【Re:】ポンコツ勇者 VS クソガキ魔王 VS ダークライダー【make】   作:やーなん

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旧作との主な変更点。
・掲示板要素の撤廃、または縮小
・複雑化した設定や人物関係の簡略化。サイバーパンクな世界観を強調

よって、旧作を知らなくても楽しめる内容になっております。
では本編どうぞ!!



ボーイミーツ魔王

 

 

 

 2127年、7月。

 この都市が『東京』と呼ばれ、平和ボケを謳歌していたのはもう百年も前の話。

 

 深刻な資源不足と、それに続く致命的な核戦争。人類が自らの手で引き起こした未曾有の自爆芸によって、地表は余すところなく汚染し尽くされた。

 空は重金属の灰で濁り、海は死の泥をすする底なしの沼へと変わった。かつての繁栄は、まさに地獄の業火に焼かれたように綺麗さっぱり消え去った。

 

 それでも人類は大きく数を減らしつつ、しぶとくこの地に縋り付いて生き延びている。

 絶え間なく降り注ぐ汚染された酸性雨を防ぐため、空を覆い隠すように建造された巨大なドーム群──『トーキョーメガシティ』。

 

 その中でも旧東京新都心。そこの治安は最悪だった。

 

 メガシティを建造し、そこの支配者となった企業と政府の立場は逆転し

 メガシティを建造し、街の主となった巨大企業に対し、かつて政府と呼ばれたものはただの骨董品に成り下がった。

 警察組織は賄賂の味を覚え、治安はすでに崩壊の閾値を越えている。

 

 退廃と腐敗に満ちたスラム街。

 巨大なドームが汚染から街を隠すように、この街の住人たちは自らの醜悪な欲望を、路地の闇に塗り潰して隠していた。

 

「あ、あッ、あう……」

 

 安アパートの一室。

 ネオンの残光が、ひび割れた窓から虚ろな部屋を青白く照らしている。

 薄暗い室内で、男は獣のように女を貪っていた。

 

 女の顔には粗末な神経インターフェースが突き刺さり、脳を直接苛む違法電子ドラッグが、その瞳孔を濁らせている。女はただ、生理的な反応として口元から泡を垂れ流すだけの“モノ”と化していた。

 このスラムでは、見ず知らずの人間が誰かの欲望の燃料になるなど、ありふれた日常の一部に過ぎない。

 

「くそッ、もうしまりが悪くなってやがる」

 

 男が悪態をついたその時だった。

 電子的なノイズを纏った、無機質な呼び鈴が鳴り響いた。

 

「なんだよ、クソがッ」

 

 行為を邪魔された男は、腕に埋め込まれた神経接続デバイスを操作し、玄関先の監視カメラを網膜に同期させる。

 

 

「ちわーっす。イーライーツです」

 

 カメラは黒いヘルメットを被った配達員の姿を映していた。

 

「出前なんて頼んでねぇよ!!」

 

 男は怒鳴り散らした。しかし配達員は動じない。

 

「おかしいですね。住所はここで合っている筈ですが……。

 あのー、料金は支払い済みですから、受け取ってくれないと困るのですが」

「だったらそこに置いておけ!!」

「え? あははは。この辺りは物騒ですし……勝手に持ってかれちゃいますよ。だからうちでは置き配はしてないんです」

 

 配達員の懸念は尤もだった。

 他人の置き配を勝手に持って行かないなど、このスラム街にそんな倫理観を期待してはならない。

 

「ちゃんとデバイスで認証をお願いします」

「ちッ、わかったよ!!」

 

 男は粗雑に衣服を着ると苛立ちを隠さずに立ち上がり、電子ロックを解除した。

 重い遮音扉がスライドし、路地の湿った冷気が流れ込む。

 

「ほら、さっさと──」

 

 寄越せ、とまでその男は言えなかった。

 

「お客様、こちらがお届けの品物です」

 

 寄越せ、とまでその男は言えなかった。

 配達員の持っていた冷凍バッグの隙間から、鈍く光る黒い自動拳銃の銃口が突きつけられていたからだ。

 男が硬直した、その一瞬が命取りだった。

 

「御確認、お願いしまーす」

 

 ぱん、ぱん。引き金に頭と胴体に二発。

 男は即死だった。どさり、と物言わぬ死体となった男が崩れ落ちる。

 

「はーい、確認完了です。またのご利用を、お待ちしておりまーす」

 

 配達員は男の死体を冷ややかに一瞥し、網膜内のカメラで『納品完了』の証拠写真を送信した。

 

 

 

 彼は外に停めていた黒塗りの大型バイクに跨る。

 彼の背後からは、証拠隠滅を専門とする“清掃員”たちが、何食わぬ顔でアパートへ入っていくのが見えた。

 

『レイジさん。今日の依頼はこれで完了です。お疲れ様でーす』

 

 甘ったるい女性AIのオペレーターが、着信と同時に彼の鼓膜を震わせる。

 

「……」

『どうかしましたか?』

「いや、被害者を助けられなかった」

『仕方ありません。依頼主の発注が遅れてました。それに、我々の業務は犯人の抹殺です。我が社に被害者の救助等のオプションはありません』

「……そうだな」

 

 レイジは低く呟き、エンジンの振動を全身に伝えた。

 バイクはネオンの光の中へ消えていった。

 

 

 

 §§§

 

 

 レイジは廃墟となった鉄道網を、大型バイクで疾走する。かつて分刻みで電車が行き交っていた鉄路の面影は、今や錆びた骨組みと酸性雨の跡に塗り潰されていた。

 彼の事務所は、旧渋谷のターミナルビル群の一画に居を構えている。

 

『イーラ運送』。

 表向きは配送業務を請け負う運送業者。

 だが、街のインフラを牛耳る巨大企業が管理する正規の物流ラインは、部外者が近づけば警告なしの機銃掃射を浴びる。

 だからこそ、企業が管理しきれない闇の物流を扱う個人運送業者には根強い需要があり、そこは暴力の匂いを漂わせる者たちの隠れ蓑として最適だった。

 

 旧渋谷地区は、旧東京新都心に比べれば、まだ人の生活の熱が残っている。

 その雑踏に何食わぬ顔で混じり、暴力を生業とする集団が彼らだった。

 

 

 

 レイジがエントランス脇の認証端末に手の甲を翳すと、電子音が鳴り、重いスライドドアが開く。

 

「おつかれ、レイジ」

「よう、お疲れさん」

 

 事務所には二人の顔が待っていた。

 事務員にして金庫番のシマ。彼は痩せぎすで長身、眼鏡を掛けた常に冷徹な空気を纏う知性派の男だった。

 対してカネシロは、レイジと同じ実働部隊。スーツを着せればそのままマフィアの若頭にしか見えない強面の巨漢だ。

 

「ほら、飲めよ」

「ああ」

 

 カネシロはレイジを見るなり、ニコリと笑ってニューコーラのボトルを投げて来た。

 レイジもそれを受け取り、キャップを外して中身を煽った。

 ケミカルな味わいの、いかにも身体に悪そうな飲料だが、水道の水よりは安全であると評判だ。

 

「最近、殺しの依頼が増えたよな」

 

 レイジがソファーの対面に座ると、カネシロはそう言った。

 元々、この会社は殺しだけを生業にしているわけではなかった。

 

『イーラ』の本業は復讐代行。相手を半殺しにして再起不能に追いやるのが筋だが、最近はそうもいかない。

 

「政府の難民政策が失敗したからな」

 

 シマは手の甲に内蔵されているデバイスから、ホログラムのキーボードをタイピングしながらそう言った。

 

「あれがあってからスラムはめちゃくちゃだ!!」

 

 カネシロが吐き捨てるようにそう言った。

 

「だが食料や水が行きわたるようにはなった。それをめぐった組織同士の争いは減った」

「下にしわ寄せが来てるって言ってんだ」

 

 シマの他人事のような物言いに、カネシロは噛みついた。

 そうだな、とレイジは頷き返した。

 

 もう五年以上前になる。

 政府の移民政策とは、恒常異世界ポータルから人間以外の別種族を受け入れると言うモノだった。

 それ以来、獣人族、鳥人族を始めとした異種族がトーキョーメガシティを闊歩するようになった。この世界の優れたサイバネ技術や機械技術を学ぶ為と言う名目で。

 政府は汚染されていない異世界からの資源を求めてのことだったが、同時にそれは異種族の犯罪率という新しい項目を作り上げた。

 

「だが、異世界人の全員が悪党ってわけじゃない」

 

 レイジはそう呟いた。

 

「誰もが獣人シンジケートに属してマフィアと抗争をしてるわけじゃない。こっちの生活に適用しようとしてる者も多い」

「ああそうだな。後者が圧倒的に少数って事実から目を逸らせばな」

 

 獣人族にかつて可愛がっていた弟分を殺されたカネシロの表情は硬い。

 

「それよりレイジ、お前この間、単なる暴行を依頼されたのに、標的をぶっ殺したよな。これで何件目だ?」

 

 不機嫌なまま、カネシロの視線はレイジに向いた。

 

「殺しとボコボコにすんのは料金の桁が違うって何度言えばわかんだ」

「……俺はカネの為にやってるわけじゃない」

「俺らは慈善事業じゃねえって言ってんだ」

 

 二人の視線が交錯する。

 その間に沈黙が落ちた。それを遮ったのは、シマの静かな声だった。

 

「止めないか、二人共」

 

 タイピングの手を止め、シマは表情を変えぬまま二人を見やった。

 

「レイジ、カネシロの言い分は尤もだ。俺達は仕事をしている。料金以上の事をしてどうする。

 だが、レイジの言いたいことも分かる。ただ報復するだけでは依頼人に危険に晒される可能性もある。俺達の依頼人が裕福な人間ばかりじゃないからな」

 

 むしろ、彼らの依頼人は大抵が貧民だ。

 噂を聞きつけ、僅かなカネと引き換えに報復を依頼されることもある。

 それに対応するのは、決まってレイジだった。

 

「わかってるさ。だが、俺達は血に飢えた狂人集団じゃねえ。

 俺だってこれでも人助けをしたいって思ってる。だがレイジはやりすぎんだよ」

「……悪い」

 

 レイジは、自分を咎めるカネシロに素直に謝罪の言葉を述べた。

 この会社“イーラ”に所属する職員は皆、一蓮托生の同志だった。スラム街で育ち、事業を共に起こし、そこらの家族よりも繋がりが強い。

 

「レイジ。俺もお前の気持ちがわからねぇわけじゃねえよ。

 だが、お前のやり方じゃ俺達の居場所も壊しちまう。お前はまだ若いんだから、そろそろ女でも作って家庭でも持ったらどうだ?」

 

 そうすりゃ丸くなるだろ、とカネシロはイヤらしく笑った。

 レイジはまたその話か、と思った。この二人はこう見えて既に家庭を持っている。

 

 その時だった、シマのデバイスに着信が鳴った。

 依頼だ。軽口を叩いていたカネシロは顔を引き締め、レイジはシマの方を向いた。

 

「どうやら依頼のようだ。獣人系シンジケートが小規模なスラムのコミュニティを襲ったようだ。

 彼らは自分たちの全財産で血の報復を望んでいる」

 

 シマはキーボードをタイピングし、事実関係の裏取りを行い始めた。

 

「俺が行こうか?」

 

 カネシロはニヤリと笑い、血気盛んに立ち上がった。

 

「待て。例の獣人系シンジケートの所属人数は二十人前後。

 彼らの全財産では依頼料の半分にも満たない」

「ちッ、くそが!!」

 

 カネシロは苛立ちを示すようにソファーを蹴飛ばした。

 

「俺がやる」

「レイジ」

「不足分は俺の報酬から差っ引いても良い」

 

 レイジは立ち上がり、仲間に背を向ける。

 シマの眼鏡の奥が僅かに光り、ため息と共に承諾が下された。

 

「……わかった。お前に任せる」

「シマ!!」

「カネシロ。レイジの仕事だ」

 

 くッ、とカネシロはシマの言葉にバツが悪そうに目を逸らした。

 

「……死ぬなよ、レイジ」

「ああ」

 

 カネシロの不器用な忠告を背に、レイジは事務所の重いスライドドアへと向かった。

 

 

 

 §§§

 

 

 ターゲットの拠点は、旧渋谷の外縁部、巨大な物流倉庫が立ち並ぶコンテナヤードにあった。

 かつて自動配送システムの中継地点だったその広大なエリアの一角は今は異世界から来た異種族たちが共同で経営するリサイクラーの拠点と化している。

 

 内部には、回収されたスクラップが山のように積まれ、それらを解体する獣人族たちの活気が満ちている。

 移民政策から漏れ出た異種族は、こうした犯罪組織に囲われ安い労働力として使われる。

 殆どは暴力にも無縁の無辜の市民だ。だからこそ、暴力の庇護下に置かれているとも言える。

 

「なあ、あのスラムの人間達、どうなったんだ?」

「ああ。上のみかじめ料を拒否してた連中だろ」

 

 機械屑から銅線や希少金属を剥ぎ取る作業の傍ら、獣人たちが声を潜めて囁き合う。

 

「全員皆殺しだとよ。おっかねえよな」

「なら、俺達はまだマシだよな。上前をはねられてるとは言え、同族として人間達よりマシな扱いしてくれるし」

 

 彼らは故郷から逃れ、地球にやって来た不法移民だった。

 政府はそんな連中に正式な市民IDを発行しない。そうなると、公共サービスが殆ど受けられない。人権など無いも同然だ。

 

「おい、そこ。お喋りしてんな!!」

 

 すると、監視役の獣人が私語を咎める。

 作業班の二人は慌てて仕事に集中した。

 

 

 作業場から離れた、獣人コミュニティの事務所は巨大なコンテナを積み重ねて作られて作られていた。

 部族の旗のような奇妙なペイントが塗られ、錆と同化している。彼らの出身地のものだろうか。

 

 入り口には、最新式の認証ゲートが設置されている。

 門番の獣人たちは、いかめしい制服を着て、近代的な自動小銃を腰に下げていた。

 警備会社の社員を装っているが、人間社会を理解しきれていない稚拙なコスプレに過ぎなかった。

 

 積み上げられたコンテナの隙間には、人間社会になじめない者たちが溜まっており、彼らが弄ぶナイフと薬物交じりの電子タバコのスイッチが光りを放つ。

 

「すみませーん、事務所はこちらですか?」

 

 そんな連中の前に、ヘルメットを被ったままのレイジは段ボール箱を持ったまま近づいて行った。

 

「なんだ、てめえ」

「人間が俺らの縄張りに何の用だよ!!」

 

 獣人たちはレイジに底なしの敵意を向ける。

 

「ああ、そんなに怒らないで。私も仕事なんですよ、配達の依頼がありまして……」

 

 そう言われては、彼らも追い返すわけにはいかない。

 個人事業主の配達員が出前を頼むのはよくあることだった。

 

「飯の出前か?」

「いいえ、事務所に御届け物です」

「んなわけねぇ。うちは同族の配送業者しか出入りできないはずだ」

「あれ、おかしいですね」

 

 レイジは困ったように肩をすくめ、箱の底に手を滑らせた。

 

「では、代わりにこちらをお受け取り下さい」

 

 ぱん、ぱん、ぱん。

 完全に油断していた獣人たちに、容赦のない鉛玉がぶち込まれた。

 

「がッ、てめッ」

「獣人の外皮は分厚くて困る。即死できないってのは憐れだな」

 

 ぱん、ぱん。

 崩れ落ちながらも敵意を見せる獣人たちにレイジは無慈悲に追撃を加え、崩れ落ちた獣人たちを跨いで進む。

 

「これで二人」

 

 レイジは自動拳銃をリロードし、事務所の方へと進んでいく。

 

 

 

「これで五人」

 

 入り口を警備していた警備服の獣人は脳天に銃弾を受け、白目を剥いて壁を背に力尽きていた。

 異変を察した事務所の獣人たちが武装し、やって来る。

 

 警報が鳴り、ぞくぞくと正面から乗り込んできたレイジの前に現れる。

 

「面倒だな」

 

 獣人たちは銃で武装している。それがレイジには憐れでならなかった。

 彼らの指の構造は、銃器を使用するのに適さない。

 そこには人間の文化に適用しようとした、歪な形跡があった。

 

 ただ、彼らの外皮や剛毛は銃弾に耐性があるのは事実だった。

 だがそれだけだった。

 

 俊敏な動きを見せる獣人たちを、網膜に投射される射撃統制システムのガイドライン通りにレイジは撃てばいいだけだ。

 

「これで十一人」

 

 淡々と、機械のように頭を撃ちぬくレイジに、獣人たちは恐れ戦いた。

 

「何をしている、人間一人さっさと殺せ!!」

 

 連中のボスがそう叫んだ、その時だった。

 

 

 コンテナの安っぽい事務所に、轟音と共に何かが突き刺さった。

 

 いや、それは落下物だった。

 トーキョーメガシティを覆うドーム部分を突き抜け、積み上げたコンテナを利用した事務所の天井を緩衝材にして、“それ”は墜ちてきた。

 

 

「な、なんだ──」

 

 落下の衝撃で壊れたコンクリートの粉塵が舞う。

 咄嗟に顔を庇ったレイジは、遥か頭上から漏れ出る酸性雨を浴びて横たわる存在に目を見開いた。

 

「女の、子?」

 

 落下地点。そこに居たのは、十代前半程度の少女だった。

 

 合成チョコレートのような肌、白いショートの髪の毛。

 その耳は細長く尖っている。エルフ族の特徴、それもダークエルフの。

 だが、それを否定するように、彼女の後頭部からは一対の山羊のようなツノが生えていた。

 彼女の身体の下からは、太く長い爬虫類の尻尾まである。

 

 その特徴には、レイジも心当たりがあった。

 

「竜人の、子供だって? なんでこんなところに」

 

 竜人族。あらゆる種族で、最強と称される希少種。

 優れた身体能力、鋼のような外皮、絶大な魔力を持つ、人の形をしたドラゴンだった。

 

 だが、そんな少女の正面は、袈裟懸けに切り裂かれていた。

 傷は深く、血を流し、どう見ても瀕死の重傷だった。

 

「……ん? あ、え?」

 

 そんな少女は、落下の衝撃を物ともせずに、ひょいと上半身を起き上がらせた。

 

「あう……あ?」

「おいガキ、そこから逃げろ!!」

 

 彼女が現れようとも、ここは鉄火場であることは変わりない。

 レイジが叫ぶのと同時に、態勢を立て直した獣人たちが銃口を向ける。

 

「くそッ、事務所を無茶苦茶にしやがって!!」

「お前らぶっ殺してやる!!」

 

 完全に怒り心頭の様子の彼らは、不運だった。

 

「あ……う、うぁ?」

 

 異形の少女に銃弾が浴びせられる。

 だが、それはポップコーンを岩に投げつけるような愚行だった。

 

 少女が大きく息を吸う。

 

 直後、レイジの視界が真っ赤に染まった。

 

 それは、灼熱のブレス攻撃。

 コンテナの事務所を容易く溶解させる超高温の炎が、レイジの前を薙ぎ払った。その威力は室内に、反対側に居るレイジに熱量を感じさせないほどの威力だった。

 獣人たちは、痛みさえ感じることなく人型の燃えカスとなって崩れ去った。

 

 だがそれは、もう一つの事実にレイジを直面させた。

 

 ぐにゃり、と天井が曲がる。

 そう、ここは鋼鉄製のコンテナを積み上げた建物なのだ。

 

「ああもう、くそッ、仕事が滅茶苦茶だ!!」

 

 レイジはぼんやりと身体を起こしている少女を抱え上げ、倒壊を始めた事務所から逃げ出した。

 

 強力なブレス攻撃は、外にあるリサイクル工場まで直撃し、既にその大部分が炎上し、燃え広がっていた。

 

「てめぇ、誰だ、何しやがった!!」

「くそ、どこの連中だ、どこの勢力の仕業だ!!」

 

 少女を横抱きにし、逃走を開始したレイジの前に警備員の格好をした獣人たちが躍り出る。

 

「ああ、こんな時に!!」

 

 レイジが邪魔だと思った、その時だった。

 彼が抱いている少女の、縦に割れた赤い瞳孔が光る。

 

「な、なんだこれ」

 

 獣人の警備員たちに、異変が起こった。

 がち、がち、がち、という異音と共に、彼らの身体が、衣服が、石になって広がっていく。

 

「せ、石化の、呪詛だと……詠唱も道具も無しに!?」

 

 レイジは戦慄した。

 人体に干渉する魔法は、極めて難しいとされる。

 人間は常に魔力の膜で無意識に覆っており、それは体内から押し出すように発生しているらしい、とレイジは聞いている。

 それが魔力のレジスト現象である、と。それが魔法の干渉を跳ね除けようとする。

 

「た、たすけ、て」

 

 完全に彼らは完全にただの石像と化した。

 

 この少女は、ただの視線だけでそれを成した。

 彼の様子に不思議そうな少女の目が合う。

 視力を代償にした魔法でさえないのは明確だった。

 最早、最強の種族なんて言葉では説明のつかない状況だった。

 

「ああもう、とにかくこの場を離れないと!!」

 

 レイジはとにかく、燃え盛る現場から脱出を優先した。

 

 

 

 

 自分はこんなキャラじゃない。レイジは大型バイクの荷物用の荷台に少女を乗せ、人気のない場所へと移動した。

 

「……あ?」

「お前、誰なんだ?」

 

 暗がりの路地に身を隠したレイジはヘルメットを外し、とんだ“お荷物”にそう語り掛けた。

 

「あぅ、あぅあ、きゃはは!!」

「まさか、言葉がわからないのか? 落下の衝撃で記憶が……いや、それよりも傷……ッ」

 

 レイジがその事実に気づいた時、大型バイクに備えてあった自分用の医療キッドから清潔なタオルを取り出し、少女の血を拭いた。

 

「……嘘だろ」

 

 彼女は非常に深手だった。だが、その傷はもう殆ど塞がっていた。

 

「にぃ、にぃ!!」

「おいおいどうすんだよ、こいつ」

 

 まるで赤子のように、少女は無垢にレイジに笑っている。

 

「にぃに!!」

「……俺を兄貴かなにかと勘違いしてるのか?」

 

 少女はレイジに抱き着いて、無邪気に笑っている。

 

「俺にどうしろって言うんだ……」

 

 レイジはドームに覆われた空を見上げ、途方に暮れる他なかった。

 

 

 それが、レイジと彼女の、お互いの運命を変える出会いだった。

 

 

 

 

 

 物流倉庫が大炎上し、野次馬がそれを見ようと警察の規制線に詰めかける。

 空にはドローンが現場を撮影しようと乱れ飛んでいる。

 

 警察は怒声を挙げて、市民たちに銃を向けて牽制を行っている。

 

 その中に独り、群衆に交じりフードを目深に被った女があるモノに視線を向けていた。

 

 石像と化した、警備員だ。

 

「やはり、お前もこの世界に来ていたのか……」

 

 女の声からは、怨嗟と、憎しみが混じっていた。

 

「──魔王、ローティ!!」

 

 

 女は踵を返す。己の全てを奪った仇敵を見つけ出し、殺し尽くす為に。

 

 

 

 

 

 

 




リメイク前は正直、私の書きたいことや読者の皆さんが求めている内容を追及できなかったという反省点を踏まえ、タイトルの三人の人間関係を焦点に定め、サイバーパンクな世界観でわちゃわちゃすると言った内容の作品にしてみました!! する予定!!
レイジとローティ、クラリスの三人が好きだったので、納得がいく作品を書きたかったのです。

掲示板要素が無くなって寂しいと思われる読者の皆様もいらっしゃるでしょうが、作品の完成度は上がっている!! 筈!! なので、これからもご愛読下さると幸いです。

ではまた、次回!!
二話目は六時間後に投稿します。
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