仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人―   作:十六夜 蓮

14 / 40
第14話 神の出現

 

 

ヘリキャリア内部の通路を進んだ先には、巨大なブリッジが広がっていた。

 

案内された蓮たちは、その光景を前に思わず足を止める。

 

巨大なフロントガラスの向こうに見えるのは、どこまでも広がる青空。

 

ここは海上ではない。

 

地上でもない。

 

雲の上を飛行する、巨大な空母の内部だった。

 

それだけでも十分に現実離れしている。

 

しかし、ブリッジでは数十人ものクルーが、そんな状況を当然のこととして忙しなく動き回っていた。

 

各部との通信を繋ぐ者。

 

レーダーを確認する者。

 

途切れることなくキーボードを叩き続ける者。

 

壁一面を覆うモニターには、世界各地の地図や衛星映像、監視カメラの映像、特殊なエネルギー反応の数値が表示されていた。

 

スティーブは、その光景を眺めながら僅かに目を細める。

 

「……これが、現代の司令室か」

 

隣に立つ蓮は、困ったように苦笑した。

 

「僕も見るのは初めてです。たぶん、普通に暮らしている現代人でも、こんな場所には入りません」

 

「それを聞いて、少し安心した」

 

「キャプテンが普通の現代人の感覚に慣れる日は、まだ遠そうですね」

 

「努力はしている」

 

真面目な顔で答えるスティーブに、蓮は小さく笑った。

 

そんな二人の横で、バナーはブリッジ全体を静かに見回していた。

 

表面上は落ち着いている。

 

だが、その瞳は警戒を解いていなかった。

 

巨大な空中要塞。

 

周囲を埋め尽くすS.H.I.E.L.D.のクルー。

 

そして、簡単には逃げ出せない閉鎖空間。

 

彼にとって、心から安心できる場所ではないのだろう。

 

フューリーはバナーの前へ歩み寄ると、右手を差し出した。

 

「よく来てくれた、博士」

 

バナーは穏やかな笑みを浮かべ、その手を握る。

 

「僕に選択肢があったようには思えないけどね」

 

「君の協力が必要だ」

 

「そう言われると、少しは気分がよくなる」

 

口元には笑みがある。

 

だが、その目は笑っていなかった。

 

握手を終えたバナーは、すぐに尋ねる。

 

「それで、僕はいつ帰れるのかな?」

 

フューリーは即答した。

 

「四次元キューブが我々のもとへ戻れば、すぐにでも」

 

「なるほど」

 

バナーは小さく頷いた。

 

「つまり、それまでは帰れないということか」

 

「そういうことだ」

 

二人の間に流れる空気を感じ取り、蓮は僅かに肩をすくめた。

 

「それで、四次元キューブはどうやって捜すんですか?」

 

フューリーはブリッジ中央に設置された大型モニターを見上げる。

 

画面には、青い光を放つ立方体――四次元キューブの画像が映し出されていた。

 

「キューブはガンマ線を放出している」

 

バナーはモニターを見ながら頷いた。

 

「それは聞いている」

 

「だが、線量は極めて僅かだ。通常の観測方法では、正確な位置を特定できていない」

 

蓮は眉をひそめる。

 

「地球上のどこかにあることは分かっている。でも、具体的な場所までは分からない」

 

「そうだ」

 

「かなり嫌な状況ですね」

 

「だから、博士を呼んだ」

 

スティーブは、モニターに映し出された世界地図へ目を向けた。

 

「現在は、どのような方法で捜索している?」

 

フューリーが近くにいたクルーへ視線を送る。

 

それを受けたクルーが、すぐに報告を始めた。

 

「現在、地球上に存在する、あらゆるカメラ映像を照合しています」

 

「……あらゆる?」

 

蓮が聞き返す。

 

「人工衛星、交通監視カメラ、民間施設、通信端末。アクセス可能なものは、すべて捜索対象です」

 

蓮はフューリーを見た。

 

「本当に全部?」

 

フューリーは当然のように答える。

 

「全部だ」

 

「監視社会って、こういうことなんだな……」

 

ナターシャが涼しい顔で口を挟む。

 

「今さら驚いたの?」

 

「一か月前、カバーへ潜入して監視していた人に言われたくありません」

 

「監視ではなく観察よ」

 

「まだその言い方で押し通すんですか」

 

ナターシャは何も答えず、薄い笑みを浮かべた。

 

バナーはモニターを見つめながら、顎へ手を添える。

 

「カメラ映像だけでは効率が悪い」

 

フューリーがバナーを見る。

 

「理由は?」

 

「ロキ本人が映らない限り、四次元キューブの場所までは絞り込めないからだ」

 

「では、どうする?」

 

バナーは少し考えると、近くにある端末へ歩み寄った。

 

「捜索範囲を狭めよう」

 

指先がキーボードの上を滑る。

 

「世界中の研究機関へ連絡を取ってほしい」

 

モニター上へ、複数の研究施設が表示されていく。

 

「大学、民間企業、政府機関。物理学、天文学、エネルギー研究に関わる施設すべてだ」

 

「何をさせる?」

 

「屋上へスペクトロメーターを設置させる」

 

蓮が画面を覗き込んだ。

 

「スペクトロメーター?」

 

バナーは操作を続けながら答える。

 

「簡単に説明すると、エネルギーが持つ特徴を読み取る装置だ」

 

「四次元キューブが出しているガンマ線の特徴を探す?」

 

「その通り」

 

バナーはモニターへ複数の波形を表示させる。

 

「キューブが放出するガンマ線の特徴を把握できれば、同じ反応を捜し出せる」

 

「なるほど」

 

「ただし、普通の方法で検出するには反応が弱すぎる」

 

バナーの指が、さらに素早くキーボードを叩いていく。

 

「だから、僕が高線量スポットを探知するためのアルゴリズムを作る」

 

「アルゴリズム?」

 

「世界中から送られてくる膨大な観測データを解析し、その中からキューブに由来する可能性が高い反応だけを抽出するんだ」

 

蓮は感心したように呟いた。

 

「やっぱり、本物の博士だな……」

 

バナーは蓮を見る。

 

「君は仮面ライダーの力で、そういうことはできないのかい?」

 

「できたら便利なんですけどね」

 

蓮は腰のライドブッカーへ手を添える。

 

「ディケイドは世界を渡ったり、ほかの仮面ライダーの力を使ったりできます。でも、ガンマ線の探知までは専門外です」

 

「それは残念だ」

 

「僕も残念です」

 

バナーは端末から顔を上げた。

 

「それで、どこで作業をすればいい?」

 

ナターシャが一歩前へ出る。

 

「研究室へ案内するわ」

 

バナーは僅かにフューリーへ視線を向けた。

 

「僕を閉じ込めるための部屋ではないことを祈るよ」

 

フューリーは何も答えなかった。

 

蓮は二人を見ながら苦笑する。

 

「博士。本当に閉じ込められそうになったら、壁を壊す前に僕を呼んでください」

 

バナーは少し驚いた後、小さく笑った。

 

「努力するよ」

 

「努力でお願いします」

 

蓮は真剣な表情で付け加える。

 

「ハルクが暴れてヘリキャリアが落ちたら、僕もシオンに怒られるので」

 

「君の判断基準は、そこなんだね」

 

「かなり重要です」

 

ナターシャはバナーを連れ、ブリッジの出口へ向かって歩き始めた。

 

蓮は二人の背中を見送る。

 

バナーは穏やかな人物に見える。

 

だが、その内側には、いつ爆発するか分からない途方もない力を抱えていた。

 

それは怪人とは異なる種類の恐ろしさだった。

 

蓮はフューリーへ尋ねる。

 

「ロキは、まだ見つからないんですか?」

 

フューリーは複数の監視映像が表示されているモニターへ視線を向けた。

 

「現在、世界中の監視カメラから捜索している」

 

「顔認識だけですか?」

 

「顔認識、歩行解析、エネルギー反応。利用できるものはすべて使っている」

 

「それでも、まだ見つかっていない」

 

「今のところはな」

 

スティーブが静かに口を開く。

 

「堂々と姿を現すような相手ではないのか?」

 

フューリーは短く答えた。

 

「相手は神を名乗る男だ」

 

監視映像を見つめたまま続ける。

 

「隠れるか、己の力を見せつけるか。その時の気分次第だろう」

 

蓮は腕を組んだ。

 

「面倒なタイプですね」

 

「スタークほどではない」

 

蓮はフューリーへ顔を向ける。

 

「その人、どれだけ面倒なんですか?」

 

「会えば分かる」

 

「会いたくなくなってきました」

 

その時だった。

 

ブリッジの一角から、クルーの叫び声が響いた。

 

「対象を発見しました!」

 

ブリッジ内の空気が一瞬で変わる。

 

フューリーが勢いよく振り返った。

 

「場所は?」

 

クルーは素早く端末を操作し、メインモニターへ監視映像を表示させた。

 

映し出されたのは、夜の街。

 

大勢の人々が行き交う通り。

 

その中を、一人の黒髪の男が堂々と歩いている。

 

整った服装。

 

周囲の人間から浮くほど尊大な歩き方。

 

そして、その手には黄金色の杖が握られていた。

 

クルーが報告する。

 

「ドイツ、シュツットガルト。ケーニッヒ通り二十八番地です」

 

モニターの映像が拡大される。

 

男は逃げも隠れもしていなかった。

 

むしろ、自分を見つけろと言わんばかりに、堂々とその姿を晒している。

 

蓮はモニターを見つめ、目を細めた。

 

「こいつが、ロキか」

 

スティーブも同じ映像を見つめる。

 

「群衆の中にいる」

 

フューリーが低い声で呟いた。

 

「奴は、何をするつもりだ」

 

画面が別の監視カメラ映像へ切り替わった。

 

人々が、突然何かに怯えたように逃げ始める。

 

眩い光。

 

響き渡る悲鳴。

 

押し合う人々。

 

そして、黄金の杖を振るうロキ。

 

杖から放たれた光によって人々が弾き飛ばされ、広場へ追い立てられていく。

 

蓮の表情が変わった。

 

「一般人がいる」

 

スティーブも一歩前へ出る。

 

「すぐに向かうべきだ」

 

フューリーは二人を見た。

 

その片目には、すでに決断が宿っている。

 

「出番だ」

 

蓮は腰からライドブッカーを取り外した。

 

「了解」

 

スティーブも静かに頷き、背筋を伸ばす。

 

「行こう」

 

蓮はメインモニターに映るロキを見据えた。

 

神を名乗る別宇宙の男。

 

四次元キューブを盗み出した存在。

 

そして今、何の罪もない人々を危険へ晒している敵。

 

蓮は小さく息を吐く。

 

「宇宙人退治の初任務か」

 

フューリーが低い声で告げる。

 

「油断するな。奴はアスガルド人だ」

 

「それなら、こちらは世界の破壊者と、伝説の兵士で向かいますよ」

 

スティーブが蓮へ顔を向ける。

 

「世界の破壊者?」

 

蓮は少し困ったように笑った。

 

「僕が使っている仮面ライダーの二つ名です」

 

ライドブッカーを見つめる。

 

「あまり好きな呼び名ではありませんけどね」

 

スティーブは静かに言った。

 

「君が人を守るために戦っているのなら、呼び名は関係ない」

 

その言葉に、蓮は一瞬だけ目を見開いた。

 

そして、僅かに笑う。

 

「キャプテンに言われると、重みが違いますね」

 

フューリーは通信機を手に取った。

 

「クインジェットを用意しろ。ロジャースと紫咲をドイツへ向かわせる」

 

『了解』

 

ブリッジにいたクルーたちが、一斉に動き始める。

 

警報音が鳴り響いた。

 

メインモニターには、ヘリキャリアからドイツへ向かう飛行ルートが表示される。

 

蓮はスティーブと並び、ブリッジを出た。

 

二人は格納庫へ続く通路を走る。

 

その途中、蓮はスマートフォンを取り出した。

 

画面には、シオンから届いた大量のメッセージが表示されている。

 

『今どこ?』

 

『アメリカ着いた?』

 

『説明まだ?』

 

『ていうかネット環境確認した?』

 

『蓮、既読つけなさい』

 

蓮は一瞬だけ苦笑した。

 

走りながら、短い文章を入力する。

 

『今から宇宙人と戦ってくる。ネット環境は後で確認する』

 

送信した直後、すぐに返信が届いた。

 

『は??????』

 

蓮はスマートフォンをポケットへ戻した。

 

「……帰ったら怒られるな」

 

隣を走るスティーブが、真面目な顔で尋ねる。

 

「誰に?」

 

「姉です」

 

「家族は大切にした方がいい」

 

「はい。今、それを強く実感しています」

 

二人は待機していたクインジェットへ乗り込んだ。

 

後部ハッチが閉じる。

 

エンジンが高い音を響かせ、機体が甲板から飛び立った。

 

向かう先は、ドイツのシュツットガルト。

 

そこではすでに、神を名乗る男が大勢の人々の前へ姿を現していた。

 

仮面ライダーディケイド。

 

そして、キャプテン・アメリカ。

 

二人の戦士を乗せたクインジェットは、ロキとの最初の戦いへ向かって飛び立った。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。