仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人―   作:十六夜 蓮

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第23話 暴走する力

 

 

ヘリキャリア全体に、低く重い咆哮が響き渡った。

 

それは、人間の声ではなかった。

 

怒り。

 

苦痛。

 

破壊衝動。

 

そのすべてを混ぜ合わせたような、獣の雄叫び。

 

「……ハルクだ」

 

ディケイドは、機械室へ続く通路の途中で足を止めた。

 

遠くから、分厚い金属がひしゃげる音が聞こえてくる。

 

巨大な何かが壁へ叩きつけられ、格納庫の方角からは悲鳴と警報が重なって響いていた。

 

ブルース・バナーは、すでにハルクへ変身してしまった。

 

ソーが先に格納庫へ向かっている。

 

だが、ハルクの力は別格だ。

 

力任せに押さえ込もうとすれば、怒りを強めるだけかもしれない。

 

そして、戦いが長引けば長引くほど、ヘリキャリアの損傷は広がっていく。

 

その時、別の通路から一人の少女が駆けてきた。

 

夏色まつり。

 

彼女の手には、蓮から託されていたオーズドライバーが握られている。

 

ディケイドは、まつりへ視線を向けた。

 

「頼める、まつり?」

 

まつりは一瞬だけ目を丸くした。

 

だが、すぐにいつもの明るい笑みを浮かべる。

 

「任せてよ!」

 

その声に、震えはなかった。

 

怖くないはずがない。

 

相手はハルク。

 

つい先ほどまで穏やかに会話をしていたバナー博士の中から現れた、制御不能の巨人。

 

それでも、まつりは迷わず前へ出た。

 

ディケイドは小さく頷く。

 

「絶対に無茶はしないで。倒すんじゃない。止めることが目的だから」

 

「分かってる!」

 

まつりはオーズドライバーを手に、格納庫へ向かって走り出した。

 

 

ヘリキャリアの格納庫は、すでに半壊しかけていた。

 

艦載機が横倒しになっている。

 

大型コンテナは潰れ、床には巨大な拳や足によって作られたような凹みが、いくつも刻まれていた。

 

その中心で、緑色の巨人が暴れている。

 

ハルク。

 

筋肉の塊を思わせる巨大な体。

 

怒りに染まった瞳。

 

太い腕を振るうたび、金属製の床が歪み、周囲の壁が砕けていく。

 

そして、その巨人の前に立っているのは雷神ソーだった。

 

「バナー! 落ち着け!」

 

ハルクの巨大な拳が振り下ろされる。

 

ソーはムジョルニアを構え、正面から受け止めた。

 

ドォン!

 

凄まじい衝撃が格納庫全体を揺らす。

 

ハルクは咆哮を上げ、ソーを力任せに押し込んでいった。

 

「ぐっ……!」

 

雷神であるソーも、決して力で大きく劣っているわけではない。

 

しかし、ハルクの怒りは際限なく膨れ上がっている。

 

戦えば戦うほど、さらに強くなる。

 

「ソー!」

 

格納庫へ駆け込んできたまつりが叫んだ。

 

ソーはハルクの拳を押し返しながら振り返り、目を見開く。

 

「まつり! ここから離れろ!」

 

「離れない!」

 

まつりはオーズドライバーを腰へ当てた。

 

ベルト部分が展開し、体へ固定される。

 

その瞬間。

 

まつりの表情が、僅かに歪んだ。

 

「っ……!」

 

体の奥深くから、何かを強引に引きずり出されるような感覚。

 

胸元から、紫色の光が溢れ出す。

 

その光は三つに分かれ、三枚のメダルへ姿を変えた。

 

ハルクを止めるためには、この力しかない。

 

プテラ。

 

トリケラ。

 

ティラノ。

 

恐竜系コアメダル。

 

紫色のメダルが、まつりの掌へ収まった。

 

ソーは、その異質な力を感じ取って眉をひそめる。

 

「何だ、その力は……!」

 

まつりは苦しそうに息を吐いた。

 

それでも、ハルクから目を逸らさない。

 

「大丈夫……」

 

三枚のコアメダルを強く握り締める。

 

「まつりが止めるから」

 

まつりはプテラ、トリケラ、ティラノのコアメダルを、オーズドライバーへ順番に装填した。

 

オースキャナーを右手に構える。

 

「変身!」

 

ドライバーの前を、オースキャナーで一気に読み取った。

 

《プテラ!》

 

《トリケラ!》

 

《ティラノ!》

 

紫色の光が、まつりの全身を包み込む。

 

《プ・ト・ティラーノ・ザウルーゥス!!》

 

紫色のエネルギーが、爆発するように格納庫へ広がった。

 

凍てつくような冷気。

 

太古の獣を思わせる咆哮。

 

まつりの体へ、紫と白を基調とした装甲が形成されていく。

 

頭部から伸びる鋭い角。

 

恐竜を思わせる、重厚で力強い装甲。

 

そして全身から溢れ出す、制御しきれないほどの巨大な力。

 

仮面ライダーオーズ。

 

プトティラコンボ。

 

変身を完了したオーズは、ハルクへ向かって獣のような雄叫びを上げた。

 

「うああああああああっ!!」

 

ハルクも負けじと咆哮する。

 

「グオオオオオオオオッ!!」

 

二体の獣の叫びが、格納庫の中で激しくぶつかり合った。

 

その圧力に、ソーでさえ思わず一歩後退する。

 

「これは……!」

 

オーズが床を蹴った。

 

一瞬でハルクとの距離を詰め、振り下ろされた巨大な拳を両腕で受け止める。

 

ドォォン!

 

二人の足元で床が砕け、周囲に積まれていたコンテナが衝撃だけで吹き飛んだ。

 

ハルクがさらに力を込める。

 

だが、プトティラコンボとなったオーズも一歩も引かなかった。

 

「止まって……!」

 

まつりの声が、装甲の奥から聞こえる。

 

「バナー博士は、こんなことしたくないでしょ!」

 

ハルクは答えなかった。

 

怒りのままに、もう片方の拳を振り上げる。

 

オーズは拳を肩で受け止めた。

 

火花が激しく散る。

 

そのままハルクの懐へ入り、腹部へ膝蹴りを叩き込んだ。

 

「グウッ!」

 

ハルクの巨体が数歩後退する。

 

しかし、すぐに姿勢を立て直した。

 

オーズの右腕を掴むと、力任せに投げ飛ばす。

 

「うあっ!」

 

オーズは格納庫の壁へ叩きつけられた。

 

壁が大きくへこみ、破片が降り注ぐ。

 

「まつり!」

 

ソーが叫ぶ。

 

だが、オーズはすぐに瓦礫を押し退けて立ち上がった。

 

全身から、紫色のエネルギーが漏れ続けている。

 

装甲の下で、まつりの呼吸が荒くなっていた。

 

「大丈夫……まだ……!」

 

その時、格納庫の入口から赤と青の仮面ライダーが駆け込んできた。

 

仮面ライダービルド。

 

居住区画にはカブトとキバがいるという連絡を受け、こよりはハルクの咆哮が聞こえた格納庫へ援護に来ていた。

 

「まつり先輩!」

 

ビルドは、破壊された格納庫と、プトティラコンボへ変身したまつりを見て息を呑んだ。

 

「まつり先輩、マジかぁ……!」

 

ハルクが再び暴れようとしている。

 

オーズもそれに反応し、獣のような前傾姿勢を取った。

 

ビルドはすぐに理解した。

 

このままでは危険だ。

 

ハルクはもちろん危険。

 

だが、プトティラコンボの力も同じくらい危険だった。

 

まつりの意識が、恐竜系コアメダルの力へ呑まれ始めている。

 

「それなら……」

 

ビルドは小型の装置を取り出した。

 

黒と黄色を基調とした、危険な強化装置。

 

ハザードトリガー。

 

「こよりも、本気で止める」

 

ハザードトリガーを握る手が、一瞬だけ止まった。

 

蓮から、その危険性は聞かされている。

 

この装置は、ビルドの性能を劇的に引き上げる。

 

だが同時に、使用者の意識を少しずつ削り取り、純粋な戦闘本能だけを残す可能性がある。

 

一歩間違えれば、こより自身も暴走する。

 

「すぐにハルクを戻さないと……」

 

こよりは、ハルクとオーズを見た。

 

「まつり先輩も危ない」

 

自分へ言い聞かせるように呟く。

 

「短時間だけ。こよりなら制御できる」

 

ハザードトリガーのスイッチを押した。

 

《HAZARD ON》

 

黒く、不穏な電子音が鳴り響く。

 

ビルドドライバーへハザードトリガーを装着する。

 

こよりは深く息を吸い込んだ。

 

そして、ドライバーのレバーを勢いよく回転させる。

 

《RABBIT!》

 

《TANK!》

 

《SUPER BEST MATCH!》

 

《ドンテンカーン! ドーンテンカン!》

 

《ドンテンカーン! ドーンテンカン!》

 

《ガタガタゴットン! ズッタンズタン!》

 

《ガタガタゴットン! ズッタンズタン!》

 

《ARE YOU READY?》

 

こよりは、正面を見据えた。

 

「ビルドアップ」

 

黒いエネルギーが、ビルドの全身を包み込んだ。

 

《アンコントロールスイッチ!》

 

《ブラックハザード!》

 

《ヤベーイ!》

 

赤と青だった装甲が、漆黒へ染まっていく。

 

禍々しい光沢を持つ黒い装甲。

 

感情を感じさせない複眼。

 

全身から溢れ出す、触れるだけで危険だと分かるほどの圧力。

 

仮面ライダービルド。

 

ラビットタンクハザードフォーム。

 

こよりは黒い拳を強く握った。

 

「……意識は、ある」

 

普段よりも低い声。

 

明るく騒がしい、いつものこよりの雰囲気が薄れている。

 

代わりに前へ出てきたのは、戦闘だけへ特化した冷静な思考だった。

 

危険な状態だ。

 

だが、今はこの力が必要だった。

 

ソーがハザードフォームを見て、驚きの声を上げる。

 

「こより、お前まで……!」

 

「ソーさん。ハルクを止めるために、もう時間がありません」

 

ビルドはハルクとオーズの間へ飛び込んだ。

 

「まつり先輩! こよりの声が聞こえますか!」

 

オーズがゆっくりと振り返る。

 

その動きは、普段のまつりよりも明らかに獣じみていた。

 

「……こよ……?」

 

「そうです! こよりです!」

 

その時、ハルクがビルドの背後から突進してきた。

 

ビルドは振り返らない。

 

足音。

 

床の振動。

 

空気の流れ。

 

それらから、ハルクの位置と速度を瞬時に計算する。

 

「右後方。推定質量、大。速度上昇……!」

 

ハルクの拳が振り下ろされる。

 

ビルドは最小限の動きで攻撃を回避した。

 

すれ違いざまにハルクの腕を掴む。

 

「はあっ!」

 

ハザードフォームの力によって、ハルクの腕を一瞬だけ止める。

 

しかし、完全には止められない。

 

「重っ……!」

 

ハルクは怒鳴り声を上げ、ビルドを力任せに振り払った。

 

その隙へオーズが飛び込み、ハルクの胴体へタックルする。

 

「うああああっ!」

 

ハルクの巨体が後退した。

 

オーズとビルドが、左右からハルクを押し込んでいく。

 

ソーも加わった。

 

ムジョルニアを床へ押しつけるようにして踏ん張り、ハルクの進行を止める。

 

「今だ! 押さえ込め!」

 

ビルドはハルクの脚を狙い、タンクの力を使って足元を崩そうとする。

 

オーズは両腕でハルクの上半身を押さえ込んだ。

 

ハルクが激しく暴れる。

 

三人の力をもってしても、その場へ留めておくことが精一杯だった。

 

「グオオオオオオッ!!」

 

ハルクの咆哮が、至近距離から三人を襲う。

 

その怒りへ、まつりの中にあるプトティラの力が呼応した。

 

もっと力を出せ。

 

壊せ。

 

凍らせろ。

 

すべてを喰らえ。

 

「っ……ダメ……!」

 

まつりの苦しそうな声が漏れた。

 

「まつりは……そんなこと、したくない……!」

 

ビルドが叫ぶ。

 

「まつり先輩! ハルクを倒すんじゃありません!」

 

黒い装甲でハルクの腕を押さえ続ける。

 

「バナー博士を呼び戻すんです!」

 

「呼び……戻す……?」

 

「そうです! バナー博士は、こよりたちの敵じゃない!」

 

しかし、ビルドの声も少しずつ無機質になり始めていた。

 

ハザードトリガーの影響が、こよりの意識へ侵食している。

 

敵を排除しろ。

 

無駄を捨てろ。

 

戦い続けろ。

 

こよりは、自分の意識を必死に繋ぎ止める。

 

「こよりも……暴走しない……!」

 

複眼の奥で、数値を追い続ける。

 

「まだ考えられる……まだ、計算できる……!」

 

その時、ハルクが凄まじい力で両腕を振り払った。

 

「グオオオッ!」

 

「うあっ!」

 

オーズが吹き飛ばされた。

 

ソーも体勢を崩し、片膝をつく。

 

ビルドは床の上を何度も転がった。

 

「くっ……!」

 

ハルクは立ち上がると、格納庫の奥へ向かって走り出した。

 

その先には、複数の艦載機。

 

そして、大量の燃料が保管されている区画がある。

 

あそこを破壊されれば、ヘリキャリアの損傷はさらに広がる。

 

最悪の場合、艦全体が爆発する可能性すらあった。

 

「行かせない!」

 

オーズが立ち上がる。

 

全身から、プトティラの冷気が一気に広がった。

 

白い霜が床を走り、ハルクの足元を凍りつかせる。

 

「グウッ!?」

 

ハルクの動きが、一瞬だけ止まった。

 

ビルドはその隙を見逃さない。

 

ビルドドライバーのレバーを回す。

 

《READY GO!》

 

黒いエネルギーが、ビルドの右脚へ集中していく。

 

「ハザードフィニッシュ……!」

 

ビルドは跳躍した。

 

だが、こよりは攻撃が直撃する寸前で狙いを変えた。

 

ハルクへ直接当てれば、威力が高すぎる。

 

倒すことが目的ではない。

 

だから――床へ。

 

「はああっ!」

 

ビルドのキックが、ハルクの足元へ叩き込まれた。

 

ドォォン!

 

巨大な衝撃波が床を走る。

 

凍結した足場が崩れ、ハルクの巨体が大きく体勢を崩した。

 

そこへソーがムジョルニアを使って突進する。

 

「バナー! 目を覚ませ!」

 

ソーの肩が、ハルクの胸部へ激突した。

 

ハルクの体が壁際へ押し込まれる。

 

オーズも加わり、ハルクの腕を両手で押さえ込んだ。

 

「博士……!」

 

まつりの声が、プトティラの咆哮へ混ざる。

 

「戻ってきて!」

 

ハルクは抵抗を続ける。

 

だが、その瞳に一瞬だけ迷いのようなものが浮かんだ。

 

怒りの奥底で、ブルース・バナーの意識が揺れている。

 

ビルドは、その僅かな変化を見逃さなかった。

 

「反応あり……!」

 

複眼に表示される数値を追う。

 

「怒りのピークが、僅かに低下しています!」

 

しかし、それと同時に。

 

ビルドの視界へ、激しいノイズが走った。

 

ハザードフォームからの警告が、こよりの頭の中へ響き続ける。

 

もっと戦え。

 

敵を排除しろ。

 

迷うな。

 

「うっ……!」

 

ビルドは頭を押さえ、片膝をついた。

 

「こより……この形態、長くは保たない……!」

 

オーズもまた、プトティラの力によって呼吸を乱していた。

 

「まつりも……ちょっと、きついかも……!」

 

 

 

 

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