仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人― 作:十六夜 蓮
ヘリキャリア内部、居住区画。
そこには、移送されてきたホロライブのメンバーたちが、一時的に集められていた。
突然決まったアメリカへの移動。
S.H.I.E.L.D.という、これまで存在すら知らなかった巨大組織。
空を飛ぶ空母。
ロキと呼ばれる宇宙人。
そして、紫咲蓮が仮面ライダーディケイドだったという事実。
あまりにも情報量が多すぎて、誰も完全には状況を飲み込めていなかった。
「いや、本当に何が起きてるんだよ……」
スバルはソファへ座り、両手で頭を抱えていた。
シオンは腕を組み、不機嫌そうに部屋の扉を睨んでいる。
「蓮、また一人でどこかへ行ったし」
「蓮くんも大変そうだったし、仕方ないんじゃない?」
隣にいたトワが、宥めるように声をかける。
「仕方なくない。帰ってきたら絶対に説教する」
「帰ってきた蓮くんに、まず説教するんだ……」
そんな二人の近くで、獅白ぼたんは壁へ背中を預けていた。
周囲が混乱する中でも、いつもと変わらない落ち着いた表情を浮かべている。
ただし、その右手には見慣れない物が握られていた。
赤い甲虫を思わせる、小型の機械。
カブトゼクター。
ぼたんは指先でカブトゼクターを軽く回し、ため息をついた。
「まったく、蓮のやつ。無理やり仮面ライダーの力を渡してくるんだから」
「まあまあ」
トワが苦笑する。
「いざという時に使ってって言ってたし」
「いざという時が来るの、早すぎない?」
「それは……うん、そう」
トワも反論できず、困ったように頷いた。
その時だった。
ドォン!
廊下の奥から、鈍い爆発音が響いた。
部屋にいた全員が、一斉に扉へ顔を向ける。
続いて、扉の向こうから複数の怒号が聞こえてきた。
「対象者の位置を確認しろ!」
「居住区画を制圧する!」
「抵抗する者は排除しろ!」
スバルが勢いよく立ち上がった。
「えっ、ちょっと待って! 敵!?」
シオンも思わず一歩後退する。
「嘘でしょ!? ここ、安全な場所じゃなかったの!?」
「ヘリキャリアの中なら安全って言ってたのに!」
トワの表情からも笑みが消える。
ぼたんは手にしていたカブトゼクターを静かに握り締めた。
「やっぱり来たか」
扉の向こうから、何かを設置する音が聞こえる。
機械が作動する電子音。
ぼたんは短く告げた。
「みんな、扉から離れて」
その直後。
ドンッ!
入口の扉が、外側から爆破された。
吹き飛んだ金属片と煙が、室内へ一気に流れ込む。
煙の向こうから、武装した兵士たちが次々と突入してきた。
身に着けているのは、S.H.I.E.L.D.の制服。
しかし、その目には正常な意思が感じられない。
ロキの杖によって操られた兵士たちは、ホロライブメンバーへ一斉に銃口を向けた。
「動くな!」
「全員、床へ伏せろ!」
引き金へ指がかけられる。
だが、次の瞬間。
ぼたんの手から、カブトゼクターが勢いよく飛び出した。
同時に、トワの肩付近から黄色いコウモリのような小さな存在が飛び上がる。
「おらおらおらぁ!」
キバットが叫びながら、兵士たちの間を飛び回った。
カブトゼクターが高速で銃へ体当たりし、キバットが牙を剥きながら兵士の顔へ迫る。
「なっ!?」
「何だ、こいつらは!?」
次々と銃が弾き飛ばされ、床へ落ちていった。
カブトゼクターは空中で旋回すると、兵士の腕を打ち払い、再びぼたんの手元へ戻ってくる。
ぼたんは片手で受け止めた。
「まったく……」
口元には、いつもの柔らかな笑み。
しかし、その瞳は獲物を捉えた獅子のように鋭くなっていた。
「蓮のやつ、面倒な物を渡してくれるじゃん」
トワは左手を軽く握り締める。
その周囲を飛ぶキバットへ声をかけた。
「キバット」
「よっしゃ!」
キバットはトワの前で翼を広げた。
「気張っていくぜ!」
ぼたんは腰へ、蓮から渡されていたカブト用のライダーベルトを装着した。
右手にカブトゼクターを構える。
「変身」
カブトゼクターをベルトへ装着した。
《HENSHIN》
重厚な電子音が鳴り響く。
ぼたんの全身へ、分厚い銀色の装甲が形成されていった。
赤く輝く複眼。
全身を覆う重装甲。
高い防御力と怪力を持つ、マスクドフォーム。
仮面ライダーカブト。
獅白ぼたんは、仲間たちを守る戦士として兵士たちの前へ立った。
一方、キバットはトワの左手へ飛びつく。
「いくぜ、トワ!」
「ちょっと待って。これ、噛むんだよね……?」
「儀式みたいなもんだ!」
キバットは勢いよくトワの左手へ噛みついた。
「痛っ!」
トワが小さく声を上げた瞬間、赤と金を基調としたベルトが腰へ出現する。
キバットベルト。
トワは一度息を整えると、キバットの体を掴んだ。
「変身!」
キバットをベルトへ逆さに装着する。
鎖のような装飾が伸び、トワの全身を包み込んだ。
黒を基調とした鎧。
血のように赤いライン。
胸部を走る銀色の意匠。
そして、魔族を思わせる妖しく威圧的な姿。
仮面ライダーキバ。
常闇トワは、悪魔らしい威圧感を放ちながら、カブトの隣へ立った。
スバルが思わず叫ぶ。
「ええええっ!? トワ様とぼたんも仮面ライダーなの!?」
シオンも顔を引きつらせた。
「蓮、本当に何人へベルトを渡してるの……?」
あやめは目を輝かせている。
「二人とも、格好いいぞ!」
兵士の一人が震える声を漏らした。
「こいつらも、仮面ライダーなのか……!?」
別の兵士が床へ落ちた銃を拾い、カブトへ向かって発砲した。
ダダダダダッ!
銃弾が、カブトの全身へ次々と命中する。
激しい火花が散った。
しかし、マスクドフォームの重装甲は、僅かにも揺らがなかった。
ぼたんは銃弾を受けながら、少しだけ首を傾げた。
「それ、効かないよ」
次の瞬間、カブトは目の前にいた兵士の腕を掴んだ。
そのまま軽々と持ち上げ、通路へ投げ飛ばす。
「うわっ!」
続けて、二人目。
三人目。
武装した兵士たちが、まるでぬいぐるみのように次々と通路へ転がっていった。
キバもその間に、残された兵士へ接近する。
「はっ!」
トワが鋭い蹴りを放ち、兵士の持つ銃を弾き飛ばした。
続けてキバの腕力で相手を壁へ押しつける。
「ごめん。ちょっとだけ寝てて!」
腹部へ加減した拳を打ち込む。
兵士は短い呻き声を漏らし、そのまま意識を失った。
キバットがトワの肩付近を飛びながら笑う。
「いいぞ、トワ! 今のは悪魔っぽかったぜ!」
「そこって褒めるところなの!?」
「キバだからな!」
破壊された入口から、さらに大勢の兵士たちが押し寄せてくる。
ぼたんはその人数を確認し、小さく呟いた。
「多いね」
カブトの手が、ベルトへ装着されたゼクターホーンへ触れる。
「それなら、こっちでいこうか」
ゼクターホーンを勢いよく倒す。
全身を包んでいた装甲が、僅かにずれ始めた。
ぼたんは静かに告げる。
「キャストオフ」
《CAST OFF》
次の瞬間、カブトを覆っていた重装甲が勢いよく弾け飛んだ。
ドドドドドッ!
飛散した装甲片が、周囲にいた兵士たちへ次々と激突する。
「ぐあっ!」
「うわあっ!」
兵士たちがまとめて吹き飛ばされた。
《CHANGE BEETLE》
重装甲の中から現れたのは、赤と銀を基調とした、すらりとした姿。
仮面ライダーカブト、ライダーフォーム。
先ほどまでの重厚な姿とは異なり、今度は速度を重視した、無駄のない装甲となっていた。
敵兵たちは慌てて銃を構え直す。
「撃て!」
引き金を引こうとした、その瞬間。
ぼたんはベルト側面のスイッチへ手を伸ばした。
「クロックアップ」
《CLOCK UP》
世界の速度が変わった。
銃口から生まれた火花。
引き金へ力を込める兵士の指。
恐怖に見開かれていく瞳。
そのすべてが、カブトとなったぼたんには、止まっているかのように遅く見えた。
「へえ……」
ぼたんはクロックアップした世界を見回し、楽しそうに笑う。
「これはすごいね」
次の瞬間、カブトの姿が掻き消えた。
一人目の銃を蹴り上げる。
二人目の腹部へ掌底を打ち込む。
三人目の足を払い、床へ倒す。
四人目の背後へ回り込み、首筋へ加減した一撃。
五人目が持つ銃口を天井へ逸らし、その腹部へ膝蹴りを叩き込む。
さらに奥にいた兵士たちの銃から弾倉を抜き取り、床へ並べていく。
すべての動作を終えたカブトは、最初に立っていた位置へ戻った。
《CLOCK OVER》
世界が、本来の速度へ戻る。
次の瞬間。
兵士たちは、自分たちに何が起きたのか理解できないまま一斉に吹き飛んだ。
「ぐあっ!」
「うわあっ!」
「な、何だ……今のは……!」
床へ銃が落ち、取り外された弾倉が次々と転がる。
部屋の中にいたホロライブのメンバーたちは、口を開けたまま固まっていた。
スバルが呆然と呟く。
「ぼたん、強すぎるだろ……」
シオンも思わず頷いた。
「初めてなのに、普通に使いこなしてるんだけど」
あやめは楽しそうに笑う。
「ししろんらしいな!」
キバットも、カブトの戦いぶりを見て驚きの声を上げた。
「あいつ、強すぎじゃないか!?」
トワも若干引いた様子で尋ねる。
「ぼたん、初変身だよね?」
カブトは肩越しに振り返った。
「ん? 初めてだけど、だいたい分かった」
「だいたいで、あれ!?」
トワが思わず突っ込む。
ぼたんは軽く手を振った。
「ゲームで強いキャラクターを初めて触った時と、似たような感じかな」
シオンが小声で呟く。
「蓮、渡す相手を間違えてない……?」
少し考えた後、首を横へ振る。
「いや、これで合ってるのか……」
その時、通路の奥から再び大勢の足音が響いた。
新たな別動隊が、この区画へ迫っている。
カブトは、ホロライブメンバーを庇うように一歩前へ出た。
キバも、その隣へ並ぶ。
トワの体には僅かな緊張が残っている。
それでも、もう逃げるつもりはなかった。
「ぼたん」
「何?」
「蓮たちが戻ってくるまで、ここを守ろう」
ぼたんは小さく笑った。
「もちろん」
カブトゼクターが、低い羽音を鳴らす。
キバットも翼を大きく広げた。
「よし、いくぜ、トワ!」
「うん!」
二人は、部屋に残されたシオンたちを背にして並び立った。
通路の奥から現れた兵士たちが、銃を構える。
しかし、その顔には先ほどまでの余裕がなかった。
目の前にいるのは、単なるアイドルではない。
仮面ライダー。
ホロライブを守るために立ち上がった、新たな戦士たちだった。
カブトが静かに告げる。
「ここから先は通行止め」
キバも拳を構える。
「みんなには、指一本触れさせない」
カブトとキバが、同時に地面を蹴った。
二人の仮面ライダーが、操られた兵士たちへ向かって駆け出す。
その直前。
ぼたんは一度だけ、背後にいるシオンたちへ顔を向けた。
「みんなも、蓮からベルトとか渡されてるでしょ?」
シオン、スバル、あやめの表情が僅かに変わる。
ぼたんは再び正面へ向き直った。
「そろそろ、覚悟を決めよう」
ヘリキャリアを襲う混乱の中で。
また新たな、ホロライブの仮面ライダーたちが目を覚ました。