仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人― 作:十六夜 蓮
ロキを拘束したクインジェットは、夜空を切り裂くように飛行していた。
機内には、重苦しい緊張感が漂っている。
ロキは両手を拘束され、座席へ座らされていた。
だが、その表情に焦りはない。
むしろ、自分こそが勝者であるかのように、口元へ薄い笑みを浮かべている。
蓮は機内の壁へ背中を預け、その顔をじっと見つめていた。
「……簡単すぎる」
小さく呟く。
キャプテン・アメリカ――スティーブ・ロジャースも、同じようにロキへ警戒の視線を向けていた。
「僕もそう思う」
スティーブは静かに続ける。
「彼は降伏したというより、捕まるために姿を現したように見えた」
「ですよね」
蓮は腕を組んだ。
「ドイツであれだけ堂々と姿を見せて、大勢の人を集めて、わざと目立つように暴れた」
座席に座るロキを見る。
「それなのに、僕たちに囲まれた途端、あっさり降参した。絶対に何か企んでる」
ロキは何も答えなかった。
ただ、口元の笑みを僅かに深めただけだった。
その沈黙が、余計に不気味だった。
そこへ、アイアンマン――トニー・スタークが軽い調子で口を挟んだ。
「それか、キャプテンが年齢の割に動けたことに驚いたんじゃないか?」
スティーブは真顔でトニーを見る。
「僕は、まだ十分に動ける」
「それは見れば分かるさ」
トニーは悪びれる様子もなく続ける。
「氷漬け保存は、アンチエイジングとしてなかなか優秀らしい」
「スターク」
操縦席近くにいたナターシャが、低い声で注意する。
トニーは肩をすくめた。
「はいはい。空気を読む努力はしている」
「努力不足ですね」
蓮が思わず口にすると、トニーはすぐに彼へ顔を向けた。
「おっと。君が紫咲蓮か」
蓮は軽く会釈し、右手を差し出す。
「紫咲蓮です」
トニーもその手を握った。
「トニー・スターク。天才、億万長者――」
「プレイボーイ、慈善家でしたっけ」
蓮が先に続けると、トニーは満足そうに笑った。
「よく分かってるじゃないか」
「資料に書いてありました」
「僕も君の資料には目を通した」
トニーの視線が、蓮の腰に装着されたディケイドライバーへ向けられる。
「日本で活動している仮面ライダー。しかも、複数の仮面ライダーの力を自由に使えるらしいな」
その瞳に、科学者としての好奇心が宿る。
「ぜひ、そのベルトを詳しく調べたい」
蓮は即座に一歩後ろへ下がった。
「嫌です」
「断るのが早いな」
「スタークさんへ渡したら、絶対に分解するでしょう」
「分解ではない。解析だ」
「分解する人は、みんなそう言います」
「信用がないな」
「初対面で、人のベルトを調べたいと言い出す人を信用する方が難しいですよ」
トニーは怒るどころか、面白そうに笑った。
その会話の間も、クインジェットはヘリキャリアを目指して飛行を続けていた。
だが、その時だった。
ゴロゴロゴロ……。
夜空に、低い雷鳴が響いた。
クインジェットの機体が僅かに揺れる。
蓮は反射的に窓の外へ顔を向けた。
黒い雲。
激しく走る稲妻。
先ほどまで穏やかだった夜空が、突然荒れ始めている。
「……雷?」
ナターシャが操縦席へ視線を向ける。
「急激に天候が変化している」
蓮はガラス越しに空を見つめていたが、ふとロキの様子に気づいた。
ロキもまた、窓の外へ目を向けている。
その表情は、先ほどまでの余裕に満ちたものとは僅かに違っていた。
嫌悪。
苛立ち。
そして、隠しきれない警戒。
トニーもその変化へ気づき、軽い口調で尋ねた。
「どうした? 雷が怖いのか?」
ロキは静かに答える。
「雷そのものではない」
「なら、何が怖い?」
ロキの視線が、夜空を走る稲妻へ向けられる。
「雷の後に来る男が、嫌いなだけだ」
その直後。
ドンッ!
クインジェットの上部へ、何かが勢いよく落下した。
機体全体が激しく揺れる。
「何だ!?」
スティーブが即座に立ち上がった。
トニーの表情からも軽さが消える。
ヘルメットが展開され、アイアンマンのマスクが閉じた。
「どうやら、お客さんらしい」
蓮もライドブッカーへ手を伸ばした。
機体の天井から、重い足音が響いてくる。
金属製の外装を、一歩ずつ踏みしめるような音。
ナターシャが操縦席から声を上げた。
「機体の上に人影!」
「人影?」
蓮が眉をひそめた瞬間、後部ハッチが外側から強引にこじ開けられた。
激しい風が、一気に機内へ流れ込む。
開かれたハッチの向こうに、一人の大男が立っていた。
風になびく赤いマント。
銀色の鎧。
長い金髪。
そして、右手に握られた巨大なハンマー。
雷神ソー。
ソーは一切の迷いなく機内へ踏み込むと、アイアンマンへ向かってムジョルニアを振るった。
「ぐおっ!」
アイアンマンはまともに一撃を受け、機内の壁へ吹き飛ばされた。
鋼鉄の装甲が壁へ叩きつけられ、激しい金属音が響く。
「痛っ……! 初対面の挨拶がそれか!」
ソーはトニーの抗議へ答えなかった。
その視線は、拘束されているロキだけへ向けられている。
「ロキ」
ロキは、ため息をつくように笑った。
「兄上」
ソーはロキの体を掴むと、そのまま開かれたハッチへ向かった。
「待て!」
スティーブが叫ぶ。
しかし、ソーはロキを抱えたままクインジェットから飛び降りた。
二人の姿は、一瞬で夜空へ消えていく。
スティーブはハッチへ駆け寄った。
「あれは味方なのか?」
アイアンマンは壁から立ち上がりながら答える。
「味方なら、僕をハンマーで殴らないだろう」
そう言うと、アイアンマンは何の躊躇もなくハッチから飛び出した。
足裏のジェットブーツが点火し、夜空へ飛び去っていく。
蓮もすぐにハッチへ向かった。
その行動に気づいたスティーブが目を見開く。
「おい!」
蓮は振り返らない。
「僕も行きます!」
「パラシュートは!?」
蓮は答える代わりに、そのまま夜空へ飛び出した。
ナターシャが開いたハッチを見ながら、冷静に言う。
「彼、パラシュートを着けていないわよ」
スティーブは一瞬、言葉を失った。
「……彼も、そういうタイプなのか」
ナターシャは小さく肩をすくめた。
「今日は、そういう人ばかりね」
◇
夜空。
蓮の体が、激しい風を切り裂きながら落下していく。
眼下には広大な森が広がっていた。
さらにその下方では、ソーの赤いマントと、アイアンマンのジェット噴射が見える。
蓮は自由落下を続けながら、ディケイドライバーを腰へ装着した。
「空中戦なら……!」
ライドブッカーから一枚のカードを引き抜く。
「変身!」
カードをドライバーへ挿入した。
《KAMEN RIDE》
《DECADE》
幾重ものカード状の影が蓮の体を通過し、黒とマゼンタの装甲を形成する。
仮面ライダーディケイド。
変身を完了させた蓮は、続けて新たなカードを取り出した。
《KAMEN RIDE》
《BLADE》
ディケイドの姿が変化する。
青と銀を基調とした装甲。
醒剣ブレイラウザーを持つ、仮面ライダーブレイド。
さらに、もう一枚のカードをディケイドライバーへ挿入した。
《FORM RIDE》
《BLADE JACK》
ブレイドの背中に、黄金色の翼が展開された。
仮面ライダーブレイド、ジャックフォーム。
「よし……!」
蓮は大きく翼を広げ、落下速度を制御した。
強風を受けながら滑空し、地上で輝くリパルサーと雷の光を追いかける。
◇
すでに森の中では、ソーとアイアンマンが激しく衝突していた。
夜空を雷光が走り、リパルサーの閃光が木々を照らす。
アイアンマンが空中から両手を突き出し、リパルサー光線を放った。
ソーはムジョルニアを正面へ構え、光線を受け止める。
そのまま地面を蹴って飛び上がると、アイアンマンへ強烈な一撃を叩き込んだ。
「ぐあっ!」
アイアンマンは地上へ吹き飛ばされ、何本もの木をなぎ倒していく。
「うわ……派手にやってるな!」
蓮は翼を畳みながら森へ降下し、二人から少し離れた地面へ着地した。
その近くにある岩場では、ロキが腰かけるようにして戦いを眺めていた。
まるで、自分とは何の関係もない芝居を楽しんでいるかのように。
蓮は一瞬、ロキへ視線を向ける。
「……これも、計算のうちなのか?」
だが、今はロキよりも、ソーとアイアンマンの争いを止める方が先だった。
蓮はブレイド・ジャックフォームのまま、二人の間へ飛び込む。
「二人とも、落ち着いてください!」
アイアンマンが倒れた木々の中から起き上がり、蓮へ顔を向けた。
「おっ。パラシュートなしで飛び降りた仮面ライダー君」
マスク越しに、楽しそうな声が響く。
「いいね。なかなか派手だ」
「褒めている場合ですか!」
ソーは蓮へ鋭い視線を向ける。
「退け。これはアスガルドの問題だ」
蓮は一度変身を解除した。
黄金の翼と青い装甲が光となって消え、紫咲蓮の姿へ戻る。
戦う意思がないことを示すため、ライドブッカーから手を離し、両手を軽く広げた。
「ソー。ロキを連れていくつもりなら、少し落ち着いてください」
ソーの目が細くなる。
「貴様、俺を知っているのか?」
「資料で少しだけ」
蓮は岩場に座るロキを一度見た。
「あなたがロキの兄で、彼を止めるために地球へ来たことも」
「ならば、邪魔をするな」
「邪魔をしたいわけではありません」
蓮はソーへ一歩近づく。
「僕たちもロキを確保する必要があります。盗まれた四次元キューブも、取り戻さなければならない」
「ロキはアスガルドへ連れ帰る」
「ですから、まず話し合いを――」
「話など、ロキには通じん」
ソーの声には、強い怒りが滲んでいた。
弟への苛立ち。
裏切られたことへの失望。
そして、それでも捨てきることのできない情。
蓮は、その複雑な感情を僅かに感じ取った。
「それでも、戦う相手を間違えないでください」
蓮はソーが握るムジョルニアへ目を向けた。
「ソーも、一度そのハンマーを置いてください」
その瞬間、周囲の空気が変わった。
ソーの表情が、一気に険しくなる。
「……この俺に、ムジョルニアを置けと言うのか?」
蓮は内心で、まずいと思った。
言い方を間違えた。
ムジョルニアは、ソーにとって単なる武器ではない。
雷神としての力。
戦士としての誇り。
自分自身を象徴する存在に近いのだろう。
横から、アイアンマンが口を挟む。
「無理だな。こいつはハンマーマニアだから」
ソーの視線が、ゆっくりとアイアンマンへ向けられた。
「今、何と言った?」
「ハンマー愛好家?」
トニーは挑発するように両手を広げる。
「それとも、ハンマー依存症の方が好みか?」
次の瞬間、ソーがムジョルニアを振り抜いた。
アイアンマンも反応した。
だが、完全に回避するには間に合わない。
「ぐはっ!」
アイアンマンは再び吹き飛ばされ、背中から岩場へ激突した。
蓮は思わず頭を抱えた。
「どうして挑発するんですか!」
アイアンマンは崩れた岩の中から立ち上がる。
「会話を円滑にするためだ」
「完全に火へ油を注いでます!」
ソーは蓮へ向き直った。
「貴様も俺の邪魔をするなら、容赦はしない」
蓮は深く息を吐いた。
「……やっぱり、話し合いは無理か」
少し離れた場所で、ロキが楽しそうに笑い声を漏らした。
「いいぞ、兄上。その調子だ」
蓮はロキを睨みつける。
「完全に面白がってるな……」
その時、森の上空からクインジェットのエンジン音が近づいてきた。
スティーブを乗せた機体が、戦闘地点へ向けて降下している。
しかし、クインジェットの到着を待つ余裕はなかった。
ソーとアイアンマンは、すでに再び激突しようとしている。
ソーの全身へ雷が集まる。
アイアンマンの胸部にあるアーク・リアクターが、強い光を放ち始める。
蓮は再びディケイドライバーを腰へ装着した。
「仕方ない」
ライドブッカーから一枚のカードを引き抜く。
「二人まとめて止める」
カードをディケイドライバーへ挿入した。
《KAMEN RIDE》
「変身!」
《DECADE》
幾重ものカードの影が蓮の体を通過する。
黒とマゼンタの装甲が形成され、仮面ライダーディケイドが再び森の中へ立った。
ディケイドはライドブッカーをソードモードへ変形させ、ソーとアイアンマンの間へ踏み出す。
雷神。
鋼鉄の男。
その争いを止めるために。
世界の破壊者が、二人の英雄の間へ割って入った。