超かぐや姫R! ~彩葉が二周目チートで超ハッピーエンドに至る話~   作:そうすけVR

11 / 11
2 過負荷

ツクヨミから戻ると、かぐやがノートPCをいじっていた。

「ライバー、成りかた……」

なんか調べてる。

 

『たっだいまー』

ヤチヨも、タブレットに移っていた。

今日一日だけでも怒涛の出来事があったなー。

『もうおねむ。おやすみー』

これまでの習慣なのか、それとも元々と同じく記憶の整理で必要なのか、ふわぁ、とあくびをして、ヤチヨは画面から消えた。

 

私も、昨日の夜からよく寝てなかったせいもあって、睡魔が襲ってきた。

(ちょっと先に寝てるね。彩葉はどうする?)

(いいですよ。私はもう少し起きています)

本当は、交互に起きるんじゃなくて、二人とも同じ時間に眠って、きちんと睡眠時間を確保しないといけないんだろうけど……かぐやが来てから、ちょっと無理してるかも……でもまあ、今日は仕方ないか……

私はとろとろと眠りについた。

 

――なのでここから先は、翌日、私が目覚めた後に思い出す形で記憶に書き込まれた出来事だ――

 

「あ……彩葉さん寝ちゃったみたい」

「お姉さん彩葉は寝たの? 彩葉って変だよねー。面白いねー」

途端に、かぐやは私に抱き着いてきた。

「彩葉好きー」

「どうしたいきなり」

「お姉さん彩葉はねー、ぎゅっ、てしたらがばっ、て抱き着いてきて、ちょっと怖いんだよね。彩葉は違うねー。彩葉はビクッってするから面白いよ~」

面白がるな。気軽に抱き着いたり抱き着かれたりするのは、一般的には普通じゃないんだよ。

「かぐやは、こっちの彩葉が好きー」

「暑い。くっつくな」

ぶー、と言いながら、かぐやはまとわりついてきた。

これが、嫌じゃないんだな。なんだかモヤモヤする。これは、彩葉さんの感情なのか、それとも私の感情なのか。

彩葉さんは言ってた。酒寄家は、垂れ目に弱いと。

「ん? 彩葉どったの?」

かぐやが、嬉しそうに、まっすぐにこちらを見ている。

……確かに、弱いかも知れない。

小さくかぶりを振って、かぐやを引きはがす。

かぐやは、ノートPCに戻って、戦うやつやりたい、とかなんとか、一人ではしゃいでいた。

 

私は机に座り、勉強用のノートを広げた。

ツクヨミでの、ヤチヨとの握手を思い浮かべる。

口元がにやけて、ノートの内容はまったく頭に入って来なかった。

 

◇ ◇ ◇

 

翌日。

(……ってことがありました)

(「かぐやは、こっちの彩葉が好きー」って言ってた……)

私は、静かにダメージを受けていた。

そーかー。過剰なスキンシップはダメか―。お年頃なのかなー。

(それは関係ないですよ)

でもさー、彩葉は、かぐやからスキンシップされるのは好きだよね?

(……知りません)

私は好き!! されるのもするのも大好き!!

(彩葉さんは、もう少し年相応に落ち着いた方がいいと思いますよ)

くっ、彩葉が正論で殴ってくる。

 

「ねえ見て見て~~ライバー始めたーんだーどう?」

かぐやがノートPCを開いて見せてくる。

 

ツクヨミチューブの動画名は、

【初配信】月から地球にこんばんは!かぐやだよ!

――宇宙人であることを隠しもしないストロングスタイル。まあ、みんなキャラ付けだと思って、本気では信じてないだろうけど。

 

妙に味があるイラストで、かぐやが挨拶してる。

『今日はやること思いつかないから終わり! じゃーねー』

おお! ちゃんと動画作成から、アップロード、公開まで出来てるじゃないか偉いぞ。

『これで切れてるのか?』

かぐやの声が続く。

見上げる角度で、インカメのかぐや(実写)が映る。

チャットにかわいくね? とか書き込まれてる。

 

「おいおいおいおいおいおい。つか、なんだこの不安になる不協和音は」

彩葉からのツッコミが入る。声に出てる。

「ジングルだよ~~」

かぐやが説明する。

「ほほう、一見素人のとりあえず作ってみた動画、続いて配信事故で定番のカメラ切断忘れからの中の人映り込み、背景が実家の美少女登場でバズ狙い――やるねえ!」

短時間の動画なのに、コメントが四つもついてる。私は感心した。特に配信事故以降は、コマ送りでじっくりいろいろと確認したい。

「やるね~、じゃないですよ。ジングルも、やるならちゃんとしないと」

 

かぐやは、しまっていたキーボードを持ち出して、

「彩葉、もしかして弾けるね~~?」

と、私の前に置いて、電源を入れた。

期待に満ちた目で、キーボードと私を交互に見ている。

 

(彩葉、弾いてみる?)

(彩葉さん、弾いてみてください)

 

よーーし、本気出しちゃうぞー

ヤチヨと何度もコラボした実力、とくと見よ!

曲は、『Reply』、ピアノアレンジバージョン。からの、二番。

 

――当たり前の結末なんて いらないって笑ってた

 

歌いながら、キーボードを叩く。指が軽やかに動く。音が、指先から星のように散らばって鳴る。

 

――破天荒ばっかりで それでもまっすぐで 鈍らない きみだけの声

 

ああ。何度も歌った曲だけど、かぐやの前だと、なんだか涙腺に来る。

 

(……これ、オリジナルなんですか?)

彩葉の、感心したような声が脳内に聞こえる。

そうだよ。私と、

 

――この一瞬を最高のパーティーにしよう そしてそっと同じ明日へ 地図をつなごう

 

(……!!)

父さんとの合作。

 

――また新しい景色の 物語を描こう

 

指を、静かにキーボードに置いて、演奏を終えた。

 

かぐやがパチパチと拍手する。

「すごすぎる~~天才~~」

あ、涙が出てきた。これは、彩葉の方の感情だな。父さんとのこと、思い出したのかな。

「そうだ! 彩葉の曲を私が歌えば、大バズ確定じゃん!」

ぴょんぴょん飛び跳ねてかぐやが言う。

「そうだね。今のはオリジナル曲で『Reply』って言うんだ。一番をかぐやが歌って、二番を私が歌うよ」

かぐやが、私の両手を握りしめる。

「彩葉~~、かぐやのプロデューサーになって! 一緒に、ヤチヨカップ優勝しよう!!」

「任せて。ヤチヨとコラボライブしよう」

「やった~~!」

(ちょっと待って! 本気!?)

本気も本気。すでに優勝までのロードマップは出来ている。

(マジで!?)

 

そして、かぐやのライバー活動は始まった。

 

◇ ◇ ◇

 

踊ってみた配信。

料理配信。

ゲーム配信。

お悩み相談。

同時視聴のライブ配信。

 

ジャンルを限定することなく、かぐやは楽しそうなことならなんでも動画にした。

 

一周目の時はがむしゃらだったけど、確かに、これは人気出るわ……ってあらためて思う。かぐやの推進力はブルドーザーみたいだ。そこに、芦花と真実のフォローと、私の曲が乗る。ぐんぐんライバーランキングは上がっていった。

 

かぐやのツクヨミ路上ライブは、私とフッチョの厳しい指導もあって、仕上がりには自信があった。最初は数人だった観客も、数十人まで膨れ上がった。

そして、観客の中には、最初期の頃から足しげく通ってくれていた、私が一方的に知っている人がいた。

銀髪に浅黒い肌、出るところが出たナイスバディに、大きなケモ耳とふさふさの尻尾――ヤチヨのイベント実況を任されている、『みんなのためにわんわんお!』忠犬オタ公さんだ。

なぜ、ここにオタ公さんが? ――注目の新人まで、あまねくチェックしている彼女のアンテナの感度が高いのか、

 

それとも、狙い撃ちで、かぐやを……?

 

≪ヤチヨ~~、つまり、そういうことだよね~~?≫

ツクヨミサーバーを介さない、現実側での端末を中継した肉声での通話。

≪あー、あからさますぎたよね~。そうです~~。そういうことです~~≫

今のヤチヨに頼まれて、かぐやと私の活動を見に来ている。

≪私とかぐやのことを伝えてるってことはさー≫

≪うーん≫

≪現実での協力者も、もしかしたら?≫

≪……ち、違うよ~≫

≪からの~?≫

≪ど、どうかな~~≫

確定だ。ツクヨミ内だけじゃない。現実サイドの、今のヤチヨの協力者。

 

「ありがと~~。かぐやのこと、これからもよろしくね~~。今日は、終わり!」

現実で汗だくになっていたかぐやは、先にログアウトした。

 

物陰で、キツネのスキンを脱ぐ。

「オタ公さん! ちょっといいですか?」

路上ライブ終了後、散り散りになっていく観客の中から、オタ公さんを呼び止めた。

「おっ、彩葉ちゃんと、フッチョ君だっけ。――かぐやちゃん、頑張ってるね~」

オタ公さんは、気安く返事してくれた。

「ありがとうございます」

『ヤオヨロ~』

こら! 今はフッチョでしょ!!

彼女は、かぐやが路上ライブする時、必ず観客の中にいた。いつもかぐやの隣で紙吹雪撒いたり、キーボード弾いてるキツネの中身が私であることも、きっと知っているのだろう。

どこまで話をしていいか、悩ましいところだ。

「かぐやは、本気でヤチヨカップ優勝を狙ってるんですよ」

「うんうん。いいことだよね。ライバルたちはみんな強力だけど、応援してるよ」

「それでですね」

気持ち、声を潜める。

「まだまだランキング外で知名度も低い私たちですけど、もし、ヤチヨカップで優勝出来たら、お話いいですか?」

言外に、目的があって近づいてます、といったニュアンスを込める。

「インタビューってこと? 大歓迎だよ」

オタ公さんは、しれっ、話をそらす。

「そっちもですけど――」

『今の、この会話は、報告しないで欲しいな』

フッチョが、ギリギリのラインに踏み込んで、言う。

オタ公さんが、わずかに目を細める。

「ヤチヨが突然、これまで一度もやらなかったコラボライブを優勝賞品にした理由、オタ公さん知らないですよね?」

オタ公さんが、探るような目線で、私を見る。

≪言ってないからね~≫

現実側からのヤチヨの肯定。

言えないよね、理由。

彼女にとっては、もう一度――私とかぐやとヤチヨ、その3人でライブしたいからだなんて。

「彩葉ちゃんは、知ってるのかな?」

 

私は、満面の笑みを作る。

「ヤチヨカップ、頑張るぞー、ってだけです! いつも応援に来ていただいて、ありがとうございます!」

私は頭を下げて、その場からログアウトした。

 

◇ ◇ ◇

 

現在のかぐや、ヤチヨカップ、280位。

日常は目まぐるしく過ぎていく。

 

芦花と真実に協力して貰って、かぐやいろPチャンネルで『【初ゲーム配信】KASSEN!!!初挑戦!!!』配信したり。

かぐやへの「結婚して」コメントを片っ端から削除していたら、本人が勝手に『かぐや争奪KASSEN選手権』を開催。「私を守って~~」と甘えられて、求婚者たちとMODE SETSUNA(一対一の対戦モード)で次々に戦わされたり。

忙しい中、睡眠時間を削って海にも行った。芦花と真実の、女子高生水着姿見たさに、つい、ね。

 

時間が足りなければ、私が寝ているあいだは彩葉が起きる。彩葉が寝たら、今度は私が動く。

 

便利だった。

一日が、ほとんど二倍になったみたいだった。

 

本当は、ここで気づくべきだったんだ。

身体は一つ。脳も、一つしかない。

――結果、私は、自分で残された猶予を削っていくことになる。

 

切り抜き動画が増えた。

「踊ってみた」を真似する動画が上がった。

路上ライブでは、開演前から人が待っているようになった。

現実でのグッズ販売も始まり、期間限定のコラボカフェも開催された。

 

「にひひひひ~~」

かぐやが残高を見てニヤニヤしている。

「にひひひひ~~、これでお兄ちゃんに頭を下げる日々も終わる~~」

私もニヤニヤしている。

彩葉は、

「……それは、かぐやが稼いだフジューですよ?」

声に出して、私とかぐやに言う。

 

「かぐやのフジューは私のフジューだよねー?」

「ねー?」

かぐやと一緒に首を傾けて声をそろえる。

「……これじゃあ、ヒモじゃないですか」

 

「かぐやのヒモになって~~」

「いいの~~?」

「私を養って~~」

「いいよ~~」

(最悪のReplyだ……)

彩葉が脳内でため息をつく。

 

◇ ◇ ◇

 

物語には、強制力があるのだろうか。

バイト問題も、勉強問題も、二周目ではクリアしたと思っていた。だから、今回は、倒れることなんて無いと。

それは、ふいに訪れた。

 

「ねぇー、こことかはー?」

不動産屋の店先のパネルに掲載されていた、3LDKのデザイナーズタワーマンションを指さして、かぐやが言う。賃料35万円。

ああ、ここだここだ。私とかぐやが暮らした。

(――ここに、住んでたんですか!?)

今も住んでるよ、って、10年後の話だけど。

また、かぐやと一緒に、ここで過ごせる。あの思い出を、もう一度体験できる。

その時、私は、浮かれていた。

「ここに決めよう、かぐや」

「え? やったー!」

「保証人、お兄ちゃんにお願いしないとね」

あれ? 眩暈がする。

(彩葉さん……なんか、変です。頭が、痛――)

ふらふらと、足がもつれて、

 

強烈な頭痛に襲われた。

立っていられなくなって、ひざをつく。

「……なんか見つけたの?」

かぐやが、しゃがみこんだ私の背に手を当てる。

「身体熱々だよ? 彩葉!?」

そのまま、意識を失った。

 

目を覚ますと、アパートの部屋にいた。かぐやが、運んでくれたんだろうか。

今回も、倒れた? 一周目と同じように? どうして?

頭が、割れるように痛い。あの時とは違う。

「彩葉、しんどい?」

私が目が覚ましたのに気付いたのか、かぐやが声をかけてくれた。

『彩葉、また倒れたって聞いたよ? 大丈夫――?』

タブレットのヤチヨも心配そうだ。

この頭痛は、私だけなんだろうか。そういえば、気を失う前、脳内の彩葉も、頭が痛い、みたいなことを言っていた。

(ねえ、彩葉……そっちも痛い?)

返事は無かった。彼女は、まだ気を失ったままなのだろうか。

「頭がズキズキする」

「彩葉、休んだ方がいいよ。めちゃ無理言ってゴメンね。死んじゃやだ~~」

なんか、前もこんな会話したな。

『ねえ彩葉』

ヤチヨが、真面目な、静かな声で言った。

『かぐやが、消化にいいおじや作ってくれてるよ。食べたら、少し寝た方がいい』

食欲はまったく無かった。でも、栄養を取って、眠った方がいいのは確かにそうだ。

『脳を休ませないといけない、って思うよ』

この頭痛は、脳疲労から来るもの?

(なんだか、嫌な感じだ)

 

私は、とある可能性に思い至っていた。

初めて、時間跳躍をしたときもそうだった。

脳が処理限界を超えて、意識があったのは私だけだった。17才の彩葉の意識はずっと沈んでいて、初めて脳内で会えたのは、半日後だった。

 

つまり――

 

タブレットのヤチヨを見る。彼女も、気が付いたのかも知れない。

「かぐやが、作ってくれたの? いただこうかな」

頭の中の鈍痛は続いている。私は、ことさら明るく言った。

「今日のメニューは、ネギみそ生姜と卵おじや」

嬉しそうに、レシピを語るかぐや。

「卵は2個入ってるよー」

このかぐやのご飯、あと何回食べられるかな。そんなことを考えていた。

 

◇ ◇ ◇

 

もう一度寝て――私の目覚めと同時に、彩葉も起きたようだった。

(びっくりしましたね。あの頭痛、なんだったんですかね。やっぱり、ちょっと無理しすぎたのかも)

 

起き抜けに、彩葉が脳内で語りかけてくる。

時計を見る。深夜、午前一時。かぐやは眠っている。

私――私たちが倒れてから、ほぼ丸一日が過ぎていたらしい。シャワー浴びたいな。

 

(ちょうどいいからさ、今、全部話すよ)

 

私は机に座った。タブレットを起動して、携帯ゲームに退避していたヤチヨを呼び出す。

『彩葉、起きた? 頭痛い、っていってたけど、そっちはどう?』

「私の方は、大丈夫。彩葉は?」

「私も大丈夫です」

 

ヤチヨも含めての会話なので、声を出して彩葉は言った。

「これは、想定外――なのかな」

私は、ふう、とため息をついた。

 

『こればっかりは、試してみないとなんとも言えなかった。仕方ないよ』

ヤチヨが、冷静な口調で言う。深刻さを隠すかのように。

「なんの話、ですか?」

 

「同一人物の十年分の差分なら、一つの脳に定着したあと、少しずつ人格の統合が進む。実際、その実感あるでしょ?」

「ありますね。これが私の感情なのか、彩葉さんの感情なのか、って考えることはありました」

 

私は説明を続ける。

もちろん、それなりに脳への負担はあると思ったけど、私のキャパシティなら、なんとかなると思っていた。二人分の負荷くらい、引き受けてくれるだろうと。

 

でも、情報が定着できることと、それを一つの生体脳で動かし続けられることは、別の話だった。

17才の彩葉自身の記憶。

私が持ち込んだ十年分の差分。

そして、

 

『私、だよね?』

「うん。ヤチヨの8000年」

「……?」

もう話すか。

「かぐやの未来の姿が、ヤチヨ」

 

「……?」

 

「かぐやが、8000年を生きた先にいるのが、ヤチヨ」

 

「……?」

 

分かんないよね。

私はイメージする。頭の中、厳重に閉じていた、記憶の扉をちょびっと開く。

溢れだす、ヤチヨの8000年の記憶。

新しく書き込む訳じゃない。

すでに私の中にある記憶を、彩葉にも開示する。

 

彩葉の精神的な衝撃は別だろうけど。

 

『いましは縁起よしとぞ』

『逢い見ての、のちの心に、くらぶれば』

『会いたい者がいるのだろう?』

『ムカつくからさ、つらくても笑うんだよ』

『君の活躍する時代を俺も見てみたかった』

『私にはここなの』

『極上のワインは時間が経つほど深まる。悪いことばかりじゃないさ』

 

かぐやが、ヤチヨが、出会った人たち。

情報を咀嚼しているのだろう、30分ほど、彩葉からは反応が無かった。

 

「……びっくりした」

本当に衝撃的なことがあると、語彙は無くなるよね。

 

「――かぐやは、月に帰っちゃうんですか?」

彩葉が尋ねる。

これから9月12日までに起こることの記憶も渡した。

 

「帰る、というか、力ずくで連れ去られる。羽衣を着せられて、ここでの記憶を封印されて」

「……そんなの、ひどいじゃないですか」

「だから、私は来たんだ」

だけど、

 

窓の外を見る。

今夜は月がきれいだ。

 

彩葉の脳が、どれだけ優秀だったとしても、キャパシティには限界がある。

ただでさえ、私の中には、私自身の十年と、ヤチヨの8000年が詰め込まれている。

 

「つまり今の彩葉の脳には、三人分の人生が詰め込まれてるようなものなの。そのうえ、二人の彩葉が一つの脳を使い続けてる」

私が寝ている間は彩葉が起きる。彩葉が寝ている間は私が起きる。

そんなことを、続けてしまっていた。

 

もう一つ。

今回、先に意識を取り戻したのは、私だった。

私がここへやってきた時の、時間跳躍直後と同じだ。

二度とも、彩葉より私が先に戻ってきた。

 

脳を休めれば、彩葉も戻る。

戻っている間はいい。

 

だけど、負荷が限界を超えたとき、それでも必ず、元の彩葉が戻ってこれるって確証はない。

そして、27才の私はあくまで、17才の彩葉に間借りしただけの人格なのだ。

ならば、どちらを優先すべきか、なんて決まっている。

 

「でも、でも」

不穏な空気に、彩葉が言い募る。

「交互に起きてたりしたからダメだったんですよね。充分に休息を取って、騙し騙し過ごして、いずれは統合? するのを待って……」

タイムリミットがある。かぐやの卒業ライブまで、あと1カ月くらいしかない。人格の統合を待ってはいられない。

 

そして、今のままだと、月人との戦いには勝てない。届くためには、もう一手が必要なんだ。

勝利のためのラストワンマイル。

乃依くんが、脱法チートと呼んだコード。

 

これは、KASSENのプログラムそのものを改造するチートじゃない。

ツクヨミサーバーに認知処理の一部を代行させ、その結果を生体脳へ高速で返すツール。

ツクヨミ内だけで通用する、思考のブースト。

 

――コード名、自由(フリーダム)

 

その行使には、更なる脳への負荷が想定される。

 

私は、結末を変えるために来た。

私を優先したせいで、何も変えられませんでした、なんて本末転倒だ。

 

「大丈夫。KASSENの戦術も、スキルも、チートも、バトンは全部、彩葉に渡す」

彩葉。どうか、かぐやとヤチヨをよろしく。彼女たちを救ってあげて。

 

(彩葉さん、何を、言ってるんですか……)

FUSHIを仲間に引き入れれば、それ(・・)は、不可能じゃない。

 

ああ、三人でのライブ、あれだけは見たいな。

最初で最後の、三人でのライブだったから。

 

あのライブを、もう一度体験出来たなら、もう、

 

(――消えたっていい)

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

超いろは姫!!!(作者:ノーばでぃ)(原作:超かぐや姫!)

今は昔……月で誰よりもバリバリ社畜としてプログラムを組んでいたのは▼なんと!!!かぐや姫では、なくて▼ただの月人?付き人の………▼うん、一般月人のIROHA!!!と、なむいひける。▼どうしてIROHAは終わらない仕事を放棄して地球へ向かったのか、運命的出会いの元で何がどうなってしまうのか、ドキドキハラハラの物語。▼この物語に名付けるなら、そう▼『超いろは姫!…


総合評価:1112/評価:8.83/連載:7話/更新日時:2026年06月29日(月) 18:31 小説情報

いろヤチ十年奮闘記(作者:ホッシー@VTuber)(原作:超かぐや姫!)

ハッピーエンドのその先へ!▼この物語はその過程の話。▼ハイスぺ限界女子高生と電子の海で歌姫と謳われるAIライバーの二人が▼手を取り合って未来へ歩む軌跡。▼※小説が書き終わった時点で投稿しますので不定期更新です。▼※サブタイトルの日付は映画、小説の内容を鑑みて違和感がない日付を設定しております。▼※時間系列順に並ぶようにしますので最新話がすでに投稿されている話…


総合評価:436/評価:8.62/連載:17話/更新日時:2026年06月13日(土) 16:01 小説情報

かぐや「かぐやがいない間に、彩葉がかぐやと浮気したー!」 あの子ちゃん「蛇足っす」(作者:超かぐや姫!に脳を焼かれた人)(原作:超かぐや姫!)

▼※注意▼本作は、『かぐや「かぐやがいない間に、彩葉がかぐやと浮気したー!」』本編完結後の外伝・後日談集です。▼本編最終話までのネタバレを含むため、本編読了後にお読みいただくことを推奨いたします。▼彩葉・かぐや・ヤチヨたちの後日談やイチャイチャ、月の変わり者「あの子ちゃん」による補足、ifめいた小話、別世界線の長編などを扱います。▼話ごとに視点・作風・糖度が…


総合評価:1536/評価:8.75/短編:9話/更新日時:2026年06月21日(日) 20:00 小説情報

八千夜(作者:超かぐや姫!に脳を焼かれた人)(原作:超かぐや姫!)

八千もの暗い夜を越えて▼最愛なるあなたへ、ハッピーエンドを


総合評価:1661/評価:9.17/完結:7話/更新日時:2026年07月12日(日) 20:00 小説情報

超浮かれポンチAIライバー月見ヤチヨは匂わせ配信を辞められない(作者:Radrabbit)(原作:超かぐや姫!)

 こっそり掲示板でレスバして楽しんでいたかぐや姫が、超ハッピーエンドに辿り着いたらこういうこともあるかなって。▼『いや〜やっぱハピエンが最高だよね!メリバとか時代遅れだとヤッチョは思うワケ!というわけで来週いろPとコラボ配信するね・・・』▼「いやさ、私はいいけどヤチヨがそういう個人を贔屓するのは良くないっていうか。推しとファンの距離感っていうか」▼『・・・ご…


総合評価:2057/評価:9.07/連載:8話/更新日時:2026年06月16日(火) 12:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>