【Re:】ポンコツ勇者 VS クソガキ魔王 VS ダークライダー【make】   作:やーなん

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ボーイミーツ勇者

 

 

 

「美味しい、美味しいッ、ううッ」

 

 結局レイジは見かねて、自販機からチョコ味の栄養ブロックを購入し、段ボールを被ったクラリスに買い与えてやった。

 彼女は包装フィルムの開け方すら知らないようだったが、中から甘い匂いのする食べ物が出て来たと分かると、涙目になりながらバクバクと貪り食い始めた。

 

 だが、最後の欠片を飲み下したところで、己の惨めさに耐えきれなくなったのだろう。彼女はボロボロと大粒の涙を流し始めた。

 

「よりにもよって、魔王の手下に施しを受けるなんて……ッ」

「だから、手下じゃないって」

 

 この女の記憶領域には著しい欠陥があるのではないか、とレイジは本気で心配になった。

 

「記憶を失ったローティを偶々保護しただけだ」

「……」

「彼女は最初、非常に鋭利な刀傷を負っていた。君の仕業だな?」

「ええ」

 

 クラリスは否定しなかった。栄養ブロックの空き袋を握りしめ、項垂れる。

 

「申し訳ありません。私が殺しきれなかったばかりに……この世界の方にご迷惑を」

 

 ベンチに座ったクラリスは深い悔恨に苛まれているようだった。

 

「これからどうするつもりなんだ?」

「……わかりません。記憶の無い魔王ローティは、私の知る奴とは別人なのかもしれません」

 

 クラリスはポンコツな奇行ばかりが目立つが、その根底には深い理性と自制心、そしてある種の矜持を兼ね備えていた。

 

「ですが、放置も出来ません。奴がこの世界の災いになる前に、今度こそ……」

 

 彼女にとって、今は明確なチャンスだった。

 クラリスと戦った魔王は全てを忘却し、間違いなく弱体化している。

 今なら確実に奴の息の根を止められる。その筈だった。

 

「……でも、全てを忘れてただの赤ん坊同然になった相手を殺すなんて、出来ないッ」

 

 少なくとも、クラリスにとって魔王とは妹を無残に殺した冷酷な化け物だ。

 自分のシモの世話を出来ないほど尊厳が破壊されている光景を見て、それを自分の仇と結びつけることは出来なかった。

 

「君は強いな。そこはよくも忘れてくれたな、って怒るところだろう」

「強くなんてありませんッ、今すぐ殺すべきです、そうするべきなんです!!

 ……許して、クレアッ、弱いお姉ちゃんを許してッ」

 

 葛藤に耐えきれず、クラリスはついに顔を覆ってぐずぐずと泣き始めた。

 妹の名を呼びながら慟哭する彼女の姿に、レイジは深い胸の痛みと、居た堪れない気分を味わった。

 

「ローティ……魔王はなぜ、あんたの妹を?」

「知りません。知ったところで理解できませんよ」

「そうか……」

 

 クラリスが少し泣き止み始めたところで、レイジは静かに質問を投げかけたが、要領を得る答えは返ってこなかった。

 

「そもそも、ローティは何なんだ? 魔王だって?」

「私も詳しいことは。博士なら知っているんでしょうけど」

「博士?」

「私にこの聖鎧を与えてくれた恩人です」

「はあ……」

 

 クラリスは胸当て同然のそれを叩いてそう言った。

 

「凄くスゴイ頭のいい人でした。なんか凄い機械とか、スゴイデカい次元航行船を持ってたんですよ!!」

「いや語彙力……」

「でも、もう居ません。彼女と、彼女の元で共に復讐を誓った他の四人も……。

 私達は各々の復讐相手である魔王に挑みましたから。勝っても負けても、生きてはいないでしょう」

「魔王は他にもいるのか」

「博士曰く、魔王とはその世界の滅びが確定した時に、神によって遣わされる滅びの使者である、と」

 

 滅びの使者。急にスケールが違う言葉に、レイジは思わず息を飲んだ。

 

「世界を滅ぼすのが役目、だと?」

「仲間の一人は、魔王の一人が統治している世界の出身でした。

 偉大な統治者だからこそ、憎かったと言ってましたから、それが全てでは無いのでしょう」

「だが、お前の話を聞く限り、ローティにそんなこと出来そうにないんじゃないのか?」

「でしょうね。他の四人も、魔王は復讐の相手であっても、憎しみだけでは語れない何かがありました。

 でも私は魔王に、ローティに対峙して、気づいてしまったのです」

「……何がだ?」

「人類に対する憎悪……。あれは下等生物を見下している眼ではありませんでした。

 最後の一撃が鈍ったのも、それが原因かもしれません」

 

 クラリスは己の手を見てそう呟いた。

 自分達が連綿と続く復讐の連鎖に囚われている。そう気づいたからかもしれない。

 

「博士は言っていました。魔王とは神の化身。殺したところで復活するか、また別の魔王が産まれるだけだ、と」

「それって……意味があるのか?」

「意味のある復讐なんてあるんですか?」

 

 クラリスはレイジの顔を見返し、そう言った。

 レイジは何も言い返せなかった。

 

 イーラ運送の報復代行員として、他人の復讐の連鎖の中に身を置き、数多の命を奪ってきた自分。彼女の澄んだ碧眼が、己の生業と罪そのものを静かに問うているようだった。

 

「博士ほど頭のいいヒトでも、復讐から逃れられなかった。

 私だって、意味なんて求めていません。博士の言葉が本当なら、魔王が来ても来なくても、私の故郷は滅びていたことになりますから」

「……そうだな」

 

 目標を失い、深い失意の底に沈んでいるクラリス。その痛ましい背中を不憫に思っていると、ふとレイジの脳裏にある仮説が浮かんだ。

 

「なあ、クラリス。魔王は殺しても復活するって言ったよな」

「ええ。そうらしいです」

「それは、いつのタイミングでだ?」

「……え?」

「ローティが記憶を失ったのは、昨日だ。

 今ローティを殺したら、それ以前の頃のローティとして、魔王が蘇るんじゃないだろうか」

 

 機械のデータと同じ理屈だ。確実に復活すると言うことなら、どこかの段階で記憶や人格のバックアップを取っているはずだ。

 でなければ、何を基準に元の魔王として復活をするのか分からない。

 

「そんな……じゃあ、どうすれば」

「クラリスさん。ローティを殺したいと言ったな」

 

 レイジは彼女に提案した。

 

「なら元の人格を否定する、新しいローティを育てるんだ。

 前の傍若無人の怪物を、新しい人格で消してやればいい。

 それこそが、何よりも痛快な復讐になるんじゃないのか?」

 

 彼の提案に、クラリスは目を白黒している。

 

「そして、記憶のバックアップが更新されるまで待てばいい。

 それこそが、あんたの妹を殺したクソ野郎の、実質的な死じゃないのか?」

「……そう、なんでしょうか」

「そうなのか、どうなのか、じゃない。

 今はあんたの、自分が納得できる理由が必要なんだろ?」

 

 ハッとして顔を上げたクラリスに、レイジはさらに言葉を続ける。

 

「しばらく様子を見たらどうだ。

 俺も何とかして、少なくとも元通りのような化け物にならないように手を尽くすよ。

 もし仮にローティがお前が言う本物の化け物になるんだったら」

「だったら?」

「それは俺の責任だ。その前に俺が始末をつける」

 

 レイジのその言葉に、一切の嘘偽りはなかった。

 彼はこれまで、無数の人間の命を奪ってきたプロの殺し屋だ。

 幼い見た目をしているからといって、共に無邪気な時間を共に過ごしたからといって、その存在が本物の化け物になった時、情に流されて見逃すような半端な生き方はできない。

 それが彼の矜持であり、己に課したルールだった。

 

「だからあんたは、これからは復讐なんてやめて、自分の人生を生きればいい」

「……もう少し考えさせてください」

 

 そうだな、とレイジはクラリスの葛藤を否定しなかった。

 彼女に今必要なのは、時間なのだろう。

 

「じゃあな、また会おうぜ」

「はい、親身になって下さり、ありがとうございます」

「ははッ、ホントだよな」

 

 自嘲気味に笑いながらベンチから立ち上がり、背を向ける。

 クラリスが後ろから頭を下げる気配がした。

 レイジはらしくもないお節介を焼いた己の甘さに呆れながら、バイクに跨って公園を後にした。

 

 

 

 §§§

 

 

 翌日。

 

「なんだレイジ!! 結局引き取ったのか!!」

「……」

 

 憮然とした表情のレイジがイーラ運送の事務所に顔を出すと、開口一番、カネシロに指を差されて大笑いされた。

 彼の背中にはローティがコアラのようにぴったりと張り付き、小さな顎をレイジの肩に乗せている。

 

「昨日仕事で置いて行ったら、大暴れしやがったんだ」

「子供に騒げばワガママを聞いてくれるって覚えさせない方がいいぜ」

「この小さな大怪獣は火を噴くんだぞ……」

 

 部屋が半壊したんだが、とレイジが心底疲れた顔でぼやくと、ああ、とからかっていたカネシロもバツが悪そうな表情になった。

 

「誰かこいつの面倒を見ててくれ」

「むー、むー!! やだッ、ローちゃんも付いてく!!」

 

 レイジが事務所に来た理由は、仕事の間、ローティを誰かに押し付けるためであった。

 だが、その意図を察しているのか、背中に引っ付いているローティは不満げにバタバタと暴れ、床に尻尾をびたんびたんとさせ、レイジの首に腕を巻きつけている。

 

「驚いたな。一昨日は完全に赤ん坊同然だった。

 もう既に幼稚園児並みの情緒が形成されているのか」

 

 デバイスのモニターに向かっていたシマがタイピングの手を止め、ローティの異常な成長速度に驚嘆の息を漏らす。

 

「レイジ、面倒だからって変なインプラントとか入れてないよな?」

「それで説明が付くか?」

 

 カネシロが不審そうにレイジに問うが、彼は呆れたようにすぐにそれを否定した。

 神経接続タイプの体内デバイスに、脳機能を拡張させる学習用インプラントを直接挿入すれば、簡易的にそのデータチップ内の知識や技術を己のものとすることが出来る。

 言語、記憶、戦闘技術。そのバリエーションは様々だ。

 

「確かにな。あれは所詮体験の延長だ」

 

 カネシロはそう吐き捨てた。彼は見た目通りの武闘派で、実戦主義者だ。

 インプラントで安易に得た格闘技術などを“ニセモノ”だとバカにするタイプの男だった。

 

 すると、男三人と少女ひとりの空間に新たな人物が登場した。

 入り口のスライドドアが開き、派手な女が入って来た。

 

 彼女は、裏路地の安酒場に入り浸る不良少女のような出で立ちだった。

 サイケデリックな幾何学模様が明滅するクロップド丈のトップスから、惜しげもなく引き締まった臍周りを露出させ、下半身はマイクロミニのプリーツスカートを纏っている。

 

 無造作なボブカットの髪は鮮やかな紫色に染め上げられ、文字通りネオンが仕込まれているのか、毛先に編み込まれた極細の光ファイバーが、彼女の歩調に合わせてカラフルに発光していた。

 そして特徴的なのは、両目を機械化義眼に換装していることだった。

 高精度のセンサーとカメラを兼ね備えるそれは、一種の非人間的な不気味さを思わせる。

 

「あれ、レイジさん。その子どうしたの?」

「リーベか」

 

 彼女はリーベ。イーラ運送所属のハッカー兼工作員。

 こんな派手好きなのに、彼女は企業への高度なスパイ活動や物理的な潜入工作すらも軽々とこなしてしまう。

 

「きゃはは、ぴかぴか!!」

 

 文字通り、ネオンのようにカラフルに発光してぴかぴかしているリーベを見て、ローティはレイジの背中でキャッキャと喜んでいた。

 

「わぁ、なになに、小さくて可愛い!! なにこの尻尾とツノ、どういう生体接続(スプライシング)なの? お耳もエルフみたいでカワイイ!!」

 

 そして当のリーベも、ローティの人間離れした姿に興味津々でご満悦だった。

 彼女はサイバネティクスをファッションとして人体に組み込む、スラムで今時のちょっとやんちゃをする若者の代表みたいな存在だった。だからこそ、ローティの異質さを“高度な改造”だと信じて疑わないのだ。

 

「こいつか? このガキはレイジが引き取ったんだよ」

 

 リーベを見やり、カネシロは気まずそうに目を逸らしてそう言った。

 実のところ、彼はリーベを苦手にしていた。その話はまた後にしよう。

 

「へぇ、いつか子供の一人や二人ぐらい拾って育てると思ってたけど、ついにその時が来たんだね」

「お前らは俺をなんだと思ってるんだ」

 

 リーベは腕を組んで、保護者のように訳知り顔で得意げにうんうんと頷く。

 

「リーベ、こいつの、ローティの面倒を見ててくれ。仕事にならない」

「別に構わないよ。最近長期の仕事は無いし、しばらくはここからハッキングの支援に徹してもいいし」

「本当か? それは助かる」

 

 あっさりとしたリーベの返答に、シマがすぐさま反応した。

 

「お前が居ると隠蔽工作が楽だからな」

「ま、元々ハッカーとして雇われたからね」

 

 彼女は自信満々に胸を叩いてそう言った。

 リーベはこのイーラ運送の裏稼業をネットの海から自力で探り当て、自らの腕を売り込んできた変わり種だった。

 自分のハッキング技術を正しい事の為に使いたい、と荒んだ今時のスラムの若者にしては珍しい、真っ直ぐな動機を持っていた。

 

「お前が居るなら丁度いい。大きな案件が来ている」

「大きな案件?」

「旧渋谷地区を根城にしている三流マフィアが、最近物理ドラッグをシノギにしているらしい」

 

 その言葉に、ローティ以外の三人は顔を顰めた。

 

 物理ドラッグ。要するに、大麻や化学合成粉末など、旧来のタイプのように物理的に人体に直接摂取するドラッグだ。

 脳内インプラントに直接データを流し込んで快楽を得る“電子ドラッグ”が登場して以来、あえて区別してそう呼ばれるようになった。

 

 電子データゆえに簡単に複製・共有できる電子ドラッグの台頭に連れて、製造に手間とリスクのかかる物理ドラッグの市場は縮小傾向にある。だが、その強烈な肉体的依存性から、未だに根強い愛好家がいるのも事実だった。

 

「ってことは、捌いてるのはあの辺の富裕層相手か。その後の強請りもやってそうだけど」

 

 リーベは溜め息と共に呆れて見せた。

 

「つーか、この依頼。政府筋のリークだろ? 俺達連中の手駒にはならねぇぜ」

 

 カネシロが嫌悪感と共にそう言った。

 今時、物理ドラッグをシノギにする古臭いマフィアなど、裏社会でも鼻つまみ者だ。競合する他のマフィアから「潰してほしい」という依頼が来るはずがない。

 

 つまり、物理ドラッグを非合法のモノとして、取り締まる側からの依頼と言うわけだ。

 

「当然だ。俺達は誰の手駒にもならない。

 だが電子ドラッグは手の施しようも無いが、物理ドラッグなら拡散を防ぐことが出来る」

 

 イーラ運送の基本方針は『復讐代行業』だ。

 だが、シマが精査し、各々の義侠心に沿う内容の依頼だと判断したものなら、受けてもいいという暗黙のルールがある。無論、危険を伴うためその分料金は跳ね上がるが。

 元役人であるシマの、かつての古巣の筋からの依頼なのは明確だった。

 

「そうだな。この様子では、どうせ警察は動かないだろうしな」

 

 レイジも昨日行った旧渋谷地区は富裕層の住宅街。警察の監視網が機能している筈のあのエリアで、物理ドラッグの流入が容認されている。

 物理ドラッグを扱ってるだけに、鼻薬でも嗅がされているのだろう。

 

「俺とレイジで良いよな?

 二人はバックアップを頼む」

 

 カネシロはニヤリと獰猛に笑って、ソファーから立ち上がる。

 レイジも否は無い、と頷き返す。

 

「ああ、構わない」

「よーし、腕が鳴るぞ」

 

 シマが了承し、リーベはぐっと拳を握った。

 

「ローちゃんも!! ローちゃんも悪い奴やっつけたい!!」

 

 が、そこでレイジの引っ付き虫が騒ぎ出した。

 

「ダメだ」

「やー!! やーなの!! ローちゃんもフェアリーサマーみたいに悪い奴やっつけたいの!!」

 

『フェアリーサマー』とは、昨日ローティに見せた魔法少女モノの主人公の名前である。

 熱狂的なファンの間では“当人が実在している”と都市伝説のように噂されている、全編ファンメイドの異様に気合の入ったアニメだ。

 

「ローティ、お前が好きなのはティフォン博士だったろ?

 悪の科学者は秘密ラボで高笑いするもんだ。だろう?」

「むー、むー!!」

 

 レイジが説得を試みるが、ローティは不満そうだ。

 ちなみに、ティフォン博士は魔法少女フェアリーサマーの悪役なのだが、当初は彼女の味方であり、超大ファン。主人公が強過ぎて戦う相手が居なくなったから最終的に自分が敵になると言うはた迷惑なポジションである。

 

「ほーら、ローちゃん。こっちに甘いお菓子あるよ? 食べる?」

「ん、食べる!!」

「ニューコーラもあるぞ」

「飲む!!」

 

 リーベとカネシロの連係プレーにより、ローティはレイジから分離に成功した。

 とりあえず、この小さな極大の最終兵器はお菓子とジュースを胃に叩き込んでから向かうことにしたらしい。

 

「……各ドームからお菓子やジュースを取り寄せておこう」

「ありがとう、シマ。みんな……」

「いいっていいって!!」

 

 レイジは皆の気遣いに頭が下がる思いだった。

 

「カネシロ、すぐ終わらせよう」

「おう、それじゃあ行こうぜ」

 

 こうして、マフィアの物理ドラッグ工場破壊作戦が幕を開けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 





旧版では登場が遅かったリーベが形を変えて登場です!!
彼女の掘り下げは、また今度。

旧版との違いと言えば、実はめちゃくちゃクラリスも強化されてるんですよね……。
詳しくは、次回!!

ではまた!!
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