超かぐや姫R! ~彩葉が二周目チートで超ハッピーエンドに至る話~ 作:そうすけVR
「ねーねーお腹すいた」
熟睡していたところ、身体を揺すられて目が覚めた。
「承知ですー」
返事をする。ああ、もうそんな時間か。
「ミルク―」
「少々お待ちくださいませー。もっといいものがありますからー」
しょぼしょぼの目をこすりながら、私は立ち上がり、冷蔵庫に向かう。
冷凍オムライスを二個、電子レンジにセットする。
まだ眠い。三連休ははしゃぎすぎた。このまま二度寝してしまいそうだ。
電子レンジの加熱終了のアラームが鳴る。
唐突に、寝ぼけていた意識がはっきりした。
目の前に、小学生くらいに成長したかぐやがいた。髪は背中まで伸びている。身体には大きすぎる黒のロングTシャツを着ていて、肩が半分出ていた。
「かぐや!! うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
私の声に、かぐやがビクッ、と反応する。
「び、びびった……」
10才かぐや! ロリかわいい!! 部屋に閉じ込めて飾りたい!!!
(完全に変態だ……)
脳内の彩葉も起きたのか、若干引き気味の気配を感じる。
「お、お、お、お、お――」
じりじりとにじり寄る私に、かぐやが警戒しているのか距離をとった。
「ど、どうして逃げるのカナ? こわくないよ……? ほら、私の胸に飛び込んでおいで……」
優しい声色を作る。逃がさないよう、腰を落とし両腕を広げ、手をワキワキと動かしつつ笑顔で接近を試みる。
「さあ、おいでぇ~……」
かぐやは、しゃかしゃかとベランダの窓まで後ずさり、そしてガラスに頭をぶつけた。
ガン、と大きな音が鳴った。
後頭部を押さえて、うずくまる。
「……あたま、いたい」
「大丈夫?」
(彩葉さんがキモかったせいです)
ツッコミに容赦なくなってきたね。
かぐやの腹の虫が鳴いた。
「とりあえず、ご飯にしよっか」
◇ ◇ ◇
午前二時。
「はーい、あなたが大好きなオムライス!」
「食べたことないよ?」
テーブルの上にトレイとスプーンを並べる。かぐやは興味深そうに見ている。
「いいから食べてみて」
かぐやに動きはない。ああ、そうか。
私は、スプーンでオムライスをすくって、口元に運ぶ。それを観察していたかぐやも、鏡写しのように、私と同じ動作をする。
かぐやの表情が一瞬固まる。
その後、一気に口にかき込んで食べ始めた。
「すごい! なにこれ! オムライス、大好き!!」
私はタブレットを起動する。ちょうど、ヤチヨの配信が始まっていた。
なんか、年の差カップルもの? の映画が好きだとかなんとか言ってる。
「ねえー」
オムライスを完食したかぐやは、私に話しかけてきた。
「うん、どした?」
「私が、何者なのか気にならないの?」
「かぐやは月から来たんじゃないの?」
私は、ベランダの向こうに見えている月を指さす。
「ん~~~?」
はっきりしない態度のかぐや。
「その、かぐや、って?」
ああ、そうか。かぐやって命名したの、私だったっけ。当時、咄嗟の思い付きで。
(そうなの!? てっきり、元々かぐやちゃん、って名まえだって思ってた。あと、思い付きってひどいな)
可愛い名前でしょ? 月から来たからかぐや。かぐや姫。私のかぐや。
(今、湿度があがったぞ)
脳内彩葉のツッコミは無視して、かぐやに話しかける。
「私が決めた。今からあなたはかぐやね」
かぐや、かぐや、と口の中で何度もつぶやいている。
気に入ったのだろう、頬に手を当て、その場で一回転した。
「かぐやかぁ~~うひひひひ」
笑顔のまま、差し出した私の分のオムライスを食べ始める。食べ盛りだからね。
ここで大事なレクチャーをしなければ。
ヤチヨの配信をスワイプして、絵本のページを開く。
「竹取物語っていう、昔からあるお話があるの」
私は、かぐやにゆっくり説明した。
「竹を取って暮らしているおじいさんが、ある日、光る竹を見つけるの。その竹を切ってみると、中に小さな女の子がいた。おじいさんとおばあさんは、その子を大切に育てて、かぐや姫って名前をつけたんだ」
かぐやは、自分の名前に反応して、ぱちぱちと瞬きをした。
「かぐや姫は、すごく早く大きくなって、とてもきれいな女の子になる。だから、たくさんの偉い人たちが、かぐや姫と結婚したいって言いに来るんだけど、かぐや姫はみんなに難しいお願いを出して、誰とも結婚しない」
「どうして?」
「かぐや姫は、本当は地球の人じゃなかったから。月の世界から来た子だったの」
私は少しだけ言葉を選んだ。
「そして、月から迎えが来る。かぐや姫は、おじいさんやおばあさんと別れるのが悲しくて泣くんだけど、地球での記憶を消されて、月へ帰る」
「ふんふん。続きは?」
「おしまい。めでたし」
「おしまい……? 全然めでたしじゃない!! かぐや姫、絶対不幸じゃん! 超バッドエンドじゃん!!」
かぐやはぴょんぴょん飛び跳ねて抗議した。
「やーだー、バッドエンドやーだー ハッピーなのがいいー」
今度は、かぐやはひっくり返って、じたばたと暴れた。
「そうだそうだ! ハッピーエンドがいいー」
私もじたばたした。
「お、おう……」
かぐやが、引いた感じで動きを止めた。
「大丈夫」
きっぱりと宣言する。
「私が、超ハッピーエンドにする。そして、超ハッピーエンドまで、かぐやもヤチヨもみんな連れてく」
「ちょ、超……?」
かぐやが目をしばたたかせる。
「決まってるから変われないなんて、受け入れて、覚悟するなんて、出来ない」
過去の反省の意味も込めて、自分に言い聞かせるようにつぶやく。
かぐやがぽかん、とした表情で、私を見ている。
(なんでヤチヨがそこに出てくるんですか?)
おっとー、いーろはちゃーん、ネタバレはノンノン!
(どうしたんです急に。テンションおかしいですよ更年期ですか)
なんか彩葉の、私に対するツッコミが苛烈になってきた。
「ニンゲンって、そうやって一人に二人入ってるの?」
脳内での会話が、口から洩れていたらしい。かぐやが不思議そうに聞いてきた。
「そうだよ。みんなには秘密だよ」
「子どもに嘘教えんなー」
口に出して、彩葉が否定する。
「お、おう……」
かぐやが、分かったのかどうか、曖昧な返事をする。
秘密にしておいて欲しいのは本当なんだけど。
(それにしては、自由気ままに動きすぎてませんか?)
さて、朝までまだ時間あるし、寝ようかな。
◇ ◇ ◇
朝になった。おはよう。
(おはようございます彩葉さん。あの、かぐやちゃん、いないんですけど)
ああ、それね。
私は一直線に、キッチンのシンクに向かった。
シンクの扉を開けて、
「かぐや!」
「ぎゃっ」
驚かそうとして驚いたのか、ガン、と、かぐやはシンクの天井に頭をぶつけた。
「同じところ打った……」
「見つけたー。今度はいたーー」
シンクにしゃがんでいるかぐやを、ぎゅっ、と抱きしめる。
(スキンシップ激しくない?)
「もう離さない。ペロペロ」
「はーなーしーてー」
腕の中で、かぐやはじたばたと暴れた。
「いやだーー二度と離さないーーー」
(彩葉さんガチ泣きなんですけど。情緒おかしいですよ。やっぱり、更年期……)
かぐや用のご飯、冷食ばかりだと良くないので作り置きでパンケーキを大量に焼く。
「ねーねー、彩葉がいつも観てるこの人誰? 好きなの?」
タブレットに映るヤチヨの配信を指さしてかぐやは尋ねる。
「月見ヤチヨ、っていうAIライバー。ツクヨミの歌姫。女神」
「へえ? AI? ロボットってこと?」
「分身も出来て、歌って踊れて8000才。ちな、実在する」
「ヴェ―! マジ? おもろー」
(だから、子どもは本気にしちゃうから……)
「かぐやの分のスマコンも買ってあるからさ、今度、一緒にツクヨミにライブ観に行こう」
「やったー!」
制服に着替え、通学カバンを手に、
「じゃあ、行ってきます」
「えーー! やだやだ!」
秒ですがりついてきた。並んで立つ目線が同じだ。またでかくなった。もう同い年くらいにしか見えない。
「一緒いてー」
「一緒にいたいけど、学校行かないと彩葉が怒るし……ご飯はそこね」
画期的貧乏飯! 粉と水のパンケーキ!! この味気無さがクセになる!!!
(悪かったですね味気なくて)
かぐやはパンケーキを一枚、一口で食べきって、変な顔色になって、
「――クソまじぃ」
とつぶやいた。本当に不味かったんだろうな。
(悪かったですね不味くて)
彩葉が拗ねだした!!
「やだやだ! 学校ってそんなに大事な訳? かぐやよりも大事なの!?」
私に縋り付いて必死で訴えかけてくる。
「そんなの、かぐやの方が大事だよ。当然じゃん」
真顔で答える。
「命より大事」
「お、おう……」
かぐやが勢いを無くす。
「そうだよね。かぐやを置いて学校行く意味ないよね。よし、学校燃やそう! 私なら出来る!」
(本当に出来そうなのが怖い)
私の本気の表情に、少し怯んだような様子を見せたかぐやは、
「いやー……学校には、行った方が、いいと、思う……かな?」
日和った。
「邪魔する奴らは全部叩き潰して、この部屋を、私とかぐやだけの世界にして、永遠に一緒に暮らそう」
「勉強大事、っていうし、うん! 彩葉は学校に行くべき!」
かぐやに背中を押されて、部屋から追い出された。
せっかくやる気になってきたのに
ちぇーっ
◇ ◇ ◇
放課後。
帰り道、一緒に歩いていた芦花と真実に、新しいカフェに連れていかれた。
そこは、空と大地と人がつながる複合施設、通称「緑の春」。その中にある、お洒落で少々お高いお店。
ああ、思い出した。懐かしいな。
「彩葉ノートで赤点回避記念ー」
「お礼の品でーす」
芦花と真実が声を揃える。
「ご査収くださーい……ってどうしたの? さっきからキョロキョロして」
いぶかしげに真実が私の様子をみて尋ねる。
ええと……いた!
私は、ふわふわ三段重ねパンケーキの皿を素早く持ち上げる。
「――シャッ!」
かぐやのフォークは、あえなく空を切った。
そうそう、下校からずっと、私たちに着いてきちゃってたんだよね。
「行儀悪いよ、かぐや」
ぶー、と膨れた顔のかぐやは、うーいろはー、と小声で言う。
「えー、可愛い。彩葉の友だち?」
「彩葉の服着てるー」
店員さんに声をかけて、椅子をもう一脚持って来てもらう。
「ちゃんと分けてあげるからこっちおいで」
一緒に、パンケーキセットを追加注文。さっきのは芦花と真実のおごりだったけど、これは私の支払いで。
私の前にあった三段重ねの方は、かぐやが自分の手元に引き寄せて、ご満悦な表情になっている。
「パンケーキ好き? はい、これもどうぞ」
芦花が、自分のケーキを差し出す。なんていい子や。
「パンケーキ? これが? 彩葉のと全然違う!」
そうだよね。あれは、水で溶いた小麦粉焼きだ。
(……)
歯ぎしりのような感情が、私の中から伝わってくる。
ごめんて。
「紹介するね。この子はかぐや」
「私、かぐや! 月から来たの! 彩葉と一緒に住んでる!」
(あっ、隙あらば宇宙人だってバラそうとする!)
芦花が手にしていたフォークが落ちて、かたん、と鳴った。
「ええとね、彩葉。一緒に住んでる、って、あのアパートに、だよね? いつから?」
芦花がギギギ、と首を鳴らしてこちらを向く。
ああ、気になるのそっち。
「彩葉のお布団で一緒に寝てる!」
(そっちをバラすのも良くない)
「彩葉……事案……じゃ、ないよね? かぐやちゃんは、何才かな?」
真実がかぐやに話しかける。
「んーー? 0才? 昨日までは彩葉が買ってきた高級おむ――」
「かぐや、一旦、黙ろうか」
やべ〜〜〜かぐやの宇宙人バレよりもやべ〜〜〜何を言おうとしたんだ、かぐや。私の社会的信用が抹殺されてしまう〜〜〜
「おむ……?」
「オムライスオムライス! ええと、ちょっと、いろいろと事情がありまして……今度、誤解が無いように、ちゃんとまとめて説明するから!」
追加で出されたパンケーキを口に押し込んで、かぐやと逃げるようにカフェを出た。
パンケーキは美味しかった。
◇ ◇ ◇
アパートに戻ると、かぐやが晩御飯の用意をしてくれていた。
「あとは、温め直したらいいだけ。ちょっとだけ待っててね、彩葉」
私のウォレットに不正アクセスして高級材料を配達してもらっていたかぐやは、お昼くらいから準備していたみたい。
もちろん、あらかじめ想定済みで、ウォレットには必要と思われる額のフジューしかチャージしていない。かぐやは無茶はしないと思ったけど一応ね。
「まずは、生のトウモロコシから作ったポタージュ。こっちは新ゴボウとアスパラのカリカリサラダ。メインはトマト煮込みハンバーグ。ズッキーニのソテーをそ・え・て!」
かぐやって料理上手なんだよね。かぐやにはいろんな料理を作ってもらった。その一品一品を、私は全部覚えている。忘れられる訳ない。
あの、かぐやと暮らした二ヶ月間は、私にとって、鮮烈な経験を伴った時間だった。ヤチヨには遠く及ばないけど、それでも、私の、その後の10年間の歩みを照らす光だった。
まずは、トウモロコシのポタージュから。
柔らかな黄金色のスープをすくうスプーンの先が、期待と緊張で震える。
「美味しい……」
かぐやが、ピースサインをしてウインクする。
「どやー?」
10年ぶりの想い出の味に、心と身体が喜びに満ちていく。
ポタージュをもうひとすくい。
「かぐや、お料理上手だねえ」
私はポロポロ涙を流した。
「ご飯美味しいねえ」
かぐやの手料理。
あのタワーマンションで、薄暗いキッチンで、捨てることも出来なくて、ずっとただ並んでいただけの調味料たちを思い出した。
これを食べるためだけでも、時間跳躍を成功させた甲斐があった。
美味しい。
美味しい。
涙が止まらない。
(……確かに、美味しいですね)
私の記憶と感情の片鱗が届いたのか、脳内の彩葉17の声も少しだけ震えていた。
「え……そこまで……」
若干、かぐやが引いているように見えた。
「死んでもいいくらい幸せ」
天国はここにあった。
「もうこれで終わってもいい」
しみじみと語る私に、
「え~~~彩葉、死んじゃったらヤダぁ~~~」
かぐやもポロポロと泣き始めた。
感受性高いな。
「人間ってすぐ死ぬじゃん~~」
私は以前に聞いた、ヤチヨの言葉を思い出していた。なんだか可笑しいね。切なくなる。
「分かった分かった。かぐやのご飯食べてたら死なないから。だから、かぐやはこれからも美味しいご飯いっぱい作って」
次は、新ゴボウとアスパラのサラダに取り掛かる。
かぐやは、しばらくの間、私の食べる様子を半泣きで見ていた。
◇ ◇ ◇
私は膨れたお腹をさすりながら、フローリングの床でゴロゴロとしていた。
すぐに機嫌を直したかぐやは、私のノートPCのキーボードを、鼻歌交じりに叩いていた。なにかプログラムを作ってるみたい。
「出来た~! これを、この携帯ゲーム機に移して――あれ?」
ああ、思い出した。かぐや自作のバーチャルペット、犬DOGEか。
最初は、部屋の中に転がっていた、お兄ちゃんからもらった携帯ゲーム機を保存媒体にしたんだよね。
そして、ツクヨミにログインした時には、あのお犬様の姿で顕現することになる。
「ねーねー、彩葉。この携帯ゲーム機、電池無いよ?」
「ああ、ボタン電池の予備はどこだったかな……」
引き出しから、買い置きしてたボタン電池を渡す。
「こーれーでー、犬DOGEといつも一緒にー、って――」
電源を入れたゲーム機の液晶画面をこちらに向けて、かぐやは言う。
「この中に誰かいるよ?」
白黒のドット絵で、ウミウシみたいな……FUSHI!?
『ヨヨヨ~~、くらいよ~~こわいよ~~』
ヤチヨいたぁ————!!
新生編 完
改演編に続く