超かぐや姫R! ~彩葉が二周目チートで超ハッピーエンドに至る話~   作:そうすけVR

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4 脱法チート

バレた。

またヤチヨにバレた。

 

灯篭の明かりが揺れる、最上階の天守閣。

ツクヨミの、見慣れたヤチヨの私室。

しかし、またしても、私は笑顔を貼り付けたヤチヨの前で、板間に正座させられていた。

これまで何度もやらかした私の、ヤチヨに怒られる時の定番スタイルになっていた。

とばっちりで、FUSHIも隣に並ばされている。

 

「私はー、義体開発に必要な研究、って聞いてたんだけどなー」

「ソウデスヨ」

 

顔をそむけて下手な口笛を吹きながら言う私に向かって、ヤチヨがふわりと回り込む。近い近い。ヤチヨの整った顔が、触れるくらいに近寄ってくる。いつまでも慣れない。今でもドギマギする。ヤチヨは私の中で、永遠に崇拝の対象であり、歌姫で女神なのだ。

 

「危険なことしてるでしょ?」

「アブナクナイヨ」

 

ヤチヨは口を割らない私から、視線を隣に落とす。

 

「FUSHI――」

「精神情報の時空間転送の研究をしている。被検体が彩葉で良いなら、もう実現寸前」

 

ヤチヨの目が、すっ、と細められた。

 

「過去に戻って、何をするの」

ヤチヨの問いに答える。

「十年前に戻って、かぐやの卒業ライブで月人をぶっとばす」

隣のFUSHIが、初めて聞いたぞ……、とつぶやく。

「ぶっとばして、言うこと聞かせる。あと、いろいろうまいことやる」

隣のFUSHIが、キビシイ……、とつぶやく。いちいちうるさいよ。

 

「何の、目的で――?」

口元に扇子を当てて、ヤチヨが囁く。背筋が冷たくなる。こそこそと漫才を繰り広げていた私とFUSHIは震え上がった。

実体が無い筈なのに、圧がすごい。

 

「えーっと」

「言えないことなの?」

 

ヤチヨの表情が曇る。胸が痛い。私の女神には、一秒たりとも悲しい顔をさせたくない。

 

「ハッピーエンドにしたい」

「そのための、義体開発じゃなかったの?」

「それだと、私だけのハッピーエンドになる。ヤチヨのハッピーエンドじゃない」

 

ヤチヨは首をかしげる。

「かぐやの義体計画が実現したら、解決するよ?」

(かぐやは月にいる)

 

視線を上げて、空を見る。

ツクヨミには、月の代わりにミラーボールが浮かんでいるだけなんだけど。

 

「私もかぐやだよ? だから、私の中のキラキラを――」

「ヤチヨはかぐやの代わりじゃない」

 

バチッ、と、灯篭の火がはぜる。ドットの炎が揺れる。

よくできてるなこれ。

 

「彩葉の幸せが、ヤチヨの幸せだよ……きっと、かぐやもそうだよ……」

「それでも私は、ヤチヨにはヤチヨとして、かぐやにはかぐやとして、笑っててほしい」

 

ヤチヨは、扇子を持っていない方の手をぎゅっと握りしめて、少し下を向いた。

一分、二分……誰も、何も話さない。

ヤチヨは、顔を上げて言った。

 

「分かった」

 

「えっ?」

FUSHIが驚きの声をあげる。

「えっ?」

私も驚きの声をあげる。

 

「私も行く。私も付いて行く」

「ちょ、待って!」

 

私はつらつらと仮定の理論を説明した。

 

・転送するのは、人格データを圧縮した精神情報体であること。

・イメージとしては、タケノコの形をした弾丸であること。

・時空を超えて撃ち出された弾丸は、過去時点の同一個体を目標としてホーミングする挙動をとること。

 

だから、ヤチヨが付いてきたとして、どこに着弾するかわからない。なんだったら、電子の海に溶けて、泡になって、拡散して消えてしまうかも知れない。

 

「ヤチヨは、分身が得意なんだー。だから、消えちゃってもいいんだよ」

「ダメ。私が良くない。私が嫌だ」

 

ヤチヨは口元に浮かべた笑みを深めた。

 

「ふーん、どうしてもダメなんだ。それならヤチヨにも、考えがあるなー……」

 

やばい。

もし、ヤチヨが月技術の提供やめる、とか、スポンサー降りる、とか言い出したら、研究が立ち行かなくなる。

緊張に固まった私の顔を、ヤチヨは少し下から見上げるようにして、目を合わせてきた。

 

「どうしてもダメって言うなら、……ヤチヨ、泣いちゃうかも」

首を傾けて、両手を口元に持っていって、かわいい仕草で言った。

 

ぐっ――

 

「お願い~~」

 

ヤチヨからかぐやのDNAを感じる。

そして私の心が(なんでもお願い聞くよぉぉぉぉ)と叫んでいる。

 

「――ヤチヨに手伝って欲しいことがある」

 

ヤチヨを連れていく方法は、ある。

ただ、安全確認も、着弾先の検証も、何も出来ない。

ヤチヨは、ふざけているように見えて、本気で覚悟しているのが伝わった。そうだね。私自身だって、うまく行くかどうかは分からない。電子の海に泡になって消えてしまうのは私も同じかも知れない。でも、その時、ヤチヨと一緒に混ざりあって溶けていくなら――それでもいいかなって少し思った。

 

だけど、せめて。

事前に出来ることを全部やろう。

 

◇ ◇ ◇

 

2039年12月12日

私はお兄ちゃん――朝日を食事に誘った。

真実から教えてもらった、研究所からほど近い、立川市のカジュアルなスカイレストランを予約した。

 

「どうした彩葉。めずらしいじゃないか」

「ちょっとね。思うところあって、身内のスポンサーを大事にしておこうって」

「いい心がけだね。近況報告?」

「それもあるけど」

 

前菜、パスタ、メイン、ドルチェまで付いた、手頃なディナーコースを頼んだ。

フレンチほど肩肘張らず、けれど領収書を切るか少し迷うくらいには、ちゃんとした店だった。

 

まずは、月の意匠が小さく描かれたイタリア産の白ワインで乾杯した。

銘柄に詳しいわけではないけれど、今日の話には、これくらいのこじつけがあってもいい。

 

ひとしきり、お互いの近況を交換し合う。

「それはそうとさ」

朝日が、案外上品にフォークを操り、前菜を口に運ぶ。

私はその指先をぼんやり見ていた。

こいつ、もう30過ぎてるのに、まだブラックオニキスでアイドルムーブ&現役プロゲーマーしてるからな。

でもなんだか、お父さんに外見が似てきたような気がする。

昔だったら嫌だな、って思ったかも知れないけど、今はなんだか優しい気持ちで受け入れられる。

「彩葉、母さんに似てきたな。顔だけじゃなくて仕草も」

ゲッ、って声が出た。それは嫌だ。受け入れられない。

「今、ここで二人の写真撮ったら、父さんと母さんの若いころのデートシーンみたいに見えるかもな」

全力で遠慮したい。

「彩葉は最近、母さんと連絡取ってるの?」

「私に肩書がついたら、満足したみたい。長文お小言メールとか、連続着信とかはすっかり無くなったかな」

 

ふと、母を思う。

父が亡くなったのは、私が6歳の頃だ。

あの時、彼女は、涙を見せなかった。何もかもを背負って、きっちり背負いきる母のことだ。子ども2人抱えて、泣いている場合じゃない、って覚悟を決めたのかも知れないな。

(でも、きっと、寂しかったんだろう)

今なら分かるかも。

 

前菜の皿が下げられ、パスタが運ばれてくる。

 

「最近、月由来技術への風当たりが強いって聞くけど、大丈夫なのか?」

利権絡むからね。仕方ないね。小娘には厳しい、おじさんたちの世界だよ。

「大丈夫だと思うよ。うちは倫理審査とかしっかり通してるし。多分」

ぶっちゃけ、私は月の技術の有効活用になんて興味ない。

かぐやとヤチヨと、三人でハッピーエンドを迎えられた後は、爆発したってかまわない。口に出して吹聴することはないけど。

他愛ない近況報告を挟みながら、コースは進んでいった。

 

「あとさ最近、彩葉、KASSENにログインしてきてない? 名簿にちょくちょく、彩葉の名まえ見るような気がしてるんだけど。騙りだったら、ヤチヨさんが黙ってないだろうしさ」

「ああ、それ私。結構頻繁に潜ってるよ。中堅くらいのランキングには入ってる。お兄ちゃんみたいにはいかないけどさ」

「そりゃあプロだからな。どうした? 今からプロ目指すの?」

「プロは目指さないけど、お兄ちゃんくらいには強くなっておきたいな。最新のKASSENの戦略のトレンドについても教えてよ」

それは、私に必要なことだ。

 

最後のティラミスを食べ終え、小さなカップに入った濃いコーヒーを口に含む。私はさて、と手を合わせた。

「お兄ちゃんお願い! KASSENの特訓して!!」

「はあ? 何で今になって? アラサーになって、ゲーマー売りに転向しようとか思ってる?」

年の事は言うな。

 

そんな訳で、贅沢なKASSENレッスンは、お兄ちゃんと同居してる乃依くんも時々加わり、半年弱で十数回開催された。

一度だけ、特訓の様子がブラックオニキスの公式サブチャンネルでライブ配信され、私はゲストとして出演させられた。

丁寧にも、事前に立てられた配信枠には、

『【緊急】ブラックオニキス、4人目のメンバー参戦?』

みたいなタイトルまで付けられて。

 

私は狐のスキンを着て、正体を隠していたのだけれど、

『いろP?』

『まさかのいろP?』

秒でバレた。

仕方なくスキンを脱ぐと、

『まさかまさかまさか、そんな筈はない――からの、いろPキター!!』

なぜか、現場実況に忠犬オタ公さんも飛び入り参戦して、同時接続数が、瞬間的にとんでもないことになった。

ここは、ちゃんと言っておかないと。

「私は、ブラックオニキスには入りませーん。そんなつもりはありませーん」

『いろPのツンデレだ――』

『ブラックオニキス、兄妹(弟)ダブルタッグ、キタキター!』

『月姫……』

ダメだ。誰も話を聞いてくれない。誰だ月姫ってコメント書き込んだの。月技研関係者か?

ひどい目にあった。

 

それは兎も角、

(十年前に戻っても、知識だけじゃ届かない。身体に反射を焼きつける必要がある)

私のアラサー脳細胞は、案外若かったみたい。そして、講師が良かったのもあるだろう。俗にいうスポンジが水を吸い込むように、するすると技能が身についていったのであった。

 

◇ ◇ ◇

 

「で――ここが、総決算の特設会場(プライベートインスタンス)ってこと?」

お兄ちゃんが、私のInvite(インバイト)を受けて、特殊KASSENステージへ姿を現す。

「どうもー。彩葉さん、すごいね。実質、半年でS帯の仲間入りですね」

乃依くん、雷さんも、続けて登場。

お兄ちゃんには、ここまで散々付き合ってもらっている。だから私は、あとから駆けつけてくれた二人に向けて頭を下げた。

「今日は、お二人とも、ご協力ありがとうございます」

「気にすることはない。俺と乃依も助力しよう」

お兄ちゃんたちのお陰で、ブラックオニキスの実力にはまだ及ばないものの、純粋なスキルは上位ランカーに名を連ねるくらいには強くなれた。

ただまあ、いくら私が所属する月技研がホワイト研究所とはいえ、KASSEN特訓の時間をやりくりするのは大変だった。久しぶりにエナドリ箱買いした。

「SENGOKUでは初めて見る地形……いや」

乃依くんがぐるりと視線を巡らせ、ぴくり、と眉をしかめる。

「へえ、趣味悪いね」

気が付いたみたい。

「今回は四人チームで特殊レイド戦をやります。――ヤチヨ」

「はいなー」

天守閣に、ヤチヨが姿を現した。

 

「――太陽が沈んで、夜がやってきます」

 

KASSENを昼のステージたらしめている、アマテラスダイチョウチンアンコウが、水平線の向こうに姿を消す。

世界は急激に光を失い、設置された無数の常夜灯に灯が灯る。

「おいおい、ここって……」

お兄ちゃんの声がうわずる。

「こちらのメンバーは、お兄ちゃん、乃依くんと雷さん、私。敵は――」

「彩葉のたってのお願いで――難易度『悪夢』(ナイトメア)、新レイドボス実装しちゃいましたー」

 

見上げる夜空、空中に、時空の渦が出来る。

中から巨大な【月人:ボサツ型】が、周囲に威圧感を振りまきながら姿を現す。

 

十年だ。

もう、十年近く前のことなのに、こんなにも傷口が癒えていなかったのかと改めて気づかされた。

 

がるるるる――

「彩葉、唸り声漏れてるぞ」

強がりのように、軽い口調でお兄ちゃんがささやく。

強烈な威圧感に、ビリビリと空気が帯電する。

毛穴のひとつひとつが開いていくかのような感覚。

 

ボサツ型が両手を合わせ、広げる。

手のひらから、四体の月人が現れる。

 

【月人:テンニョ型】

【月人:コンゴウ型】

【月人:ホテイ型】

【月人:ズイジュウ型】

 

「サーバーに残ったログから、当時の強さをそのまま再現! 彩葉に言われた通りにしたけど……」

 

「うーんと――」

乃依くんが、頭の後ろに両手を回して、言う。

「さすがにアレ相手じゃ、勝ち目ないんじゃない?」

 

お兄ちゃんの口元に浮かんだ苦笑いが引きつってる。

雷さんの表情には変化がなくて、何を考えているかは読み取れない。

 

「ヤッチョ、瞬間、シンフォニー。歌おっか?」

ヤチヨは空気を読んで欲しい……すごく聴きたいけど。

 

私は素早く操作パネルを選択し、用意していたファイルを送信する。

 

「今、みんなにMODのパッチ送りました。展開して」

 

複数のモニタ画面が目前に開く。

網膜の奥で、火花が散った。

 

◇ ◇ ◇

 

戦闘後。

「あーあ、負けちゃった。いいところまで行ったんだけどなー」

乃依くんが、大の字にひっくり返ってぼやく。お兄ちゃんは、胡坐をかいて息を荒げている。

そんな中、仁王立ちで腕を組んで、

「雷さん、すごかったですね。コンゴウ型、終盤、押し込めてましたし!」

「当然だな」

雷さんは私に向けて、小さくピースサインを作って口元を緩めた。まあ最後は吹っ飛ばされてたんだけど。

(食い下がれるまでには、通用するようになった。でも、まだ足りないな。スキルか、チートか、それとも――)

 

「おい……、彩葉……。なんか、身体が光って、アバターの髪の毛逆立って、これって」

お兄ちゃんが若干引き気味で言う。

「大丈夫大丈夫。KASSENの最適化パッチみたいなもん」

私は手をひらひらさせて答える。

「ちげーだろ!! これ、チートだろ!! それもかなり悪質な」

「規約に違反しないように作ったよ。アラート出なかったでしょ」

「KASSENの規約改定しまーす」

すかさずヤチヨが手を上げて言う。

「これまでの規約に触れてない、って確認が出来たらそれでいいんだ。まだ試作品」

「一体、何のために、ツクヨミ管理人に披露したんだよ。意味分かんねえ」

あきれたような声で、彩葉作かよ、そっちの才能もあるのかよ、とお兄ちゃんは言った。

 

「規約をかい潜った……脱法チート」

乃依くんがぼそりとつぶやく。

 

と、私の視界の隅に、緊急連絡のDM受信表示が出た。

嫌な予感がした。

送信元は、月技研副所長――恩師からだった。

 

◇ ◇ ◇

 

ツクヨミからログアウトして、私は研究所へ急いだ。

夜の8時。

東の低い空に昇った満月が、どろりと赤く濁っていた。

 

いつもなら無人の時間帯だ。だけど今日は、研究所に恩師の姿があった。

 

「――」

 

所長室で、恩師に、それを告げられた。

 

本当は、もっと解析に時間をかけるつもりだった。

ただ、情勢はそれを許さなかった。

 

2040年5月26日

義体開発の根幹となる研究――精神情報研究の凍結が決定した。

 

 

未来編 完

再来編へ続く

 

 




第一章「未来編」は、ここまでです。

第二章「再来編」は、章完結後にハーメルンへ掲載します。
pixivでは先行連載中です。
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