仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人― 作:十六夜 蓮
クインジェットのハッチが開くと、強い潮風が機内へ吹き込んできた。
蓮は甲板へ降り立つと、凝り固まった体をほぐすように大きく伸びをした。
「んー……。飛行機での移動って、やっぱり肩が凝るな」
目の前には、S.H.I.E.L.D.のヘリキャリアが広がっていた。
巨大な甲板。
忙しなく動き回るエージェントたち。
艦載機の整備を進める作業員。
管制塔から飛び交う、絶え間ない指示。
一見すれば、海上に浮かぶ巨大空母と変わらない。
だが、この艦は間もなく、海を離れて空へ浮かび上がる。
蓮は周囲を見回しながら、隣へ降り立ったフューリーに尋ねた。
「ホロライブのみんなは、いつ頃こちらへ来るんですか?」
フューリーは手元の端末を確認しながら答える。
「早ければ、明日から順次到着する」
「本当に、みんなを移動させるんですね」
「移送対象者から順番にだ。タレント、マネージャー、必要なスタッフと技術班。カバー側の準備が整い次第、S.H.I.E.L.D.が護衛をつけて移送する」
「了解です」
蓮は短く返事をした。
シオンも、早ければ明日には来る。
そう考えると、少しだけ安心できた。
一人で先行することになったとはいえ、長い間離れ離れになるわけではない。
だが、同時に胃が重くなる。
やって来るのは、シオンだけではない。
ホロライブのタレントたちが、このヘリキャリアやS.H.I.E.L.D.の管理施設へ集まるのだ。
仮面ライダー。
怪人。
宇宙人。
時間移動。
そして、世界を守るための戦い。
何も知らない彼女たちへ、これから何をどのように説明すればいいのか。
蓮は小さく息を吐いた。
「説明、大変だろうな……」
その時、甲板の向こうから、新たなジェットエンジンの音が響いた。
蓮が顔を上げる。
もう一機のクインジェットが、ヘリキャリアへ向かって降下してくるところだった。
作業員たちが誘導灯を振り、着陸位置を示す。
機体は徐々に高度を下げ、甲板へ静かに着陸した。
エンジン音が弱まり、後部ハッチが開く。
最初に降りてきたのは、青いジャケットを着た大柄な男だった。
真っすぐに伸びた背筋。
一切の無駄がない歩き方。
古い時代の軍人を思わせる雰囲気を纏いながらも、その瞳には、見知らぬ現代へ必死に適応しようとする静かな強さが宿っている。
スティーブ・ロジャース。
第二次世界大戦を戦った伝説の兵士。
キャプテン・アメリカ。
スティーブは甲板にいた蓮を見つけると、僅かに目を細めた。
「君がディケイドか?」
蓮は少し困ったように笑った。
「まあ、ディケイドです」
スティーブは蓮の前まで歩いてくると、右手を差し出した。
「スティーブ・ロジャースだ」
蓮も手を伸ばし、差し出された手を握る。
握手を交わした瞬間、その力強さに僅かに驚いた。
「紫咲蓮です。よろしくお願いします」
「ああ。資料には目を通した」
スティーブは蓮の姿を観察するように見た。
「日本で怪人と戦っている、仮面ライダーだと聞いている」
「キャプテン・アメリカに戦闘記録を読まれるなんて、光栄ですね」
蓮が冗談めかして言うと、スティーブは僅かに笑みを浮かべた。
「君の記録は、なかなか興味深かった」
「興味深い?」
「怪人、別世界の力、時間移動――」
スティーブは少し遠い目をする。
「現代という時代は、本当に複雑らしい」
「キャプテンの時代には、なかったんですか?」
「少なくとも、バイクで会社へ向かった青年が、その日の午前中に時間を越え、昼前には空飛ぶ空母へ乗るような報告書はなかった」
「僕も、こんな一日は初めてですよ」
蓮が肩をすくめると、スティーブは真剣な表情で頷いた。
「それを聞いて、少し安心した」
二人が握手を終えると、スティーブの後ろから一人の女性が降りてきた。
黒い戦闘服。
赤い髪。
周囲を警戒する鋭い目。
そして、一切の隙を感じさせない無駄のない身のこなし。
ナターシャ・ロマノフ。
ブラック・ウィドウ。
蓮は彼女の姿を見ると、僅かに目を細めた。
「一か月ぶりですね、ロマノフさん」
ナターシャは薄く微笑んだ。
「あら。覚えていてくれたの?」
「忘れませんよ」
蓮は呆れたように答える。
「カバーへ短期スタッフとして入ってきた人が、妙に仕事をこなしすぎていて怪しかったので」
「私は普通に働いていたつもりだけど?」
「普通の短期スタッフは、初日で社内の導線と、警備カメラの死角を全部把握しません」
ナターシャは悪びれることなく肩をすくめた。
「職業病ね」
「まさか、あの時から監視されていたとは思いませんでしたよ」
「監視じゃないわ。観察よ」
「言い方を変えても、ほとんど同じです」
ナターシャは微笑んだまま、それ以上は答えなかった。
その後ろから、もう一人の男性がクインジェットを降りてくる。
僅かに猫背で、周囲を警戒するように視線を動かしている。
どこか落ち着かない様子だったが、その目には極めて鋭い知性が宿っていた。
ブルース・バナー。
ガンマ線研究の第一人者。
そして、怒りによって緑色の巨人へ姿を変える男。
蓮は彼の姿に気づくと、スティーブと共に近づいた。
「バナー博士」
バナーは僅かに驚き、蓮へ顔を向けた。
「ああ。君は……」
「紫咲蓮です。以前、カバーでお会いしましたよね」
「ああ、そうだった」
バナーの表情から、僅かに警戒が薄れる。
「短い期間だったけど覚えているよ。君は確か、紫咲シオンのマネージャーだった」
「今も担当しています」
蓮は右手を差し出した。
バナーは少しだけ躊躇した後、その手を握る。
隣にいたスティーブも、続いて右手を差し出した。
「スティーブ・ロジャースだ」
「ブルース・バナー。よろしく」
二人は短く握手を交わした。
蓮はバナーから手を離すと、早速本題へ入る。
「フューリーから聞きました。博士なら、四次元キューブのガンマ線反応を追跡できると」
バナーは一瞬だけ、蓮の顔を見つめた。
そして、少し皮肉を含んだ笑みを浮かべる。
「僕について聞いていることは、それだけかい?」
蓮はすぐに、その言葉の意味を察した。
ブルース・バナー。
ガンマ線の事故。
怒りや強いストレスによって現れる、もう一人の存在。
ハルク。
S.H.I.E.L.D.が自分をどのように見ているのか。
世界中の人間が、自分の内側にいる存在をどれほど恐れているのか。
それを、バナー自身が誰よりも理解している。
蓮は少し考えた後、正直に答えた。
「ハルクについても聞いています」
バナーの表情が僅かに硬くなる。
蓮は言葉を続けた。
「でも、僕はハルクを切り札だと思っています」
「切り札?」
「怪物ではなく、最後の手段。そういう意味です」
バナーはしばらく、蓮の顔を見つめていた。
「……君は変わっているね」
「よく言われます」
「怖くないのかい?」
「怖いですよ」
蓮は即答した。
「人間、怒らせたら何をするか分からない人は、だいたい怖いですから」
バナーは僅かに眉を上げる。
「それは、僕のことかな?」
「フューリーもスタークも含めてです」
ナターシャが、横で小さく笑い声を漏らした。
フューリーは無表情のまま蓮を睨む。
「余計なことを言うな」
「事実ですよ」
バナーは二人のやり取りを見て、僅かに肩の力を抜いた。
その時、ナターシャが甲板の向こうへ視線を向ける。
「そろそろ、艦内へ入った方がいいわ」
スティーブが彼女を見る。
「どうしてだ?」
「ここにいると、呼吸がしづらくなるから」
蓮はナターシャの言葉の意味を察し、甲板の床へ目を向けた。
直後、艦内放送が鳴り響く。
『全作業員へ。デッキの安全を確保せよ』
『繰り返す。デッキの安全を確保せよ』
周囲の作業員たちが一斉に動き始める。
艦載機を甲板へ固定する者。
機材を格納庫へ運ぶ者。
急いで甲板から退避する者。
巨大な船体の各所から、低く重い駆動音が響き始めた。
スティーブは周囲を見回し、眉をひそめる。
「この艦は、潜水艦なのか?」
バナーは甲板の端へ近づき、海面を覗き込んだ。
そして、僅かに顔を引きつらせる。
「なるほど」
スティーブがバナーを見る。
「どうした?」
「僕を巨大な金属の箱へ入れて、海の底へ沈めようってわけか」
蓮は首を横へ振った。
「いや、ヘリだと聞いていますよ」
「ヘリ?」
バナーが蓮を見る。
「フューリーは、ヘリキャリアと呼んでいました」
「ヘリキャリア……?」
その瞬間。
船体の側面から、巨大なローター機構が展開された。
重厚な金属音が響き、周囲の海面が激しく波打つ。
格納されていた巨大な羽根が、ゆっくりと回転を始めた。
一基。
二基。
三基。
四基。
回転速度が上がるにつれて、轟音が周囲を包み込んでいく。
海そのものを押し退けるような暴風が吹き荒れた。
蓮は思わず両耳を押さえる。
「うわっ……! 実際に見ると、すごいな……!」
甲板全体が大きく震えた。
ヘリキャリアの船体が、ゆっくりと海面から離れ始める。
船体に付着していた海水が、巨大な滝のように海へ流れ落ちていった。
あり得ないほどの質量を持つ巨大空母が、重力に逆らい、空へ浮かび上がっていく。
スティーブは無言で、その光景を見つめていた。
七十年前には存在しなかった技術。
現代の科学。
現代の軍事力。
そして、現代に存在する異常。
そのすべてを象徴するかのような光景だった。
バナーは顔を引きつらせながら呟く。
「……潜水艦の方が、まだマシだった」
蓮は隣で苦笑した。
「僕も同感です。落ちた時のことを考えると、空飛ぶ空母の方が怖い」
背後に立っていたフューリーが言う。
「落ちることはない」
蓮とバナーが同時に振り返った。
蓮が呆れたように答える。
「そういうことを言うと、落ちる前触れになりますよ」
バナーも小さく頷いた。
「僕も、そう思う」
フューリーは二人を見比べ、淡々と告げた。
「艦内へ入れ。ブリーフィングを始める」
ナターシャはすでに歩き始めていた。
スティーブも、その後へ続く。
バナーはもう一度だけ甲板の端から下を眺め、諦めたように息を吐いた。
蓮は、空へ浮かび上がっていくヘリキャリアから周囲を見渡した。
海面が遠ざかっていく。
空が、次第に近づいてくる。
巨大な空母は、雲の中へ入り始めていた。
ここが、これからの戦いの拠点となる。
ロキ。
四次元キューブ。
S.H.I.E.L.D.
キャプテン・アメリカ。
ハルク。
ブラック・ウィドウ。
そして、仮面ライダーディケイド。
蓮はライドブッカーを軽く握り直した。
「……さて」
誰にも聞こえないほどの声で、小さく呟く。
「今度は、宇宙人退治か」
その声は、ヘリキャリアの轟音に紛れて消えていった。
蓮はフューリーたちを追い、艦内へ足を踏み入れる。
世界を守るための戦いが、いよいよ本格的に始まろうとしていた。