仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人― 作:十六夜 蓮
ヘリキャリア内部の通路を進んだ先には、巨大なブリッジが広がっていた。
案内された蓮たちは、その光景を前に思わず足を止める。
巨大なフロントガラスの向こうに見えるのは、どこまでも広がる青空。
ここは海上ではない。
地上でもない。
雲の上を飛行する、巨大な空母の内部だった。
それだけでも十分に現実離れしている。
しかし、ブリッジでは数十人ものクルーが、そんな状況を当然のこととして忙しなく動き回っていた。
各部との通信を繋ぐ者。
レーダーを確認する者。
途切れることなくキーボードを叩き続ける者。
壁一面を覆うモニターには、世界各地の地図や衛星映像、監視カメラの映像、特殊なエネルギー反応の数値が表示されていた。
スティーブは、その光景を眺めながら僅かに目を細める。
「……これが、現代の司令室か」
隣に立つ蓮は、困ったように苦笑した。
「僕も見るのは初めてです。たぶん、普通に暮らしている現代人でも、こんな場所には入りません」
「それを聞いて、少し安心した」
「キャプテンが普通の現代人の感覚に慣れる日は、まだ遠そうですね」
「努力はしている」
真面目な顔で答えるスティーブに、蓮は小さく笑った。
そんな二人の横で、バナーはブリッジ全体を静かに見回していた。
表面上は落ち着いている。
だが、その瞳は警戒を解いていなかった。
巨大な空中要塞。
周囲を埋め尽くすS.H.I.E.L.D.のクルー。
そして、簡単には逃げ出せない閉鎖空間。
彼にとって、心から安心できる場所ではないのだろう。
フューリーはバナーの前へ歩み寄ると、右手を差し出した。
「よく来てくれた、博士」
バナーは穏やかな笑みを浮かべ、その手を握る。
「僕に選択肢があったようには思えないけどね」
「君の協力が必要だ」
「そう言われると、少しは気分がよくなる」
口元には笑みがある。
だが、その目は笑っていなかった。
握手を終えたバナーは、すぐに尋ねる。
「それで、僕はいつ帰れるのかな?」
フューリーは即答した。
「四次元キューブが我々のもとへ戻れば、すぐにでも」
「なるほど」
バナーは小さく頷いた。
「つまり、それまでは帰れないということか」
「そういうことだ」
二人の間に流れる空気を感じ取り、蓮は僅かに肩をすくめた。
「それで、四次元キューブはどうやって捜すんですか?」
フューリーはブリッジ中央に設置された大型モニターを見上げる。
画面には、青い光を放つ立方体――四次元キューブの画像が映し出されていた。
「キューブはガンマ線を放出している」
バナーはモニターを見ながら頷いた。
「それは聞いている」
「だが、線量は極めて僅かだ。通常の観測方法では、正確な位置を特定できていない」
蓮は眉をひそめる。
「地球上のどこかにあることは分かっている。でも、具体的な場所までは分からない」
「そうだ」
「かなり嫌な状況ですね」
「だから、博士を呼んだ」
スティーブは、モニターに映し出された世界地図へ目を向けた。
「現在は、どのような方法で捜索している?」
フューリーが近くにいたクルーへ視線を送る。
それを受けたクルーが、すぐに報告を始めた。
「現在、地球上に存在する、あらゆるカメラ映像を照合しています」
「……あらゆる?」
蓮が聞き返す。
「人工衛星、交通監視カメラ、民間施設、通信端末。アクセス可能なものは、すべて捜索対象です」
蓮はフューリーを見た。
「本当に全部?」
フューリーは当然のように答える。
「全部だ」
「監視社会って、こういうことなんだな……」
ナターシャが涼しい顔で口を挟む。
「今さら驚いたの?」
「一か月前、カバーへ潜入して監視していた人に言われたくありません」
「監視ではなく観察よ」
「まだその言い方で押し通すんですか」
ナターシャは何も答えず、薄い笑みを浮かべた。
バナーはモニターを見つめながら、顎へ手を添える。
「カメラ映像だけでは効率が悪い」
フューリーがバナーを見る。
「理由は?」
「ロキ本人が映らない限り、四次元キューブの場所までは絞り込めないからだ」
「では、どうする?」
バナーは少し考えると、近くにある端末へ歩み寄った。
「捜索範囲を狭めよう」
指先がキーボードの上を滑る。
「世界中の研究機関へ連絡を取ってほしい」
モニター上へ、複数の研究施設が表示されていく。
「大学、民間企業、政府機関。物理学、天文学、エネルギー研究に関わる施設すべてだ」
「何をさせる?」
「屋上へスペクトロメーターを設置させる」
蓮が画面を覗き込んだ。
「スペクトロメーター?」
バナーは操作を続けながら答える。
「簡単に説明すると、エネルギーが持つ特徴を読み取る装置だ」
「四次元キューブが出しているガンマ線の特徴を探す?」
「その通り」
バナーはモニターへ複数の波形を表示させる。
「キューブが放出するガンマ線の特徴を把握できれば、同じ反応を捜し出せる」
「なるほど」
「ただし、普通の方法で検出するには反応が弱すぎる」
バナーの指が、さらに素早くキーボードを叩いていく。
「だから、僕が高線量スポットを探知するためのアルゴリズムを作る」
「アルゴリズム?」
「世界中から送られてくる膨大な観測データを解析し、その中からキューブに由来する可能性が高い反応だけを抽出するんだ」
蓮は感心したように呟いた。
「やっぱり、本物の博士だな……」
バナーは蓮を見る。
「君は仮面ライダーの力で、そういうことはできないのかい?」
「できたら便利なんですけどね」
蓮は腰のライドブッカーへ手を添える。
「ディケイドは世界を渡ったり、ほかの仮面ライダーの力を使ったりできます。でも、ガンマ線の探知までは専門外です」
「それは残念だ」
「僕も残念です」
バナーは端末から顔を上げた。
「それで、どこで作業をすればいい?」
ナターシャが一歩前へ出る。
「研究室へ案内するわ」
バナーは僅かにフューリーへ視線を向けた。
「僕を閉じ込めるための部屋ではないことを祈るよ」
フューリーは何も答えなかった。
蓮は二人を見ながら苦笑する。
「博士。本当に閉じ込められそうになったら、壁を壊す前に僕を呼んでください」
バナーは少し驚いた後、小さく笑った。
「努力するよ」
「努力でお願いします」
蓮は真剣な表情で付け加える。
「ハルクが暴れてヘリキャリアが落ちたら、僕もシオンに怒られるので」
「君の判断基準は、そこなんだね」
「かなり重要です」
ナターシャはバナーを連れ、ブリッジの出口へ向かって歩き始めた。
蓮は二人の背中を見送る。
バナーは穏やかな人物に見える。
だが、その内側には、いつ爆発するか分からない途方もない力を抱えていた。
それは怪人とは異なる種類の恐ろしさだった。
蓮はフューリーへ尋ねる。
「ロキは、まだ見つからないんですか?」
フューリーは複数の監視映像が表示されているモニターへ視線を向けた。
「現在、世界中の監視カメラから捜索している」
「顔認識だけですか?」
「顔認識、歩行解析、エネルギー反応。利用できるものはすべて使っている」
「それでも、まだ見つかっていない」
「今のところはな」
スティーブが静かに口を開く。
「堂々と姿を現すような相手ではないのか?」
フューリーは短く答えた。
「相手は神を名乗る男だ」
監視映像を見つめたまま続ける。
「隠れるか、己の力を見せつけるか。その時の気分次第だろう」
蓮は腕を組んだ。
「面倒なタイプですね」
「スタークほどではない」
蓮はフューリーへ顔を向ける。
「その人、どれだけ面倒なんですか?」
「会えば分かる」
「会いたくなくなってきました」
その時だった。
ブリッジの一角から、クルーの叫び声が響いた。
「対象を発見しました!」
ブリッジ内の空気が一瞬で変わる。
フューリーが勢いよく振り返った。
「場所は?」
クルーは素早く端末を操作し、メインモニターへ監視映像を表示させた。
映し出されたのは、夜の街。
大勢の人々が行き交う通り。
その中を、一人の黒髪の男が堂々と歩いている。
整った服装。
周囲の人間から浮くほど尊大な歩き方。
そして、その手には黄金色の杖が握られていた。
クルーが報告する。
「ドイツ、シュツットガルト。ケーニッヒ通り二十八番地です」
モニターの映像が拡大される。
男は逃げも隠れもしていなかった。
むしろ、自分を見つけろと言わんばかりに、堂々とその姿を晒している。
蓮はモニターを見つめ、目を細めた。
「こいつが、ロキか」
スティーブも同じ映像を見つめる。
「群衆の中にいる」
フューリーが低い声で呟いた。
「奴は、何をするつもりだ」
画面が別の監視カメラ映像へ切り替わった。
人々が、突然何かに怯えたように逃げ始める。
眩い光。
響き渡る悲鳴。
押し合う人々。
そして、黄金の杖を振るうロキ。
杖から放たれた光によって人々が弾き飛ばされ、広場へ追い立てられていく。
蓮の表情が変わった。
「一般人がいる」
スティーブも一歩前へ出る。
「すぐに向かうべきだ」
フューリーは二人を見た。
その片目には、すでに決断が宿っている。
「出番だ」
蓮は腰からライドブッカーを取り外した。
「了解」
スティーブも静かに頷き、背筋を伸ばす。
「行こう」
蓮はメインモニターに映るロキを見据えた。
神を名乗る別宇宙の男。
四次元キューブを盗み出した存在。
そして今、何の罪もない人々を危険へ晒している敵。
蓮は小さく息を吐く。
「宇宙人退治の初任務か」
フューリーが低い声で告げる。
「油断するな。奴はアスガルド人だ」
「それなら、こちらは世界の破壊者と、伝説の兵士で向かいますよ」
スティーブが蓮へ顔を向ける。
「世界の破壊者?」
蓮は少し困ったように笑った。
「僕が使っている仮面ライダーの二つ名です」
ライドブッカーを見つめる。
「あまり好きな呼び名ではありませんけどね」
スティーブは静かに言った。
「君が人を守るために戦っているのなら、呼び名は関係ない」
その言葉に、蓮は一瞬だけ目を見開いた。
そして、僅かに笑う。
「キャプテンに言われると、重みが違いますね」
フューリーは通信機を手に取った。
「クインジェットを用意しろ。ロジャースと紫咲をドイツへ向かわせる」
『了解』
ブリッジにいたクルーたちが、一斉に動き始める。
警報音が鳴り響いた。
メインモニターには、ヘリキャリアからドイツへ向かう飛行ルートが表示される。
蓮はスティーブと並び、ブリッジを出た。
二人は格納庫へ続く通路を走る。
その途中、蓮はスマートフォンを取り出した。
画面には、シオンから届いた大量のメッセージが表示されている。
『今どこ?』
『アメリカ着いた?』
『説明まだ?』
『ていうかネット環境確認した?』
『蓮、既読つけなさい』
蓮は一瞬だけ苦笑した。
走りながら、短い文章を入力する。
『今から宇宙人と戦ってくる。ネット環境は後で確認する』
送信した直後、すぐに返信が届いた。
『は??????』
蓮はスマートフォンをポケットへ戻した。
「……帰ったら怒られるな」
隣を走るスティーブが、真面目な顔で尋ねる。
「誰に?」
「姉です」
「家族は大切にした方がいい」
「はい。今、それを強く実感しています」
二人は待機していたクインジェットへ乗り込んだ。
後部ハッチが閉じる。
エンジンが高い音を響かせ、機体が甲板から飛び立った。
向かう先は、ドイツのシュツットガルト。
そこではすでに、神を名乗る男が大勢の人々の前へ姿を現していた。
仮面ライダーディケイド。
そして、キャプテン・アメリカ。
二人の戦士を乗せたクインジェットは、ロキとの最初の戦いへ向かって飛び立った。