仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人― 作:十六夜 蓮
サブタイトル
天才科学者、変身
前書き
第21話です。
ヘリキャリアへの襲撃により、操られたS.H.I.E.L.D.の兵士たちが研究室へ迫ります。
バナー博士のもとへ向かおうとする蓮を援護するため、博衣こよりが新たな力を手に取ります。
本文
ヘリキャリア全体に、けたたましい警報音が鳴り響いていた。
赤い非常灯が点滅し、傾いた通路の奥からは、途切れることなく銃声が聞こえてくる。
仮面ライダーディケイドへ変身した蓮は、崩壊した研究室の床から階下を覗き込んでいた。
下層にある機械室から響いてくるのは、金属が大きく軋む音。
そして、何か重いものが、周囲の機材を乱暴に押し退けているような破壊音だった。
ブルース・バナー。
まだ完全にハルクへ変身したとは限らない。
だが、先ほど聞こえた唸り声を考えれば、残された時間はほとんどなかった。
「博士……!」
ディケイドが崩れた床から飛び降りようとした、その時だった。
複数の足音が、通路の奥から近づいてくる。
現れたのは、銃で武装した兵士たちだった。
身に着けているのは、S.H.I.E.L.D.の制服。
しかし、その目には正常な意思が感じられない。
虚ろな視線。
機械的な動き。
ロキの杖によって操られた、S.H.I.E.L.D.のエージェントたちだった。
兵士たちは研究室へ突入すると、一斉に銃口を向けた。
「目標を確認」
「直ちに排除する」
ディケイドはライドブッカーを構えた。
「こより、下がって!」
しかし、こよりは逃げなかった。
彼女は震える手を懐へ入れる。
そこから取り出したのは、蓮から護身用として渡されていた小型の装置だった。
こよりが中央部分へ触れると、折り畳まれていた機構が展開する。
赤と青の配色を持つ、奇妙なベルト。
ビルドドライバー。
「……蓮くん」
こよりは僅かに震える手で、ビルドドライバーを腰へ当てた。
ベルト部分が自動的に伸び、彼女の体へ固定される。
「これ、使うよ」
ディケイドが振り返った。
「こより……!」
「大丈夫」
こよりは自分へ言い聞かせるように答えると、大きく深呼吸した。
怖くないわけではない。
目の前には、本物の銃を持った兵士たちがいる。
ヘリキャリアは大きく傾き、艦内では爆発と銃撃が続いている。
階下では、いつハルクが目覚めてもおかしくない。
普通ならば、足が震えて動けなくなって当然の状況だった。
けれど、このヘリキャリアにはホロライブのみんながいる。
シオン。
スバル。
あやめ。
トワ。
そして、未だ状況を完全には理解できていない、多くのタレントやスタッフたち。
何より、蓮はまた一人で危険な場所へ向かおうとしている。
ずっと正体を隠し、誰にも頼らず戦ってきた蓮を。
これ以上、ただ見送るだけではいられなかった。
こよりは白衣のポケットから、二本の小さなボトルを取り出した。
赤いラビットフルボトル。
青いタンクフルボトル。
「さあ――」
こよりは二本のフルボトルを強く振った。
シャカシャカシャカ!
軽快な音が研究室へ響く。
その瞬間、こよりの周囲へ青白い数式が浮かび上がった。
物理法則を示す数式。
複雑な化学式。
幾何学模様。
電子の軌道を思わせる光の線。
崩壊した研究室の中で、それらはこよりを中心に美しく交差していく。
恐怖に揺れていた彼女の目へ、科学者としての輝きが戻った。
「実験を始めましょう」
ラビットフルボトルをドライバーへ挿入する。
《RABBIT!》
続けて、タンクフルボトルを挿入した。
《TANK!》
こよりはビルドドライバーのレバーを握り、勢いよく回転させる。
《BEST MATCH!》
彼女の前後へ、赤と青のパイプ状フレームが展開された。
複雑な機械音を立てながら、無数の部品が組み上がっていく。
兵士たちが一瞬だけ動きを止めた。
「あれは何だ……?」
「新たな能力者を確認」
こよりは両手を構え、戦闘姿勢を取る。
まだ少しぎこちない。
それでも、その姿勢には確かな覚悟があった。
《ARE YOU READY?》
こよりは正面を見据えた。
「変身!」
赤と青のフレームが、こよりの体を前後から挟み込むように閉じた。
《鋼のムーンサルト!》
装甲が一斉に形成されていく。
《RABBITTANK!》
《YEAH!》
右半身を覆う、赤いラビットの装甲。
左半身を覆う、青いタンクの装甲。
高い跳躍力と素早い機動性。
強固な防御力と重量を生かした破壊力。
二つの異なる能力が組み合わさった、ベストマッチ。
仮面ライダービルド。
ホロライブの頭脳担当、博衣こよりは。
ついに仮面ライダーとして、戦場へ立った。
ディケイドはその姿を見て、僅かに息を吐く。
「いざという時のために、ドライバーを渡しておいて正解だった……」
ビルドとなったこよりは、自分の両手を見つめた。
指を動かすたびに、装甲が自分の意志へ反応する。
「これが……仮面ライダーの力……」
兵士たちが我に返り、一斉に引き金を引いた。
ダダダダダッ!
無数の銃弾が、ビルドへ向かって飛来する。
「こより!」
ディケイドが叫ぶよりも早く、ビルドは床を蹴って横へ跳んだ。
ラビット側の脚力が発揮され、体が想像以上の速度で宙へ舞い上がる。
そのまま壁へ着地した。
「うわっ!? 速い!」
変身した本人が、一番驚いていた。
壁を強く蹴って反転し、兵士の一人へ向かって急降下する。
「はあっ!」
赤い脚から放たれた蹴りが、兵士の胸部へ直撃した。
兵士は勢いよく吹き飛ばされ、通路の壁へ激突する。
別の兵士が側面から接近し、銃床を振り下ろした。
ビルドは青い左腕を掲げ、その攻撃を受け止める。
重い衝撃が走る。
だが、タンク側の分厚い装甲が、その威力を完全に受け止めていた。
「硬い……!」
ビルドは感動したように左腕を見る。
「すごい! 計算上の性能と、ほとんど同じ――」
「戦闘中に感動してる場合じゃないよ!」
ディケイドはライドブッカーを振るい、別の兵士が構えていた銃を弾き飛ばした。
ビルドは僅かに慌てながらも、兵士たちへ向き直る。
「創る、形成するという意味の――ビルド」
赤と青の拳を構える。
「以後、お見知りおきを!」
兵士たちは一瞬だけ動きを止めた。
しかし、すぐに再び銃を構える。
ディケイドはビルドの隣へ並んだ。
「こより、絶対に無茶しないで」
「了解!」
「相手はロキに操られているだけだ。倒すんじゃなくて、殺さずに止める」
「非殺傷で制圧ですね!」
「そういうこと」
ディケイドはライドブッカーをソードモードへ変形させる。
「行くよ!」
「はい!」
二人の仮面ライダーが、同時に走り出した。
ディケイドは正面から兵士たちの中へ突入する。
放たれた銃弾をライドブッカーで弾き、低い姿勢から足払いを放った。
一人の兵士が床へ転倒する。
続けて、ライドブッカーの柄を腹部へ打ち込み、意識を失わせた。
ビルドは通路の壁を蹴り、跳ねるように移動する。
天井。
壁。
床。
赤いラビット側の能力を生かし、不規則な軌道で敵の背後へ回り込んだ。
「ラビットの機動力、思っていた以上にすごい……!」
接近に気づいた兵士が、腰からナイフを抜く。
振り下ろされた刃を、ビルドはタンク側の腕で受け止めた。
火花が散る。
そのまま右拳を突き出し、兵士が持っていた銃だけを正確に破壊する。
「ごめんなさい! でも、撃たれるわけにはいかないので!」
砕けた銃の部品が床へ散らばる。
ディケイドは別の兵士を蹴り飛ばしながら、その様子を横目で見た。
「謝りながら武器を壊してる……」
「操られてるだけなら、謝った方がいいかなって!」
「こよりらしいよ!」
通路の奥から、さらに複数の兵士が姿を現した。
その中央に、一人だけ異なる武器を持つ男がいる。
銃ではない。
手にしているのは、特殊な弓。
蓮はその姿を見て、仮面の奥で目を細めた。
「……ホークアイ」
クリント・バートン。
S.H.I.E.L.D.最高峰の射撃技術を持つエージェント。
そして現在は、ロキの杖によって完全に操られている男。
バートンは無表情のまま、矢筒から一本の矢を抜いた。
弓へ番える。
狙いは――ビルド。
「こより、避けて!」
ディケイドが叫ぶ。
バートンが矢を放った。
高速で迫る矢。
初めての実戦へ立ったばかりのビルドでは、反応が遅れている。
ディケイドが前へ出ようとした、その瞬間。
ビルドの複眼の奥で、こよりの思考が加速した。
矢の速度。
発射された角度。
現在の距離。
自分が持つ脚力。
回避に必要な時間。
周囲の障害物。
無数の数値が、頭の中で一気に組み上げられていく。
「ここ!」
ビルドはラビット側の脚で床を蹴り、真横へ跳躍した。
飛来した矢が、頬のすぐ横を掠める。
矢は背後の壁へ突き刺さった。
次の瞬間。
ドォン!
矢の先端が爆発した。
「うわあっ!?」
爆風を受けたビルドが、床の上を転がる。
「こより!」
ディケイドがすぐに駆け寄った。
ビルドは慌てて上体を起こす。
「だ、大丈夫! 装甲が守ってくれたから!」
「怪我は?」
「びっくりしただけ!」
ディケイドは安心しながらも、すぐにバートンへ向き直った。
「爆発する矢まで使うのか……」
バートンはすでに、次の矢を弓へ番えている。
その瞳に感情はない。
迷いもない。
完全にロキの支配下へ置かれていた。
ディケイドはライドブッカーを開き、一枚のカードを取り出す。
「それなら、こっちも手段を変える」
カードをディケイドライバーへ挿入した。
《KAMEN RIDE》
《FAIZ》
黒とマゼンタの装甲が消え、新たな姿へ変化する。
黒いアンダースーツ。
全身を走る赤いフォトンストリーム。
仮面ライダーファイズ。
ビルドが思わず目を輝かせた。
「また姿が変わった!」
「説明は後!」
ファイズとなったディケイドは、赤いラインを輝かせながらバートンへ向かって走り出す。
バートンは迷うことなく、連続で矢を放った。
爆発矢。
ワイヤー矢。
電撃矢。
次々と異なる効果を持つ矢が、ディケイドへ襲いかかる。
ディケイドは最小限の動きで矢を回避した。
伸びてきたワイヤーをライドブッカーで切断し、爆発矢が炸裂する直前に横へ跳ぶ。
ビルドもその隣を走り、兵士たちの足元を狙って攻撃する。
「敵の制圧……非殺傷を最優先……!」
自分へ言い聞かせるように、何度も呟く。
恐怖は消えていない。
銃声が鳴るたびに、体が強張りそうになる。
それでも、体は動いた。
ビルドの力が、こよりの思考へ正確に応えている。
「蓮くん!」
「何!?」
「ビルドって、すごく面白い!」
「今それを言う!?」
「だって、違う特性の能力を組み合わせる設計が合理的すぎる!」
「こよりらしい感想だな!」
ディケイドは飛来した矢を回避しながら、思わず笑った。
だが、その笑みはすぐに消える。
下層の機械室から、再び凄まじい轟音が響いた。
ドゴォン!
何か巨大なものが、金属製の壁や機材を殴り壊している。
続けて、ナターシャのものと思われる銃声が響いた。
ディケイドの表情が険しくなる。
「博士がまずい……!」
ビルドもすぐに頷いた。
「ここは、こよりが何とかする!」
「本当に大丈夫?」
「大丈夫じゃなくても、やる!」
その言葉に、ディケイドは一瞬だけビルドを見つめた。
普段は明るく、テンションが高く、少し騒がしいホロライブの頭脳担当。
今は明らかに、恐怖を必死に押し殺している。
それでも、彼女は逃げなかった。
守られるだけの存在でいることを拒み、仮面ライダーとして立とうとしている。
ディケイドは小さく頷いた。
「分かった。ここは任せる」
「任されました!」
「でも、無茶したら後で説教だからね」
「蓮くん、こういう時だけマネージャーになる!」
「僕はいつでもマネージャーだよ!」
ディケイドは一気に踏み込んだ。
バートンが接近を阻止するため、至近距離から矢を放つ。
ディケイドは上体を逸らして回避し、ライドブッカーで弓を弾き飛ばした。
「っ!」
バートンはすぐに格闘戦へ切り替えた。
拳。
肘。
膝。
流れるような連続攻撃がディケイドへ襲いかかる。
ディケイドは攻撃を受け流し、バートンの腕を掴んだ。
体勢を崩し、そのまま床へ投げ落とす。
「少し眠っていてください!」
バートンが起き上がろうとした瞬間、ライドブッカーの柄で首元を打った。
強すぎず、しかし確実に意識を失わせる一撃。
バートンの体から力が抜け、床へ倒れた。
操られていた兵士たちの間に、僅かな動揺が走る。
「バートンが倒された!」
「対象を排除しろ!」
兵士たちは次々と銃口を向ける。
ビルドはディケイドを庇うように、一歩前へ出た。
「ここから先は通しません!」
兵士たちが一斉に引き金へ指をかける。
ビルドはビルドドライバーのレバーを勢いよく回転させた。
《READY GO!》
足元へ、無数の数式と青白いエネルギーのレールが展開される。
「えっと……これが必殺技!」
数式が螺旋状に周囲へ広がっていく。
《VORTEX FINISH!》
《YEAH!》
ビルドはラビットの脚力で高く跳躍した。
赤い右脚へ、タンクの重量とエネルギーを集中させる。
「はあああっ!」
しかし、キックの狙いは兵士たちではなかった。
彼らの目の前にある床へ、強烈な蹴りを叩き込む。
ドォォン!
衝撃が床を走り、兵士たちの足元で爆発するように広がった。
「うわあああっ!」
兵士たちはまとめて吹き飛ばされる。
壁や床へ打ちつけられ、次々と意識を失っていった。
直撃を避けながら、全員を確実に制圧する。
ディケイドはその光景を見て、感心したように言った。
「ちゃんと威力を調整できてる。いい判断だよ」
ビルドは少しだけ胸を張った。
「頭脳担当なので!」
「頼もしいよ」
その言葉に、ビルドの動きが一瞬だけ止まった。
仮面の奥で、こよりが僅かに照れているのが伝わってくるようだった。
しかし、階下から響いた怒号と破壊音が、二人を現実へ引き戻す。
ディケイドは崩れた床へ向かった。
「こより。ここを抜けたら、すぐにシオンたちと合流して」
「蓮くんは?」
「バナー博士のところへ行く」
ビルドは崩壊した床の向こうへ目を向ける。
下から聞こえる唸り声は、先ほどよりもはっきりしていた。
「……気をつけて」
「うん」
ディケイドは崩れた床の縁へ立った。
下層の暗闇から、重く低い唸り声が響いてくる。
グルルルル……。
人間の声ではない。
ハルクが、今まさに目覚めようとしていた。
ディケイドは飛び降りる直前、もう一度だけビルドを振り返る。
「こより」
「何?」
「初変身、上出来だったよ」
ビルドは驚いたように動きを止めた。
やがて、嬉しそうに右拳を握り締める。
「ベストマッチです!」
ディケイドは軽く頷くと、崩壊した床から階下へ飛び降りた。
ビルドは、その背中が暗闇の中へ消えるまで見送った。
それから、未だ遠くで響き続けている銃声の方へ向き直る。
「よし……!」
こよりは深く息を吸い込んだ。
自分は、もうただ守られるだけの存在ではない。
赤と青の拳を強く握る。
「ホロライブの頭脳担当――」
仮面ライダービルドは、傾いた通路を走り出した。
「ここから反撃開始です!」
赤と青の仮面ライダーが、崩壊するヘリキャリアの内部を駆け抜けていった。