仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人― 作:十六夜 蓮
ヘリキャリア内部、拘束区画。
そこには、通常の人間を閉じ込めるには明らかに過剰な設備が用意されていた。
分厚い強化ガラス。
円形の隔離室。
そして床下には、非常時に隔離室そのものを空中へ投下するための機構まで備えられている。
周囲では、武装したS.H.I.E.L.D.のエージェントたちが厳重な警戒態勢を取っていた。
その中心に、ロキがいる。
両手こそ拘束されていないが、抵抗する様子は一切ない。
まるで王座へ腰掛ける王のように、悠然と隔離室の中央へ立っていた。
その余裕が、かえって不気味だった。
強化ガラス越しにロキを見つめているのは、S.H.I.E.L.D.の関係者だけではない。
前日にヘリキャリアへ移送されてきた、ホロライブのメンバーたちも集まっていた。
少し離れた場所では、ほかのタレントやマネージャー、必要なスタッフたちも、不安そうに隔離室の様子を見守っている。
シオンは蓮の隣に立ち、ロキをじっと睨んでいた。
「……あれが宇宙人?」
「正確には、アスガルド人らしいよ」
蓮が答える。
「神様みたいな?」
「本人は、そう思ってる」
「うわ、面倒くさそう」
「実際、かなり面倒くさい」
二人の少し後ろで、スバルが小声で呟いた。
「何か、とんでもないところに来ちゃったな……」
トワも腕を組み、巨大な隔離室を見上げる。
「あれ、普通に怖いんだけど」
あやめは目を細め、ロキの表情を観察していた。
「でも、あの者……捕らえられているというより、こちらを見て楽しんでいるように見えるぞ」
「うん」
蓮は短く頷いた。
「そこが一番嫌なんだ」
バナー博士は、ガラス越しにロキを見ながら穏やかな笑みを浮かべた。
「なかなか面白い人だね」
声は柔らかい。
だが、その言葉には明らかな嫌味が込められていた。
ロキはそれを聞き、薄い笑みを浮かべる。
「緑の怪物を内に飼う男から、面白いと言われるとは光栄だ」
バナーの笑顔が、僅かに固まった。
蓮はすぐに一歩前へ出る。
「ロキは、時間稼ぎをしている」
その言葉に、周囲の空気が変わった。
スティーブ。
トニー。
ナターシャ。
フューリー。
そして、ホロライブのメンバーたちも、一斉に蓮を見る。
蓮はロキから目を逸らさないまま続けた。
「ドイツで堂々と姿を見せて、僕たちに囲まれたら簡単に降伏した」
隔離室の中央で笑うロキを見据える。
「ソーが現れることも予想していたように見えた。ここへ捕まっていること自体が、目的の一部なんじゃないかと思う」
シオンが不安そうに尋ねた。
「じゃあ、わざと捕まったってこと?」
「たぶんね」
蓮はソーへ顔を向ける。
「ソーは、どう思う?」
ソーは腕を組み、強化ガラスの中にいる弟を睨みつけていた。
その目には、怒りだけでなく、深い悲しみも混じっている。
「ロキは、軍勢を待っている」
「軍勢?」
スバルが思わず声を上げた。
ソーは重々しく頷く。
「チタウリだ。遠い世界から来る、戦いと征服を好む種族」
フューリーの表情が険しくなった。
「その軍勢を、地球へ呼び込むつもりか」
「おそらくな」
ソーは低い声で答える。
「ロキは戦争を引き起こし、地球を支配するつもりだ」
そして、強化ガラス越しに弟を睨む。
「その見返りとして、四次元キューブをチタウリへ渡すのだろう」
シオンが顔をしかめた。
「地球を手に入れるって……何その雑な野望」
トワも小さく頷く。
「でも、やってることは本気っぽいんだよね……」
バナーは顎へ手を当て、考え込んだ。
「通路が必要だ」
蓮がバナーを見る。
「通路?」
「チタウリを地球へ送り込むための入口だよ」
バナーは四次元キューブのデータが表示されたモニターへ目を向ける。
「キューブは、空間同士を繋ぐ力を持っている。ロキが軍勢を呼び込むつもりなら、その力を制御するための装置が必要になる」
何かへ思い至ったように、バナーは小さく頷いた。
「そのために、セルヴィグ博士を攫ったのか」
ナターシャが言う。
「セルヴィグ博士は、以前からキューブを研究していた。現在はロキの杖によって操られている可能性が高いわ」
蓮は眉をひそめた。
「でも、分からないのはそこじゃない」
スティーブが蓮へ視線を向ける。
「何が気になる?」
「なぜ、ロキが捕らわれたままなのかです」
蓮はガラス越しにロキを見た。
「キューブが必要なら、セルヴィグ博士の近くにいるべきです。チタウリを呼ぶ計画を進めているなら、なおさら離れる理由がない」
隔離室全体へ視線を移す。
「それなのに、わざわざ捕まって、このヘリキャリアまで連れてこられた」
フューリーの片目が鋭く細められる。
「この艦に用があるということか」
「その可能性はあります」
周囲の空気が、さらに重くなった。
その時、ホロライブのメンバーの中から、こよりが一歩前へ出た。
「技術的な部分から考えた方がいいかもしれないね」
シオンがこよりを見る。
「こよ?」
こよりは、モニターに表示された盗難物資の一覧を指さした。
「ロキたちが奪った物資の中に、イリジウムがあるんです」
画面へ表示された金属の名称を見つめる。
「なぜイリジウムが必要だったのか。そこから考えると――」
「安定剤になる」
通路の方から声が響いた。
全員が一斉に振り返る。
そこには、コーヒーカップを片手にしたトニー・スタークが立っていた。
今しがた到着したような顔をしている。
だが、どうやら会話の内容はしっかり聞いていたらしい。
「イリジウムは、通路を安定させるために必要なんだ」
トニーは悠然と歩み寄る。
「ゲートを開いても、すぐに崩壊したら意味がない。イリジウムを使えば、エネルギーの乱れを抑えられる」
こよりの目が輝いた。
「やっぱり、そういう用途なんですね!」
トニーはこよりを見て、興味深そうに眉を上げた。
「おっ。話が早い子がいるな」
こよりは得意げに胸を張る。
「ホロライブの頭脳担当なので!」
スバルが小声で呟いた。
「こより、めちゃくちゃ嬉しそうだな」
蓮は二人を見比べ、僅かに嫌な予感を覚えた。
トニー・スタークと博衣こより。
この二人が同じ方向へ走り始めたら、かなり面倒なことになる気がする。
トニーは近くの端末を操作し、モニターへ複数のデータを表示させた。
「それから、もう一つ必要になるものがある」
「動力源?」
こよりが尋ねる。
「正解だ」
トニーは指を鳴らした。
「高密度のエネルギー源。そいつを使ってキューブを活性化させる」
近くに立っていたマリア・ヒルが、冷静な声で尋ねた。
「いつから熱核物理学者になったの?」
トニーは当然のように答える。
「昨夜から」
「昨夜?」
「セルヴィグの資料、実験記録、メモ、抽出理論に関する論文。見つかったものは一通り読んだ」
トニーは周囲を見回す。
「読まされたのは僕だけか?」
スティーブが僅かに眉をひそめた。
「今重要なのは、ロキの狙いだ」
「そう。それだ」
トニーは再び指を鳴らす。
「ロキは巨大な入口を作る。そこからチタウリが地球へ来る」
モニターへ地球と宇宙空間を繋ぐイメージ図を表示させる。
「地球は大混乱。そこでロキが王様を気取る。大体はそんなところだろう」
「かなり雑な説明ですけど、間違っていなさそうなのが嫌ですね」
蓮が呟いた。
こよりは腕を組み、モニターへ表示された数式とエネルギー反応を見つめる。
「でも、クーロン障壁を破るためには、キューブを一億二千万ケルビンまで加熱する必要があるはずです」
その瞬間、シオン、スバル、あやめの表情が完全に止まった。
「……クーロン?」
「一億……何?」
「ケルビンとは何なのだ?」
トニーは、こよりの言葉に嬉しそうな反応を見せた。
「そうだ。通常ならね」
モニターへ表示された数式を指さす。
「だが、セルヴィグ博士が量子トンネル効果を安定させられるなら、話は別だ」
バナーも小さく頷いた。
「それが可能なら、重イオン核融合を比較的容易に引き起こせる」
こよりの目が、さらに輝いた。
「ですよね!」
こよりは興奮した様子でモニターへ近づく。
「つまり、通常必要なエネルギー障壁を強引に越えるのではなく、量子的な確率で通過させる方向へ安定化できれば――」
「ゲート形成に必要な初期条件を、大幅に下げられる」
バナーが続きを引き取った。
「ただし、問題は制御だ。僅かでも計算がずれれば、周囲の空間そのものが不安定になる」
「でも、イリジウムでエネルギーの流れを安定化できるなら、セルヴィグ博士はそのずれを抑えられる可能性があります!」
こよりとバナーが、ほぼ同時に頷いた。
トニーは満足そうに二人へ手を差し出す。
「ここに、話の分かる人間が二人もいるとはね」
こよりは即座にトニーの手を握った。
「博衣こよりです! ホロライブの頭脳担当です!」
続いてバナーも、少し控えめにトニーと握手を交わす。
「ブルース・バナー。よろしく」
トニーは二人を見て笑った。
「いいね。科学チームの完成だ」
その横で、蓮、スティーブ、そしてホロライブのメンバーたちは、完全に会話から置いていかれていた。
スティーブは真剣な表情で、蓮へ尋ねる。
「今の話を理解できたか?」
蓮は暫く沈黙した。
そして、正直に答える。
「入口を作るにはものすごいエネルギーが必要だけど、博士たちなら何とかできるらしい……くらいです」
スティーブは真面目に頷いた。
「僕も同じだ」
シオンは腕を組み、こよりたちを見ていた。
「何を話してるのか、全然分からなかった」
スバルも何度も頷く。
「完全に異世界の言葉だったな」
あやめも真顔で口を開いた。
「余も、まったく理解できなかったぞ」
トワは疲れたようにため息をつく。
「悪魔でも無理」
蓮は思わず小さく笑った。
「それなら、科学のことはこよりと博士たちに任せよう」
こよりは勢いよく振り返った。
今にも白衣を羽織り、研究を始めそうな勢いで宣言する。
「任せてください! こよがロキの計画を、科学的に暴いてみせます!」
トニーが隣で満足そうに頷く。
「その意気だ、ピンクの科学者」
「ピンクの科学者!?」
シオンが蓮の横で小さく呟いた。
「こよ、スタークに変なあだ名をつけられてる」
蓮は困ったように苦笑した。
だが、すぐに表情を引き締める。
「問題は、残された時間です」
周囲の視線が蓮へ集まった。
「ロキがここにいる間にも、セルヴィグ博士はどこかでゲートを開く準備を進めている」
蓮はモニターに表示されたキューブの画像を見る。
「必要な物がすでに揃っているなら、いつでもチタウリを呼び込めるかもしれない」
バナーは真剣な表情で頷いた。
「急いでキューブの反応を探す必要がある」
トニーは端末を操作しながら言う。
「それなら、科学チームは研究室へ移動だ」
複数の解析画面を閉じる。
「高線量スポットを探知するアルゴリズムの構築と、セルヴィグの行動分析を同時に進める」
こよりが勢いよく手を上げた。
「こよりも行きます!」
蓮は反射的に尋ねる。
「危なくない?」
「研究室なら安全でしょ?」
その場にいた全員が、一瞬だけ沈黙した。
空飛ぶヘリキャリア。
収容されているロキ。
内側にハルクを抱えるバナー。
何をするか分からないトニー・スターク。
そして、世界を繋ぐ力を持つ四次元キューブ。
この場所では、「安全」という言葉自体が、徐々に信用できなくなっていた。
蓮は頭を抱えた。
「……研究室から、絶対に勝手に出ないこと」
こよりは楽しそうに笑った。
「助手みたいで燃える!」
「返事は?」
「はい!」
トニーがそのやり取りを見て笑う。
「いいマネージャーだな」
「担当外のタレントでも、守るのが僕たちの仕事です」
その時、シオンが蓮の袖を引いた。
「蓮」
「何?」
「シオンたちは?」
蓮は少し考えた。
「今は待機していて」
シオンたち全員を見回す。
「ロキが何を狙っているのか、まだ分からない。できる限り、まとまって行動した方がいい」
「分かった」
「それと――」
蓮は何かを考えるように、一度言葉を止めた。
「後で、何人かには渡したいものがあるかもしれない」
シオンが眉をひそめる。
「渡したいもの?」
「まだ確定じゃない。必要になったら話すよ」
「また隠してない?」
「今度は本当に、まだ決まってないだけ」
シオンは疑うような目で蓮を見た後、隔離室の中にいるロキへ視線を戻した。
ロキもまた、静かにこちらを見ている。
全員の不安や混乱を、心の底から楽しんでいるかのように。
シオンは小さく呟いた。
「……嫌な感じ」
蓮も、同じものを感じていた。
科学的な分析が進んだことで、ロキの計画は少しずつ見え始めている。
四次元キューブ。
セルヴィグ博士。
イリジウム。
巨大なゲート。
そして、チタウリの軍勢。
だが、最も重要な部分だけが、未だに見えない。
なぜ、ロキはこの場所にいるのか。
このヘリキャリアで、何が起きることを待っているのか。
蓮は強化ガラス越しに、ロキを睨みつけた。
「……お前の本当の狙い、必ず見つける」
ロキは何も答えなかった。
ただ、口元へ薄い笑みを浮かべる。
その不気味な笑みが、ヘリキャリア全体を覆い始めた不穏な空気を、さらに濃いものへ変えていった。