仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人―   作:十六夜 蓮

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第12話 空飛ぶ空母へ

 

 

マネージャー室は、瞬く間に慌ただしさを増していた。

 

「タレントの所在確認!」

 

「今日出社しているメンバーは誰!?」

 

「スケジュール表を開いて!」

 

「家族への連絡用テンプレート、誰か作ってください!」

 

「パスポートを持っていない人もいるんじゃないですか!?」

 

「配信中の人は止める? 止めない?」

 

「まずは安全確認が先です!」

 

ほんの少し前まで呆然としていたマネージャーたちは、我に返ったように自分のデスクへ戻った。

 

パソコンを開き、スマートフォンを手に取る。

 

室内には、キーボードを叩く音と通話の声が一斉に響き始めた。

 

蓮も自分のデスクへ腰を下ろし、シオンのスケジュールを表示する。

 

「今日の配信とレッスンは中止。明日以降の案件は……全部調整が必要か」

 

内容を声に出して確認しながら、社内の共有シートへ入力していく。

 

その横では、シオンがキャリーケースを持ったまま、明らかに不機嫌そうな顔をしていた。

 

「蓮」

 

「何?」

 

「これ、本当に行くの?」

 

「行くよ」

 

「今から?」

 

「僕は先にアメリカへ向かわないといけない」

 

シオンの眉がぴくりと動いた。

 

「……は?」

 

「四次元キューブの件があるから。フューリーと一緒に先行する」

 

「シオンは?」

 

「シオンは引っ越しの準備。カバー側の移動準備が整ったら、S.H.I.E.L.D.の護衛付きで――」

 

「蓮」

 

シオンの声が低くなった。

 

蓮はキーボードを打つ手を止める。

 

「何?」

 

「また一人で行くつもり?」

 

蓮は困ったように笑った。

 

「今回は仕事だから」

 

「仮面ライダーの仕事でしょ」

 

「……うん」

 

シオンは不満そうに頬を膨らませた。

 

「さっき、もう隠し事はしないって言ったばかりじゃん」

 

「隠さないよ。でも、シオンたちには移動の準備が必要だし、今すぐ危険な場所へ連れていくわけにはいかない」

 

「むぅ……」

 

シオンは納得していない。

 

けれど、蓮が本気で自分を守ろうとしていることも分かっていた。

 

しばらく蓮を睨んでいたが、やがて諦めたように小さく息を吐く。

 

「……帰ってきたら、説明追加だからね」

 

「うん」

 

「あと、アメリカのネット回線もちゃんと確認して」

 

「最優先で確認するよ」

 

「ゲームができなかったら怒る」

 

「分かった」

 

蓮はスマートフォンを取り出し、シオンへメッセージを送信した。

 

『引っ越しの準備よろしく。必要な物は多めに。ゲーム機も忘れずに』

 

直後、シオンのスマートフォンが鳴る。

 

画面を確認したシオンは、僅かに目を細めた。

 

「ゲーム機も忘れずに、って……分かってるし」

 

「一応ね」

 

「馬鹿蓮」

 

そう言いながらも、シオンの表情は少しだけ柔らかくなっていた。

 

蓮は席から立ち上がり、ライドブッカーを手に取る。

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

「怪我しないで」

 

「できるだけ」

 

「できるだけじゃなくて、しないで」

 

蓮は少しだけ笑った。

 

「分かった。怪我はしない」

 

シオンはまだ不満そうだったが、それ以上は何も言わなかった。

 

 

蓮がマネージャー室を出ると、廊下にはすでに複数のS.H.I.E.L.D.関係者が入り込んでいた。

 

黒いスーツを着たエージェント。

 

大型機材を運び込む作業員。

 

建物の警備範囲や避難経路を確認する者。

 

カバーの社員たちは困惑しながらも、彼らの動きの速さに圧倒されていた。

 

ビルの外へ出ると、入口前に黒塗りの車が停まっている。

 

その横では、ニック・フューリーが腕を組みながら蓮を待っていた。

 

「遅いぞ」

 

「こちらは会社の引っ越し準備まで押しつけられているんですけど」

 

「お前が出した条件だ」

 

「そうですけど、実際に始まると規模がおかしいんですよ」

 

「世界を守るための移動だ。普通の引っ越しと一緒にするな」

 

「ホロライブ側からすれば、普通の引っ越しでも十分に大事件です」

 

フューリーは黒い車のドアを開けた。

 

「行くぞ」

 

「はいはい」

 

蓮は返事をしたものの、車には乗らなかった。

 

代わりに、自分のバイクへ向かって歩き出す。

 

フューリーの片目が鋭く細められた。

 

「おい」

 

「何ですか?」

 

「車に乗れ」

 

「嫌です。僕はバイクで行きます」

 

「成田空港まで走るつもりか?」

 

「そうですよ。こっちの方が気楽なので」

 

フューリーは呆れたように蓮を見た。

 

「お前は、本当に面倒な男だな」

 

「あなたにだけは言われたくありません」

 

蓮はヘルメットを被り、バイクへ跨がった。

 

キーを回すと、エンジンが低い音を響かせる。

 

フューリーは一度だけ深いため息をついたが、それ以上は何も言わず、黒い車へ乗り込んだ。

 

黒塗りの車が先行し、その後方を蓮のバイクが追う。

 

東京の市街地を抜け、高速道路へ入った。

 

強い風が全身へ当たる。

 

蓮はヘルメットの中で、静かに息を吐いた。

 

ミラーモンスター。

 

イマジン。

 

シオンの初配信が行われた過去。

 

そして今度は、四次元キューブとロキ。

 

朝、寝坊したシオンを事務所まで送った時には、まさかこれほどの一日になるとは思ってもいなかった。

 

「……本当に、まだ午前中なんだよな」

 

蓮は思わず呟いた。

 

 

成田空港へ到着した頃には、すでにS.H.I.E.L.D.側の準備はすべて整っていた。

 

一般の利用客が立ち入る搭乗口とは異なる、関係者専用の区画。

 

その先に待機していたのは、通常の旅客機ではなかった。

 

黒く鋭い機体。

 

翼には複数の噴射口があり、機体の各所に軍用兵器を思わせる装備が確認できる。

 

クインジェット。

 

S.H.I.E.L.D.が運用する、高性能航空機だった。

 

蓮がバイクを停めると、待機していた作業員が近づいてきた。

 

「バイクはこちらでお預かりします」

 

「傷をつけないでくださいね」

 

「もちろんです」

 

「本当に?」

 

「厳重に保管します」

 

蓮は少し名残惜しそうに、自分のバイクへ目を向けた。

 

何度もシオンを乗せて走ったバイク。

 

今日も一日の始まりは、このバイクで事務所へ向かうことだった。

 

それを預けて日本を離れるというのは、どこか不思議な気分だった。

 

背後から、フューリーの声が聞こえる。

 

「バイクよりも地球の心配をしろ」

 

「地球も心配していますよ。でも、バイクも大事です」

 

「さっさと乗れ」

 

蓮は肩をすくめ、クインジェットの機内へ乗り込んだ。

 

内部は広く、余計な装飾は存在しない。

 

並べられた座席。

 

複数のモニター。

 

高度な通信設備。

 

壁に設置された武器の収納区画。

 

旅客機というより、完全な軍用機だった。

 

蓮は座席へ腰を下ろし、ライドブッカーを膝の上へ置く。

 

フューリーが向かい側の席へ座った。

 

クインジェットのハッチが閉じられ、機体がゆっくりと移動を始める。

 

蓮は窓の外を眺めながら尋ねた。

 

「それで、四次元キューブをどうやって捜すんですか?」

 

「すでに解析チームが動いている」

 

「仮面ライダーの力でも、キューブの位置までは分かりませんよ」

 

蓮はライドブッカーを軽く持ち上げる。

 

「ディケイドは便利ですが、探知機ではないので」

 

「最初から期待していない」

 

「それはそれで腹が立つな……」

 

フューリーは手元の端末を操作した。

 

「エージェント・ロマノフが、ブルース・バナー博士を連れてくる」

 

蓮は少し考える。

 

「バナー博士……」

 

数秒後、記憶を辿るように「ああ」と声を漏らした。

 

「以前、カバーへ短期間だけ入社していた人ですね」

 

フューリーの手が止まった。

 

「……何?」

 

「確か、技術協力か何かで短期間在籍していたでしょう」

 

蓮は当時のことを思い出しながら話す。

 

「物腰が柔らかくて、ものすごく頭がよくて、でも社員証の写真だけは妙に疲れていた人です」

 

フューリーは目を細めた。

 

「ブルース・バナーが、カバーにいたのか?」

 

「短い期間だけですけどね。配信システムか、モーションキャプチャー関係の相談だったと思います」

 

「なぜ、それを報告しなかった?」

 

「当時はあなたと知り合いではありませんでしたから」

 

「……」

 

「それに、まさか緑色の巨人になる人だとは思わないでしょう」

 

フューリーは低く唸るように言った。

 

「この世界は、本当に面倒だな」

 

「それ、あなたが言います?」

 

その時、クインジェットが滑走路へ進入した。

 

エンジン音が一気に高まり、機体が加速する。

 

強い重力によって、蓮の体が座席へ押しつけられた。

 

次の瞬間、クインジェットは空へ舞い上がる。

 

成田空港が小さくなっていく。

 

日本の街並みが、次第に遠ざかっていった。

 

蓮は窓の外を見つめる。

 

「シオン、まだ怒ってるだろうな……」

 

フューリーが答えた。

 

「怒っているんじゃない。心配しているだけだ」

 

「分かってます」

 

「ならば、戻ればいい」

 

「戻れるなら戻りたいですよ」

 

蓮は軽く息を吐いた。

 

「でも、四次元キューブを放置したら、シオンたちだって危険です」

 

視線を窓の外へ戻す。

 

「だから、行くしかない」

 

「その判断ができるなら十分だ」

 

蓮はフューリーへ視線を向けた。

 

「ほかの戦力は?」

 

「キャプテンについては、コールソンが呼びに行っている」

 

「キャプテン・アメリカ?」

 

「そうだ」

 

蓮は僅かに目を見開いた。

 

資料や映像でしか見たことのない伝説の兵士。

 

第二次世界大戦を戦った英雄。

 

キャプテン・アメリカ。

 

「本当に、氷の中から見つけていたんですね」

 

「すでに目を覚ましている。まだ現代社会には慣れていないが、戦力としては申し分ない」

 

「ちゃんと精神的なケアをしてくださいよ」

 

蓮は呆れたように眉を下げる。

 

「突然七十年後の世界で目覚めて、すぐに戦えなんて、かなり酷い話ですからね」

 

「必要な時代に、必要な兵士が戻ってきただけだ」

 

「そういうところですよ」

 

フューリーは蓮の指摘を無視した。

 

「それと、最も面倒な男にも声をかけてある」

 

蓮はすぐに察した。

 

「ああ、スタークですね」

 

「トニー・スタークだ」

 

「自称、天才、億万長者、プレイボーイ、慈善家」

 

「本人が聞けば喜ぶだろうな」

 

「自分で言いそうですからね」

 

蓮は背もたれへ体を預けた。

 

「キャプテン、バナー博士、スターク。そこへS.H.I.E.L.D.と僕ですか」

 

僅かに遠い目をする。

 

「なかなか濃いメンバーですね」

 

「まだ増える」

 

「増やさないでほしい」

 

「必要なら、ソーも来る」

 

「弟が地球で問題を起こしているんですから、来るでしょうね」

 

蓮は深いため息をついた。

 

「それで、このクインジェットはどこへ向かっているんですか?」

 

フューリーは短く答えた。

 

「ヘリキャリアだ」

 

「ヘリキャリア?」

 

「S.H.I.E.L.D.が運用する空中司令基地だ。そこならば、敵も容易には近づけない」

 

蓮は一瞬だけ真顔になった。

 

「空中にあるんですか?」

 

「そうだ」

 

「巨大な空母が飛ぶんですか?」

 

「そうだ」

 

「それ、敵から見たら逆に目立ちません?」

 

「ステルス機能がある」

 

「便利ですね」

 

「S.H.I.E.L.D.だからな」

 

蓮は窓の外に広がる雲を眺めた。

 

「まあ、鏡の中からモンスターが出てこなければ、安全かもしれませんね」

 

フューリーが蓮を見る。

 

「鏡?」

 

「ミラーワールドです」

 

蓮は当然のように説明を始める。

 

「鏡やガラスなどの反射面から、モンスターが出入りできる世界が存在するんですよ」

 

「……今すぐ、艦内にある鏡をすべて撤去させる」

 

「本当にやるんですか?」

 

「必要な対策だ」

 

「洗面所はどうするんですか?」

 

「監視を置く」

 

「最悪の光景になりますよ」

 

フューリーは本気で端末へ何かを入力し始めた。

 

蓮は頭を抱える。

 

「半分くらい冗談だったんですけど……」

 

「俺は冗談で安全対策を変更しない」

 

「でしょうね」

 

クインジェットは、雲の上を進み続けた。

 

やがて前方に、巨大な影が見え始める。

 

海の上。

 

雲の切れ間。

 

そこには、途方もない大きさの空母が存在していた。

 

現在は海面に浮かんでいる。

 

しかし、その艦体が通常の空母とは異なることは、遠目からでも明らかだった。

 

クインジェットが近づくにつれ、その全貌がはっきりと見えてくる。

 

広大な滑走路。

 

巨大な管制塔。

 

甲板に並ぶ無数の航空機。

 

そして、艦体の各所に格納された、巨大なローター機構。

 

蓮は窓へ顔を近づけ、思わず呟いた。

 

「……本当に、これが飛ぶんだ」

 

フューリーは座席から立ち上がった。

 

「ようこそ、ヘリキャリアへ」

 

クインジェットが着艦態勢へ入る。

 

蓮はライドブッカーを手に取り、窓の外に広がる巨大空母を見つめた。

 

ここから先は、もうホロライブ事務所の中だけで完結する戦いではない。

 

世界を守る英雄たち。

 

宇宙から現れた神。

 

奪われた四次元キューブ。

 

そして、世界を渡る仮面ライダー。

 

蓮は小さく息を吐いた。

 

「シオンに説明することが、また増えたな……」

 

クインジェットが、ヘリキャリアの甲板へ着地する。

 

新たな戦いの舞台へ。

 

紫咲蓮は、今まさに足を踏み入れようとしていた。

 

 

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