超かぐや姫R! ~彩葉が二周目チートで超ハッピーエンドに至る話~ 作:そうすけVR
1 ヤチヨとヤチヨ
『じゃじゃーーん! 呼んだ? 心配してた?』
携帯ゲーム機から、外部回線を切ったタブレットへ一旦移動したヤチヨは、実況配信の時のVTuber姿になっていた。さっきまでの鬱々としてた独り言なんてありませんでしてよ? みたいな能天気な声に、少しウザってなった。
心配していない筈は無かった。失敗の可能性、については考えたくもなかったけど、どこか予想外の場所に飛ばされたり、半年ずれたり、なんてのは容易に想像できたから。
FUSHI型偽装外殻をまとったヤチヨは、FUSHIの起点である犬DOGEが元いた携帯ゲーム機へ、因果的に引き寄せられたのだと思う。私とほぼ同じ時期に、ゲーム機の中へデータとして着弾していた。けれど、ゲーム機本体に電池が入っていなかったため再展開できず、一か月間、ずっと閉じ込められてウミウシ状態だったみたいだ。
精神情報体になっているヤチヨは、ローカル接続した端末のあいだを自由に行き来できる。
今は会話しやすいよう、画面の大きいタブレットに出てもらっていた。
『久しぶりにヤッチョに会えて嬉しいかい?』
「はいはい嬉しい嬉しい」
「ねえこれヤチヨなの〜?」
『ヤオヨロ〜♪ ってかぐや!? わっ、彩葉若い!!』
(ええーっ、本当にヤチヨなんですか?)
かぐやがタブレットを指さす。
脳内彩葉が食いつく。
混沌としてきた。
「10年後のヤチヨ。私と一緒に未来から来てたんだ。行方不明だったから黙ってたけど」
(……本物のヤチヨとこうやってお話出来るなんて、感動なんですけど)
「っていうか、この時間跳躍は、そもそも月の技術だから。ヤチヨには地球の技術での再現に、ずっと協力してもらってた、って訳」
「10年後の私とヤチヨに、そんな繋がりが……? 嬉しすぎる……」
脳内彩葉の声が口から出てきてる。
『10年後の彩葉とは、深ーい秘密の関係になってしまっているのです』
ヤチヨが調子にのって、しっとりした声で目を伏せる。
「マジで!?」
彩葉の更なる食いつきがすごい。
私も面白くなってきて、
「ヤチヨの服の下のテクスチャ、データ量すごいよ」
以前、FUSHIのアバターを着て、ヤチヨの仕事を手伝った時のエピソードを語った。
「え……そんなところまで作りこんで……?」
ごくり、と生唾を飲む気配。17才の彩葉には刺激が強すぎたようだ。
『服の下の身体は、彩葉にしか見せてないよ〜〜。チューしたのも彩葉だけ~~』
見せてないも何も、配信の時にヤチヨがふざけてFUSHI化した私を胸元に突っ込んだり、これみよがしにカメラ目線でキスしてみせた時の話な。
――あれ?
なんで私の顔、熱くなってる?
これ、私じゃなくて、脳内彩葉の感情だよね? ドキドキしてきてるんですけどなんで??
『ちょっとだけ見ちゃう?』
着物の合わせの部分に指をかける。心なしか、ヤチヨの鼻息が荒いような気がする。
「若い彩葉に興奮すんなー」
ぶっきらぼうに言う。
『だって~、最近の彩葉、昔みたいに分かりやすくときめいてくれないんだもの~。だから新鮮~』
タブレットの中で、くねくねしながらヤチヨは言う。
実は少しときめいているのだが、それは秘密だ。
(あわわわ)
脳内彩葉の動揺が伝わってくる。
「あわわわ」
かぐやも目をぐるぐるさせて動揺しているっぽい。
この掛け合い、未来の君たちなんだが。
(私の知ってるヤチヨと違う……これ、本当に本物なの?)
そして彩葉が疑い始めている。
今夜は、ツクヨミでのヤチヨのミニライブのチケット(握手券付き)が取れたから、かぐやも連れて初ログインさせようと思ってたんだけどなー、この状態で、私からみて10年前のヤチヨと相対するのか? 大丈夫かこれ?
◇ ◇ ◇
ツクヨミの入口で待ち合わせ。
巨大な鳥居を、湖がぐるりと囲んでいる夜の世界。
今頃かぐやは、チュートリアル担当のヤチヨから、初ログインの説明を受けている筈だ。
「なんだか新鮮だね~~」
私の肩に乗っているのは、耳の色が紫になっている別カラーバリエーションのFUSHIで、中身はヤチヨ。
ログインの直前、ヤチヨにはタブレットから、旧式の携帯ゲーム機へ移ってもらった。
かぐやが持っているのは、犬DOGEを入れたもう一台の携帯ゲームキット。
スマコンは、身に着けている端末のデータを何でもツクヨミへ持ち込むわけではない。特定の携帯ゲーム機に格納されたプログラムだけを、随伴データとして連れてくる特別な経路をツクヨミは用意している、私はそう踏んでいた。
ヤチヨ入りの携帯ゲーム機を身に着けてログインする。
想定どおり、ヤチヨは耳の紫色のFUSHIとして、私と一緒にツクヨミへ入ってきた。
≪こっちもテスト。聞こえる?≫
スマコンのマイクをオフにして、肉声で話す。
≪オッケー、ちゃんと聞こえるよ~~≫
ヤチヨの声が、耳に届く。
現実側では、旧式の携帯ゲーム機とタブレットをローカル接続したままにしている。ツクヨミのサーバーを通さず、現実側の端末を中継してヤチヨと話せるようにしておいた。
ツクヨミ内での音声やり取りがどこまで管理されてるか分からないけど、一応ね。
この古いゲーム機、現実とツクヨミをつなぐ中継器として、思ったより使えるかも知れない。
≪こっちでヤチヨ、って呼ぶとおかしなことになっちゃうね。どうしよう? 偽名使う?≫
≪そうだねぇ……FUSHIのカラーリング違いだから……≫
≪FUSHIのなかのヤチヨ――FUCHOは……?≫
私の提案に、
≪いいね~! フッチョ8000でどう?≫
ヤチヨも乗っかる。
≪8000はいらない≫
≪じゃあ、フッチョね~! よろしく~≫
十年後のヤチヨ改め、フッチョ爆誕の瞬間である!!
肩のフッチョを軽く撫でる。
≪あのさ、ヤチ――フッチョ≫
≪なんだいなんだい?≫
引き続き、マイクはオフのまま、肉声での会話を続ける。
≪FUSHI型偽装外殻のプロテクト機能は、ツクヨミ内でも通用してる? スキャンされて、中の人を見られてる感じはない?≫
≪そういう風に作ったよー。だから、ツクヨミの外部ウイルス検知には引っかかってないよー≫
それなら、と、何気なく続ける。
≪ツクヨミのシステムに、侵入出来ない?≫
≪彩葉、悪い顔してるね~~≫
フッチョは目を細める。
≪でも、ちょっと難しいかな。こっちのヤチヨとFUSHIの監視をくぐり抜けて――あと、サーバーの……≫
≪――うーん≫
言い淀んだフッチョの言葉を続ける。
≪協力者、か≫
≪まあね~≫
ヤチヨのかつての協力者。
『もと光る竹』を正倉院から持ち出し、ヤチヨへ返した、あの人物。
その息子が、どうやら私の恩師だ。
偶然ではない。私が月由来技術の研究へ進むところまで、ある程度は導線が引かれていたのだろう。
研究が妙にサクサク進んだ訳だ。
それは兎も角、
≪そろそろ今の、現実での協力者、誰か教えてよ。10年間、ずっと教えてくれなかったでしょ?≫
≪ふ~ん。何をたくらんでいるのかな?≫
フッチョが意味ありげに囁く。
≪それはもちろん、悪いことだよ?≫
くっくっくっ、と笑う。ウミウシとキツネの化かし合い。
≪さすがに、ちょっと怖くなってきたんですけど? 何? ツクヨミでテロでもするの?≫
おっと脳内彩葉のことを忘れてた。
≪フッチョ、17才の彩葉が、色々と知りすぎてしまったみたい≫
≪おやおや~~。そーかー、ちょっとえっちな口封じの出番かな~~≫
≪怒るよ!!≫
ウソウソ。ごめーん。
と、鳥居型のゲートから、突然かぐやが飛び出してきて、そのままつんのめって顔から転んだ。
あの、動きやすくカットされたポップなデザインの赤い着物姿だ。
うーん、良いなー。現実のかぐやも可愛いけど、こっちの金髪でギャルいVRかぐやも最高!
「もしや!? 彩葉!」
キツネ耳と尻尾を生やした私を、ビシッと指さしてかぐやが言う。
かぐやの後ろで犬DOGEがしっぽを振っている。みんな無事にログイン出来たようだ。
「行こ」
眼前に広がるツクヨミの夜景。かぐやは、おおーっ、と歓声をあげて、街への入り口へと続く階段を駆け上がった。
◇ ◇ ◇
ひとしきり、かぐやにはツクヨミを堪能させた。
ツクヨミで体験する何もかもが、かぐやの興味を引いたようだ。
20時50分にセットしていたアラームが表示される。
「時間だ」
かぐやに声をかける。
さあ、ヤチヨのライブに行こう!
◇ ◇ ◇
ツクヨミ沿岸部ミニライブのステージには、たくさんの人が集まっていた。
実況の忠犬オタ公さんが、カウントダウンを始める。
「10――9――8――」
何もなかった空間、ステージ中央に、巨大な鳥居が顕現する。
「――3――2――1」
ゼロ、のタイミングで鳴り響いた鐘の音と共に、鳥居の上部、ヤチヨがその姿を現した。
「お待たせ!」
おおー、ピュアなヤチヨだ! 凛としてる。可愛い! かっこいい!!
「むむー」
フッチョが不満げに、私の肩でピチピチ跳ねる。
軽いMCの後、歌が始まる。曲は『星の降る海』
――幾千の
静まり返ったステージに、ヤチヨのアカペラが響く。
――時を巡って今 僕ら出会えたの
この頃のヤチヨは、運命を――罪と罰を、一人で全部背負うつもりでいたんだよね。その諦観と覚悟めいた意思が、パフォーマンス自体にも凄みという形で表れている……ような、気がする。
――ほら 見失わないように 手を離さないで
ヤチヨが指をスナップさせる。観客席も含めたステージに色彩が溢れる。VRならではの演出だ。
しかし、歌を聴いていると、口元のニマニマがどうしても抑えられない。
ヤチヨの歌はみんな、一人に向けて作詞されていることを知る人は少ないだろーなー。
(え!? そうなんですか?)
そうだよ。これ全部、私――彩葉に向けて歌ってるよ。
(これ、私だ……って、流石にそんな訳ないでしょう)
脳内で彩葉は笑った。
いや、これは本当。『Remember』なんて、ストーカーかよ、ってくらい彩葉の生活歌ってるんじゃん
(でも、えっ、パンケーキとか……えっ? ヤチヨが? どうして??)
おっと、ふとした会話から真相にたどり着いてしまいそうだぞ!?
(……そろそろ、彩葉さんがこの世界に来た目的も、ちゃんと教えて欲しいです)
そうだね。登場人物も揃って、いよいよ動き出す時期になってきたし、後で全部話すか!!
まあそれはそれとして、これはヤチヨから彩葉に向けたラブソングだから。本当だから。
(いやいやいやいや、そんな訳ないですって!)
――どんな時もきっとどこかで 見守っているからさ
(そんな訳……ないし……)
おっ、刺さってる刺さってる。良かったねヤチヨ!
からかってるつもりだったが、私自身、感動して少し泣いてしまった。
――叶うさ今 物語を巡ろう
ヤチヨが謳い上げる。
「むむー」
かぐやが何か言いたげだ。片目を閉じて、鳥居の上のヤチヨを見ている。
「むむー」
肩のフッチョも何か言いたそう。あれは君じゃん。過去の、純粋だった頃のピュアな気持ちを思い出したか?
『ここでお知らせ! ヤチヨカップ、ってイベントを開催しまーす!』
おっ、告知来たか。かぐやがライバーを始めるきっかけになるやつだ。
一か月の期間中に、新規ファンの獲得数で競う。これ、すでに人気のあるライバーにはいい感じに不利で、良い企画だなー。
『優勝者にはなんと! ヤチヨとのコラボライブの権利を進呈!!』
会場が沸く。
(うっそ! コラボ!!)
脳内彩葉も沸く。
「ねえ彩葉。これって凄いの?」
かぐやが呑気に聞いてくる。
「まあ凄い、のかな? 配信のコラボはあったんだけど、ヤチヨは、ライブではいつも一人で歌ってたから……」
「テンション低いね~~」
フッチョがすまし顔で言う。
「へえ~~じゃあ彩葉、一緒にやろう!」
「よし、やろっか」
(はあ? 私らみたいなモブとやる訳ないじゃん)
脳内彩葉からツッコミが入る。私の肩に乗ってるのもヤチヨなんだが、どうにも同一視は出来ないようだ。
彼女にとっては、やはりツクヨミ内のヤチヨのカリスマ性の方が圧倒的なんだろう。
と、爆走する牛車が会場に乱入する。今回、踏み台になってもらうお兄ちゃんだ!
(踏み台?)
ちょっとね、コテンパンにね。仕方ないんだ。かぐやの為なんだ。
(何を言ってるのか分かりません……)
あらかじめ用意されていたプロモーション動画が流れる。
「また、祭りが始まるな――」
雷さんがつぶやく。
「俺って、今日も作画良すぎ、でしょ!」
乃依くんがプリティでキュートなポーズを決める。
「俺たちに優勝して欲しいよな! 底なしの夢を魅せてやるぜ!」
お兄ちゃんが、両手を大きく広げ、高らかに宣言する。
ぶーっ くすくすくす
頑張れ!
(悪意ありますね……)
◇ ◇ ◇
思い出す。
かぐやが電柱から生まれる一週間ほど前の話。
自宅のアパートにて。
電話は夜遅くになった。脳内彩葉が眠るのを待っていたからだ。
『おっ、彩葉どうしたん? 今度は寿司でも行くか?』
お兄ちゃん、第一声から景気がいいな。
「寿司かー。いいやん! ねえ、もう一人、連れて行ってもいい?」
お兄ちゃんと二人で話していると、今でもふと、実家の京都弁がこぼれる。
『もう一人? あのグルメの友だちか?』
ああ、真実のこと言ってるのかな。
「違うよ。大切な人ができてん。美味しいお寿司、食べさせてあげたい」
『……』
お兄ちゃんは黙った。
「垂れ目で可愛い子。――酒寄家の一族は、その呪縛から外れることは出来ない」
ね! と、言外にお兄ちゃんも! みたいな空気を漂わせてみる。
『……言ってろ』
「今度彼女と会って。きっとお兄ちゃんも気に入ってくれると思うよ」
『お相手は女の人なんやな』
「まあ、それは置いといて」
『置いとくんかよ』
「今度さー、ヤチヨカップあるよねー」
『……』
またお兄ちゃんは黙った。
「ブラックオニキスにも、演出で声かかってると思うんよ」
『……』
お兄ちゃんは沈黙を守っている。
「ヤチヨとのコラボライブさー、私たちがやりたいんだよねー」
『待て待て待て待て、お前、どこまで知ってるんや!?』
「全部。その、私の大切な――かぐや、って言うんだけど、ってか私が名付けたんだけど、その子をライバーにしたい。で、ヤチヨカップを勝ち上がらせたい。私はPやる。そしてヤチヨとコラボする。涙と感動のステージ。そんな御伽噺」
『情報が多すぎる。何一つ理解できへん』
「お願いが三つあって」
『盛りだくさんやな』
「一つ目は、かぐやの名まえ売るために、私たち対ブラックオニキス戦のゲームをマッチングして欲しいんだよねー。あ、そのKASSEN勝負はライブ配信イベントにしたい。二つ目、真剣勝負で私たちが勝った時、ブラックオニキスの商品価値に傷がついたってスポンサーと揉めないよう、事前に根回ししといて。実の妹がプロデュースする新人のデビュー戦に協力する、とかなんとか理由をつけて。勝負自体は、もちろんガチで」
『へえ……自信満々だね』
お兄ちゃんの声が、低くなる。
「私、とっても強くなってん。実力で、お兄ちゃんとやりあえるくらい。でも、真剣勝負でブラックオニキスが勝っちゃっても構わないよ?」
『それは、楽しみやな――』
今の時点では、私がどこまで本気なのか伝わっていないと思うけど、お兄ちゃんはそう言って受諾してくれた。
「三つ目のお願いは、お寿司は築地がいいなー」
『ぶっ飛んでんな』
◇ ◇ ◇
「最高のライブを約束するから、みんなどしどし参加してね~~」
おっ、告知タイムも終わりか。やっぱりこっちのヤチヨもいいなー。
ふと横を見ると、ヤチヨを見上げて、かぐやがぷるぷるしていた。
よし、かぐや行け!
私は、かぐやの背を軽く叩いた。
かぐやは、大きく息を吸って、
「ヤチヨ――――――」
かぐやの声が、ライブ会場に響き渡った。うん、よく通る、いい声だ。
鳥居上のステージにいるヤチヨと目が合った。
認識されたな。
私がツクヨミに出入りしていることは、きっと彼女は、事前に知っている。
そして今回、かぐやも一緒に来たことが伝わった筈。
つまり、
(ヤチヨも、物語が始まったことを知った)
「かぐやがヤチヨカップ優勝する! そんで、絶対コラボライブする!!」
威勢良く言うかぐや。
牛車に乗り込もうとしていたお兄ちゃんとも目があった。
隣のかぐやを見て、少し目を丸くして、ウインクした。
現実とこっちではキャラが違いすぎて、相変わらず笑える。
いろいろあったが、ミニライブは無事終了した。
「ほいでは~、ライブはいったんクローズ! みんなとちょこっとお話させてね! さらば~~い!!」
無数に分裂したヤチヨが、ライブ会場を訪れたファン達に向けて散らばっていく。これもVRならではの演出だなー。
「ねえ彩葉、一緒にやろ!」
かぐやが、私を誘う。
「ムリムリムリ! 小娘が!」
「こーらー」
幼女姿のヤチヨの一体が、私たちの前に降り立った。
≪他の分身ヤチヨと違って、肩にFUSHIを乗せてる。ヤチヨ本体だね≫
マイクをオフにして、ツクヨミ外から肉声で情報共有する。
≪そうだね。彩葉と、かぐやと、私。あの夜のことは、よーく、覚えてるよ≫
≪え!? マジですか!≫
「誰だオマエ」
FUSHIが疑惑の目で私を――私の肩を見て言う。
「フッチョだよ! ヨロ~~」
肩の上でびょんびょん跳ねる。
「ええと、ヤチヨに憧れて、自作でFUSHIっぽいの作ってみたんです……ダメですかね……著作権的にとか……」
「ううん、いいよ~。でも」
小柄なヤチヨが、私の目の前まで歩いてくる。握手券付きだったのだ。私の手を、両手で包み込むように握る。そして、
「あなたは誰?」
心の奥まで覗き込むような目で見上げて、そう訊いてきた。
ふむ。
「――私は、酒寄彩葉」
あなたを、8000年の輪廻から救いに、もう一度やり直すために、未来から来た。
心の中で、そう付け加えた。
見た目では手をつないでいるのに、何も感じない。強く握り返したくても、その強さも、ヤチヨの手の温度も分からない。
なんだかもどかしいな。
(ひゃあーーー)
両手でヤチヨと握手している、というシチュエーションだけで、脳内彩葉はいっぱいいっぱいみたいだった。
「ふーん」
幼女ヤチヨが探るような視線を向けたのは一瞬で、すぐに笑顔へ戻った。
「ヤチヨカップの参加は、ライバー限定なのです!」
「じゃあ、かぐやライバーになる!」
準備準備~~、と言いながら、かぐやはログアウトした。
私はFUSHIを見た。眉間にしわを寄せて、こちらを睨みつけている。
FUSHIに笑いかけると、びくっ、と身体を震わせて、一瞬、泣きそうな表情になった。
「あの、ありがとうございました」
ヤチヨに頭を下げる。
≪ねえ、ヤチヨ≫
肩のフッチョに、ローカル回線で話しかける。
この通話手段、用意しておいて良かったな。
≪なんだい? 彩葉≫
≪FUSHIを、寝返らせよう≫
濡れた橋の上を夜風が吹いている。
ログアウトの間際、幼いヤチヨが、じっと――思い過ごしかも知れないけど、懐かしいものを眺めているかのように――私を見ていたのが視界に入った。
ふと心の中に浮かんだ祈るような気持ちは、誰に向けたものなのか、私にも分からなかった。