【Re:】ポンコツ勇者 VS クソガキ魔王 VS ダークライダー【make】   作:やーなん

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憤怒ミーツ魔王

 

 

 

 レイジたち四人はイーラ運送の事務所へと戻って来た。

 

「ゴメン。私が一瞬目を離した隙に」

「リーベの所為じゃねえよ。このガキはどっちにしろ、やったよ」

 

 申し訳なさそうに両手を合わせて謝ってくるリーベに、カネシロはどっかとソファーに腰を落としてそう言った。

 

「依頼主はこちらはレイジ達の行動ログやデータを送ってアクシデントであると潔白を説明した。

 とりあえず、先方はテロリストの仕業とするようだ。

 ……当然だろうな。あんなのは軍用の大型爆弾でも使用しなければ不可能だ。我々はそんなモノ用意できる組織じゃない」

 

 淡々と事後処理をこなしたシマの表情にも、隠しきれない疲労が滲んでいた。あの規格外の現実が、まだ完全に追いついていないようだった。

 

「きゃははッ、悪い奴やっつけたよ、きゃはは!!」

 

 ただ、あの大破壊を引き起こした当人だけは、まるで泥遊びで立派なお城を作った子供のように楽しそうだった。

 

「彼から聞いていると思いますが……」

 

 結局、なし崩し的にイーラ運送についてくる羽目になったクラリスが、重い口を開く。

 

「ローティは邪悪な魔王です。

 彼女に関わり続けると、貴方がたの身が危ない」

「同感だ、この様子では我々以外の誰かが目を付ける」

 

 クラリスの言葉に、シマは頷いて見せた。

 

「彼女を守るにせよ、何者かに奪われるにせよ、その結果は周囲の破壊だ。誰も彼女を制御できない」

「それは、そうだけどさ。そんな言い方無くない?」

 

 シマの冷徹な意見に、リーベは反論して見せた。

 

「力はどうあれ、今はただ子供なだけだよ。

 自分がしたことを分かってないだけだって」

「俺はどちらとも言えねぇが、シマ側だ」

「カネシロさんまで!!」

 

 両腕を組んで、いつになく厳めしい顔をしているカネシロにリーベは抗議する。

 

「仕事になんねぇって言いたいんだ。

 俺だって放り出したりしてぇわけじゃねえよ。だけど俺らには生活があるだろ? 一旦、対策を考えようぜ」

「それは、そうだけどさぁ」

 

 ローティの対応に対する三人のスタンスは、賛成、保留、反対と見事に割れた。

 だが、この中で一番重要な人物が、まだ何の考えも示していない。

 

 それに気づいた三人は、揃ってレイジの顔を見やった。

 

「……」

 

 レイジは無言だった。

 いや、それどころか、彼の顔からはあらゆる感情の起伏が抜け落ち、時折、口元や目鼻が痙攣するようにピクッと震えている。

 長い付き合いの三人は、一目でわかった。——ヤバい、と。

 居心地の悪そうにしていたクラリスでさえ、レイジから発せられる尋常ではない雰囲気を察知し、何となく後ずさって怯えていた。

 

「ねえねえ、ローちゃん、悪い奴やっつけたよ!! 褒めて褒めて!!」

 

 が、議論の中央に居る大怪獣は、自分の所業を称えられないことに不機嫌になり始めた。

 

「あー、ローティ。人間ってのはな、簡単に殺しちゃいけないんだ」

 

 空気を変えるため、強面であるカネシロが精一杯の引き攣った笑顔を浮かべて、諭すように言った。

 

「何でか分かるか? それが“当たり前”だからだ。

 人間は当たり前ってのを守らない奴を嫌うんだ。分かるか?」

「……なんで?」

 

 ローティは小首を傾げた。

 

「皆だって人間いっぱい殺してるでしょ!!」

「まあ、私達はある種の自警団的な活動はしてるし、その時に誰かが死んじゃうことはよくあることだよ」

 

 リーベは彼女のストレートすぎる主張に対し、この場に部外者のクラリスが居ることを考慮して、なんとかオブラートに包んでそう言った。

 

「でもね、積極的に進んで殺したいなんて思ってないんだよ。それだけはわかって」

「わかんない!!」

 

 だが、ローティは駄々をこねるようにそう叫んだ。

 

「ローちゃんは悪い奴やっつけるの楽しいもん!!

 もっともっといっぱいやっつけたいもん!! みんなだって同じのくせに!!」

 

 それは幼いながらに、本質を突いていた。

 

「魔法少女フェアリーサマー、シーズン3。第13話、『フェアリーサマー VS 宇宙帝国艦隊!?』で、マーサー提督もフェアリーサマーに言ってたもん!!

『お前は地球では英雄かもしれないが、我が国にとっては虐殺者だ。周囲から持ち上げられて、本当は楽しいんだろう? これから何万人も殺すのはどういう気分なのだ?』って!!」

 

 ローティはこう言っている。

 お前達は英雄気取りの人殺し、だと。どれだけ御託を並べようと、被害者からすれば殺人鬼でしかない、と。

 

「だが、フェアリーサマーは否定したぞ。自分は皆を守るために戦っている、と」

 

 ソファーに深く座り込み、感情を完全に押し殺した低い声で、レイジが静かに言った。

 

「でも、魔法少女フェアリーサマー、シーズン2。第7話、『正義 VS 正義』じゃ、自分の殺人衝動を悪人を殺すことで発散させている殺人鬼ジャックが出てくるよ。『俺の殺戮は結果的に正義の筈だ、それの何が悪い。俺が無辜の市民を殺したことがあるか?』って」

「フェアリーサマーはそれは開き直りだって糾弾したぞ」

「でもでもッ、ジャックだって平穏を望んでたんだよ? 何が違うの?」

 

 それを聞いている三人は思った。なんてモノを見せてるんだ、と。

 そう、アニメ『魔法少女フェアリーサマー』のヴィランはメルヘンな怪人でもなければ敵対的な魔法少女ではない。

 シリーズ通して、彼女が戦うのは道を外した人間ばかりだ。

 

「……わかった。わかったよ、ローティ」

 

 レイジは一度だけ目を伏せ、立ち上がる。

 そして、ローティの前にしゃがみこみ、こう言った。

 

「悪い奴をやっつけるのは、楽しいか?」

「うん!! もっともっと、にぃにと一緒に悪い奴やっつけるの!!」

「そっか」

 

 レイジは左手でローティの頭を撫でた。

 彼女はそれを猫のように目を細めて気持ちよさそうに受け入れた。

 

 そして次の瞬間、右手の大型拳銃が火を噴いた。

 

「がッ」

 

 至近距離から放たれた45口径の徹甲弾が、ローティの細い喉を容赦なく貫通し、背後の壁に当たって乾いた火花を散らした。

 

「ヒト殺しといて、へらへら笑ってんじゃねぇよ」

 

 ローティの喉にぽっかりと空いた弾痕——その生々しい肉の穴に親指をズブリと突っ込み、悪鬼のように顔を歪ませたレイジが吐き捨てるように言った。

 

 突然の事態にクラリスは唖然となり、他の三人は即座に立ち上がる。

 

「止めろレイジ!!」

 

 カネシロが止めようと動くが、レイジは彼にも銃口を向け、牽制する。

 

「悪い奴ぶっ殺すのが楽しいっつったな?

 じゃあ教えてやるよ、五年前、俺は初めて人をぶっ殺した。

 警官だった。子供売り飛ばすシノギしておいてへらへら笑っててよ、死ぬまで殴り続けてやった」

 

 レイジは、ローティの喉の弾痕に突っ込んだ親指にグッと力を込めた。

 この間にも彼女の異常な自己治癒能力が傷を再生しようと細胞を増殖させ、侵入したレイジの指を異物として押し出そうと蠢いている。

 だが、レイジは血まみれになったローティの喉をガッチリと掴んだまま、顔を近づけて言った。

 

「ほら、お前の好きな悪い奴だ殺せよクソガキ」

「ん、んんー!!」

「お前の言う通りだよ。俺はこの仕事やってるのはビジネスでも、カネの為でもねぇ。ムカつく奴をぶっ殺してぇからだ!!

 そうさ、楽しいんだよ!! お前と同じだ!!!」

 

 ローティの目の前に、理解の出来ないものが現れた。

 殺そうと思えば簡単に殺せる。引きちぎれる、焼き殺せる。

 

 だが、彼が与えた“情”がそれを躊躇わせた。

 レイジは可能な限りローティを愛した。彼が彼女に向けた温かな眼差しに、嘘偽りはなかった。

 

 だが、それを簡単に放り捨てられるのが、レイジだった。

 それは、ローティの学習の範疇を、理解の限界を完全に超えていた。

 

「そうだ、俺は異常者だ。快楽殺人鬼だよ。ムカついたらぶっ殺さないと気が済まねぇんだ!!

 正しいとか正しくないとかどうでもいい、てめぇみたいな他人を何とも思ってねえクソをぶっ殺したくてぶっ殺したくてたまんねぇんだよ!!!」

 

 レイジは、嗤っていた。

 そこに苦悩や躊躇いも無かった。

 

 罪悪感や、葛藤など無かった。

 

 そこに在るのが、激怒。

 自らを煩わせる何かを叩き潰せる、剥き出しの憤怒だけだった。

 

 ローティがアニメで見た、本物の殺人鬼が目の前に居た。

 実際に目の当たりにすると、面白くもなんともなかった。

 

 なにせ、アニメの殺人鬼はなんだかんだ言って己が大事だった。

 だが、レイジは違った。

 

 目の前の魔王に、勝算など関係無く銃をぶっ放した。

 狂気だった。自分のやりたいことをするのに己の命を省みない、刹那の瞬間でしか生きていなかった。

 

 完全に、イカレていた。

 

「に、にぃに。にぃに!!」

「うるせぇんだよ、甘えた声出せばてめぇの言うこと何でも聞くと思ったのか、クソガキ!!

 今すぐぶっ殺してやるから一緒に地獄で遊ぼうぜ」

 

 ローティの目元に涙が溜まる。

 その瞬間だった。

 

 

 ローティの脳裏に、ある光景がフラッシュバックした。

 

『い、行かないで、にぃに』

『大丈夫だよ、ローティ。また会えるさ』

 

 顔の分からない、おぼろげな輪郭の誰かに縋ろうとする自分。

 

『なぜお前に優しくしない者に、優しくする必要がある?』

 

 自分と瓜二つの誰かが言った。

 

『お前にこの“魔剣”を与えよう。我が半身、我が写し身。

 だけど心しなさい、これを使ったら最後、お前は決して本当に欲しいモノは手に入らなくなる。私と同じようにね』

 

 禍々しい装丁のハードカバーの本が、差し出される。

 

『……早く殺せ、お前はもう、ローティではない』

 

 ボロボロの鎧姿で、地面にうずくまる誰かの姿。

 

 

『ローティ。私だけはお前を愛してやろう。お前の全てを肯定しよう。

 さあ、おいで。私がお前を、産み直してやろう』

 

 赤い、紅い、奈落のような深紅の瞳が言った。

 

 

 それはただの過去の記憶ではない。ローティという存在そのものを根底から構成する、逃れられない『呪い』に他ならなかった。

 

 

「あッ、ああ、ああッ、頭が、痛い!!!!」

 

 突如として、ローティは頭を抱えて苦しみだした。

 予想外の反応に、レイジが驚き目を見開いた、その瞬間だった。

 

「いい加減にしろ、馬鹿野郎!!」

 

 レイジの注意が逸れた一瞬の隙をついて、背後からカネシロが飛びかかり、その両腕をがっちりと羽交い絞めにした。

 

「くそッ、離せ!!」

「お前わかってんのか、そのガキのヤバさをよ!!」

 

 カネシロの怒号が響く。

 レイジの凶行はこの場に居る全員を危険に晒す行為だった。

 

 だが。

 

「ひ、ひッ、ひぐッ」

 

 突然のフラッシュバックによる苦痛が引いたのか、ローティは首からボタボタと血を流したまま、急にヒックヒックとしゃくり上げ、泣き出し始めた。

 

「やだッ、やーだぁ、ローちゃんを嫌いになっちゃやーなの!!」

 

 大泣きだった。ギャン泣きだった。

 話について行けない様子だったクラリスも面食らっている。

 

「ローちゃんを独りにしないでぇ!!」

「……いいか、ローティ」

 

 カネシロに拘束されたまま、レイジは泣きわめくローティに向けて、静かにこう言った。

 

「俺はどうしようもないクズさ。だが、まだ人間でいられるのはここに居る仲間のお陰だ。

 誰かを殺すな、なんて俺らには言えねぇよ。だけどよ、俺達はお互いの為に一緒に居るんだ」

 

 先ほどの悪鬼のように歪んだ顔が嘘のように、レイジは憑き物が落ちたような声で、穏やかに語り掛ける。

 

「お前がみんなの為に何かをしたいっていうなら、少なくとも俺は一緒に居てやるよ。

 俺には昔、血の繋がりのない兄弟がいた。だから俺らは家族になってやれる」

「……ホント? ほんとに、にぃにになってくれるの」

 

 ローティが涙を擦りながら、顔を上げる。

 

「まずはワガママを言わないようにするんだぞ?」

「うん、うん!! えへへ、えへへ!!」

 

 カネシロから解放されたレイジに、すがるようにローティが抱き着いた。

 

「にぃに、にぃに!!」

「悪かったな。一度キレると自分でも我を忘れてどうしようもなくなっちまうんだ」

 

 レイジはローティの頭を撫でながら、己の短所を恥じていた。

 

「ホントだよ。お前それでいつも俺らが尻拭いしてやってんだぞ」

「全くだ」

 

 緊張の糸が切れ、カネシロがいつもの調子でからかう様に笑い、シマは大きなため息をついて憮然とした表情で頷いた。

 

「もー。生きた心地がしなかったよ」

 

 リーベがホッと胸を撫でおろすようにそう言った。

 

「悪かった。ごめん、皆。また迷惑を掛けた」

「気にすんなよ。いや、今回ばかりは気にしろ、な、兄弟」

 

 カネシロが笑いながら、やけに強くレイジの肩を叩いた。

 その意味を察せないほどレイジは朴念仁ではなかった。

 

「ああ、そうだな。兄弟」

 

 レイジはようやく優し気に笑った。リーベも釣られて笑い、シマも呆れながら口の端を微かに釣り上げた。

 

「信じられない……。これが本当に、あのローティなの?」

 

 一方、一人蚊帳の外に置かれたクラリスは、己の目を疑っていた。

 その笑顔の中心に、ローティが居た。

 

 故郷を奪い、家族を奪い、自分から全てを奪った者が、無邪気に笑って受け入れられている。

 

 クラリスは、自分がどうすれば良いのか、わからなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 

 高級オーガニックレストラン『グリーン・オアシス』跡地。

 そこには広範囲にわたって警察の規制線が何重にも張られ、大勢の機動隊員や鑑識人員が投入されて厳戒態勢での調査が行われていた。

 サーチライトが交差する物々しい現場の手前、封鎖された道路の前に、一台の黒塗りの高級エアカーが音もなく滑り込む。

 

 開いた後部座席から、タイトなビジネススーツを着た女が現れた。

 彼女は周囲の喧騒など意に介さない様子で、規制線を無視するように跨り、堂々と内側へと入りこむ。

 

「おい、そこの女!! 関係者以外立ち入り禁止だ!!」

「いや待て」

 

 規制線の最前列で警備を行っていた若い警官が慌ててアサルトライフルを向けるが、現場の責任者らしき初老の刑事が、血相を変えてその銃身を強く下に押さえつけた。

 

「上の客だ」

「ッ!? 失礼いたしました!!」

 

 上層部からの特命を悟った警官が慌てて姿勢を正し敬礼をするも、女は彼らに一瞥もくれず、全く意に介した様子はなかった。

 

「……間違いありません」

 

 クレーターと化し、未だに焦げた匂いが燻る壮絶な破壊痕を見下ろして、女は確信した。

 

「やはり、ここにおられたのですね」

 

 夜風に髪をなびかせながら、その女はまるで神を崇める神官のように、あるいは殉教者のように、静かに祈るように目を閉じた。

 だが、その神聖さすら帯びた立ち姿とは裏腹に、彼女の容姿は、聖なるものとは対極に位置していた。

 彼女の頭部には捻くれたような悪魔のツノが伸び、スーツのスカートの裾からは、ゆらゆらと蠢く悪魔の尻尾が備わっていたのだ。

 

 

「──魔王、ローティ様」

 

 彼女の名は、ハイティ。

 ローティの忠実な配下、魔王の四天王だった。

 

 

 

 

 

 





大きな予定の変更が無ければ、リメイク版は二十話以内に終わらせる予定です。
旧版のように長々と続ける意味はなさそうですし。

あと感想や高評価をお待ちしております。

ではまた、次回。
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