仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人―   作:十六夜 蓮

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第2話 望みを言え

ホロライブ事務所の中は、朝から慌ただしかった。

 

廊下を行き交うスタッフの足音。

 

打ち合わせへ向かう社員たちの声。

 

モニターには配信スケジュールや案件資料が並び、あちこちのデスクからキーボードを叩く音が響いている。

 

その中を、紫咲蓮は少し息を切らしながら歩いていた。

 

ミラーワールドでの戦闘。

 

女性の救出。

 

そして、変身解除。

 

そこから何食わぬ顔で事務所へ戻ってくるのは、思っていた以上に難しかった。

 

「あ、蓮さん」

 

他のタレントを担当しているマネージャーが、資料を抱えたまま声をかけてきた。

 

「遅かったですね」

 

蓮は一瞬だけ固まった。

 

まさか、ミラーワールドで怪物と戦っていました、などと言えるはずがない。

 

蓮は一つ咳払いをすると、いつもの調子で答えた。

 

「どこかの自称ハーバード大学卒で、自称スターク社の研修を受けた魔女っ娘コスプレに、夜中までゲームへ付き合わされて寝坊しました」

 

「……ああ」

 

マネージャーは何かを察したように苦笑した。

 

「紫咲さんですね」

 

「本人は『シオン悪くないもん』って言い張ると思います」

 

「言いそうですね」

 

二人は軽く笑い合った。

 

だが、すぐに仕事の空気へ戻る。

 

シオンはホロライブの中では、毎日配信や長時間配信をするタイプではない。

 

その分、案件やレッスン、収録などの予定は比較的管理しやすかった。

 

しかし、全員がそうとは限らない。

 

少し離れた席では、白上フブキの担当マネージャーが、片手にエナジードリンクを持ちながら高速でキーボードを叩いていた。

 

その隣では、博衣こよりの担当マネージャーが目元に疲労を滲ませながら、配信予定表と収録予定表を照らし合わせている。

 

「昨日の配信、何時間でしたっけ……」

 

「聞かないでください。心が折れます」

 

「エナドリ、追加いります?」

 

「ください」

 

その会話を聞いた蓮は、心の中でそっと手を合わせた。

 

ホロライブのマネージャーという仕事は、華やかな世界を支える裏方だ。

 

だが、その現場は決して楽ではない。

 

人気タレントの予定管理。

 

配信トラブルへの対応。

 

案件内容の確認。

 

収録への同行。

 

グッズの監修。

 

そして時には、本人のメンタルケアまで求められる。

 

さらに蓮の場合は、もう一つ仕事があった。

 

世界を破壊するかもしれない力を持つ仮面ライダーとして、怪人たちと戦うこと。

 

「……普通、兼業するものじゃないよな」

 

蓮は小さく呟いた。

 

その時、近くにいた社員がスマートフォンを片手に声を上げた。

 

「ねえ、これ見て」

 

「何ですか?」

 

何人かのスタッフが、その画面を覗き込む。

 

蓮も何気なく視線を向けた。

 

スマートフォンには、ニュース記事が表示されていた。

 

映っているのは、ぼやけた監視カメラの映像。

 

夜の街。

 

逃げ惑う人々。

 

そして、その奥に映る異形の影。

 

記事の見出しには、こう書かれていた。

 

『都内各地で謎の怪物目撃情報 未確認生命体か』

 

「未確認生命体だって」

 

社員の一人が眉をひそめる。

 

「これ、仮面ライダーに出てきたグロンギとかワームに似てません?」

 

「いやいや、そんなわけないじゃん」

 

別の社員が笑いながら答えた。

 

「仮面ライダーはテレビの中の話だよ」

 

「でもさ、最近のアメリカじゃ、空飛ぶ鉄のスーツとか緑の巨人とか、雷の神様とかが普通にニュースになってるじゃないですか」

 

「それはそれ。これはこれ」

 

「本当に怪物が出てきたらどうするんですか?」

 

「その時は、アイアンマンがやっつけてくれるよ」

 

冗談交じりの笑い声が広がった。

 

だが、蓮だけは笑えなかった。

 

グロンギ。

 

ワーム。

 

ミラーモンスター。

 

テレビの中にしか存在しないはずだった怪物たち。

 

しかし今朝、蓮は実際にミラーワールドへ入った。

 

モンスターに襲われていた女性を救出し、龍騎の力を使って戦った。

 

つまり、世界はすでに変わり始めている。

 

仮面ライダーの世界までもが、この世界へ少しずつ混ざり始めているのだ。

 

「……まずいな」

 

蓮はスマートフォンの画面から目を逸らした。

 

もし怪人たちがホロライブのタレントを狙うようになれば、ただの警備やスケジュール管理では済まない。

 

その時、自分一人で全員を守り切れるのか。

 

蓮には、まだその答えが出せなかった。

 

その頃。

 

東京の住宅街に建つ、古びたアパートの一室。

 

昼間だというのに、部屋のカーテンは閉め切られていた。

 

光がほとんど差し込まない薄暗い部屋の中で、一人の男が座っている。

 

部屋の壁一面には、紫咲シオンの写真が貼られていた。

 

配信のスクリーンショット。

 

ライブの写真。

 

グッズの画像。

 

雑誌の切り抜き。

 

インターネットから印刷した写真。

 

壁も、机も、棚も、すべてが紫咲シオンで埋め尽くされている。

 

男はモニターに映るシオンの姿を見つめながら、荒い呼吸を繰り返していた。

 

「シオンちゃん……」

 

男の手が、写真の一枚へ触れる。

 

「会いたいなぁ……シオンちゃんに……」

 

その声に込められていたのは、純粋な憧れではなかった。

 

暗く、重く、歪んだ執着。

 

決して届かないはずの距離を、力ずくで縮めようとする欲望だった。

 

「なんで会えないんだよ……僕はこんなに好きなのに……」

 

男は爪を噛んだ。

 

机の上には、開いたままのノートパソコン。

 

画面には、シオンの配信アーカイブが映っている。

 

その横には、イベント会場の地図。

 

事務所周辺について書かれたメモ。

 

過去の出演スケジュールをまとめた紙。

 

明らかに、普通のファンの範囲を超えていた。

 

「シオンちゃんに会いたい……話したい……僕だけを見てほしい……」

 

その時だった。

 

部屋の中に、低い声が響いた。

 

「――お前の望みを言え」

 

男の体が跳ねた。

 

「誰だ!?」

 

男は勢いよく振り返る。

 

部屋の隅。

 

そこでは、砂のような粒子が渦を巻いていた。

 

サラサラと床へ落ちる砂が、次第に一つの形を作っていく。

 

頭。

 

腕。

 

胴体。

 

だが、現れたものは人間ではなかった。

 

崩れ落ちる砂の中から姿を現したのは、異形の怪人だった。

 

「な、なんだよ……お前……」

 

男が後ずさる。

 

怪人は、男を見下ろした。

 

「お前の望みを言え」

 

「望み……?」

 

「どんな望みも叶えてやる」

 

怪人の声は低く、甘く、耳の奥へ入り込んでくるようだった。

 

「お前が払う代償は、一つだけだ」

 

男は震えていた。

 

だが、恐怖よりも先に、欲望が勝った。

 

「なんでも……なのか?」

 

「なんでもだ」

 

怪人は静かに答えた。

 

男の目が大きく見開かれる。

 

その瞬間、彼の中で何かが壊れた。

 

常識。

 

理性。

 

罪悪感。

 

そんなものは、最初からほとんど残っていなかったのかもしれない。

 

男は、壁に貼られたシオンの写真を見た。

 

そして、笑った。

 

「紫咲シオンちゃんに……会いたい」

 

怪人の目が怪しく光る。

 

「契約成立だ」

 

次の瞬間、怪人の体が砂のように崩れた。

 

上半身と下半身がバラバラになり、部屋の中を暴れるように回転する。

 

男は悲鳴を上げることすらできず、その光景を見つめていた。

 

砂が渦を巻き、怪人の上半身と下半身が再び合体する。

 

完全な姿となった怪人は、窓へ向かって歩き始めた。

 

「お、おい……シオンちゃんに会わせてくれるんだよな?」

 

男は期待に満ちた目で尋ねた。

 

だが、怪人は振り返らない。

 

「お前の望みは聞いた」

 

「じゃあ……!」

 

「叶えてやる」

 

怪人は窓を突き破った。

 

ガラスが砕け散り、砂の怪人はアパートの外へ飛び出す。

 

下の通りを歩いていた住人たちが、悲鳴を上げた。

 

怪人は地面へ着地すると、迷うことなく走り出す。

 

その向かう先は、ホロライブ事務所。

 

紫咲シオンがいる場所だった。

 

部屋に残された男は、割れた窓の前まで這うように近づいた。

 

遠ざかっていく怪人の影を見つめながら、口元を歪ませる。

 

「会える……」

 

男は荒い呼吸を繰り返した。

 

「シオンちゃんに……会える……!」

 

その背後では、壁一面に貼られたシオンの写真が、破れたカーテンから差し込む光を受けて揺れていた。

 

だが、その光景は、決して愛などではない。

 

怪物を呼び寄せた、歪んだ願いの証だった。

 

 




第2話をお読みいただき、ありがとうございます。

新たな怪人と、紫咲シオンへ向けられた歪んだ願い。

次回、蓮はホロライブ事務所へ迫る脅威に立ち向かいます。
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