仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人―   作:十六夜 蓮

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第13話 伝説の兵士と緑の博士

 

 

クインジェットのハッチが開くと、強い潮風が機内へ吹き込んできた。

 

蓮は甲板へ降り立つと、凝り固まった体をほぐすように大きく伸びをした。

 

「んー……。飛行機での移動って、やっぱり肩が凝るな」

 

目の前には、S.H.I.E.L.D.のヘリキャリアが広がっていた。

 

巨大な甲板。

 

忙しなく動き回るエージェントたち。

 

艦載機の整備を進める作業員。

 

管制塔から飛び交う、絶え間ない指示。

 

一見すれば、海上に浮かぶ巨大空母と変わらない。

 

だが、この艦は間もなく、海を離れて空へ浮かび上がる。

 

蓮は周囲を見回しながら、隣へ降り立ったフューリーに尋ねた。

 

「ホロライブのみんなは、いつ頃こちらへ来るんですか?」

 

フューリーは手元の端末を確認しながら答える。

 

「早ければ、明日から順次到着する」

 

「本当に、みんなを移動させるんですね」

 

「移送対象者から順番にだ。タレント、マネージャー、必要なスタッフと技術班。カバー側の準備が整い次第、S.H.I.E.L.D.が護衛をつけて移送する」

 

「了解です」

 

蓮は短く返事をした。

 

シオンも、早ければ明日には来る。

 

そう考えると、少しだけ安心できた。

 

一人で先行することになったとはいえ、長い間離れ離れになるわけではない。

 

だが、同時に胃が重くなる。

 

やって来るのは、シオンだけではない。

 

ホロライブのタレントたちが、このヘリキャリアやS.H.I.E.L.D.の管理施設へ集まるのだ。

 

仮面ライダー。

 

怪人。

 

宇宙人。

 

時間移動。

 

そして、世界を守るための戦い。

 

何も知らない彼女たちへ、これから何をどのように説明すればいいのか。

 

蓮は小さく息を吐いた。

 

「説明、大変だろうな……」

 

その時、甲板の向こうから、新たなジェットエンジンの音が響いた。

 

蓮が顔を上げる。

 

もう一機のクインジェットが、ヘリキャリアへ向かって降下してくるところだった。

 

作業員たちが誘導灯を振り、着陸位置を示す。

 

機体は徐々に高度を下げ、甲板へ静かに着陸した。

 

エンジン音が弱まり、後部ハッチが開く。

 

最初に降りてきたのは、青いジャケットを着た大柄な男だった。

 

真っすぐに伸びた背筋。

 

一切の無駄がない歩き方。

 

古い時代の軍人を思わせる雰囲気を纏いながらも、その瞳には、見知らぬ現代へ必死に適応しようとする静かな強さが宿っている。

 

スティーブ・ロジャース。

 

第二次世界大戦を戦った伝説の兵士。

 

キャプテン・アメリカ。

 

スティーブは甲板にいた蓮を見つけると、僅かに目を細めた。

 

「君がディケイドか?」

 

蓮は少し困ったように笑った。

 

「まあ、ディケイドです」

 

スティーブは蓮の前まで歩いてくると、右手を差し出した。

 

「スティーブ・ロジャースだ」

 

蓮も手を伸ばし、差し出された手を握る。

 

握手を交わした瞬間、その力強さに僅かに驚いた。

 

「紫咲蓮です。よろしくお願いします」

 

「ああ。資料には目を通した」

 

スティーブは蓮の姿を観察するように見た。

 

「日本で怪人と戦っている、仮面ライダーだと聞いている」

 

「キャプテン・アメリカに戦闘記録を読まれるなんて、光栄ですね」

 

蓮が冗談めかして言うと、スティーブは僅かに笑みを浮かべた。

 

「君の記録は、なかなか興味深かった」

 

「興味深い?」

 

「怪人、別世界の力、時間移動――」

 

スティーブは少し遠い目をする。

 

「現代という時代は、本当に複雑らしい」

 

「キャプテンの時代には、なかったんですか?」

 

「少なくとも、バイクで会社へ向かった青年が、その日の午前中に時間を越え、昼前には空飛ぶ空母へ乗るような報告書はなかった」

 

「僕も、こんな一日は初めてですよ」

 

蓮が肩をすくめると、スティーブは真剣な表情で頷いた。

 

「それを聞いて、少し安心した」

 

二人が握手を終えると、スティーブの後ろから一人の女性が降りてきた。

 

黒い戦闘服。

 

赤い髪。

 

周囲を警戒する鋭い目。

 

そして、一切の隙を感じさせない無駄のない身のこなし。

 

ナターシャ・ロマノフ。

 

ブラック・ウィドウ。

 

蓮は彼女の姿を見ると、僅かに目を細めた。

 

「一か月ぶりですね、ロマノフさん」

 

ナターシャは薄く微笑んだ。

 

「あら。覚えていてくれたの?」

 

「忘れませんよ」

 

蓮は呆れたように答える。

 

「カバーへ短期スタッフとして入ってきた人が、妙に仕事をこなしすぎていて怪しかったので」

 

「私は普通に働いていたつもりだけど?」

 

「普通の短期スタッフは、初日で社内の導線と、警備カメラの死角を全部把握しません」

 

ナターシャは悪びれることなく肩をすくめた。

 

「職業病ね」

 

「まさか、あの時から監視されていたとは思いませんでしたよ」

 

「監視じゃないわ。観察よ」

 

「言い方を変えても、ほとんど同じです」

 

ナターシャは微笑んだまま、それ以上は答えなかった。

 

その後ろから、もう一人の男性がクインジェットを降りてくる。

 

僅かに猫背で、周囲を警戒するように視線を動かしている。

 

どこか落ち着かない様子だったが、その目には極めて鋭い知性が宿っていた。

 

ブルース・バナー。

 

ガンマ線研究の第一人者。

 

そして、怒りによって緑色の巨人へ姿を変える男。

 

蓮は彼の姿に気づくと、スティーブと共に近づいた。

 

「バナー博士」

 

バナーは僅かに驚き、蓮へ顔を向けた。

 

「ああ。君は……」

 

「紫咲蓮です。以前、カバーでお会いしましたよね」

 

「ああ、そうだった」

 

バナーの表情から、僅かに警戒が薄れる。

 

「短い期間だったけど覚えているよ。君は確か、紫咲シオンのマネージャーだった」

 

「今も担当しています」

 

蓮は右手を差し出した。

 

バナーは少しだけ躊躇した後、その手を握る。

 

隣にいたスティーブも、続いて右手を差し出した。

 

「スティーブ・ロジャースだ」

 

「ブルース・バナー。よろしく」

 

二人は短く握手を交わした。

 

蓮はバナーから手を離すと、早速本題へ入る。

 

「フューリーから聞きました。博士なら、四次元キューブのガンマ線反応を追跡できると」

 

バナーは一瞬だけ、蓮の顔を見つめた。

 

そして、少し皮肉を含んだ笑みを浮かべる。

 

「僕について聞いていることは、それだけかい?」

 

蓮はすぐに、その言葉の意味を察した。

 

ブルース・バナー。

 

ガンマ線の事故。

 

怒りや強いストレスによって現れる、もう一人の存在。

 

ハルク。

 

S.H.I.E.L.D.が自分をどのように見ているのか。

 

世界中の人間が、自分の内側にいる存在をどれほど恐れているのか。

 

それを、バナー自身が誰よりも理解している。

 

蓮は少し考えた後、正直に答えた。

 

「ハルクについても聞いています」

 

バナーの表情が僅かに硬くなる。

 

蓮は言葉を続けた。

 

「でも、僕はハルクを切り札だと思っています」

 

「切り札?」

 

「怪物ではなく、最後の手段。そういう意味です」

 

バナーはしばらく、蓮の顔を見つめていた。

 

「……君は変わっているね」

 

「よく言われます」

 

「怖くないのかい?」

 

「怖いですよ」

 

蓮は即答した。

 

「人間、怒らせたら何をするか分からない人は、だいたい怖いですから」

 

バナーは僅かに眉を上げる。

 

「それは、僕のことかな?」

 

「フューリーもスタークも含めてです」

 

ナターシャが、横で小さく笑い声を漏らした。

 

フューリーは無表情のまま蓮を睨む。

 

「余計なことを言うな」

 

「事実ですよ」

 

バナーは二人のやり取りを見て、僅かに肩の力を抜いた。

 

その時、ナターシャが甲板の向こうへ視線を向ける。

 

「そろそろ、艦内へ入った方がいいわ」

 

スティーブが彼女を見る。

 

「どうしてだ?」

 

「ここにいると、呼吸がしづらくなるから」

 

蓮はナターシャの言葉の意味を察し、甲板の床へ目を向けた。

 

直後、艦内放送が鳴り響く。

 

『全作業員へ。デッキの安全を確保せよ』

 

『繰り返す。デッキの安全を確保せよ』

 

周囲の作業員たちが一斉に動き始める。

 

艦載機を甲板へ固定する者。

 

機材を格納庫へ運ぶ者。

 

急いで甲板から退避する者。

 

巨大な船体の各所から、低く重い駆動音が響き始めた。

 

スティーブは周囲を見回し、眉をひそめる。

 

「この艦は、潜水艦なのか?」

 

バナーは甲板の端へ近づき、海面を覗き込んだ。

 

そして、僅かに顔を引きつらせる。

 

「なるほど」

 

スティーブがバナーを見る。

 

「どうした?」

 

「僕を巨大な金属の箱へ入れて、海の底へ沈めようってわけか」

 

蓮は首を横へ振った。

 

「いや、ヘリだと聞いていますよ」

 

「ヘリ?」

 

バナーが蓮を見る。

 

「フューリーは、ヘリキャリアと呼んでいました」

 

「ヘリキャリア……?」

 

その瞬間。

 

船体の側面から、巨大なローター機構が展開された。

 

重厚な金属音が響き、周囲の海面が激しく波打つ。

 

格納されていた巨大な羽根が、ゆっくりと回転を始めた。

 

一基。

 

二基。

 

三基。

 

四基。

 

回転速度が上がるにつれて、轟音が周囲を包み込んでいく。

 

海そのものを押し退けるような暴風が吹き荒れた。

 

蓮は思わず両耳を押さえる。

 

「うわっ……! 実際に見ると、すごいな……!」

 

甲板全体が大きく震えた。

 

ヘリキャリアの船体が、ゆっくりと海面から離れ始める。

 

船体に付着していた海水が、巨大な滝のように海へ流れ落ちていった。

 

あり得ないほどの質量を持つ巨大空母が、重力に逆らい、空へ浮かび上がっていく。

 

スティーブは無言で、その光景を見つめていた。

 

七十年前には存在しなかった技術。

 

現代の科学。

 

現代の軍事力。

 

そして、現代に存在する異常。

 

そのすべてを象徴するかのような光景だった。

 

バナーは顔を引きつらせながら呟く。

 

「……潜水艦の方が、まだマシだった」

 

蓮は隣で苦笑した。

 

「僕も同感です。落ちた時のことを考えると、空飛ぶ空母の方が怖い」

 

背後に立っていたフューリーが言う。

 

「落ちることはない」

 

蓮とバナーが同時に振り返った。

 

蓮が呆れたように答える。

 

「そういうことを言うと、落ちる前触れになりますよ」

 

バナーも小さく頷いた。

 

「僕も、そう思う」

 

フューリーは二人を見比べ、淡々と告げた。

 

「艦内へ入れ。ブリーフィングを始める」

 

ナターシャはすでに歩き始めていた。

 

スティーブも、その後へ続く。

 

バナーはもう一度だけ甲板の端から下を眺め、諦めたように息を吐いた。

 

蓮は、空へ浮かび上がっていくヘリキャリアから周囲を見渡した。

 

海面が遠ざかっていく。

 

空が、次第に近づいてくる。

 

巨大な空母は、雲の中へ入り始めていた。

 

ここが、これからの戦いの拠点となる。

 

ロキ。

 

四次元キューブ。

 

S.H.I.E.L.D.

 

キャプテン・アメリカ。

 

ハルク。

 

ブラック・ウィドウ。

 

そして、仮面ライダーディケイド。

 

蓮はライドブッカーを軽く握り直した。

 

「……さて」

 

誰にも聞こえないほどの声で、小さく呟く。

 

「今度は、宇宙人退治か」

 

その声は、ヘリキャリアの轟音に紛れて消えていった。

 

蓮はフューリーたちを追い、艦内へ足を踏み入れる。

 

世界を守るための戦いが、いよいよ本格的に始まろうとしていた。

 

 

 

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