仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人―   作:十六夜 蓮

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第20話 壊れ始めるチーム

 

 

ヘリキャリア内部には、重苦しい空気が流れ始めていた。

 

それはロキが拘束室へ収容されてから、少しずつ濃くなっていたものだった。

 

疑念。

 

苛立ち。

 

焦り。

 

恐怖。

 

誰もがロキの狙いを探ろうとしていた。

 

だがその一方で、彼ら自身がロキによって心を揺さぶられているようにも見えた。

 

蓮はナターシャからの連絡を受け、足早に研究室へ向かっていた。

 

『ロキの狙いが分かったわ』

 

通信機から聞こえてきたナターシャの声は、普段よりも硬かった。

 

『彼は、ハルクを目覚めさせるつもりよ』

 

その言葉を聞いた瞬間、蓮の背筋へ冷たいものが走った。

 

ハルク。

 

ブルース・バナーの内側に存在する、もう一人の人格。

 

圧倒的な怪力と耐久力を持つ、緑色の巨人。

 

もしハルクがヘリキャリア内部で暴れ始めれば、被害は計り知れない。

 

しかも現在、この艦に乗っているのはS.H.I.E.L.D.のクルーだけではない。

 

シオンをはじめとした、ホロライブのメンバーたちもいる。

 

「間に合ってくれ……!」

 

蓮は研究室の扉を勢いよく開いた。

 

「博士!」

 

研究室の中には、トニー、バナー、こよりがいた。

 

部屋の中央には、ロキから回収された杖が固定されている。

 

その先端にある青い光が、呼吸するように微かに揺らめいていた。

 

そして、部屋の空気が明らかにおかしい。

 

トニーは苛立った様子で端末を睨んでいる。

 

バナーは笑みを浮かべていたが、その目はまったく笑っていない。

 

こよりも端末を操作していたものの、表情は硬く強張っていた。

 

蓮はすぐに異変を感じ取った。

 

「……何かあった?」

 

こよりが振り返る。

 

「蓮くん。キューブの追跡はかなり進んだよ」

 

モニターへ表示された解析結果を指さす。

 

「ガンマ線反応で捜索をかければ、誤差八百メートル程度まで位置を絞り込めるはず」

 

「八百メートル……かなり絞れたね」

 

「うん。でも……」

 

こよりが言葉を濁した。

 

その時、トニーがジャーヴィスから送られてきたデータへ目を通し、目を細めた。

 

「試作モデルとは何だ?」

 

研究室の空気が、さらに重くなる。

 

別の扉が開き、フューリーが入ってきた。

 

「スターク」

 

トニーはフューリーへ振り返った。

 

「答えてくれよ、長官」

 

端末を持ち上げ、画面を見せる。

 

「この『試作モデル』というのは、一体何だ?」

 

フューリーが口を開こうとした、その時だった。

 

研究室の扉が再び開く。

 

そこからスティーブが入ってきた。

 

彼の手には、S.H.I.E.L.D.の機密保管区画から持ち出した銀色のケースが握られている。

 

スティーブはケースをテーブルの上へ置いた。

 

留め具を外し、中身を広げる。

 

収められていたのは、四次元キューブの力を利用した兵器の試作部品だった。

 

スティーブは低い声で告げた。

 

「四次元キューブの力を利用した兵器だ」

 

研究室が静まり返る。

 

こよりの目が大きく見開かれた。

 

「……兵器?」

 

トニーは端末を操作し、モニターへ複数の設計図を表示させる。

 

銃火器。

 

エネルギー砲。

 

携行型兵器。

 

そのすべてが、四次元キューブのエネルギーを軍事転用することを前提としていた。

 

トニーはフューリーを見た。

 

「これは何だ?」

 

フューリーは表情を変えないまま答える。

 

「我々は、あらゆる側面から四次元キューブのデータを収集していた」

 

「軍事目的ではない」と言いたげに続ける。

 

「兵器開発だけが目的ではない」

 

トニーは乾いた笑い声を漏らした。

 

「兵器開発だけが目的じゃない?」

 

モニターに並ぶ設計図を指さす。

 

「なら、これは何だ。現代芸術か?」

 

スティーブは兵器の試作品を見つめ、怒りを込めて言った。

 

「世界は何も変わっていない」

 

その声には、七十年前の戦場を知る者の怒りが滲んでいた。

 

「昔と同じだ」

 

その時、ナターシャがソーと共に研究室へ入ってきた。

 

彼女は室内を見回すと、すぐにバナーへ視線を向ける。

 

「博士。あなたは、ここから離れた方がいいわ」

 

バナーはゆっくりとナターシャへ顔を向けた。

 

「僕をここへ連れてきたのは君だろう?」

 

ナターシャの表情が僅かに強張る。

 

バナーは穏やかな声で続ける。

 

「それよりも聞きたいのは、なぜS.H.I.E.L.D.がキューブを使って大量破壊兵器を作ろうとしていたのかだ」

 

口調は落ち着いている。

 

だが、その奥には隠しきれない苛立ちがあった。

 

フューリーはソーを指さした。

 

「理由なら、そこにいる」

 

ソーが驚いたように自分を指さす。

 

「俺か?」

 

「昨年、地球へ別の世界から客が来た」

 

フューリーの声は低かった。

 

「その男が引き起こした戦いによって、町一つが破壊された」

 

ソーは眉をひそめる。

 

「俺は、この星との友好を望んでいる」

 

「宇宙にいるのは、君たちだけではない」

 

フューリーは鋭い視線をソーへ向けた。

 

「我々は思い知らされた。この宇宙に存在するのは人類だけではない。そして、人類には自分たちを守る力がないとな」

 

ソーの声も荒くなる。

 

「キューブへ手を出したことで、地球が高次元の戦争へ参加する意思を持っていると宇宙へ知らせたのは、お前たちだ!」

 

その言葉によって、研究室の空気はさらに荒れた。

 

トニーが皮肉な笑みを浮かべる。

 

「なるほど。核兵器と同じように、抑止力にしようとしたわけだ」

 

フューリーがトニーを見る。

 

「かつて武器商人だった君が、それを言うのか?」

 

トニーの表情が変わった。

 

「どうして僕の話になる?」

 

その一言をきっかけに、火種は一気に燃え広がった。

 

フューリー。

 

トニー。

 

スティーブ。

 

ソー。

 

それぞれが、自分の考えをぶつけ始める。

 

先ほどまで静かに話を聞いていたバナーも、苛立ちを抑えきれない様子で会話へ割り込む。

 

こよりは画面と彼らの顔を交互に見ながら、どうすれば止められるのか分からず立ち尽くしていた。

 

蓮はその様子を見て、奥歯を噛み締める。

 

明らかにおかしい。

 

全員の怒りが、不自然なほど増幅されている。

 

普段ならば飲み込めるはずの言葉まで、次々と口から飛び出していた。

 

そして、部屋の中央では。

 

ロキの杖が、微かに青い光を放っている。

 

「みんな、落ち着いてください!」

 

蓮が大きな声を上げた。

 

だが、その声は激しい議論の中へ飲み込まれた。

 

バナーが乾いた笑いを漏らす。

 

「僕たちがチームだって?」

 

その声は、普段の穏やかな博士のものではなかった。

 

「危険な薬品を、無理やり同じ容器へ詰め込んだようなものだ」

 

周囲を見回しながら言う。

 

「いわば、時限爆弾だよ」

 

フューリーが鋭く言い返した。

 

「博士は引っ込んでいてくれ」

 

トニーが横から口を挟む。

 

「もっと吐き出させてやれよ。溜め込むより健康的だ」

 

スティーブがトニーを睨んだ。

 

「理由は分かっているだろう。黙れ」

 

トニーも鋭い視線を返す。

 

「僕に、そんな口を利いていいのか?」

 

スティーブは一歩前へ出た。

 

「鎧を着た無敵の男も、それを脱げば何が残る?」

 

トニーは即答した。

 

「天才、億万長者、プレイボーイ、慈善家」

 

「君のそういう態度が気に入らない」

 

スティーブの声には、強い怒りが混じっていた。

 

「僕は、君よりも十倍価値のある人たちを知っている」

 

トニーを真っすぐ睨みつける。

 

「君が本気で戦うのは、いつも自分のためだ」

 

そして、スティーブは蓮へ視線を向けた。

 

「彼のように、他人のために自分を犠牲にすることもできない」

 

蓮は目を見開いた。

 

「キャプテン。今、それは――」

 

しかし、スティーブは止まらなかった。

 

「仲間のために、鉄条網へ身を投げられるか?」

 

トニーは鼻で笑った。

 

「僕たちなら、鉄条網を切断する」

 

「すぐに、そうやって言葉をすり替える」

 

スティーブはトニーを睨む。

 

「君のような人間が、蓮のようなヒーローと同じ名を名乗るのはやめた方がいい」

 

「キャプテン!」

 

蓮が強い声を上げた。

 

だが、今度はトニーがスティーブを見て冷たく笑った。

 

「君のようなヒーローになれと?」

 

その声から、いつもの軽さが消えていた。

 

「君の力は、すべて実験室で作られたものだ」

 

スティーブの目を見据える。

 

「その身体能力も、盾も、伝説も。何もかも他人から与えられた」

 

スティーブの表情が、一気に変わった。

 

怒りが限界を超える。

 

「スーツを着ろ」

 

低い声で告げる。

 

「勝負しよう」

 

トニーも一歩前へ出た。

 

「喜んで」

 

研究室全体が、今にも爆発しそうだった。

 

バナーはその光景を眺め、乾いた笑いを漏らす。

 

「大したチームだ」

 

フューリーがナターシャへ命じた。

 

「ロマノフ。バナー博士をお連れしろ」

 

ナターシャが一歩動く。

 

だが、バナーは静かに笑った。

 

「僕を入れるための部屋は、今ロキが使っている」

 

フューリーの表情が僅かに動く。

 

「違う」

 

「あれは、僕を殺すための部屋だろう?」

 

研究室が静まり返った。

 

バナーの声だけが、室内へ響く。

 

「でも、僕を殺すことはできない」

 

彼は自嘲するように笑った。

 

「自分でも試したからね」

 

ナターシャの表情が凍りつく。

 

こよりも息を呑んだ。

 

バナーは淡々と続ける。

 

「以前、すべてを終わらせようとしたことがある」

 

視線を床へ落とす。

 

「けれど、もう一人の僕が、それを許さなかった」

 

誰も何も言えなかった。

 

「それで僕は諦めた」

 

バナーは静かに息を吐く。

 

「人を助けることに、生きる意味を見つけた。しばらくは、それで上手くいっていたんだ」

 

やがて、その瞳がフューリーへ向けられる。

 

「なのに、こんな茶番へ引っ張り出された」

 

続いて、こよりや蓮へ視線を移す。

 

「関係のないホロライブの人たちまで巻き込み、まだ若い蓮の命まで危険へ晒している」

 

蓮は静かに言った。

 

「博士。僕は、自分の意思でここへ来ました」

 

「それでもだ」

 

バナーの声は僅かに震えていた。

 

「知りたいか?」

 

彼は周囲の全員を見回した。

 

「僕が、どうやって平静を保っているのかを」

 

その瞬間、蓮は嫌な気配を感じ取った。

 

ナターシャも同時に異変へ気づく。

 

フューリーの手が、腰の銃へ伸びた。

 

こよりが震える声で言う。

 

「博士……その杖を置いて」

 

全員の視線が、バナーの手元へ集まった。

 

バナー自身も、その時初めて気づいたようだった。

 

彼はいつの間にか。

 

作業台に固定されていたはずのロキの杖を、右手で握っていた。

 

杖の先端にある青い光が、静かに揺らめいている。

 

気まずく、重い沈黙が研究室を包み込んだ。

 

バナーは杖を見つめ、ゆっくりと手を離そうとする。

 

その時だった。

 

ビーッ!

 

端末から警告音が鳴り響いた。

 

こよりが我に返り、モニターへ顔を向ける。

 

画面に表示された解析結果を見て、目を見開いた。

 

「四次元キューブを……見つけた!」

 

トニーもモニターへ視線を向ける。

 

「僕なら早く現場へ着ける」

 

スティーブが即座に言った。

 

「一人では行かせない」

 

トニーが振り返る。

 

「邪魔をするなら、年寄りでも容赦はしない」

 

スティーブの目が鋭くなる。

 

「スーツを着ろ」

 

二人が、再び激しく睨み合う。

 

蓮は拳を強く握った。

 

「もう、いい加減に――」

 

その瞬間だった。

 

ドォォォォン!

 

ヘリキャリア全体を、凄まじい衝撃が襲った。

 

轟音。

 

爆発。

 

研究室の床が大きく傾き、天井の照明が次々と砕け散る。

 

「うわっ!?」

 

「きゃあっ!」

 

研究室のガラスが一斉に割れた。

 

猛烈な爆風が、室内へ吹き込む。

 

バナーとナターシャは足場を失い、崩壊した床の向こうへ投げ出された。

 

「博士! ロマノフ!」

 

蓮が叫ぶ。

 

しかし、二人の姿は破壊された床を抜け、階下の機械室へ落下していった。

 

スティーブは即座にトニーへ叫んだ。

 

「スーツを着ろ!」

 

今度のトニーは、軽口を叩かなかった。

 

「ああ」

 

短く答えると、研究室の外へ向かって走り出した。

 

室内は完全に破壊されていた。

 

警報が鳴り響き、赤い非常灯が激しく点滅する。

 

火花が飛び散り、傾いた棚から機材が落下していく。

 

こよりは、倒れた棚のすぐ近くへ投げ出されていた。

 

蓮は咄嗟に彼女を抱き寄せ、降り注ぐ機材から庇っていた。

 

「こより、大丈夫!?」

 

こよりは何度か咳き込みながら答える。

 

「ま、まあ……何とか……」

 

「怪我は?」

 

「たぶん大丈夫。蓮くんは?」

 

「僕も平気」

 

蓮は周囲を見回す。

 

研究室の端末は、一部が完全に破壊されていた。

 

だが、四次元キューブの位置情報は、まだモニターに表示されている。

 

同時に、遠くから連続した銃声が聞こえてきた。

 

襲撃。

 

ロキの仲間か。

 

あるいは、杖で操られたS.H.I.E.L.D.のエージェントたちか。

 

いずれにしても、最悪のタイミングだった。

 

蓮はこよりを支えながら立ち上がらせる。

 

「こより。シオンたちがいる場所へ戻って」

 

「蓮くんは?」

 

「僕は、バナー博士のところへ行く」

 

こよりの表情が強張る。

 

「ハルクが……」

 

「まだ、間に合うかもしれない」

 

その時、先ほどよりも近い場所で銃声が響いた。

 

蓮は舌打ちする。

 

「まったく……!」

 

こよりは不安そうに蓮を見つめた。

 

「蓮くん」

 

蓮も彼女へ視線を向ける。

 

「前に渡した物の使い方は、覚えてるよね?」

 

こよりは一瞬だけ目を見開いた。

 

彼女の懐には、蓮が念のために渡していた小型の防衛用アイテムが入っていた。

 

ライダーシステムではない。

 

だが、緊急時に自分や周囲の人間を守るための簡易装備だった。

 

こよりは服の上から、その装備を強く握る。

 

「……覚えてるよ」

 

声は僅かに震えていた。

 

それでも、その瞳はしっかりと前を向いている。

 

蓮は力強く頷いた。

 

「絶対に無理をしないこと」

 

「うん」

 

「シオンたちと合流して、全員でまとまって動いて。通信が繋がるなら、僕へ現在地を送って」

 

「分かった」

 

「それと、スタークさんの真似はしない」

 

「こんな時に!?」

 

「大事なことだから」

 

こよりは一瞬だけ呆れた顔をした。

 

しかし、すぐに小さく笑った。

 

「分かった。絶対にしない」

 

蓮も僅かに笑い返す。

 

だが、次の瞬間には表情を引き締めた。

 

ディケイドライバーを腰へ装着する。

 

ライドブッカーからカードを引き抜いた。

 

「変身」

 

カードをドライバーへ挿入する。

 

《KAMEN RIDE》

 

《DECADE》

 

 

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