仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人― 作:十六夜 蓮
ドイツ、シュツットガルト。
夜の街は、突如として混乱に包まれていた。
高級感のある会場から逃げ出してくる人々。
悲鳴を上げながら走る者。
逃げることすらできず、膝をついて震える者。
その混乱の中心に、一人の男が立っていた。
ロキ。
黒と緑を基調とした衣装に身を包み、その手には青い光を放つ杖が握られている。
人間離れした威厳を放つ姿は、まるで舞台の中央へ立つ王のようだった。
だが、その目に慈悲はない。
そこにあるのは、人々を自分より下の存在として見下す、支配者の目だった。
「跪け」
ロキの声が、広場全体へ響き渡る。
その言葉に恐怖で押し潰された人々は、一人、また一人と膝をついていった。
誰もが俯き、ロキと目を合わせようとしない。
だが、その中で、一人の老人だけが立ち上がった。
周囲の人々が驚き、その姿を見る。
ロキは老人へゆっくりと杖を向けた。
杖の先端へ、青い光が集まっていく。
「貴様のような愚か者には、見せしめが必要だ」
眩い光が放たれた。
その瞬間だった。
老人の前の空間が、波打つように大きく揺らいだ。
灰色のオーロラを思わせる巨大なカーテンが現れる。
ロキが放った青い光は、そのカーテンへ吸い込まれるように消滅した。
「……ほう」
ロキの眉が僅かに動く。
灰色のオーロラカーテンから、二人の男が姿を現した。
一人は、星条旗を思わせるスーツに身を包み、背中へ丸い盾を装備した伝説の兵士。
キャプテン・アメリカ。
スティーブ・ロジャース。
そして、もう一人。
腰にライドブッカーを装着した、日本人の青年。
紫咲蓮。
蓮は老人を庇うように前へ立ち、ロキを真っすぐ見据えた。
「随分と傲慢な王様がいたものだな」
ロキは蓮とスティーブを見比べ、口元へ薄い笑みを浮かべた。
「来たか。時代遅れの兵士と、架空の戦士」
蓮は僅かに肩をすくめる。
「架空の戦士か。確かに、この世界ではそうだったけどね」
スティーブは一歩前へ出た。
「以前ドイツへ来た時も、人々を支配しようとする男がいた」
ロキが鼻で笑う。
スティーブは静かに続けた。
「そいつとは、そりが合わなかった」
ロキの表情から、笑みが消えた。
「ならば、その時に学んでおくべきだったな」
杖を老人からスティーブたちへ向ける。
「大人しく跪いた方が、身のためだと」
蓮はライドブッカーを開き、一枚のカードを引き抜いた。
「悪いけど、断るよ」
腰へディケイドライバーを当てる。
ベルトが自動的に展開し、蓮の体へ装着された。
蓮はカードを正面へ構える。
「変身」
カードをディケイドライバーへ挿入する。
《KAMEN RIDE》
ドライバーの両端を押し込む。
《DECADE》
幾重ものカード状の影が、蓮の体を通り抜けた。
黒とマゼンタの装甲が形成され、頭部へ複数のライドプレートが突き刺さる。
仮面ライダーディケイド。
世界を渡る仮面の戦士が、神を名乗る男の前へ立った。
広場に集められていた人々が、驚きに息を呑む。
「仮面……ライダー……?」
「何だ、あれは……」
ロキは興味深そうに目を細めた。
「なるほど。異なる世界の戦士か」
ディケイドはライドブッカーを手に取り、ソードモードへ変形させる。
「世界の破壊者なんて呼ばれているけど――」
鋭い刃をロキへ向けた。
「人の自由を壊そうとする王様よりは、まともなつもりだよ」
「口だけは達者だな」
ロキが一歩踏み出す。
次の瞬間、二人は同時に動いた。
ロキの杖と、ディケイドのライドブッカーが激突する。
甲高い金属音が、夜の広場へ響き渡った。
「っ……!」
ロキの力は、人間のものではなかった。
杖を一度振るうだけで、重い衝撃がライドブッカーを通じ、ディケイドの両腕へ伝わってくる。
ロキは嘲笑するように告げた。
「どうした、架空の英雄」
さらに杖へ力を込める。
「神の力は、想像していたよりも重いか?」
「神を名乗る割には――」
ディケイドは足へ力を込め、ロキの杖を押し返した。
「やっていることが小さいな!」
ライドブッカーで杖を弾き、横薙ぎの斬撃を放つ。
ロキは上体を逸らし、その刃を紙一重で避けた。
だが、その瞬間。
鋭い回転音とともに、キャプテン・アメリカの盾が飛来した。
盾は真っすぐロキの頭部へ向かっていく。
「何っ?」
ロキは咄嗟に身を引いた。
盾は頭部の角飾りを掠めるように通過し、ロキの体勢を崩す。
「今だ!」
スティーブの声が響く。
ディケイドは一気に踏み込んだ。
だが、ロキも簡単に攻撃を許すような相手ではない。
振り抜かれたライドブッカーを杖で受け止めると、ディケイドの腹部へ強烈な蹴りを叩き込んだ。
「ぐっ!」
ディケイドは数歩後退する。
その瞬間、目の前に立っていたロキの姿が揺らいだ。
「消えた……?」
次の瞬間。
ディケイドの背後へ、ロキが何の前触れもなく姿を現した。
「蓮!」
スティーブが叫ぶ。
だが、間に合わない。
ロキの杖から伸びた刃が、ディケイドの背中を切り裂いた。
激しい火花が散る。
「うあっ!」
ディケイドは地面を転がった。
すぐにライドブッカーを支えにして起き上がる。
ロキは少し離れた場所で、悠然と杖を構えていた。
「貴様ら人間は、いつもそうだ」
ロキの隣に、同じ姿をした幻影が現れる。
さらにもう一人。
三人のロキが、ディケイドとスティーブを取り囲んだ。
「目に映るものだけが、真実だと思い込む」
ディケイドは三人のロキを見比べ、小さく息を吐く。
「なるほど」
ライドブッカーを開き、一枚のカードを取り出した。
「消えたり、増えたりするタイプか」
カードをディケイドライバーへ挿入する。
《KAMEN RIDE》
ドライバーを押し込む。
《KABUTO》
ディケイドの装甲が消え、新たな姿へ変化した。
赤を基調とした装甲。
カブトムシの角を思わせる頭部。
高速戦闘を得意とする仮面ライダー。
仮面ライダーカブト。
ロキは僅かに眉を上げた。
「姿を変えたか。面白い芸だな」
カブトとなった蓮は、静かに答えた。
「面白いだけか、試してみる?」
ライドブッカーから、さらに一枚のカードを取り出す。
《ATTACK RIDE》
カードをドライバーへ挿入した。
《CLOCK UP》
音声が響いた瞬間、世界の速度が一変した。
逃げ惑っていた人々の動きが、完全に止まったように遅くなる。
宙を舞っていた紙片も、風に揺れる衣服も、静止したかのように見えた。
ロキの表情へ、僅かな驚きが浮かぶ。
カブトは一瞬でロキとの距離を詰めた。
腹部へ拳を叩き込む。
「ぐっ……!」
続けて、顔面へ裏拳。
さらに足を払って体勢を崩し、胸部へ強烈な蹴りを叩き込んだ。
ロキの体が、目に見えない何かに襲われたように次々と弾かれる。
幻影も次々と消滅していった。
《CLOCK OVER》
世界が本来の速度へ戻る。
ロキは勢いよく吹き飛び、石畳の上を転がった。
スティーブは、蓮の動きを見てすぐに理解した。
「高速移動か」
カブトは横目でスティーブを見る。
「そういうことです」
スティーブは地面へ落ちていた盾を拾い上げ、構え直した。
「なら、こちらも合わせる」
スティーブはロキへ向かって走り出した。
ロキが起き上がるより早く、キャプテンの盾が振り下ろされる。
ロキは杖を掲げ、攻撃を受け止めた。
しかし、倒れた直後で体勢が悪い。
スティーブは盾を強引に押し込み、ロキの腹部へ膝蹴りを叩き込んだ。
「ぐっ!」
そこへカブトも横から踏み込み、ロキの脇腹へ拳を突き入れる。
二人からの連続攻撃を受け、ロキの表情が歪んだ。
「人間ごときが!」
ロキは怒りに任せ、杖を大きく振るった。
杖の先端から、青い衝撃波が放たれる。
スティーブは盾を正面へ構え、衝撃波を受け止めた。
カブトは高く跳躍し、頭上を通過する衝撃を回避する。
その時だった。
夜の広場へ、突然大音量のヘヴィメタルが鳴り響いた。
空中にいたカブトの動きが、一瞬だけ止まる。
「……この選曲、絶対あの人だな」
上空から、赤と金の影が急降下してきた。
アイアンマン。
鋼鉄のスーツを身に纏った男。
トニー・スターク。
ロキが杖を支えに立ち上がろうとした瞬間、アイアンマンの両手からリパルサー光線が放たれた。
眩い閃光が、ロキの胸部を直撃する。
「ぐあっ!」
ロキは再び吹き飛ばされ、石畳へ激しく叩きつけられた。
アイアンマンは噴射を弱め、軽やかに地面へ着地する。
肩の装甲が展開された。
内部に格納されていた小型ミサイルが、一斉にロキを捉える。
両手のリパルサーにも、再び光が集まった。
「さて、どうする?」
アイアンマンは全武装を向けたまま、軽い調子で問いかける。
「トナカイ君」
ロキはゆっくりと顔を上げた。
正面には、キャプテン・アメリカ。
横には、仮面ライダーカブトへ姿を変えたディケイド。
上空から狙いを定める、全武装展開状態のアイアンマン。
周囲にいる人々は、息を殺してその光景を見守っていた。
ロキはしばらく沈黙する。
やがて、ゆっくりと両手を上げた。
手にしていた杖を握る力も緩め、抵抗の意思がないことを示す。
降伏。
少なくとも、見た目の上では。
カブトの装甲が揺らぎ、ディケイドの姿へ戻った。
さらにディケイドの装甲も光となって消え、蓮の姿が現れる。
蓮は降伏したロキを見つめ、眉をひそめた。
「……簡単すぎる」
アイアンマンが、蓮へ顔を向けた。
「おっと。君が噂の仮面ライダー君か?」
マスクの奥から、軽い声が響く。
「思っていたより普通の青年だな」
蓮は軽く肩をすくめた。
「あなたが噂のスタークさんですね」
アイアンマンを見上げる。
「思っていたより、うるさい登場でした」
「演出は重要だ」
「一般人が避難している最中にヘヴィメタルを流すのは、演出過多だと思います」
「厳しいな、日本のマネージャーは」
スティーブが二人の会話へ割って入る。
「二人とも。今はロキが先だ」
「その通りですね」
蓮はロキへ視線を戻した。
ロキの口元には、僅かな笑みが浮かんでいる。
追い詰められた者の顔ではない。
負けを認めた者の顔でもない。
まるで、自分が捕まることすら、最初から計画の一部だったと言わんばかりの表情。
蓮はその笑みに、強い違和感を覚えた。
スティーブが通信機へ手を当てる。
「フューリー。ロキを確保した」
アイアンマンはロキへ一歩近づき、武装を向けたまま言う。
「妙に大人しいな」
蓮も小さく頷いた。
「こういう相手は、捕まってからの方が面倒なんですよ」
ロキは蓮へ視線を向けた。
「なかなか勘がいい」
「褒められても嬉しくないな」
「ならば、忠告してやろう」
ロキの目が、冷たく光る。
「貴様らは、すでに手遅れだ」
蓮の表情が険しくなった。
その言葉が意味するものは、まだ分からない。
だが、ロキが単に四次元キューブを盗み、人々の前で力を見せつけただけではないことは確かだった。
夜のシュツットガルトに、サイレンの音が響き渡る。
警察によって一般市民の避難が進められ、S.H.I.E.L.D.の回収部隊が広場へ近づいてきた。
蓮は、ロキから目を逸らさなかった。
世界を渡る仮面ライダーとしての直感が、強く警告している。
これは勝利ではない。
すべての始まりにすぎないのだ。