超かぐや姫R! ~彩葉が二周目チートで超ハッピーエンドに至る話~   作:そうすけVR

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3 (裏)彩葉の義体開発日誌

(幕間)夢十夜

 

こんな夢を見た。

私は、27才になっていた。

 

苦労に苦労を重ね、かぐやのアバターボディの開発に成功した。

かぐやをもう一度、生まれ変わらせることが出来た。

そして、現実世界とツクヨミで同時に、かぐやの復活ライブを東京ドームで開催。

私と、アバターボディを得たかぐやと、ヤチヨのホログラフ。

三人で、もう一度、サイリウムが銀河の星のように光るステージで歌った。

昔、かぐやが言っていた、

(ハッピーエンドまで、彩葉も連れてく! 一緒に!)

を、みんなの力で実現した。

 

お前は今、分岐点に立っているのだ。

そう、告げられているような気がした。

タイムトラベルなんて欲は張らず、ただ真っすぐに、この世界でかぐやと再会することだけに全力を尽くす。そうすれば訪れる未来はこうなるよ、と。

 

——今なら、こちらの道を選ぶことも出来るよ、と。

 

思えば、あの夜、ヤチヨの歌うex-otogibanashiの二番の音源を聴いて泣いた夜、分岐は始まっていたのだろう。

 

分岐は無数にある。

かぐやが月に帰って、私は思い出を胸に強く生きていくことを誓う。

かぐやとヤチヨの関係を知り、ヤチヨの8000年を受け止める。

十年かけて、かぐやを生まれ変わらせる。

エンディングは一つじゃない。

 

どの選択肢も、きっと間違いではない。

ただ、向かう先が違うだけだ。

その中で、私は、一番欲張りな道を選ぶ。

 

(そして、私は選んだ)

 

選択の結果が、どうなるか、まだまだ分からない。

私の物語のタイトルは、未だ不確定だ。

 

◇ ◇ ◇

 

【機関概要:月読ミライ技術研究所】

通称、月技研。

月由来技術を人間社会へ応用するために設立された研究機関であり、所長は酒寄彩葉。

前身となる月読計画は、酒寄彩葉が大学在学中に始まった。

ツクヨミの管理人である月見ヤチヨが、月由来技術の供与先を彼女に限定すると明言したため、弱冠25才の酒寄彩葉を初代所長として、月技研は正式に発足した。

ただし、研究所の日常的な運営や対外調整は、酒寄彩葉の大学時代の指導教員が、副所長兼研究統括として担っていた。

 

【彩葉メモ】

この日誌は、私個人用の覚え書きだ。誰かに見せるつもりはない。

表向きの開発日誌は別にある。ここには、表に出せないことを、未来の私が振り返れるように書きだすことにする。管理はくれぐれも慎重に。

 

◇ ◇ ◇

 

2038年4月1日

 

修士課程を修了し、私は月読ミライ技術研究所所長に就任した。

学生の頃は気楽だった。責任の二文字が、両肩に重くのしかかる。

 

常勤40名。研究機関としては中規模クラス。

ここで私は、いよいよ本格的に、義体開発に取り掛かる。

計画は、大きく二つの系統に分けて進められていく。第一系統は肉体構築。第二系統は精神情報の保存・転写・定着。

そして、表立って存在しない、第三系統がある。

精神情報体の時間跳躍。

それが、私の本命だった。

 

第三系統については、関係者に完全に隠していたわけではない。

副所長と研究統括を兼任してもらっている恩師には伝えていた。予算も、倫理審査も、研究室の設備も、私一人の悪巧みでどうにかなるほど甘くはない。

 

ただし、第三系統をそのまま正式な研究テーマとして扱うことは出来なかった。

書類上は、第二系統に付随する探索研究。

精神情報の長期保存、人格差分の統合、記憶定着時の整合性維持。

そうした周辺課題の一つとして処理してもらった。

 

要するに、誤魔化してもらった。

 

もちろん、虚偽の申請をしたわけではない。研究倫理の線を踏み越えたわけでもない。少なくとも、恩師はそういう形にはさせなかった。ただ、私が本当に何を目指しているのかは知っていた。その上で、誰にも言わず、見える場所に置いてくれた。

 

あれは許可というより、管理だったのだと思う。

私が一人で暗闇へ走り出すくらいなら、研究所の中で、記録の残る場所で、予算と倫理審査の枠内で走らせた方がいい。

表向きには、恩師はそう判断したのだと思う。

 

そもそも恩師は、月読計画の初期から、ヤチヨと面識があった。

正確には、私が一度、ツクヨミ内で二人を引き合わせた。月由来技術の供与を受ける以上、研究指導を担う人間に、ヤチヨ本人を会わせておく必要があると思ったからだ。

 

その時のヤチヨは、妙に礼儀正しかった。

いつものアセット笑顔ではなく、月見ヤチヨとして、恩師に向き合っていたように見えた。

あとから、先生に何か言った? と問いただしても、ヤチヨは、

 

「えらい先生に、ご挨拶しただけだよー」

 

と、いつもの調子ではぐらかすだけだった。

でも、たぶん、それだけじゃない。

恩師は、最初から妙に話が早かった。

月読計画に対しても、月由来技術に対しても、驚くほど理解があった。

 

ヤチヨが何かを頼んだのか。

恩師が、何かを察したのか。

あるいは、その両方だったのか。

今でも、そこは分からない。

 

それでも、恩師は第三系統を本気の時間跳躍計画としては受け取っていなかったと思う。

 

実現性は低い。

けれど、その過程で得られる知見は、義体開発本体にも還元できる。

精神情報の保存、転写、定着、差分統合。そのどれもが、かぐやを本当の意味で人間にするためには必要な技術だった。

 

だから、やってみなさい、と。

今にして思えば、あれは研究指導というより、孫の自由研究を見守る祖父母の顔だった。

 

◇ ◇ ◇

 

2038年4月5日

 

今日は、綾紬芦花と諌山真実が月技研に私の所長就任祝いで来てくれた。

 

高校時代から私を支えてくれた、掛け替えのない親友たちだ。

見学は以前から予定していたものなので、所員たちにも友人の来訪は共有済みだった。開所したばかりの月技研を、外部の友人に案内する。言葉にするとただの施設見学だけれど、私にとっては、少しだけ特別な日だった。

 

常勤四十名の研究所。

所長室。

会議室。

生体材料管理区画。

精神情報系の実験室。

まだ新しい匂いの残る廊下。

 

見せられる範囲内を、来客者用の白衣を着た芦花と真実が歩いている。

 

その光景は、少し不思議だった。

高校時代の私たちと、研究所長になった今の私とが、同じ場所に重なって見えた。

 

芦花と真実が歩いているだけで、ラボの空気が少し浮き立った。特に若い所員たちは喜んでいるようだ。まあ、真実は人妻なんだけど。

 

見学のあと、私のマンションでパーティを開いた。

その時、真実から、若い研究員たちが私のことを「初恋ハンター」だの「月姫」だのとこっそり呼んでいると聞かされた。

 

なんだそれ。

 

大学時代から浮いた話ひとつなく、交際の申し込みも片っ端から断り続けたせいで、竹取物語の姫みたいだ、というところから出てきたらしい。

私はてっきり、所員たちから遠巻きにされているのだと思っていた。

私には言わないのに、真実には言うんだ。

 

芦花は、にこにこと、私と真実がはしゃいでいる様子を見ていた。

その顔を横目で眺めていると、高校時代に戻ったみたいな気持ちになった。

 

所長職も、研究計画も、責任の重さも、あの頃の私にはなかったものばかりだ。それでも、芦花と真実の前では、私はまだ、あの頃の彩葉でいられる。

 

久しぶりに、楽しかった。

明日からまた頑張ろう。

 

(追記)

芦花は、お泊まりした。

 

◇ ◇ ◇

 

(中略)

 

2038年9月25日

 

そろそろ、計画全体の輪郭が見えてきた。

 

予算は潤沢にある。

一番大きいのは、医療機器メーカーやロボティクス企業、通信系企業からの共同研究費と戦略投資だ。

そこに、ツクヨミのスポンサード、お兄ちゃんからの支援、政府からの補助金が乗る。

義体開発は、そのまま次世代医療の革命につながる。だからこそ、表向きの研究としては非常に通りがいい。

 

第一系統、肉体構築。

こちらは順調だ。

 

問題は第二系統。

精神情報の保存・転写・定着。

 

精神情報は、ただ新しい肉体に移せばいいわけではない。

 

肉体側の感覚、記憶の連続性、そして、自分が自分であるという自己同一性。

この三つが噛み合わなければ、精神は新しい器を自分自身として受け入れない。

 

研究資料には書けないけれど、私個人の感覚では、これは魂の同一性の問題に近い。

 

逆に、同一個体であれば話は変わる。

肉体が多少変化していても、自己同一性の核は同じだ。

だから、自分の精神情報を、自分自身に差分として統合することは出来る。

少なくとも、理論上はそうだ。実験上も、そうだった。

 

一日前の私の人格データを圧縮し、現在の私に差分として書き込む実験は成功している。

この程度では、人格への明確な影響は感じられなかった。

 

ただし、本当の目的は別にある。

過去へ撃ち出した精神情報体が、過去時点の私に定着するのか。

そのための予備実験だった。

 

つまり私は、すでに自分自身を、時間跳躍のための実験材料にしている。

この件は、ヤチヨには伝えていない。時間が足りない。

 

◇ ◇ ◇

 

(中略)

 

2039年 2月25日

 

第三系統。

精神情報体の時間跳躍。

 

月の技術を解析し、人間側の技術で再現する。

身体ごとのタイムトラベルではない。

人格、記憶、認知パターン、判断傾向、感情反応。

それらを圧縮した精神情報体のみを、過去へ送る。

 

ヤチヨとFUSHIには、多大な協力をしてもらっている。

ただし、ヤチヨが知っているのは、あくまで義体実現に必要な精神情報技術の研究としてだ。

精神情報の保存、転写、定着。ヤチヨを義体に迎えるために必要な技術。

それは本当だ。

 

でも、第三系統の本当の目的は伏せている。

ヤチヨには言えない。

それは、ヤチヨのための研究だから。

言えば、止められる。

 

FUSHIがどこまで気づいているのかは分からない。

提供してもらっているデータの性質を考えると、薄々察していてもおかしくはない。

それでも、まだ何も言ってこない。

 

たぶん、FUSHIは私よりずっと前から、ヤチヨの奥にあるものを見ている。

ヤチヨ自身が、まだ言葉に出来ていないものまで。

だから、黙っているのだと思う。

 

助かっている。少しだけ、申し訳ない。

 

◇ ◇ ◇

 

(中略)

 

2039年11月20日

 

時間跳躍の実現に向けては、三つの層に分けて考える。

 

第1層。

精神情報の保存。

 

第2層。

精神情報の転写・定着。

 

この二つは、FUSHIの持つデータが大いに役立った。

本来なら、一番苦労するところだった。

かなりの部分をショートカット出来ている。

義体開発のソフトウェア部分の柱も、ここにある。

 

第3層。

精神情報の時空間転送。

 

ここから先は、取り扱いを極端に慎重にする必要がある。

書類上は、第二系統に付随する探索研究。

精神情報の長期保存と差分統合に関する周辺課題。

そういう扱いにしている。

 

実際、完全な誤魔化しではない。

第三系統で得られる知見は、第二系統に還元できる。義体開発にも必要な技術だ。

ただし、私にとっての本命は、あくまでこっちだ。

 

仮説を立てる。

転送するのは、私の人格データを圧縮した精神情報体。

イメージとしては、タケノコの形をした弾丸に近い。

 

時空を超えて撃ち出された弾丸は、過去時点の同一個体を目標としてホーミングする。

着弾後、圧縮データを解凍、展開。

それが記憶の追加になるのか、人格の上書きになるのか、あるいは二つの私が並列して存在するのかは分からない。

分からないなら、試すしかない。

人体実験だな、うん。

 

リスクさえ考慮しなければ、実現はすぐそこまで来ている。

被検体が私でいいなら、技術的な障壁はかなり低くなる。

同一個体への差分統合であれば、第二系統で確認した通り、定着の見込みはある。

問題は、差分の量だ。

 

一日分なら統合できた。

十年分ならどうなるのか。

 

十年分の記憶。

十年分の研究。

十年分の後悔。

十年分の、かぐやのいない時間。

十年分の、ヤチヨの隣で笑って、泣いて、見なかったことに出来なかったもの。

 

それらを、17才の私の脳に追加で書き込む。

影響がないはずがない。でも、壊れると決まったわけでもない。

 

ヤチヨの8000年、あの記憶の奔流を受け止めた私の脳だ。十年分くらい、いけるだろう。多分。

 

ちょびっと影響があったとしても、ヤチヨのため、かぐやのため、って言えば許してくれるに違いない。

いや、怒られるか。すごく怒られる気がする。

だから、まだ言わない。

 

◇ ◇ ◇

 

次回、「またヤチヨにバレる」。

お楽しみに!

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