超かぐや姫R! ~彩葉が二周目チートで超ハッピーエンドに至る話~   作:そうすけVR

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4 FUSHI

 

ジャイアントキリングを達成した私が、しかめっ面をして立ち尽くしているスクリーンショットは、ツクヨミ特設スタジアムに来ていた観衆――特に女性ユーザーに大好評だった。

帝がかぐやに求婚したせいで、彩葉がタイマンで帝をぶちのめしたのだ、みたいな、『かぐやを守る騎士いろP』概念の誕生である。(一部にはブラコンのいろPがお兄ちゃんにツンデレの制裁を加えたのだ説を推す派閥もいた)

 

それはそうと、一周目とはかなり違う展開になっちゃったなー。

かぐやが全然活躍してない。

 

「彩葉ー! 彩葉、すごすぎるよー!」

ジェットのハンマーで飛んできたかぐやが、空中で飛び降りて、私にボディアタックをかましてくる。実況も気を使って『いろP』って呼んでくれてるのに、すっかり本名が周知の事実になってしまってるような気がする。

「勝った! 勝った!」

私にしがみついてぐるぐる回りながら笑っている。

 

『まだ、ヤチヨカップの結果は出ていません』

忠犬オタ公さんがアナウンスする。

遥か上空を遊泳する、巨大アマテラスダイチョウチンアンコウがゆっくりと目を閉じる。ツクヨミ特設スタジアムに夜のとばりが降りる。

 

「いと、大儀~」

スポットライトが下から複数照らされる。重なる光の中、ヤチヨが宙に佇んでいる。

肩に、FUSHIがいる。本体だ。

 

「とーっても楽しいKASSENでした! そして、たった今、ヤチヨカップの優勝者が決まったよ~~」

ヤチヨの正面、空中に巻物が出現。するすると開き、ヤチヨが視線を走らせる。

「ヤッチョとコラボる人、発表! どれどれ~~」

ドラムロールの音がステージに流れる。

「期間中に、もっともファンを獲得したのは~~?」

 

巨大なスクリーンが浮かび上がる。『ヤチヨカップ けっかはっぴょう』と表示されている。

その後、ライバーたちの縦グラフ表示に切り替わった。グングンとグラフが上に伸びていく。

 

「まさかの、ヤチヨカップの、優勝者は~~~~~~」

ヤチヨ引っ張る。

しかし、明らかに勝負はついていた。

圧倒的大差で、

「かぐや、いろP!」

前回は接戦だったような記憶があるなー。

 

肩のフッチョが解説する。

『正体を隠していた騎士属性の妹キャラ彩葉がその姿を現すことで、新たな需要を創出したね』

なんのこっちゃ。

 

「めでたしや~~~」

ステージに響き渡るヤチヨの宣言で、ヤチヨカップは閉幕した。

 

「やったー、彩葉のお陰だよー!」

かぐや大喜び。足元で、犬DOGEも嬉しそうに走り回っている。

 

そこへ、ブラックオニキスの面々が近づいてきた。

「お兄ちゃん……」

「完敗だよ。彩葉のお願いって何?」

「あー、えーと……本気の特訓?」

「わざわざ鍛えてくれんの?」

「うん。お返しだから」

「? よく分かんねーけど、負けたんだから言うこと聞くぜ。また今度、な」

じゃ、俺たちファンのところ行くから、と言い残して、お兄ちゃんたちは移動していった。

 

「ふったりっとも~~。よきかな~~」

幼女形態のヤチヨが空から舞い降りて、抱き着いてきた。

『やるじゃねーか。マグレか?』

ヤチヨの肩のFUSHIが憎まれ口を叩く。

『はてさて~~、実力かな~~?』

私の肩のフッチョが軽く返す。

 

「彩葉! かぐや! よく頑張った! 一緒に歌いましょう!」

ヤチヨはニコニコと言う。

そうだ。コラボライブだ。

私は大きく息を吸って、吐いた。

――ここまで、来た。

 

「でも、彩葉は、こんなに強かったかな~~?」

ヤチヨが悪戯っぽく、顔を近づけてくる。

「彩葉、変わった~?」

心臓が跳ねる。彩葉が動揺してるみたい。落ち着け。

「変わったかも、知れないね」

今回の流れは、ヤチヨがかぐやだった頃に経験したものとは違う筈だ。でも、8000年の彼方にある――あの頃の記憶が、どこまで鮮明に残ってるんだろう。

……この違いに、気づいているのかな。

「そっか~。そういうこともあるよね~」

どこまでも表面的な会話の応酬。目の前のヤチヨが抱え込んでいるものを思うと、胸が苦しくなった。

 

「さて」

ヤチヨの雰囲気が変わる。

「ここからはクライマックスに向けて、ハードな展開が待っているかも。……このお話を最後まで見届けてね」

この台詞を聞くのは二回目だ。

ヤチヨはどんな気持ちで、どんな想いで、この言葉を発したのだろう。

ヤチヨにとっては、遥か悠久の昔、かぐやとして体験したコラボライブだ。その後、彼女は、かぐやの身に何が起こるのかも覚えている――だろう。

 

大丈夫。見届けるよ。大丈夫だから。ここに、私がいるから。私が2人を守るから。その為に、ここまで来たんだから。

(彩葉さんだけじゃないですよ。私もいます。私も、ヤチヨとかぐやと――)

彩葉さんを。

みんなを。

 

――ん?

 

脳裏に浮かんだ言葉に違和感を覚えていると、

 

急にFUSHIの様子が変わった。両目がチカチカ光って、

『ネムッテ』

定型の電子音声が流れた。

 

ヤチヨは、小さくあくびをして、おねむ、とつぶやいた。それが、ヤチヨ自身の感覚なのか、それともFUSHIの「ネムッテ」がトリガーになって、スリープモードに入るのか、どっちなんだろうね。

「じゃあね、さらば~~い」

そう言うと、ふわりと身体が浮かび、ヤチヨはツクヨミの夜へと飛んでいった。

 

消えていくヤチヨの姿をずっと目で追っていた。

私は、肩のフッチョを撫でながら、この二か月間のことを考えていた。

(いろいろあったけど……すごく楽しいな)

隣のかぐやを見る。興奮状態で笑っている。

かぐやも、きっと同じ思いだろう。この記憶を胸に、

 

――8000年、耐えようと想えるくらいに

 

『どうしたんだい? 今日はいっぱい撫でてくれるじゃないか』

こちらも上機嫌なフッチョに、私は笑いかけた。

「ヤチヨが愛おしいなあ、って思って」

『へあっ???』

変な声をあげて、フッチョは飛び上がって、かぐやの肩に逃げた。

 

◇ ◇ ◇

 

ここから、ヤチヨは数時間、起きてこない。

つまり、

「悪だくみの時間だぜ!」

にししし、と笑う。

「だぜ~~!」

かぐやも、私に調子を合わせて言う。

フッチョは、かぐやの肩から、

『……ツクヨミの管理系も順次メンテナンスに入るから、今なら動きやすいよ~』

そんな内部情報まで教えてくれる。そりゃあ管理人だもんね。

これまでは、ヤチヨが二人、管理人として同時にログインして、こっちのヤチヨにアラートでも飛んだら面倒だった。だから、ずっとフッチョの姿で潜ってた。

でも今は、そのヤチヨがスリープ中。だったら――

(何を、するつもりなんですか……?)

こっちのヤチヨを永遠の眠りの繭に――ウソウソ!!

 

「FUSHI君を、スカウトに行くのさ」

 

と、その前に。

「かぐやはログアウトして」

「えー、なんでー。かぐやも一緒に行くー」

かぐやに、今からの交渉を引っ掻き回されると困るんだよなー。

「引っ越し準備もあるし、かぐやは配信用のガラクタ片づけておいて」

「ガラクタじゃない――え、引っ越し? あのマンション? いいの? やった~~!」

保証人の件は、もうお兄ちゃんに話を通してある。

「片付けするー、じゃあねー」

素直にかぐやはログアウトした。

 

ツクヨミ城下町に移動し、路地裏に入る。

フッチョが、ヤチヨの私室へつながるポータルを開く。

『多分、ヤチヨの部屋にFUSHIもいると思うんだよね~~』

おっとヤチヨの寝室に侵入か? いいものが見れそうだ!

『いつも見てるクセに~~』

キレイなヤチヨの寝顔が見たいんだよ。具体的には恥じらうヤチヨが見たいんだよ。寝てるから無理か。かーッ!

 

ごくり。

生唾を飲み込む。これは彩葉の挙動だな。

真面目な彩葉が私を止めない。これは興味シンシンな思春期ですね?

 

ポータルをくぐる。

一瞬だけ、視界が暗転する。

無数の灯篭が並んだ、一般には開放されていない、ヤチヨの天守閣の私室。何度も訪れて、すっかり馴染んだ場所。

 

『誰だ!』

 

鋭い叱責の声。FUSHIだ。

「こんばんはー。いい夜ですねー」

声をかける。屏風の前に敷かれた赤い敷物の上に、FUSHIはいた。

 

『お前は……酒寄彩葉』

登録名じゃなく、本名で呼んでくる。サーバーの登録情報にアクセス出来るなら、分かっても当然か。

そして、チェックしていたぞ、という威嚇だ。

 

『どうしてここに来れた?』

「うまいことやった」

『はあ?』

 

つかつかと歩く。ヤチヨは……いないみたいだ。

 

『ヤチヨは別の部屋で寝てる。ここに来た目的はなんだ?』

キョロキョロしている私に、FUSHIは続けて質問してきた。

「別の部屋か。あのアパートかな?」

実際、10年後のヤチヨは、ツクヨミ内にあのボロアパートの部屋を再現して、そこでよくスリープモードになっていた。ヤチヨの寝顔を眺めながら、いつも、胸の奥がきゅっ、ってなってた。

 

『お前、本当に酒寄彩葉か?』

「そうだよ」

 

もう、隠し事は無しだ。

 

「10年後のね」

『何を……言って……?』

 

『偽装外殻、解除~~!』

私の肩から降りたフッチョが、煙のエフェクトに包まれた。

「ヤオヨロ~~。この姿久しぶり~~」

ヤチヨの姿になった。

 

『え? ……ヤチヨ?』

「管理者権限で入っちゃった~~。さすがに本人がもう一人来るのは想定してないよね~~。あとでログ消すね~」

 

『何が起こってるんだ? 10年後? 何の話だ?』

 

「私は酒寄彩葉27才。ヤチヨとかぐやを、超ハッピーエンドに連れて行くために未来から来た」

 

『――訳が分からないよ』

 

(これが普通の反応です)

彩葉がうんうん、と脳内で言う。

 

「月の時間跳躍と精神干渉技術を解析して、10年後から戻ってきたんだ。FUSHIって、記憶に干渉できるんだよね? 私の記憶、スキャンしていいよ。そうしたら、私の言ってることが理解出来ると思う」

 

『……分かった』

 

FUSHIの目が赤く光る。スキャン光が、レーザーのように私の頭を何度も上下する。

(彩葉さん、記憶に干渉、って――)

そうだよ。FUSHIに頼めば、私の存在自体を、彩葉の脳から抹消することが出来る。だから、FUSHIはどうしても、仲間に入れないと、

(ダメです! 何か、方法がある筈です!)

そうは言ってもさー、ブラックオニキスとのKASSENでもヤバかったじゃんー。

 

FUSHIのスキャンは続く。

『確かに、酒寄彩葉の中には……信じられないことに二つの精神情報がある。……え……これは、まさか、ヤチヨの8000年分の……?』

「私はヤチヨの8000年を経験している。私の時間軸のFUSHIに、ヤチヨの8000年を見せてもらったんだ。そして、10年かけて、これからの戦いの準備も進めてきた」

FUSHIの目の光は消えた。じっと私を見ている。

「私が彩葉27才だ、って分かった? 見た目はフレッシュな17才だけどさ……」

 

目を伏せて、

 

「キラキラの彩葉はもう――お姉ちゃんです……」

「あー、私の決め台詞取られた!!」

ヤチヨが笑いながら言う。10年で、ここまでヤチヨとは冗談を言い合える関係になれた。

 

(フッチョは、本当にヤチヨだったんだ……)

 

そういえば、フッチョがツクヨミの中でヤチヨの姿になるのを、彩葉が見るのは初めてか。

これからは、フッチョにも少しは緊張してあげてね。

 

『どうして』

 

FUSHIの声が弱々しくなる。

 

『ヤチヨが寝てる時に来たんだ? ヤチヨには秘密なのか?』

「まだ、準備が終わってないから、かな」

対月人戦に勝つための布石は、まだ打ち終わっていない。

このまま、ヤチヨに正体を明かしたら、ヤチヨはどうするかな? やっぱり月には勝てない。未来は変えられない。そう思って、また運命に身をゆだねようと――

『迷う、と思ったのか? そして弱気になって、敵対する、と?』

そうだそうだ、と、ヤチヨがFUSHIの横にふわりと降りる。

FUSHIが戸惑ってる。

「ヤッチョはー、そんな弱い子だとでも?」

ヤチヨが腕を組んで、ふん、と頬を膨らませて言う。どっちの味方だよ。

 

「これが、弱い子なんだよなー。ツクヨミの管理人で、ずっと人類を見守ってきていて、なんでも出来る、頼りになる、って思われてそうだけど」

ヤチヨに歩み寄る。

「ヤチヨは、寂しがり屋の、か弱い女の子だよ」

 

だから、全部準備して、これなら絶対に勝てる、って確信してから。

安心していいよ、全部、私に任せて、って言えるようになってから、話をしたい。

 

「ヤチヨは、もう充分がんばったよ。充分傷ついて、耐えてきた。だから、超ハッピーエンドには、私が連れていくよ」

「やーん、イケメン~」

 

『分かった! もう分かった!』

 

FUSHIが怒ったように言った。

FUSHIはきっと、今のヤチヨの危うさに気づいている。ずっと一緒にいたんだから。

だから、あの時も、ヤチヨが寝てる間に、私にヤチヨの8000年を見せてくれたんだよね。

 

『で、何をすればいい?』

 

話の早い子、お姉さん好きだなー。

 

「FUSHIに協力して欲しいことは、3つかな」

 

指を三本立てる。

 

「ひとつめ」

【チートコード『自由(フリーダム)』を保存し、私が指示した時だけツクヨミサーバーへ一時実装する】

 

『いきなりハードル高いな。チートコード? キャラクターにじゃなくて、サーバーに組み込むのか?』

「ツクヨミサーバーのリソース使うんだよね~。KASSENの規約には違反しないし、警告も出ないように組んである。未来でも、試作版をFUSHIにお願いして組み込んで貰ったんだ」

 

呆れたように、FUSHIがつぶやく。

『なにやってんだ未来の俺』

「一緒に、ヤチヨに怒られたよ」

「怒ったよ~。規約も改定した」

ヤチヨが続けて言う。

「だから、改定前なら合法!」

びっ、と親指を立てる。

 

「ふたつめ」

【未来ヤチヨがツクヨミに侵入出来るバックドアの構築】

 

『どんどん犯罪臭が強くなってきたぞ。管理人としてのヤチヨに気づかれたくない、ってことだよな』

胡散臭い物を見る目つきで、FUSHIがこちらを見ている。

 

「ツクヨミのシステムにアクセス出来ないヤチヨなんて、ナメクジだからね」

「ひどい~~」

ぷんぷん、とヤチヨが怒ったフリをする。

 

「みっつめ」

【忠犬オタ公さんを、現実の私のマンションまで連れてくる。その共犯者になってもらう】

 

『現実で? あり得ないよ』

ないない、とFUSHIは首を振る。

「オタ公さんが協力者であることはヤチヨから聞いた」

「バレちゃった~~」

軽い私たちのノリに、FUSHIはため息をつく。

 

「あと、未来では、FUSHIに現実側のツクヨミのサーバー室まで連れていってもらったよ」

『……なにやってんだ未来の俺』

 

もっと難航するかと思ったけど、ヤチヨ本人がいるのが強い。

そしてFUSHIは、ヤチヨの為ならルール違反すらいとわない。たぶん。

 

(ここが……こうなって……あ、そこを経由するんだ……)

脳内彩葉がおとなしいと思ったら、FUSHIに提示したフリーダムのコードをふむふむと解析していた。元々は私だし、発想や構造に興味があるみたいだ。いいぞ。若い発想で、どんどん改良してくれ。

 

「今は、そんなところかな。こっちのヤチヨは、普段はフッチョとして私と同行してるから、何かあったら連絡して」

『分かった』

 

じゃあ今日はログアウトしようか、と話を切り上げたところで、

 

「FUSHI」

ヤチヨは、ヤチヨの姿のまま、FUSHIの元へとふわふわ移動した。

「おいで~」

『な、なんだよ』

両手ですくうようにFUSHIを持ち上げ、ヤチヨは懐かしそうに頬を寄せた。

 

「私の世界のFUSHIはね、置いてきちゃった。彩葉を一人ぼっちでこの世界に行かせたくなくて、私もついてきたから。でも、ずっと――本当に、ずっと一緒だったFUSHIとは、もう一生会えないんだ」

『……』

 

FUSHIは、黙っていた。

 

「未来のFUSHIからお手紙預かってるよ~。ロックされてて私も見てない。FUSHIが、昔のFUSHIなら解除コード分かるって言ってた」

すいすいと、空中にヤチヨは指を走らせた。お手紙――というか、文章ファイルをFUSHIに送信しているのだろう。

 

FUSHIの目が、チカチカと光った。

しばらくして、ヤチヨの手のひらから、肩へと飛び移った。

 

『……たまには、こうやって、肩に乗ってやるよ』

 

FUSHIは、そっぽを向いたまま、言った。

 

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