仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人―   作:十六夜 蓮

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第19話 杖と隠し事

 

 

ヘリキャリア内部の研究室には、青白い光が満ちていた。

 

中央の作業台には、シュツットガルトでロキから回収された杖が固定されている。

 

杖の先端には、青く輝く宝石のような物体が埋め込まれていた。

 

その光は、四次元キューブが放つものとよく似ている。

 

いや。

 

ただ似ているだけではなかった。

 

モニターへ表示された複数の波形を見比べ、バナー博士が眉をひそめる。

 

「……セルヴィグ博士が残した、キューブの観測データと同じだ」

 

こよりも別の端末を覗き込み、興奮したように目を輝かせた。

 

「エネルギー反応のパターンが一致しています!」

 

画面へ表示された二つの波形を重ねる。

 

「位相に僅かなずれはありますけど、根本的には同系統の反応です!」

 

トニーは作業台へ片肘をつき、固定された杖を見下ろした。

 

「つまり、ロキ君は四次元キューブと同じ系列のおもちゃを持っていたわけだ」

 

「おもちゃって呼べる規模ではないと思いますけどね……」

 

こよりが苦笑する。

 

バナーは画面へ流れ続ける数値を見ながら、ゆっくりと息を吐いた。

 

「ただ、これを完全に解析するには時間がかかる」

 

「どのくらいですか?」

 

「演算だけでも、数週間は必要になるかもしれない」

 

「数週間!?」

 

こよりが顔をしかめた。

 

「そんなに待っていたら、ロキがゲートを開いちゃいますよ!」

 

「だから今は、完全な解析を目指すべきじゃない」

 

バナーは杖とキューブの反応を比較する画面を表示させる。

 

「四次元キューブの捜索へ使えそうな特徴だけを抜き出す。必要なのは、杖の正体そのものではなく、キューブへ繋がる手掛かりだからね」

 

トニーが軽く指を鳴らした。

 

「いい判断だ」

 

それから、バナーとこよりを交互に見る。

 

「この仕事が終わったら、二人ともスターク・タワーを見学しに来るといい」

 

こよりの耳が、ぴくりと動いた。

 

「スターク・タワー!」

 

「上層部の十フロアは、ほとんど研究施設だ」

 

トニーは得意げに胸を張る。

 

「科学者にとっては、夢の国だぞ」

 

「夢の国ですね!」

 

こよりは一切迷わず即答した。

 

蓮がこの場にいたならば、間違いなく嫌そうな顔をしていたであろう勢いだった。

 

こよりは期待に満ちた表情で、両手を握り締める。

 

「スターク・エキスポにも行ってみたかったんですけど、うちの総帥の掃除とか、ライブとか、色々忙しくて時間が取れなかったんですよ!」

 

トニーは首を傾げた。

 

「総帥の掃除?」

 

「うちの総帥、放っておくと掃除をサボるんです」

 

「なるほど」

 

トニーは真剣な表情で頷く。

 

「世界は広いな」

 

バナーが二人の会話を聞き、小さく笑った。

 

「僕も、ニューヨークへ行ったことはあるよ」

 

トニーが振り返る。

 

「へえ。観光か?」

 

バナーは僅かに目を逸らした。

 

「いや……ビルを壊してしまってね」

 

研究室の空気が、一瞬だけ止まった。

 

こよりは引きつった笑みを浮かべる。

 

「……えっと、事故ですか?」

 

バナーも曖昧に笑った。

 

「まあ、事故のようなものかな」

 

トニーはまったく気にした様子もなく、バナーの肩を軽く叩いた。

 

「安心しろ。スターク・タワーなら、ストレスのない最高の研究環境を約束する」

 

トニーは笑顔で言い切った。

 

「驚かせるようなドッキリもなしだ」

 

そう告げた直後、バナーの横腹を指先で突いた。

 

「わっ!」

 

バナーが本気で驚いた声を上げる。

 

こよりも反射的に肩を跳ねさせた。

 

「ちょ、ちょっと、スタークさん!?」

 

トニーは平然としていた。

 

「ほら、何も起きなかった」

 

「いや、今のは普通に怖いですって!」

 

こよりは苦笑しながらも、僅かに顔を青ざめさせていた。

 

バナーの内側にいる存在を知っていれば、当然の反応だった。

 

ちょうどその時、研究室の扉が開いた。

 

中へ入ってきたスティーブが、その光景を見て表情を険しくする。

 

「スターク」

 

トニーが振り返った。

 

「おっと。先生が来た」

 

スティーブは真っすぐトニーの前まで歩いてきた。

 

「君は正気なのか?」

 

「僕の頭は、いつでも冴えている」

 

「今、君はバナー博士を故意に刺激した」

 

スティーブの声は低かった。

 

「この艦にいる全員の命を危険へ晒して、何が楽しい?」

 

トニーは悪びれることなく肩をすくめる。

 

「本当に危険なのか、確認しただけだ」

 

「それ自体を危険な行為と言うんだ」

 

スティーブはバナーへ向き直った。

 

「博士、すまない。彼の代わりに謝る」

 

バナーは困ったように笑った。

 

「横腹を突かれた程度なら平気だよ」

 

自分の腹部へ手を当てる。

 

「その程度で変身するようなら、そもそも僕はここへ来ていない」

 

「それでも、君へするべき行為ではない」

 

スティーブはそう言うと、再びトニーを睨んだ。

 

トニーは椅子へ腰を下ろし、何も問題などないという顔で端末を操作し始める。

 

「そんなに緊張するな、キャプテン。もう少しゆったり構えろ」

 

「自分の仕事をしろ」

 

「しているさ」

 

「僕には、そうは見えない」

 

「それは、君が僕の仕事へついてこられていないだけだ」

 

トニーは端末へ複数のウィンドウを表示させた。

 

ロキの杖が放つエネルギー反応。

 

セルヴィグ博士の研究資料。

 

四次元キューブのエネルギー抽出理論。

 

そして、その中にはS.H.I.E.L.D.の内部データと思われるものまで混ざっていた。

 

横から画面を覗き込んだこよりが、目を丸くする。

 

「……あれ?」

 

モニターの隅に表示された機密指定の記号を指さす。

 

「これ、S.H.I.E.L.D.の機密領域じゃないですか?」

 

「そうだよ」

 

「見てもいいんですか?」

 

「よくないから面白い」

 

「うわぁ……」

 

こよりは僅かに身を引いた。

 

しかし、表示されているデータの内容には、明らかに興味を引かれている。

 

スティーブは険しい表情のまま尋ねた。

 

「スターク。何をしている?」

 

トニーは画面から目を離さず答える。

 

「そもそも、なぜフューリーは四次元キューブを研究していた?」

 

その言葉を境に、研究室の空気が変わった。

 

バナーの指が止まる。

 

こよりも笑みを消し、目を細めた。

 

トニーは椅子を回し、スティーブへ顔を向ける。

 

「キューブには、ほぼ無限のエネルギーがある」

 

両手を広げた。

 

「素晴らしい。夢のクリーンエネルギーだ」

 

だが、その声から次第に軽さが消えていく。

 

「それを研究していたのは、エネルギー企業でも大学でもない。スターク社でもなかった」

 

モニターへ表示されたS.H.I.E.L.D.の紋章を指さす。

 

「世界最大級の諜報組織だ」

 

スティーブは答えなかった。

 

トニーは椅子から立ち上がる。

 

「何か裏がある。そう思わないか?」

 

「今は、四次元キューブを見つけることが先だ」

 

「そのキューブが、何のために研究されていたのかも知らずに?」

 

トニーは今度はバナーへ視線を向けた。

 

「バナー博士も、同じ疑問を持っている」

 

バナーは困ったように目を逸らした。

 

「僕は、自分の仕事を終わらせたいだけだよ」

 

だが、その声には、何かを隠しているような響きがあった。

 

こよりは、それを聞き逃さなかった。

 

「博士。何か気になることがあるんですか?」

 

バナーは暫く答えを迷った。

 

やがて、ロキの杖へ目を向けながら口を開く。

 

「……ロキが言っていたんだ」

 

「何を?」

 

「『全人類を照らし、暖める』と」

 

バナーの表情が僅かに曇る。

 

「四次元キューブを、単なるエネルギー源として使うことを馬鹿にするような言い方だった」

 

トニーの表情が変わった。

 

バナーは続ける。

 

「あれは、君のタワーを指していたんじゃないのか?」

 

「スターク・タワー?」

 

こよりが呟く。

 

バナーは頷いた。

 

「世界中へクリーンエネルギーを供給する構想」

 

「ロキは、スターク・タワーのことを知っていた……?」

 

「その可能性はある」

 

スティーブがトニーを見た。

 

「あの、品のないニューヨークのビルか」

 

トニーの眉が、ぴくりと動く。

 

「……品がない?」

 

「目立ちすぎる」

 

「それを言うなら、象徴的だと言ってくれ」

 

「君らしい建物ではある」

 

「それは褒めているのか?」

 

「事実を言っただけだ」

 

トニーは不満そうにスティーブを見た。

 

しかし、スティーブは構わず続ける。

 

「あのビルは、アーク・リアクターを動力源にしているんだろう?」

 

こよりは手元の資料を開きながら答えた。

 

「スターク・タワーに設置された大型アーク・リアクターは、まだ完全稼働前の試験段階だと資料にありました」

 

ページをめくる。

 

「でも、かなり高密度のエネルギーを扱える設備のはずです」

 

トニーは感心したように、こよりを見る。

 

「よく調べているな、ピンクの科学者」

 

「さっきから、その呼び方は何なんですか!?」

 

「嫌か?」

 

こよりは僅かに悔しそうな顔をした。

 

「ちょっと嬉しいのが悔しいです!」

 

トニーは小さく笑った。

 

だが、すぐに真剣な表情へ戻る。

 

「僕はクリーンエネルギーを開発している」

 

スターク社の技術資料をモニターへ表示させる。

 

「スターク社は、その分野で最先端にいる」

 

続いて、S.H.I.E.L.D.の機密データへ視線を移す。

 

「それなのに、フューリーは僕をキューブの研究計画へ参加させなかった」

 

こよりも静かな声で言う。

 

「……こよりも、おかしいと思います」

 

「何が?」

 

「ゲートやキューブの理論を解析できる人材が必要だったなら、もっと外部の科学者を集めるべきでした」

 

S.H.I.E.L.D.の研究記録へ目を通す。

 

「でも、S.H.I.E.L.D.は研究そのものを隠していた」

 

トニーが頷いた。

 

「その通り」

 

モニターを指先で軽く叩く。

 

「そもそも、なぜS.H.I.E.L.D.がエネルギービジネスを始めた?」

 

スティーブは答えなかった。

 

トニーは自分の端末を持ち上げる。

 

「実は、ジャーヴィスにS.H.I.E.L.D.の機密データを探らせている」

 

スティーブの表情が、一段と険しくなった。

 

「あと数時間もあれば、フューリーが何を企んでいるのか分かるはずだ」

 

「君は、味方のシステムへ侵入しているのか?」

 

「味方が隠し事をしているなら、調べるのが礼儀だ」

 

「違う」

 

スティーブは一歩前へ出た。

 

「それは、ただの不信だ」

 

「不信を抱くには、十分な理由がある」

 

二人の距離が僅かに縮まる。

 

スティーブはトニーを真っすぐ見据えた。

 

「ロキは、我々の感情を煽ろうとしている」

 

ラボの中央に置かれた杖へ視線を向ける。

 

「こちらが互いを疑い、仲間割れを起こせば、奴の思うつぼだ」

 

トニーは軽く笑った。

 

「仲間割れ?」

 

スティーブへ顔を近づける。

 

「僕はまだ、君たちと仲間になった覚えはないけどね」

 

「我々には使命がある」

 

スティーブは力強く言い切った。

 

「四次元キューブを取り戻し、ロキを止めることだ」

 

「美しい言葉だ」

 

トニーは皮肉な笑みを浮かべる。

 

「募集用のポスターに使える」

 

スティーブの瞳に、怒りが宿った。

 

「茶化すな」

 

研究室の空気が張り詰める。

 

こよりは思わず小さく息を呑んだ。

 

バナーは作業の手を止め、黙って二人の様子を見つめている。

 

スティーブは静かに、しかし強い声で続けた。

 

「世界の危機より、自分のやり方を貫くことの方が大事なのか?」

 

トニーの表情が僅かに変わる。

 

「君より年下の蓮が戦っている」

 

その名前に、こよりが僅かに目を伏せた。

 

紫咲蓮。

 

ホロライブのマネージャー。

 

紫咲シオンの弟。

 

そして、仮面ライダーディケイド。

 

今まで何事もないように事務所で働いていた青年が、誰にも正体を明かさず、怪人たちと戦い続けていた。

 

「彼は、日本でたった一人で戦っていた」

 

スティーブは言葉を続ける。

 

「正体を隠し、誰にも知られないまま、多くの人間を守ってきた」

 

トニーは黙っている。

 

「彼のためにも、我々は使命を果たすべきだ」

 

暫くの沈黙が流れた。

 

だが、トニーは次の瞬間、鼻で笑うように言った。

 

「その蓮君の上にいるフューリーが、隠し事だらけでも?」

 

スティーブの動きが止まる。

 

トニーは畳みかけるように続けた。

 

「何かがおかしいと思わないのか?」

 

モニターへ表示されたデータを順番に指さしていく。

 

「四次元キューブの極秘研究」

 

「セルヴィグの計画」

 

「ロキが知っていた、スターク・タワーのエネルギー」

 

最後に、S.H.I.E.L.D.の紋章へ指を向ける。

 

「フューリーは、僕たちに何を隠している?」

 

スティーブは、一瞬だけ考え込んだ。

 

本当に僅かな時間だった。

 

それでも、その瞳に迷いが生まれたことは確かだった。

 

こよりも、その沈黙に気づく。

 

「キャプテン……」

 

スティーブはすぐに表情を戻した。

 

「キューブを見つけろ」

 

低く、押し殺すような声だった。

 

「今は、それが最優先だ」

 

それだけを告げ、スティーブは研究室を出ていった。

 

扉が閉まる。

 

室内には、重い沈黙だけが残された。

 

トニーは小さく肩をすくめる。

 

「怒らせたかな」

 

こよりが呆れたように答える。

 

「だいぶ怒ってましたよ」

 

バナーは静かに端末へ向き直った。

 

「だが、スタークの疑問は間違っていない」

 

こよりもモニターへ目を戻す。

 

S.H.I.E.L.D.の機密領域。

 

四次元キューブの研究。

 

セルヴィグ博士。

 

ロキの計画。

 

そして、スターク・タワー。

 

すべてが、どこかで繋がっている。

 

そんな予感があった。

 

トニーは再び端末の操作を始める。

 

「では、科学チーム」

 

画面へ複数の解析データを表示させる。

 

「四次元キューブを見つけて、ついでにフューリーの隠し事も暴こう」

 

こよりは僅かに迷った。

 

S.H.I.E.L.D.の機密へ勝手に踏み込むことが、正しい行為だとは言い切れない。

 

だが、このまま何も知らずにいることにも危険を感じていた。

 

やがて、こよりは小さく頷く。

 

「……分かりました」

 

トニーが笑みを浮かべる。

 

こよりはすぐに付け加えた。

 

「ただし、蓮に怒られたら、スタークさんも一緒に怒られてくださいね」

 

「蓮君は、そんなに怖いのか?」

 

「シオン先輩の弟ですから」

 

「なるほど」

 

トニーは納得したように頷く。

 

「姉弟揃って怖いわけだ」

 

バナーが小さく笑った。

 

しかし、その笑いは長く続かなかった。

 

研究室の片隅で。

 

固定されたロキの杖が、静かに青い光を放っていた。

 

その輝きは、誰にも気づかれないほど微かなものだった。

 

だが、確かに。

 

そこにいる者たちの心の奥を、優しく撫でるように揺らめいていた。

 

不信。

 

怒り。

 

焦り。

 

恐怖。

 

普段ならば抑えられる感情が、少しずつ膨らんでいく。

 

ロキが望むものが。

 

目には見えない形で、ヘリキャリアの中へ広がり始めていた。

 

 

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