超かぐや姫R! ~彩葉が二周目チートで超ハッピーエンドに至る話~ 作:そうすけVR
ツクヨミから戻ると、かぐやがノートPCをいじっていた。
「ライバー、成りかた……」
なんか調べてる。
『たっだいまー』
ヤチヨも、タブレットに移っていた。
今日一日だけでも怒涛の出来事があったなー。
『もうおねむ。おやすみー』
これまでの習慣なのか、それとも元々と同じく記憶の整理で必要なのか、ふわぁ、とあくびをして、ヤチヨは画面から消えた。
私も、昨日の夜からよく寝てなかったせいもあって、睡魔が襲ってきた。
(ちょっと先に寝てるね。彩葉はどうする?)
(いいですよ。私はもう少し起きています)
本当は、交互に起きるんじゃなくて、二人とも同じ時間に眠って、きちんと睡眠時間を確保しないといけないんだろうけど……かぐやが来てから、ちょっと無理してるかも……でもまあ、今日は仕方ないか……
私はとろとろと眠りについた。
――なのでここから先は、翌日、私が目覚めた後に思い出す形で記憶に書き込まれた出来事だ――
「あ……彩葉さん寝ちゃったみたい」
「お姉さん彩葉は寝たの? 彩葉って変だよねー。面白いねー」
途端に、かぐやは私に抱き着いてきた。
「彩葉好きー」
「どうしたいきなり」
「お姉さん彩葉はねー、ぎゅっ、てしたらがばっ、て抱き着いてきて、ちょっと怖いんだよね。彩葉は違うねー。彩葉はビクッってするから面白いよ~」
面白がるな。気軽に抱き着いたり抱き着かれたりするのは、一般的には普通じゃないんだよ。
「かぐやは、こっちの彩葉が好きー」
「暑い。くっつくな」
ぶー、と言いながら、かぐやはまとわりついてきた。
これが、嫌じゃないんだな。なんだかモヤモヤする。これは、彩葉さんの感情なのか、それとも私の感情なのか。
彩葉さんは言ってた。酒寄家は、垂れ目に弱いと。
「ん? 彩葉どったの?」
かぐやが、嬉しそうに、まっすぐにこちらを見ている。
……確かに、弱いかも知れない。
小さくかぶりを振って、かぐやを引きはがす。
かぐやは、ノートPCに戻って、戦うやつやりたい、とかなんとか、一人ではしゃいでいた。
私は机に座り、勉強用のノートを広げた。
ツクヨミでの、ヤチヨとの握手を思い浮かべる。
口元がにやけて、ノートの内容はまったく頭に入って来なかった。
◇ ◇ ◇
翌日。
(……ってことがありました)
(「かぐやは、こっちの彩葉が好きー」って言ってた……)
私は、静かにダメージを受けていた。
そーかー。過剰なスキンシップはダメか―。お年頃なのかなー。
(それは関係ないですよ)
でもさー、彩葉は、かぐやからスキンシップされるのは好きだよね?
(……知りません)
私は好き!! されるのもするのも大好き!!
(彩葉さんは、もう少し年相応に落ち着いた方がいいと思いますよ)
くっ、彩葉が正論で殴ってくる。
「ねえ見て見て~~ライバー始めたーんだーどう?」
かぐやがノートPCを開いて見せてくる。
ツクヨミチューブの動画名は、
【初配信】月から地球にこんばんは!かぐやだよ!
――宇宙人であることを隠しもしないストロングスタイル。まあ、みんなキャラ付けだと思って、本気では信じてないだろうけど。
妙に味があるイラストで、かぐやが挨拶してる。
『今日はやること思いつかないから終わり! じゃーねー』
おお! ちゃんと動画作成から、アップロード、公開まで出来てるじゃないか偉いぞ。
『これで切れてるのか?』
かぐやの声が続く。
見上げる角度で、インカメのかぐや(実写)が映る。
チャットにかわいくね? とか書き込まれてる。
「おいおいおいおいおいおい。つか、なんだこの不安になる不協和音は」
彩葉からのツッコミが入る。声に出てる。
「ジングルだよ~~」
かぐやが説明する。
「ほほう、一見素人のとりあえず作ってみた動画、続いて配信事故で定番のカメラ切断忘れからの中の人映り込み、背景が実家の美少女登場でバズ狙い――やるねえ!」
短時間の動画なのに、コメントが四つもついてる。私は感心した。特に配信事故以降は、コマ送りでじっくりいろいろと確認したい。
「やるね~、じゃないですよ。ジングルも、やるならちゃんとしないと」
かぐやは、しまっていたキーボードを持ち出して、
「彩葉、もしかして弾けるね~~?」
と、私の前に置いて、電源を入れた。
期待に満ちた目で、キーボードと私を交互に見ている。
(彩葉、弾いてみる?)
(彩葉さん、弾いてみてください)
よーーし、本気出しちゃうぞー
ヤチヨと何度もコラボした実力、とくと見よ!
曲は、『Reply』、ピアノアレンジバージョン。からの、二番。
――当たり前の結末なんて いらないって笑ってた
歌いながら、キーボードを叩く。指が軽やかに動く。音が、指先から星のように散らばって鳴る。
――破天荒ばっかりで それでもまっすぐで 鈍らない きみだけの声
ああ。何度も歌った曲だけど、かぐやの前だと、なんだか涙腺に来る。
(……これ、オリジナルなんですか?)
彩葉の、感心したような声が脳内に聞こえる。
そうだよ。私と、
――この一瞬を最高のパーティーにしよう そしてそっと同じ明日へ 地図をつなごう
(……!!)
父さんとの合作。
――また新しい景色の 物語を描こう
指を、静かにキーボードに置いて、演奏を終えた。
かぐやがパチパチと拍手する。
「すごすぎる~~天才~~」
あ、涙が出てきた。これは、彩葉の方の感情だな。父さんとのこと、思い出したのかな。
「そうだ! 彩葉の曲を私が歌えば、大バズ確定じゃん!」
ぴょんぴょん飛び跳ねてかぐやが言う。
「そうだね。今のはオリジナル曲で『Reply』って言うんだ。一番をかぐやが歌って、二番を私が歌うよ」
かぐやが、私の両手を握りしめる。
「彩葉~~、かぐやのプロデューサーになって! 一緒に、ヤチヨカップ優勝しよう!!」
「任せて。ヤチヨとコラボライブしよう」
「やった~~!」
(ちょっと待って! 本気!?)
本気も本気。すでに優勝までのロードマップは出来ている。
(マジで!?)
そして、かぐやのライバー活動は始まった。
◇ ◇ ◇
踊ってみた配信。
料理配信。
ゲーム配信。
お悩み相談。
同時視聴のライブ配信。
ジャンルを限定することなく、かぐやは楽しそうなことならなんでも動画にした。
一周目の時はがむしゃらだったけど、確かに、これは人気出るわ……ってあらためて思う。かぐやの推進力はブルドーザーみたいだ。そこに、芦花と真実のフォローと、私の曲が乗る。ぐんぐんライバーランキングは上がっていった。
かぐやのツクヨミ路上ライブは、私とフッチョの厳しい指導もあって、仕上がりには自信があった。最初は数人だった観客も、数十人まで膨れ上がった。
そして、観客の中には、最初期の頃から足しげく通ってくれていた、私が一方的に知っている人がいた。
銀髪に浅黒い肌、出るところが出たナイスバディに、大きなケモ耳とふさふさの尻尾――ヤチヨのイベント実況を任されている、『みんなのためにわんわんお!』忠犬オタ公さんだ。
なぜ、ここにオタ公さんが? ――注目の新人まで、あまねくチェックしている彼女のアンテナの感度が高いのか、
それとも、狙い撃ちで、かぐやを……?
≪ヤチヨ~~、つまり、そういうことだよね~~?≫
ツクヨミサーバーを介さない、現実側での端末を中継した肉声での通話。
≪あー、あからさますぎたよね~。そうです~~。そういうことです~~≫
今のヤチヨに頼まれて、かぐやと私の活動を見に来ている。
≪私とかぐやのことを伝えてるってことはさー≫
≪うーん≫
≪現実での協力者も、もしかしたら?≫
≪……ち、違うよ~≫
≪からの~?≫
≪ど、どうかな~~≫
確定だ。ツクヨミ内だけじゃない。現実サイドの、今のヤチヨの協力者。
「ありがと~~。かぐやのこと、これからもよろしくね~~。今日は、終わり!」
現実で汗だくになっていたかぐやは、先にログアウトした。
物陰で、キツネのスキンを脱ぐ。
「オタ公さん! ちょっといいですか?」
路上ライブ終了後、散り散りになっていく観客の中から、オタ公さんを呼び止めた。
「おっ、彩葉ちゃんと、フッチョ君だっけ。――かぐやちゃん、頑張ってるね~」
オタ公さんは、気安く返事してくれた。
「ありがとうございます」
『ヤオヨロ~』
こら! 今はフッチョでしょ!!
彼女は、かぐやが路上ライブする時、必ず観客の中にいた。いつもかぐやの隣で紙吹雪撒いたり、キーボード弾いてるキツネの中身が私であることも、きっと知っているのだろう。
どこまで話をしていいか、悩ましいところだ。
「かぐやは、本気でヤチヨカップ優勝を狙ってるんですよ」
「うんうん。いいことだよね。ライバルたちはみんな強力だけど、応援してるよ」
「それでですね」
気持ち、声を潜める。
「まだまだランキング外で知名度も低い私たちですけど、もし、ヤチヨカップで優勝出来たら、お話いいですか?」
言外に、目的があって近づいてます、といったニュアンスを込める。
「インタビューってこと? 大歓迎だよ」
オタ公さんは、しれっ、話をそらす。
「そっちもですけど――」
『今の、この会話は、報告しないで欲しいな』
フッチョが、ギリギリのラインに踏み込んで、言う。
オタ公さんが、わずかに目を細める。
「ヤチヨが突然、これまで一度もやらなかったコラボライブを優勝賞品にした理由、オタ公さん知らないですよね?」
オタ公さんが、探るような目線で、私を見る。
≪言ってないからね~≫
現実側からのヤチヨの肯定。
言えないよね、理由。
彼女にとっては、もう一度――私とかぐやとヤチヨ、その3人でライブしたいからだなんて。
「彩葉ちゃんは、知ってるのかな?」
私は、満面の笑みを作る。
「ヤチヨカップ、頑張るぞー、ってだけです! いつも応援に来ていただいて、ありがとうございます!」
私は頭を下げて、その場からログアウトした。
◇ ◇ ◇
現在のかぐや、ヤチヨカップ、280位。
日常は目まぐるしく過ぎていく。
芦花と真実に協力して貰って、かぐやいろPチャンネルで『【初ゲーム配信】KASSEN!!!初挑戦!!!』配信したり。
かぐやへの「結婚して」コメントを片っ端から削除していたら、本人が勝手に『かぐや争奪KASSEN選手権』を開催。「私を守って~~」と甘えられて、求婚者たちとMODE SETSUNA(一対一の対戦モード)で次々に戦わされたり。
忙しい中、睡眠時間を削って海にも行った。芦花と真実の、女子高生水着姿見たさに、つい、ね。
時間が足りなければ、私が寝ているあいだは彩葉が起きる。彩葉が寝たら、今度は私が動く。
便利だった。
一日が、ほとんど二倍になったみたいだった。
本当は、ここで気づくべきだったんだ。
身体は一つ。脳も、一つしかない。
――結果、私は、自分で残された猶予を削っていくことになる。
切り抜き動画が増えた。
「踊ってみた」を真似する動画が上がった。
路上ライブでは、開演前から人が待っているようになった。
現実でのグッズ販売も始まり、期間限定のコラボカフェも開催された。
「にひひひひ~~」
かぐやが残高を見てニヤニヤしている。
「にひひひひ~~、これでお兄ちゃんに頭を下げる日々も終わる~~」
私もニヤニヤしている。
彩葉は、
「……それは、かぐやが稼いだフジューですよ?」
声に出して、私とかぐやに言う。
「かぐやのフジューは私のフジューだよねー?」
「ねー?」
かぐやと一緒に首を傾けて声をそろえる。
「……これじゃあ、ヒモじゃないですか」
「かぐやのヒモになって~~」
「いいの~~?」
「私を養って~~」
「いいよ~~」
(最悪のReplyだ……)
彩葉が脳内でため息をつく。
◇ ◇ ◇
物語には、強制力があるのだろうか。
バイト問題も、勉強問題も、二周目ではクリアしたと思っていた。だから、今回は、倒れることなんて無いと。
それは、ふいに訪れた。
「ねぇー、こことかはー?」
不動産屋の店先のパネルに掲載されていた、3LDKのデザイナーズタワーマンションを指さして、かぐやが言う。賃料35万円。
ああ、ここだここだ。私とかぐやが暮らした。
(――ここに、住んでたんですか!?)
今も住んでるよ、って、10年後の話だけど。
また、かぐやと一緒に、ここで過ごせる。あの思い出を、もう一度体験できる。
その時、私は、浮かれていた。
「ここに決めよう、かぐや」
「え? やったー!」
「保証人、お兄ちゃんにお願いしないとね」
あれ? 眩暈がする。
(彩葉さん……なんか、変です。頭が、痛――)
ふらふらと、足がもつれて、
強烈な頭痛に襲われた。
立っていられなくなって、ひざをつく。
「……なんか見つけたの?」
かぐやが、しゃがみこんだ私の背に手を当てる。
「身体熱々だよ? 彩葉!?」
そのまま、意識を失った。
目を覚ますと、アパートの部屋にいた。かぐやが、運んでくれたんだろうか。
今回も、倒れた? 一周目と同じように? どうして?
頭が、割れるように痛い。あの時とは違う。
「彩葉、しんどい?」
私が目が覚ましたのに気付いたのか、かぐやが声をかけてくれた。
『彩葉、また倒れたって聞いたよ? 大丈夫――?』
タブレットのヤチヨも心配そうだ。
この頭痛は、私だけなんだろうか。そういえば、気を失う前、脳内の彩葉も、頭が痛い、みたいなことを言っていた。
(ねえ、彩葉……そっちも痛い?)
返事は無かった。彼女は、まだ気を失ったままなのだろうか。
「頭がズキズキする」
「彩葉、休んだ方がいいよ。めちゃ無理言ってゴメンね。死んじゃやだ~~」
なんか、前もこんな会話したな。
『ねえ彩葉』
ヤチヨが、真面目な、静かな声で言った。
『かぐやが、消化にいいおじや作ってくれてるよ。食べたら、少し寝た方がいい』
食欲はまったく無かった。でも、栄養を取って、眠った方がいいのは確かにそうだ。
『脳を休ませないといけない、って思うよ』
この頭痛は、脳疲労から来るもの?
(なんだか、嫌な感じだ)
私は、とある可能性に思い至っていた。
初めて、時間跳躍をしたときもそうだった。
脳が処理限界を超えて、意識があったのは私だけだった。17才の彩葉の意識はずっと沈んでいて、初めて脳内で会えたのは、半日後だった。
つまり――
タブレットのヤチヨを見る。彼女も、気が付いたのかも知れない。
「かぐやが、作ってくれたの? いただこうかな」
頭の中の鈍痛は続いている。私は、ことさら明るく言った。
「今日のメニューは、ネギみそ生姜と卵おじや」
嬉しそうに、レシピを語るかぐや。
「卵は2個入ってるよー」
このかぐやのご飯、あと何回食べられるかな。そんなことを考えていた。
◇ ◇ ◇
もう一度寝て――私の目覚めと同時に、彩葉も起きたようだった。
(びっくりしましたね。あの頭痛、なんだったんですかね。やっぱり、ちょっと無理しすぎたのかも)
起き抜けに、彩葉が脳内で語りかけてくる。
時計を見る。深夜、午前一時。かぐやは眠っている。
私――私たちが倒れてから、ほぼ丸一日が過ぎていたらしい。シャワー浴びたいな。
(ちょうどいいからさ、今、全部話すよ)
私は机に座った。タブレットを起動して、携帯ゲームに退避していたヤチヨを呼び出す。
『彩葉、起きた? 頭痛い、っていってたけど、そっちはどう?』
「私の方は、大丈夫。彩葉は?」
「私も大丈夫です」
ヤチヨも含めての会話なので、声を出して彩葉は言った。
「これは、想定外――なのかな」
私は、ふう、とため息をついた。
『こればっかりは、試してみないとなんとも言えなかった。仕方ないよ』
ヤチヨが、冷静な口調で言う。深刻さを隠すかのように。
「なんの話、ですか?」
「同一人物の十年分の差分なら、一つの脳に定着したあと、少しずつ人格の統合が進む。実際、その実感あるでしょ?」
「ありますね。これが私の感情なのか、彩葉さんの感情なのか、って考えることはありました」
私は説明を続ける。
もちろん、それなりに脳への負担はあると思ったけど、私のキャパシティなら、なんとかなると思っていた。二人分の負荷くらい、引き受けてくれるだろうと。
でも、情報が定着できることと、それを一つの生体脳で動かし続けられることは、別の話だった。
17才の彩葉自身の記憶。
私が持ち込んだ十年分の差分。
そして、
『私、だよね?』
「うん。ヤチヨの8000年」
「……?」
もう話すか。
「かぐやの未来の姿が、ヤチヨ」
「……?」
「かぐやが、8000年を生きた先にいるのが、ヤチヨ」
「……?」
分かんないよね。
私はイメージする。頭の中、厳重に閉じていた、記憶の扉をちょびっと開く。
溢れだす、ヤチヨの8000年の記憶。
新しく書き込む訳じゃない。
すでに私の中にある記憶を、彩葉にも開示する。
彩葉の精神的な衝撃は別だろうけど。
『いましは縁起よしとぞ』
『逢い見ての、のちの心に、くらぶれば』
『会いたい者がいるのだろう?』
『ムカつくからさ、つらくても笑うんだよ』
『君の活躍する時代を俺も見てみたかった』
『私にはここなの』
『極上のワインは時間が経つほど深まる。悪いことばかりじゃないさ』
かぐやが、ヤチヨが、出会った人たち。
情報を咀嚼しているのだろう、30分ほど、彩葉からは反応が無かった。
「……びっくりした」
本当に衝撃的なことがあると、語彙は無くなるよね。
「――かぐやは、月に帰っちゃうんですか?」
彩葉が尋ねる。
これから9月12日までに起こることの記憶も渡した。
「帰る、というか、力ずくで連れ去られる。羽衣を着せられて、ここでの記憶を封印されて」
「……そんなの、ひどいじゃないですか」
「だから、私は来たんだ」
だけど、
窓の外を見る。
今夜は月がきれいだ。
彩葉の脳が、どれだけ優秀だったとしても、キャパシティには限界がある。
ただでさえ、私の中には、私自身の十年と、ヤチヨの8000年が詰め込まれている。
「つまり今の彩葉の脳には、三人分の人生が詰め込まれてるようなものなの。そのうえ、二人の彩葉が一つの脳を使い続けてる」
私が寝ている間は彩葉が起きる。彩葉が寝ている間は私が起きる。
そんなことを、続けてしまっていた。
もう一つ。
今回、先に意識を取り戻したのは、私だった。
私がここへやってきた時の、時間跳躍直後と同じだ。
二度とも、彩葉より私が先に戻ってきた。
脳を休めれば、彩葉も戻る。
戻っている間はいい。
だけど、負荷が限界を超えたとき、それでも必ず、元の彩葉が戻ってこれるって確証はない。
そして、27才の私はあくまで、17才の彩葉に間借りしただけの人格なのだ。
ならば、どちらを優先すべきか、なんて決まっている。
「でも、でも」
不穏な空気に、彩葉が言い募る。
「交互に起きてたりしたからダメだったんですよね。充分に休息を取って、騙し騙し過ごして、いずれは統合? するのを待って……」
タイムリミットがある。かぐやの卒業ライブまで、あと1カ月くらいしかない。人格の統合を待ってはいられない。
そして、今のままだと、月人との戦いには勝てない。届くためには、もう一手が必要なんだ。
勝利のためのラストワンマイル。
乃依くんが、脱法チートと呼んだコード。
これは、KASSENのプログラムそのものを改造するチートじゃない。
ツクヨミサーバーに認知処理の一部を代行させ、その結果を生体脳へ高速で返すツール。
ツクヨミ内だけで通用する、思考のブースト。
――コード名、
その行使には、更なる脳への負荷が想定される。
私は、結末を変えるために来た。
私を優先したせいで、何も変えられませんでした、なんて本末転倒だ。
「大丈夫。KASSENの戦術も、スキルも、チートも、バトンは全部、彩葉に渡す」
彩葉。どうか、かぐやとヤチヨをよろしく。彼女たちを救ってあげて。
(彩葉さん、何を、言ってるんですか……)
FUSHIを仲間に引き入れれば、
ああ、三人でのライブ、あれだけは見たいな。
最初で最後の、三人でのライブだったから。
あのライブを、もう一度体験出来たなら、もう、
(――消えたっていい)