ」

と心強い申し出もあった。

一方的にクレーマーが騒いでいただけだという事、

彼らの暴言はもちろん、犬達は噛みつくなどの攻撃は

一切行っていない事など、証言してくれる人は多そうなので、

店長もひとまず安心する。

「さあさ、何はともあれ、お騒がせしてお客様にはご迷惑をおかけしました!今いらっしゃるお客様は本日のドリンクは無料の上、次回以降ご利用頂ける半額クーポンをプレゼントと致します」

と宣言する店長。

パチパチパチパチ!

店内のお客様から歓声と拍手が再び起こった。

 

数日後、

店は大忙しであった。

クレーマーの一件の動画がネットに流れたことで、

店主思いの犬たちを一目見たいと客が押し寄せたのだ。

店長を守ろうと一番に飛び出した俺もかなりの指名をいただく事が出来、

指名数も最下位から3位まで登りつめる事が出来た。

しかし、納得出来ない事もある。

あの時、一番後で駆けつけた

セントバーナードとドーベルマンが1位と2位にいる点だ。

まあ、それも今のうちだけだ。

必ず、彼らを追い抜いて俺がナンバーワンになってやる。

売れ残りの俺が貰ったチャンスを、

ちゃんと結果で店長に見せてやりたい!

それこそが俺の恩返し。

だから、今日も俺はセッキャクを全力で頑張るのだった。


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