仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人―   作:十六夜 蓮

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第10話 盗まれた四次元キューブ

 

 

カバー株式会社のビルは、先ほどのイマジン襲撃によって、一部の壁が大きく破壊されていた。

 

建物の内外では社員たちが慌ただしく動き回り、警備員やマネージャーたちも対応に追われている。

 

「これ、どうするの……?」

 

シオンが崩れた壁を見上げ、不安そうに呟いた。

 

蓮は苦々しい表情を浮かべる。

 

「これからシオンのスケジュール調整に、イマジンが壊した事務所の修繕依頼。それから警察への説明、配信の延期調整、スタッフの安全確認……」

 

指折り数えながら、蓮はニック・フューリーへ視線を向けた。

 

「ホロライブは今、かなり忙しいんです。正直、あなたの相手をしている余裕はありません」

 

フューリーは表情一つ変えずに答えた。

 

「お前が、ある依頼を引き受けるなら、そのすべてをS.H.I.E.L.D.が請け負う」

 

蓮の目が細くなる。

 

「……すべて?」

 

「事務所の修繕、警備の強化、外部への情報統制、関係者の安全確保。必要ならば資金も人員も用意する」

 

シオンが蓮の隣で小さく呟いた。

 

「急に怪しい……」

 

蓮も同じ気持ちだった。

 

条件が良すぎる話には、必ず裏がある。

 

それは怪人が相手でも、政府機関が相手でも変わらない。

 

蓮は少し考えた後、ビルの入口へ向かって歩き始めた。

 

「立ち話も何ですから、こちらへ」

 

フューリーは何も言わず、その後へ続く。

 

シオンも当然のようについてきた。

 

「シオンも行く」

 

「いや、シオンは外で待っていて」

 

「え、何で?」

 

「今回は、少し込み入った話になるから」

 

「だから行くんじゃん」

 

シオンの気持ちは分かる。

 

これ以上、蓮から何かを隠されたくないのだろう。

 

だが、これから交わされる話は、ホロライブの一タレントである紫咲シオンを巻き込むには、あまりにも危険すぎる可能性があった。

 

蓮はビル内の廊下を進み、防音性能の高い会議室の前で足を止めた。

 

「シオンは外で待っていて」

 

「待って、蓮」

 

「すぐに終わるよ」

 

「絶対そういう時、すぐに終わらないじゃん!」

 

蓮はシオンの目を真っすぐ見つめた。

 

「お願い」

 

静かな声だった。

 

シオンはなおも言い返そうとしたが、蓮の表情を見て言葉を飲み込む。

 

「……後で全部話してよ」

 

「話せる範囲で」

 

「全部」

 

「……努力する」

 

「それ、話さないやつじゃん」

 

蓮は困ったように苦笑し、会議室の中へ入った。

 

扉が閉まり、シオンの姿が見えなくなる。

 

蓮は一度深く息を吐き、フューリーへ向き直った。

 

防音室の中は静かだった。

 

外で続いている混乱も、この場所まではほとんど聞こえてこない。

 

蓮は椅子へ座ることなく、フューリーを見据えた。

 

「それで、僕に何の用ですか?」

 

フューリーは懐から数枚の書類を取り出し、会議用のテーブルへ置いた。

 

蓮はそれを手に取る。

 

書かれているのは英語だった。

 

しかし、蓮は問題なく内容を読み進める。

 

S.H.I.E.L.D.の機密文書。

 

研究施設の記録。

 

特殊なエネルギー反応の観測データ。

 

そして、一枚の写真。

 

そこには、青い光を放つ立方体が写っていた。

 

蓮は表情を変えないまま、資料をめくる。

 

「これは?」

 

フューリーが蓮を見た。

 

「お前なら分かるんじゃないのか?」

 

「英語なら普通に読めますけど、そういう意味ではありませんよね」

 

蓮は写真を指先で軽く叩いた。

 

「キャプテン・アメリカと共に、北極海から引き揚げられた四次元キューブ」

 

フューリーの片目が僅かに細くなった。

 

「やはり、知っていたか」

 

「資料で読んだだけです。S.H.I.E.L.D.が保管している正体不明のエネルギー物質」

 

蓮は改めて写真を見た。

 

「正式名称はテッセラクト。ほぼ無限に近いエネルギーを持っているとされる、謎の立方体」

 

そして、書類から顔を上げる。

 

「それが、どうかしたんですか?」

 

フューリーは短く答えた。

 

「盗まれた」

 

蓮の動きが止まった。

 

「……は?」

 

思わず素の声が漏れる。

 

「今、何と言いました?」

 

「盗まれたと言った」

 

「S.H.I.E.L.D.が保管していた四次元キューブが?」

 

「そうだ」

 

「使い方次第では、世界を滅ぼしかねないエネルギー物質を?」

 

「そうだ」

 

蓮は額へ手を当てた。

 

「……管理体制、どうなってるんですか」

 

「文句は後で聞く」

 

「今言わせてください。かなりの大問題ですよ、それ」

 

フューリーは表情を崩さない。

 

「だから、ここへ来た」

 

蓮は資料をさらにめくった。

 

「犯人は?」

 

「別の宇宙から来た男だ」

 

「別の宇宙……」

 

その言葉を聞いた瞬間、蓮の表情が変わった。

 

マルチバース。

 

門矢士からディケイドの力を託されて以来、蓮にとってその言葉は、ただの空想ではなくなっていた。

 

「名前は?」

 

「ロキ」

 

蓮はページをめくる手を止めた。

 

「ロキ……資料で読んだことがあります。ソーの関係者ですよね?」

 

「弟らしい」

 

「らしいって……」

 

「神を自称する連中の家族事情に、詳しくなる趣味はない」

 

「僕もないです」

 

蓮は一度、資料を閉じた。

 

「そのロキが、四次元キューブを持ち出した。それで、あなたは僕に取り戻してほしいと」

 

「そうだ」

 

「S.H.I.E.L.D.には、兵士もエージェントもいるでしょう」

 

「相手は通常の人間ではない」

 

フューリーは蓮の持つ書類を指さした。

 

「さらに、キューブが発したエネルギー反応は、お前が扱う仮面ライダーの力と一部が酷似している」

 

蓮の目が鋭くなる。

 

「似ている?」

 

「正確には、世界同士が干渉する際に発生する反応だ」

 

フューリーは淡々と続けた。

 

「門矢士、デンライナー、ミラーワールド、イマジン。そして、ここ最近東京で確認されている異常存在」

 

蓮は僅かに息を呑んだ。

 

「すべてが、同じ方向を向いている」

 

「……世界が混ざり始めている」

 

「そうだ」

 

蓮は沈黙した。

 

今朝、ミラーワールドからミラーモンスターが現れた。

 

その後、イマジンがシオンを狙い、彼女の過去を破壊しようとした。

 

そして今度は、S.H.I.E.L.D.が保管していた四次元キューブが、別の宇宙から来たロキに奪われた。

 

偶然と呼ぶには、あまりにも出来すぎている。

 

フューリーは蓮を見据えた。

 

「紫咲蓮。お前に、四次元キューブの奪還を依頼する」

 

蓮はしばらく、手元の資料を見つめていた。

 

やがて、僅かに笑う。

 

「今まで色々な怪人と戦ってきましたけど」

 

資料をテーブルへ戻す。

 

「宇宙人は初めてです」

 

「神を自称する宇宙人だ」

 

「もっと面倒じゃないですか」

 

「その通りだ」

 

「そこは否定してほしかった」

 

蓮は椅子へ腰を下ろし、背もたれへ体を預けた。

 

疲れていた。

 

今日一日だけで、どれだけのことが起こったのか。

 

思い返すことすら嫌になる。

 

だが、この依頼を断れる状況ではないことも理解していた。

 

四次元キューブが悪用されれば、被害はホロライブ事務所の壁一枚では済まない。

 

東京。

 

日本。

 

地球。

 

あるいは、それ以上の範囲にまで影響が及ぶ可能性がある。

 

フューリーは続けた。

 

「この依頼を引き受けるなら、ホロライブへの支援は一時的なものではなく、継続して行う」

 

蓮の視線が動く。

 

「継続?」

 

「警備、人員、設備、情報統制、医療支援。怪人や異常存在がカバーを狙う限り、S.H.I.E.L.D.は対応する」

 

「随分と太っ腹ですね」

 

「必要な投資だ」

 

「投資ですか」

 

「お前は、単独で怪人へ対抗できる貴重な戦力だ」

 

フューリーはそこで一度言葉を区切った。

 

「さらに、ホロライブのタレントたちにも、何らかの適性が存在する可能性が高い」

 

蓮の表情が、一瞬で険しくなる。

 

「タレントたちを兵士にするつもりなら、お断りします」

 

「今すぐ、そのつもりはない」

 

「今すぐ?」

 

「未来は、状況次第だ」

 

蓮は椅子から立ち上がった。

 

防音室の空気が、一気に重くなる。

 

「それなら、やはり断ります」

 

フューリーは、立ち上がった蓮を見上げた。

 

「早まるな」

 

「僕はホロライブのマネージャーです」

 

蓮ははっきりと言い切った。

 

「あの人たちを戦場へ送るために、ここにいるわけじゃない」

 

「だからこそ、お前に頼んでいる」

 

蓮は黙った。

 

フューリーは続ける。

 

「お前が動かなければ、S.H.I.E.L.D.は別の手段を取る」

 

蓮の眉が僅かに動いた。

 

「だが、それはお前にとって望ましい形にはならないだろう」

 

「脅しですか?」

 

「現実の話だ」

 

蓮はフューリーを睨みつけた。

 

しかし、フューリーは全く怯まない。

 

「俺は地球を守るために動く。お前はホロライブを守るために動く」

 

鋭い片目が、蓮を真っすぐ捉える。

 

「目的は違う。だが、今は利害が一致している」

 

「……」

 

「どうする。引き受けるのか?」

 

長い沈黙が流れた。

 

蓮は会議室の扉へ一度目を向ける。

 

その向こうには、シオンがいる。

 

今朝まで、蓮が仮面ライダーであることすら知らなかった姉。

 

突然怪人に狙われ、時間を巡る事件へ巻き込まれた。

 

それでも、蓮を一人で戦わせないと言ってくれた姉。

 

そして、このビルの中には、ほかにも大勢の人間がいる。

 

タレント。

 

社員。

 

マネージャー。

 

制作スタッフ。

 

警備員。

 

清掃員。

 

そして、彼らを待つ家族。

 

ホロライブという場所は、配信画面の中だけで成り立っているわけではない。

 

多くの人間が関わり、それぞれの生活と未来が存在している。

 

怪人がその場所を狙うのなら、守らなければならない。

 

蓮は静かに口を開いた。

 

「条件があります」

 

フューリーは、待っていたように頷いた。

 

「言え」

 

「理由は分かりませんが、怪人たちはホロライブを狙い始めている」

 

蓮は扉の向こうにいるシオンを意識しながら続ける。

 

「シオンだけじゃない。今後、ほかのタレントやスタッフも巻き込まれる可能性があります」

 

「そうだろうな」

 

「だから、みんなを守ってほしい」

 

フューリーの片目が僅かに細くなる。

 

「カバーに関わる人間全員を、可能な限り護衛できる体制を作ってください」

 

「全員か?」

 

「タレント、社員、マネージャー、スタッフ。可能なら、その家族も」

 

フューリーは暫く沈黙した。

 

蓮は言葉を続ける。

 

「あなたが言ったんです。支援すると」

 

「言った」

 

「なら、それが僕の条件です」

 

フューリーは腕を組んだ。

 

「分かった」

 

蓮は僅かに目を見開いた。

 

「……随分と早いですね」

 

「必要な要求だ。拒む理由はない」

 

「それなら――」

 

「ただし、問題がある」

 

蓮の表情が変わる。

 

フューリーは淡々と言った。

 

「カバーの関係者は数百人規模だ。さらに家族まで含めれば、対象者は大幅に増える」

 

「それでも、やってもらわないと困ります」

 

「S.H.I.E.L.D.であっても、全員を個別に常時護衛することは難しい」

 

「では、どうするんですか?」

 

「全員へ目が届く場所へ、移動してもらう」

 

蓮は眉をひそめた。

 

「どこへ?」

 

フューリーは迷いなく答える。

 

「お前と共に来てもらう」

 

「……は?」

 

蓮は思わず聞き返した。

 

「今、何と言いました?」

 

「お前と一緒に来てもらうと言った」

 

「誰が?」

 

「カバーの関係者だ」

 

「どこへ?」

 

「S.H.I.E.L.D.の管理下にある、安全施設へ」

 

蓮は額へ手を当てた。

 

「ちょっと待ってください。ホロライブ全体を移動させるつもりですか?」

 

「全員とは言わない。だが少なくとも、今日以降、怪人の標的になる可能性が高い人物には移動してもらう」

 

「配信は? 収録は? 案件は?」

 

「必要な環境は用意する」

 

「そういう問題だけじゃないんですよ」

 

蓮は困惑を隠せないまま、声を上げた。

 

「ホロライブは軍事組織じゃありません。突然『安全施設へ移動してください』と言われて、簡単に動ける場所じゃないんです」

 

「怪人に襲撃され、壁を破壊された事務所で活動を続ける方が危険だ」

 

正論だった。

 

蓮は言葉を返せなかった。

 

フューリーはさらに一枚の書類を取り出し、蓮の前へ置いた。

 

そこには、とある施設の概要が記されている。

 

広大な敷地。

 

複数の居住区。

 

医療設備。

 

通信設備。

 

訓練施設。

 

地下格納庫。

 

そして、S.H.I.E.L.D.が誇る防衛システム。

 

「一時的な避難先だ」

 

フューリーは施設の資料を指し示した。

 

「表向きは、大型合同企画と設備改修に伴う、滞在型収録施設として扱う」

 

蓮は書類へ目を通した。

 

「……根回しが早すぎませんか?」

 

「こういう時のための組織だ」

 

「本当に面倒な組織ですね」

 

「褒め言葉として受け取っておく」

 

「褒めていません」

 

蓮は深く息を吐いた。

 

この提案には、危険もある。

 

S.H.I.E.L.D.の管理下へ入れば、ホロライブは確実に世界規模の異常へ巻き込まれることになる。

 

だが、現在の事務所に残れば、怪人から直接狙われ続ける可能性が高い。

 

どちらを選んでも、完全に安全とは言えない。

 

蓮は、扉の向こうで待つシオンのことを考えた。

 

彼女はきっと怒るだろう。

 

また勝手に決めるなと、言うに違いない。

 

それでも、守るためには動かなければならなかった。

 

「……カバー側への説明は?」

 

「俺がする」

 

「絶対、圧力で押し切るつもりでしょう」

 

「必要ならな」

 

「やめてください。余計に混乱します」

 

蓮は施設の資料を手に取った。

 

「まずは代表と幹部へ話を通す必要があります。タレントたちにも説明しなければならない」

 

そして、資料からフューリーへ目を向ける。

 

「ただし、仮面ライダーやS.H.I.E.L.D.について、どこまで話すのかは慎重に決めるべきです」

 

「お前が説明するのか?」

 

「僕が話した方が、まだ受け入れてもらいやすいと思います」

 

「ならば任せる」

 

「勝手に決めないでください」

 

蓮はそう言いながらも、完全に拒絶はしなかった。

 

フューリーは、それを見逃さない。

 

「依頼を受けるんだな?」

 

蓮は目を閉じた。

 

四次元キューブ。

 

ロキ。

 

S.H.I.E.L.D.

 

ホロライブの護衛。

 

次々と現れる怪人。

 

そして、まだ自らの運命を知らない、仮面ライダーの適合者たち。

 

すべてが一つの大きな流れへ繋がり始めている。

 

蓮はゆっくりと目を開いた。

 

「四次元キューブの奪還は、引き受けます」

 

フューリーは頷いた。

 

「賢明な判断だ」

 

「ただし」

 

蓮は強い口調で言った。

 

「ホロライブの人たちを、戦力や駒として扱ったら――」

 

防音室の空気が張り詰める。

 

「その時は、あなたたちとも戦います」

 

フューリーは何も言わず、蓮をじっと見つめた。

 

やがて、その口元が僅かに動く。

 

「覚えておこう」

 

蓮は手にしていた書類をテーブルへ置いた。

 

「では、まずシオンへ説明してきます」

 

「彼女には、どこまで話すつもりだ?」

 

「全部です」

 

フューリーの眉が僅かに動いた。

 

「口外禁止と言ったはずだ」

 

「もう無理ですよ」

 

蓮は会議室の扉へ歩いていく。

 

「シオンは当事者です。僕の家族で、今日の事件の被害者でもあります」

 

扉へ手をかける。

 

「ここでまた隠し事をしたら、今度こそ本気で怒られます」

 

「姉が怖いのか?」

 

蓮は扉の前で立ち止まり、少しだけ苦笑した。

 

「ロキより怖いかもしれません」

 

そう言って、蓮は会議室の扉を開けた。

 

廊下では、シオンが腕を組んで待っていた。

 

見るからに機嫌が悪い。

 

「遅い」

 

「ごめん」

 

「それで、何の話だったの?」

 

蓮はシオンを見つめた。

 

少し前まで、何も知らなかった姉。

 

けれど、もうシオンを何も知らない日常へ戻すことはできない。

 

蓮は静かに口を開いた。

 

「世界が、少しまずいことになってる」

 

シオンは眉をひそめた。

 

「……少し?」

 

蓮は困ったように笑う。

 

「かなり」

 

その後ろから、フューリーが会議室を出てきた。

 

黒い眼帯の男は、蓮とシオンを見て告げる。

 

「説明の時間だ」

 

シオンは蓮を睨んだ。

 

「今度は隠したら、絶対に許さないから」

 

蓮は真剣な表情で頷く。

 

「うん。全部話す」

 

その日、ホロライブ事務所は、怪人に襲撃されただけでは終わらなかった。

 

S.H.I.E.L.D.が保管していた四次元キューブが奪われた。

 

別の宇宙から来たロキが動き出した。

 

S.H.I.E.L.D.がホロライブへ接触した。

 

そして紫咲蓮は、世界規模の戦いへ足を踏み入れることになった。

 

だが、蓮が最初に守ろうとしたものは、世界ではない。

 

目の前にいる姉。

 

そして、自分にとって大切な居場所。

 

ホロライブだった。

 

 

 

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