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舞台は、剣と魔法の世界。
槍を携えた狩人が、森の奥深くを指す。
「こ、この先です、凶暴なドラゴンが棲み着いたのは!おかげで他のモンスターは逃げ出しちまって、狩人商売あがったり!勇者様、どうかお願いいたします〜!」
頷き、歩き出す勇者。
「この先に、俺のライバルがいるのか」
その隣で微笑む王女。
「伝説の剣と称された勇者様なら、必ず討ち取れるはずです!」
そのまた隣でボヤく戦士。
「このクエスト、チュートリアルやんな?チュートリアルでドラゴン退治は、いきなりハードすぎへんか?」
「おい、メタ発言は控えろと言っただろう!」
「誰もツッコまへん方がおかしいやろ!」
「ダメです、私のために争わないでください!」
「お前は関係ない!」
そう言い合いながらも歩を進め、一行は目的地へと辿り着く。
目の前に現れたのは、とぐろを巻くようにして眠る巨竜と、黒いローブを纏った小さな人影。
ローブの少女は手を差し伸べ、問いかける。
「勇者よ。なにゆえ、その力を振るう?その剣は、何を断つためのものだ?」
「いや早い早い、もうちょい話が盛り上がってからその問いかけせい!?」
勇者も剣に手を掛けて、答えた。
「この剣は、まだ見ぬ強敵(とも)と交え、高め合うためのもの!俺より強い奴を斬りに行く!」
「素敵です、勇者様!」
戦士は目の前の少女を無視して飛び出した。
「ああもうええ、ドラゴンでもトカゲでも、ワシの斧でイチコロや!」
勢いよく振り下ろされた戦斧は、竜の喉元にある鱗に弾かれ、柄の真ん中からポッキリ折れて飛んで行った。
「おーのー」
竜には傷一つ付かなかった。
しかしその瞳は大きく見開かれ、首からは灼熱のブレスが漏れ出ている。
謎の少女はその様を見るや、ローブを翻して一目散に逃げ出した。
「わぁ、起きる前に隠れる予定だったのにぃ!ドラゴンさん、ボクは攻撃しないで、一撃でやられちゃうぅ〜!」
「お前ドラゴンを操ってるとかちゃうんかい!?」
対し、剣を抜いて構える勇者。
「あの一撃を受けて無傷とは……お前こそ、我がライバルにふさわしい!」
「いや相手ドラゴンやぞ!?ライバル欲しきゃ人間にしとき!?」
竜の鼻先が勇者に迫る。その瞬間、王女が勇者の後ろから抜け出して先頭に立った。
「危ないです、勇者様!えーい!」
両手を前に突き出し、炎の息を頭から被る王女。
「ああ王女が勇者庇った!逆やろ普通!」
しかし王女の髪の毛一本さえ、傷付く様子はない。
彼女が突き出す左手が炎を跳ね返しているのだ。
「伝説の剣が、勇者様なら」
呆気にとられる勇者と戦士に、王女は振り向いて右手でピースしながら告げる。
「その対となる伝説の盾とは、私のことです!」
竜はブレスを止め、王女を睨む。
その時、竜の影から現れた人影があった。頭に角を生やし、漆黒の鎧に包まれた長身の女性だ。
「なるほどな……どうやら少しは楽しめそうだ」
「うわあ謎の人が増えた!これで二人目や!」
鎧の女は両手を広げ、堂々と宣言した。
「我こそ、魔王なり!」
「早い早い早い!急展開すぎやろ!」
脇に避けていたローブの少女も、神妙な面持ちで呟く。
「あれが魔王……まさかこんなに早く会えるなんてね」
「同感やけどそんならお前はいったい誰や!?」
竜を見上げて笑う魔王は、高らかに語る。
「この竜こそ我が力の化身!お前らの冒険もここまでだ!」
その言葉に呼応し、咆哮する巨竜。
そして勇者もまた、剣技を以て応えた。
「必殺!ドラゴンバスターVスラッシュver.5!」
「お前はお前で聞いてやれや、てか技名ダサっ!」
地面を抉りながら飛んでいく衝撃波。
またも慌てて避難しようとしたローブの少女が、その余波に煽られて森の奥まで転がっていく。
勇者の必殺技を受けた巨竜は、その巨体を大地に沈めた。
顔を歪める魔王と、わざとらしく口の端を上げる勇者。
「馬鹿な、我が化身が屈するなど、ありえん!」
「これでトドメだ、我がライバルよ!一足先に彼岸で俺を待つといい!」
「いやライバルならもっと大事にせい!?」
と、振り降ろされた勇者の剣がガキンと鳴って弾かれる。
盾となったのは、またも王女だった。
「それは困ります!私はドラゴン退治を盾にして、お城を抜け出してきてるんですから!」
両手を広げて、クルクルと回りながらのたまう王女。
「ここで倒したら、せっかくの旅が終わっちゃいます!私は勇者様と、もっと冒険したいです!」
「そらまだチュートリアルやからな」
戦士のツッコミも意に介さず、指を立てて続ける。
「そうだ、よーく躾けて、旅路の足になって貰いましょう!倒すのはそれからです!」
「言ってることだいぶエグいで」
それを聞いて、勇者は剣を下ろした。
「ふん、そうだったな。しかしなるほど、このおてんば姫との旅路を考えれば、ドラゴン退治もちょうどいいチュートリアルって訳か」
「もう、おてんばなんて!私は花も恥じらうヒロインです!」
ふくれっ面をする王女に、勇者は目を細めて息を漏らした。
「ならドラゴンの次は、人々を脅かす魔王だな。いざ行こう、魔王を倒す旅に!」
「はい!どこまでもお供します!」
「魔王もいるけどなそこに」
その魔王は、地面に倒れ伏していた。
「我の完敗だな。見事だ、勇者よ……ぐふっ」
「なんで!?いつの間に倒れた、お前は無傷やろ!?」
魔王に駆け寄る王女と勇者。
「魔王さん!大丈夫ですか!?」
「まさか、化身たる竜へのダメージがお前にも」
勇者の言葉に、魔王は目を泳がせながら説明した。
「いやゴメン、演技じゃなくて。舞台袖で待ってたら、なんか斧が飛んできてHP(ヒットポイント)9割持ってかれたの」
「あ、すんまへんそれ事故です。毒付与が付いてたんであの斧は」
魔王は荒く息をしながら、勇者へ語りかける。
「そういう訳だから、早くトドメ刺して!こんな退場の仕方じゃ終われないの!」
「だったら魔王らしくしていろ!自我を出すんじゃない!」
そうたしなめる勇者と、子供のように大声で主張する魔王。
「お願いだからカッコよく散らせて〜!毒でやられるなんてヤダ〜!」
「ええい、今望み通りにしてやる!」
歩いて戻って来たローブの少女が、ボロボロになりながらも神妙に嘯く。
「魔王も所詮は一つの命……潔く散るがいい」
「あ、忘れてたわコイツ。どういうシナリオのつもりやねん」
勇者は魔王に向けた剣を、ローブの少女へとくるりと回した。
「おっと、お前も俺のライバルという訳か?」
「あっ違うの、ボクは謎の第三勢力っぽくやりたいだけで、ぜんぜんよわよわだから戦うのとかはナシで!」
両手を上げて降参の構えを取る少女。その傍ら、王女が声を張り上げた。
「魔王さん、まだ倒れちゃダメです!私の力で癒します!」
その言葉と共に、辺りが光に満ちる。それが収まると同時に、魔王はゆっくりと立ち上がった。
「ふ、まさか人間に助けられるとはな」
「うわあ切り替えすごいな」
ローブの少女は腕組みの姿勢に戻り、言葉を溢す。
「これが王女の力だというのか……侮れぬ……」
「お前どっちの味方やねん。キャラ固めとけや」
「だからどっちサイドでもないんだってば!」
その一方で、魔王は勇者へ手を差し伸べ、微笑んだ。
「礼を言うぞ。これからは共に歩もう、勇者達よ」
その手を、力強く繋ぐ勇者。
「ああ!お前も俺のライバルだ!」
「話終わった!ハッピーエンドや!」
と、一段落した所。勇者は戦士へ声を荒げた。
「おい、お前さっきから喋りすぎなんだよ!」
「ツッコまずにいられるかいこれが!ワシはオモロいとこは見逃せへんのや!」
「流れってもんがあるだろが!いちいち外野から茶々を入れやがって!」
「あんたらがボケまくるせいやないかい!」
しばし押し問答の後。勇者はふうと息を吐き、王女に向き直った。
「ところで、気になることがあるんだが」
勇者の持つ剣が、キラリと光る。
「伝説の剣と伝説の盾。ぶつかり合えば、どちらが壊れるんだ?」
王女は一瞬キョトンと口を開けたが、すぐに笑顔に戻り言い放つ。
「私は、貴方の盾です!貴方がそれを望むのなら、受けて立ちましょう!」
ニヤリと笑う両者。勇者の剣と、王女の魔法が空気を震わせる。
「良く言った!それでこそ俺のライバルだ!ならば、全力で行くぞ!」
「はい!ヒロインとして、頑張っちゃいますね!」
かくして、困惑する戦士をよそに衝突する2つの光。
「え?これって……」
一瞬、閃光が走って、轟音が響く。
その場にいたもの達は逃れることはできず、等しく爆発に呑み込まれるのだった。
「結局、爆発オチか〜い!」
「矛盾の解は闇の中か。だが今はまだ、それもいい……」
「ぶつかり合う伝説の錆となる、か……毒のスリップダメージでやられるよりは、絵になる散り際だよね」
かくして、勇者パーティは全滅した。
魔王と謎の少女とドラゴンも巻き添えにして。
***
『THE PLAY IS OVER』
静かに、端末の電源が落ちる。
「ん〜っ、楽しかった!」
フルダイブ型VRMMORPG、ロールプレイヤーズ・オンライン。
その舞台からログアウトした、ヒロイン役だった女性。
ヘルメット型のデバイスを外し、せいせいといった様子で首を振る。
「やっぱりヒロインは強くなくっちゃね!こっそりレベル上げしまくった甲斐があったな〜!」
デバイスを充電ポートに片付けながら、部屋の中でクルクルと回る。
「フレンド登録もできたし、またあの人達とロールプレイしよっ!次はどんなヒロインになろうかな〜」
そして明かりを消すと、ベッドに横たわり、瞼を閉じた。
新たな即興劇を思い描きながら、期待を胸に夢の舞台へと誘われる。
次の開演は、遠くない。
更新はかなり不定期になると思います。
ご了承ください。