超かぐや姫R! ~彩葉が二周目チートで超ハッピーエンドに至る話~ 作:そうすけVR
ジャイアントキリングを達成した私が、しかめっ面をして立ち尽くしているスクリーンショットは、ツクヨミ特設スタジアムに来ていた観衆――特に女性ユーザーに大好評だった。
帝がかぐやに求婚したせいで、彩葉がタイマンで帝をぶちのめしたのだ、みたいな、『かぐやを守る騎士いろP』概念の誕生である。(一部にはブラコンのいろPがお兄ちゃんにツンデレの制裁を加えたのだ説を推す派閥もいた)
それはそうと、一周目とはかなり違う展開になっちゃったなー。
かぐやが全然活躍してない。
「彩葉ー! 彩葉、すごすぎるよー!」
ジェットのハンマーで飛んできたかぐやが、空中で飛び降りて、私にボディアタックをかましてくる。実況も気を使って『いろP』って呼んでくれてるのに、すっかり本名が周知の事実になってしまってるような気がする。
「勝った! 勝った!」
私にしがみついてぐるぐる回りながら笑っている。
『まだ、ヤチヨカップの結果は出ていません』
忠犬オタ公さんがアナウンスする。
遥か上空を遊泳する、巨大アマテラスダイチョウチンアンコウがゆっくりと目を閉じる。ツクヨミ特設スタジアムに夜のとばりが降りる。
「いと、大儀~」
スポットライトが下から複数照らされる。重なる光の中、ヤチヨが宙に佇んでいる。
肩に、FUSHIがいる。本体だ。
「とーっても楽しいKASSENでした! そして、たった今、ヤチヨカップの優勝者が決まったよ~~」
ヤチヨの正面、空中に巻物が出現。するすると開き、ヤチヨが視線を走らせる。
「ヤッチョとコラボる人、発表! どれどれ~~」
ドラムロールの音がステージに流れる。
「期間中に、もっともファンを獲得したのは~~?」
巨大なスクリーンが浮かび上がる。『ヤチヨカップ けっかはっぴょう』と表示されている。
その後、ライバーたちの縦グラフ表示に切り替わった。グングンとグラフが上に伸びていく。
「まさかの、ヤチヨカップの、優勝者は~~~~~~」
ヤチヨ引っ張る。
しかし、明らかに勝負はついていた。
圧倒的大差で、
「かぐや、いろP!」
前回は接戦だったような記憶があるなー。
肩のフッチョが解説する。
『正体を隠していた騎士属性の妹キャラ彩葉がその姿を現すことで、新たな需要を創出したね』
なんのこっちゃ。
「めでたしや~~~」
ステージに響き渡るヤチヨの宣言で、ヤチヨカップは閉幕した。
「やったー、彩葉のお陰だよー!」
かぐや大喜び。足元で、犬DOGEも嬉しそうに走り回っている。
そこへ、ブラックオニキスの面々が近づいてきた。
「お兄ちゃん……」
「完敗だよ。彩葉のお願いって何?」
「あー、えーと……本気の特訓?」
「わざわざ鍛えてくれんの?」
「うん。お返しだから」
「? よく分かんねーけど、負けたんだから言うこと聞くぜ。また今度、な」
じゃ、俺たちファンのところ行くから、と言い残して、お兄ちゃんたちは移動していった。
「ふったりっとも~~。よきかな~~」
幼女形態のヤチヨが空から舞い降りて、抱き着いてきた。
『やるじゃねーか。マグレか?』
ヤチヨの肩のFUSHIが憎まれ口を叩く。
『はてさて~~、実力かな~~?』
私の肩のフッチョが軽く返す。
「彩葉! かぐや! よく頑張った! 一緒に歌いましょう!」
ヤチヨはニコニコと言う。
そうだ。コラボライブだ。
私は大きく息を吸って、吐いた。
――ここまで、来た。
「でも、彩葉は、こんなに強かったかな~~?」
ヤチヨが悪戯っぽく、顔を近づけてくる。
「彩葉、変わった~?」
心臓が跳ねる。彩葉が動揺してるみたい。落ち着け。
「変わったかも、知れないね」
今回の流れは、ヤチヨがかぐやだった頃に経験したものとは違う筈だ。でも、8000年の彼方にある――あの頃の記憶が、どこまで鮮明に残ってるんだろう。
……この違いに、気づいているのかな。
「そっか~。そういうこともあるよね~」
どこまでも表面的な会話の応酬。目の前のヤチヨが抱え込んでいるものを思うと、胸が苦しくなった。
「さて」
ヤチヨの雰囲気が変わる。
「ここからはクライマックスに向けて、ハードな展開が待っているかも。……このお話を最後まで見届けてね」
この台詞を聞くのは二回目だ。
ヤチヨはどんな気持ちで、どんな想いで、この言葉を発したのだろう。
ヤチヨにとっては、遥か悠久の昔、かぐやとして体験したコラボライブだ。その後、彼女は、かぐやの身に何が起こるのかも覚えている――だろう。
大丈夫。見届けるよ。大丈夫だから。ここに、私がいるから。私が2人を守るから。その為に、ここまで来たんだから。
(彩葉さんだけじゃないですよ。私もいます。私も、ヤチヨとかぐやと――)
彩葉さんを。
みんなを。
――ん?
脳裏に浮かんだ言葉に違和感を覚えていると、
急にFUSHIの様子が変わった。両目がチカチカ光って、
『ネムッテ』
定型の電子音声が流れた。
ヤチヨは、小さくあくびをして、おねむ、とつぶやいた。それが、ヤチヨ自身の感覚なのか、それともFUSHIの「ネムッテ」がトリガーになって、スリープモードに入るのか、どっちなんだろうね。
「じゃあね、さらば~~い」
そう言うと、ふわりと身体が浮かび、ヤチヨはツクヨミの夜へと飛んでいった。
消えていくヤチヨの姿をずっと目で追っていた。
私は、肩のフッチョを撫でながら、この二か月間のことを考えていた。
(いろいろあったけど……すごく楽しいな)
隣のかぐやを見る。興奮状態で笑っている。
かぐやも、きっと同じ思いだろう。この記憶を胸に、
――8000年、耐えようと想えるくらいに
『どうしたんだい? 今日はいっぱい撫でてくれるじゃないか』
こちらも上機嫌なフッチョに、私は笑いかけた。
「ヤチヨが愛おしいなあ、って思って」
『へあっ???』
変な声をあげて、フッチョは飛び上がって、かぐやの肩に逃げた。
◇ ◇ ◇
ここから、ヤチヨは数時間、起きてこない。
つまり、
「悪だくみの時間だぜ!」
にししし、と笑う。
「だぜ~~!」
かぐやも、私に調子を合わせて言う。
フッチョは、かぐやの肩から、
『……ツクヨミの管理系も順次メンテナンスに入るから、今なら動きやすいよ~』
そんな内部情報まで教えてくれる。そりゃあ管理人だもんね。
これまでは、ヤチヨが二人、管理人として同時にログインして、こっちのヤチヨにアラートでも飛んだら面倒だった。だから、ずっとフッチョの姿で潜ってた。
でも今は、そのヤチヨがスリープ中。だったら――
(何を、するつもりなんですか……?)
こっちのヤチヨを永遠の眠りの繭に――ウソウソ!!
「FUSHI君を、スカウトに行くのさ」
と、その前に。
「かぐやはログアウトして」
「えー、なんでー。かぐやも一緒に行くー」
かぐやに、今からの交渉を引っ掻き回されると困るんだよなー。
「引っ越し準備もあるし、かぐやは配信用のガラクタ片づけておいて」
「ガラクタじゃない――え、引っ越し? あのマンション? いいの? やった~~!」
保証人の件は、もうお兄ちゃんに話を通してある。
「片付けするー、じゃあねー」
素直にかぐやはログアウトした。
ツクヨミ城下町に移動し、路地裏に入る。
フッチョが、ヤチヨの私室へつながるポータルを開く。
『多分、ヤチヨの部屋にFUSHIもいると思うんだよね~~』
おっとヤチヨの寝室に侵入か? いいものが見れそうだ!
『いつも見てるクセに~~』
キレイなヤチヨの寝顔が見たいんだよ。具体的には恥じらうヤチヨが見たいんだよ。寝てるから無理か。かーッ!
ごくり。
生唾を飲み込む。これは彩葉の挙動だな。
真面目な彩葉が私を止めない。これは興味シンシンな思春期ですね?
ポータルをくぐる。
一瞬だけ、視界が暗転する。
無数の灯篭が並んだ、一般には開放されていない、ヤチヨの天守閣の私室。何度も訪れて、すっかり馴染んだ場所。
『誰だ!』
鋭い叱責の声。FUSHIだ。
「こんばんはー。いい夜ですねー」
声をかける。屏風の前に敷かれた赤い敷物の上に、FUSHIはいた。
『お前は……酒寄彩葉』
登録名じゃなく、本名で呼んでくる。サーバーの登録情報にアクセス出来るなら、分かっても当然か。
そして、チェックしていたぞ、という威嚇だ。
『どうしてここに来れた?』
「うまいことやった」
『はあ?』
つかつかと歩く。ヤチヨは……いないみたいだ。
『ヤチヨは別の部屋で寝てる。ここに来た目的はなんだ?』
キョロキョロしている私に、FUSHIは続けて質問してきた。
「別の部屋か。あのアパートかな?」
実際、10年後のヤチヨは、ツクヨミ内にあのボロアパートの部屋を再現して、そこでよくスリープモードになっていた。ヤチヨの寝顔を眺めながら、いつも、胸の奥がきゅっ、ってなってた。
『お前、本当に酒寄彩葉か?』
「そうだよ」
もう、隠し事は無しだ。
「10年後のね」
『何を……言って……?』
『偽装外殻、解除~~!』
私の肩から降りたフッチョが、煙のエフェクトに包まれた。
「ヤオヨロ~~。この姿久しぶり~~」
ヤチヨの姿になった。
『え? ……ヤチヨ?』
「管理者権限で入っちゃった~~。さすがに本人がもう一人来るのは想定してないよね~~。あとでログ消すね~」
『何が起こってるんだ? 10年後? 何の話だ?』
「私は酒寄彩葉27才。ヤチヨとかぐやを、超ハッピーエンドに連れて行くために未来から来た」
『――訳が分からないよ』
(これが普通の反応です)
彩葉がうんうん、と脳内で言う。
「月の時間跳躍と精神干渉技術を解析して、10年後から戻ってきたんだ。FUSHIって、記憶に干渉できるんだよね? 私の記憶、スキャンしていいよ。そうしたら、私の言ってることが理解出来ると思う」
『……分かった』
FUSHIの目が赤く光る。スキャン光が、レーザーのように私の頭を何度も上下する。
(彩葉さん、記憶に干渉、って――)
そうだよ。FUSHIに頼めば、私の存在自体を、彩葉の脳から抹消することが出来る。だから、FUSHIはどうしても、仲間に入れないと、
(ダメです! 何か、方法がある筈です!)
そうは言ってもさー、ブラックオニキスとのKASSENでもヤバかったじゃんー。
FUSHIのスキャンは続く。
『確かに、酒寄彩葉の中には……信じられないことに二つの精神情報がある。……え……これは、まさか、ヤチヨの8000年分の……?』
「私はヤチヨの8000年を経験している。私の時間軸のFUSHIに、ヤチヨの8000年を見せてもらったんだ。そして、10年かけて、これからの戦いの準備も進めてきた」
FUSHIの目の光は消えた。じっと私を見ている。
「私が彩葉27才だ、って分かった? 見た目はフレッシュな17才だけどさ……」
目を伏せて、
「キラキラの彩葉はもう――お姉ちゃんです……」
「あー、私の決め台詞取られた!!」
ヤチヨが笑いながら言う。10年で、ここまでヤチヨとは冗談を言い合える関係になれた。
(フッチョは、本当にヤチヨだったんだ……)
そういえば、フッチョがツクヨミの中でヤチヨの姿になるのを、彩葉が見るのは初めてか。
これからは、フッチョにも少しは緊張してあげてね。
『どうして』
FUSHIの声が弱々しくなる。
『ヤチヨが寝てる時に来たんだ? ヤチヨには秘密なのか?』
「まだ、準備が終わってないから、かな」
対月人戦に勝つための布石は、まだ打ち終わっていない。
このまま、ヤチヨに正体を明かしたら、ヤチヨはどうするかな? やっぱり月には勝てない。未来は変えられない。そう思って、また運命に身をゆだねようと――
『迷う、と思ったのか? そして弱気になって、敵対する、と?』
そうだそうだ、と、ヤチヨがFUSHIの横にふわりと降りる。
FUSHIが戸惑ってる。
「ヤッチョはー、そんな弱い子だとでも?」
ヤチヨが腕を組んで、ふん、と頬を膨らませて言う。どっちの味方だよ。
「これが、弱い子なんだよなー。ツクヨミの管理人で、ずっと人類を見守ってきていて、なんでも出来る、頼りになる、って思われてそうだけど」
ヤチヨに歩み寄る。
「ヤチヨは、寂しがり屋の、か弱い女の子だよ」
だから、全部準備して、これなら絶対に勝てる、って確信してから。
安心していいよ、全部、私に任せて、って言えるようになってから、話をしたい。
「ヤチヨは、もう充分がんばったよ。充分傷ついて、耐えてきた。だから、超ハッピーエンドには、私が連れていくよ」
「やーん、イケメン~」
『分かった! もう分かった!』
FUSHIが怒ったように言った。
FUSHIはきっと、今のヤチヨの危うさに気づいている。ずっと一緒にいたんだから。
だから、あの時も、ヤチヨが寝てる間に、私にヤチヨの8000年を見せてくれたんだよね。
『で、何をすればいい?』
話の早い子、お姉さん好きだなー。
「FUSHIに協力して欲しいことは、3つかな」
指を三本立てる。
「ひとつめ」
【チートコード『
『いきなりハードル高いな。チートコード? キャラクターにじゃなくて、サーバーに組み込むのか?』
「ツクヨミサーバーのリソース使うんだよね~。KASSENの規約には違反しないし、警告も出ないように組んである。未来でも、試作版をFUSHIにお願いして組み込んで貰ったんだ」
呆れたように、FUSHIがつぶやく。
『なにやってんだ未来の俺』
「一緒に、ヤチヨに怒られたよ」
「怒ったよ~。規約も改定した」
ヤチヨが続けて言う。
「だから、改定前なら合法!」
びっ、と親指を立てる。
「ふたつめ」
【未来ヤチヨがツクヨミに侵入出来るバックドアの構築】
『どんどん犯罪臭が強くなってきたぞ。管理人としてのヤチヨに気づかれたくない、ってことだよな』
胡散臭い物を見る目つきで、FUSHIがこちらを見ている。
「ツクヨミのシステムにアクセス出来ないヤチヨなんて、ナメクジだからね」
「ひどい~~」
ぷんぷん、とヤチヨが怒ったフリをする。
「みっつめ」
【忠犬オタ公さんを、現実の私のマンションまで連れてくる。その共犯者になってもらう】
『現実で? あり得ないよ』
ないない、とFUSHIは首を振る。
「オタ公さんが協力者であることはヤチヨから聞いた」
「バレちゃった~~」
軽い私たちのノリに、FUSHIはため息をつく。
「あと、未来では、FUSHIに現実側のツクヨミのサーバー室まで連れていってもらったよ」
『……なにやってんだ未来の俺』
もっと難航するかと思ったけど、ヤチヨ本人がいるのが強い。
そしてFUSHIは、ヤチヨの為ならルール違反すらいとわない。たぶん。
(ここが……こうなって……あ、そこを経由するんだ……)
脳内彩葉がおとなしいと思ったら、FUSHIに提示したフリーダムのコードをふむふむと解析していた。元々は私だし、発想や構造に興味があるみたいだ。いいぞ。若い発想で、どんどん改良してくれ。
「今は、そんなところかな。こっちのヤチヨは、普段はフッチョとして私と同行してるから、何かあったら連絡して」
『分かった』
じゃあ今日はログアウトしようか、と話を切り上げたところで、
「FUSHI」
ヤチヨは、ヤチヨの姿のまま、FUSHIの元へとふわふわ移動した。
「おいで~」
『な、なんだよ』
両手ですくうようにFUSHIを持ち上げ、ヤチヨは懐かしそうに頬を寄せた。
「私の世界のFUSHIはね、置いてきちゃった。彩葉を一人ぼっちでこの世界に行かせたくなくて、私もついてきたから。でも、ずっと――本当に、ずっと一緒だったFUSHIとは、もう一生会えないんだ」
『……』
FUSHIは、黙っていた。
「未来のFUSHIからお手紙預かってるよ~。ロックされてて私も見てない。FUSHIが、昔のFUSHIなら解除コード分かるって言ってた」
すいすいと、空中にヤチヨは指を走らせた。お手紙――というか、文章ファイルをFUSHIに送信しているのだろう。
FUSHIの目が、チカチカと光った。
しばらくして、ヤチヨの手のひらから、肩へと飛び移った。
『……たまには、こうやって、肩に乗ってやるよ』
FUSHIは、そっぽを向いたまま、言った。