仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人― 作:十六夜 蓮
ヘリキャリアの通路には、倒れた兵士たちが転がっていた。
ロキの杖によって操られていたS.H.I.E.L.D.の兵士たちは、カブトとキバの手で次々と制圧されている。
幸い、誰一人として命を落としてはいない。
銃は破壊され、通信機は使用不能にされ、兵士たちは意識だけを刈り取られていた。
仮面ライダーカブトへ変身した獅白ぼたんは、通路の奥を確認する。
新たな敵が現れる気配はなかった。
「こっちは、大体片づいたかな」
その隣で、仮面ライダーキバとなったトワも、倒れている兵士たちの状態を確認する。
「うん。みんな気絶してるだけみたい」
「なら、ひとまずは大丈夫そうだね」
ぼたんが僅かに構えを解いた、その時だった。
ドォン!
ヘリキャリア全体が、再び大きく揺れた。
二人は咄嗟に足へ力を込め、倒れそうになる体を支える。
続いて、通路の奥から凄まじい咆哮が響いてきた。
「グオオオオオオオオッ!!」
人間のものではない。
怒りと破壊衝動に満ちた、ハルクの声だった。
その直後、巨大な物体が壁へ叩きつけられたような轟音が響く。
冷気を含んだ紫色の光。
そして、不穏な黒いエネルギー。
二つの力が、格納庫の方向から通路へ漏れ出していた。
キバとなったトワが息を呑む。
「まつり先輩と、こよの力……?」
カブトはすぐに格納庫へ続く通路へ顔を向けた。
「嫌な感じがするね」
「行こう!」
カブトとキバは、ハルクの咆哮が響く格納庫へ向かって走り出した。
◇
格納庫では、未だ激しい戦いが続いていた。
中央で暴れるハルク。
その巨体を止めようとしているのは、ディケイド、ソー、そして二人の仮面ライダーだった。
仮面ライダーオーズ、プトティラコンボ。
仮面ライダービルド、ラビットタンクハザードフォーム。
しかし、二人の様子は明らかにおかしい。
オーズは紫色の冷気を周囲へ撒き散らしながら、獣のような動きでハルクへ飛びかかっていた。
「うあああああっ!!」
装甲の中から、まつりの声が聞こえる。
だが、その叫びは理性を持ったものではない。
恐竜系コアメダルの力に引きずられた、獣の咆哮に近かった。
ビルドもまた、漆黒の装甲から危険なエネルギーを漏らしている。
その動きからは、こよりらしい感情が失われつつあった。
「対象、制圧……」
ハルクの動きを冷静に分析する。
「障害を、排除……」
こよりの声は、機械のように冷たい。
ハザードトリガーによる暴走が、すでに始まりかけていた。
「まずい……!」
ディケイドは、二人の姿を見て奥歯を噛み締める。
「まつりも、こよりも、力に呑まれかけてる!」
その瞬間、ハルクが怒りの咆哮を上げた。
両腕を大きく振り回す。
オーズは真正面から受け止めようとし、ビルドも側面から蹴りを放った。
しかし、ハルクは二人の攻撃を受けながらも、圧倒的な力で腕を振り抜いた。
「グオオオッ!」
「うあっ!」
「くっ……!」
オーズは大型コンテナへ叩きつけられた。
ビルドも金属製の床を削りながら、何メートルも滑っていく。
それでも、二人はすぐに立ち上がろうとしていた。
痛みも疲労も関係ない。
敵が動く限り、自分たちも止まらない。
暴走した力だけが、二人の体を突き動かしている。
格納庫へ駆け込んできたトワは、その光景を見て息を呑んだ。
「まつり先輩も、こよも……!」
ディケイドは二人へ振り返る。
「先に二人の変身を解除する!」
「ハルクは?」
カブトが尋ねた。
「もちろん止める。でも、あのまま戦わせたら、ハルクより先に二人の意識が壊れる!」
ディケイドはオーズとビルドを見る。
「プトティラのコアメダルと、ハザードトリガーを外す。二人を力から引き離すんだ!」
カブトは即座に構えた。
「分かった。速さが必要なら、こっちでやるよ」
その時、格納庫の入口付近へ赤い光が走った。
「スピードなら――」
一人の少女が、ファイズフォンを手に前へ出る。
湊あくあ。
彼女の腰には、蓮から託されていたファイズドライバーが装着されていた。
「あてぃしも、いける」
あくあは少し緊張した表情を浮かべている。
それでも、ハルクたちから目を逸らさなかった。
「蓮くんから渡された時は、絶対に無理だって思ったけど……」
ファイズフォンを開き、コードを入力する。
《5・5・5》
《STANDING BY》
あくあはファイズフォンを閉じ、正面へ構えた。
「今は、やるしかないよね」
ファイズフォンをファイズドライバーへ装填する。
「変身!」
《COMPLETE》
赤いフォトンブラッドが、あくあの全身を走った。
黒いアンダースーツを覆う、銀色の装甲。
全身に浮かび上がる、赤く輝くフォトンストリーム。
仮面ライダーファイズ。
変身を完了させたあくあは、続けて左腕へファイズアクセルを装着した。
ファイズフォンからミッションメモリーを抜き取る。
「これも使う……!」
ミッションメモリーをファイズアクセルへ差し込んだ。
胸部の装甲が展開され、内部にある機構が露出する。
赤いフォトンブラッドが、先ほどよりも強く輝いた。
仮面ライダーファイズ、アクセルフォーム。
カブトは、横に並んだファイズへ顔を向ける。
「へえ。あくたんも高速戦闘型なんだ」
ファイズとなったあくあは、少しだけ笑った。
「ぼたんちゃんほど上手くできるか分からないけど、頑張る!」
「十分だよ」
その時、ハルクが再び立ち上がった。
怒りの咆哮と共に、オーズとビルドへ突進しようとする。
トワが一歩前へ出た。
「ハルクを止める役は、トワに任せて」
キバットがトワの周囲を飛びながら、楽しそうに笑う。
「おっ、やる気だな、トワ!」
トワはベルトから、重厚な形状をした一本のフエッスルを取り出した。
ドッガフエッスル。
「キバット!」
「任せろ!」
トワはドッガフエッスルをキバットへ差し出した。
キバットが口で咥え、力強く吹き鳴らす。
《ドッガハンマー!》
低く、重い音が格納庫へ響き渡った。
紫色の魔皇力が、キバの右腕へ集まっていく。
空間が歪み、巨大な槌が姿を現した。
ドッガハンマー。
トワは両手で柄を握り締める。
持ち上げるだけでも床が軋むほどの重量。
だが、現在のキバには、それを振るうだけの力があった。
トワは両足を踏み締め、突進してくるハルクを真っすぐ見据えた。
「ハルク……ごめん!」
「グオオオオッ!」
ハルクが巨体を揺らしながら迫る。
トワはドッガハンマーを大きく振りかぶった。
「はあああああっ!!」
巨大な槌が、ハルクの胸部へ叩き込まれる。
ドゴォォォン!
格納庫の空気が爆発した。
凄まじい衝撃が周囲へ広がり、倒れていたコンテナが一斉に転がっていく。
「グオオッ!?」
ハルクの巨体が、僅かに宙へ浮かび上がった。
そのまま格納庫の奥へ吹き飛ばされ、分厚い壁へ激突する。
ドォン!
壁が大きくへこみ、金属片が周囲へ飛び散った。
ハルクの動きが、一瞬だけ止まる。
ディケイドが叫んだ。
「今だ!」
カブトとファイズが同時に動く。
「クロックアップ」
《CLOCK UP》
カブトの姿が掻き消えた。
ファイズも、左腕のファイズアクセルへ手を伸ばす。
スタータースイッチを押した。
《START UP》
ファイズの姿も、赤い残光だけを残して消える。
《TIME OUT》までの、僅か十秒。
二人の高速戦士が、それぞれオーズとビルドへ向かった。
◇
クロックアップしたカブトは、オーズの懐へ一瞬で入り込んだ。
オーズは獣のような動きで振り返ろうとする。
だが、現在の速度ではカブトを捉えることはできない。
「まつり、少しだけごめんね」
カブトの手が、オーズドライバーへ伸びた。
装填されている三枚の紫色のコアメダル。
プテラ。
トリケラ。
ティラノ。
カブトは三枚のメダルを、一気にドライバーから引き抜いた。
《CLOCK OVER》
世界が、本来の速度へ戻る。
プトティラコンボを形成していた紫と白の装甲が、大きく揺らいだ。
「うっ……!」
オーズの装甲が紫色の光となって消滅する。
変身を強制的に解除されたまつりの体が、その場へ崩れ落ちた。
ぼたんはすぐにまつりの体を抱き止める。
「はい、確保」
まつりの体から力が抜ける。
しかし、呼吸はしている。
恐竜系コアメダルによる暴走からは、どうにか解放された。
◇
一方、ファイズアクセルとなったあくあは、ビルドの背後へ回り込んでいた。
ビルドは気配を察知し、反射的に振り返って拳を放つ。
「障害、排除――」
「こよちゃん、ごめん!」
ファイズは最小限の動きで拳を回避した。
ビルドの腰に装着された、黒と黄色の装置へ手を伸ばす。
ハザードトリガー。
「取れて……!」
あくあはハザードトリガーを掴み、力任せにビルドドライバーから引き抜いた。
黒いエネルギーが、ビルドの全身から激しく噴き出す。
「っ……!」
こよりの体を覆っていた漆黒の装甲が、急速に消滅していった。
《TIME OUT》
ファイズアクセルの高速状態が終了する。
変身を解除されたこよりは、力を失ってその場へ膝をついた。
あくあは慌てて彼女の体を支える。
「こよちゃん、大丈夫!?」
こよりは荒い呼吸を繰り返しながら、何度か目を瞬かせた。
「……あれ?」
周囲を見回す。
「こより、今……どこまでやった?」
あくあは少し言葉に迷った。
「かなりヤベーイ状態だった」
「音声そのままじゃん……」
こよりは苦笑しようとした。
だが、ハザードフォームによる疲労は大きく、そのままあくあの肩へ体重を預ける。
「あてぃしに掴まってて」
「ありがとう、あくあ先輩……」
ディケイドも二人の変身が解除されたことを確認し、装甲を解いた。
紫咲蓮の姿へ戻ると、ぼたんに支えられているまつりのもとへ駆け寄る。
「まつり!」
まつりは、ゆっくりと目を開けた。
「蓮……」
声に力はない。
「ごめん……」
蓮は安堵しながらも、困ったように苦笑する。
「まつりに任せるとは言ったけど、プトティラを使えとは言ってないよ」
まつりは気まずそうに視線を逸らした。
「だって……ハルクが相手なら、本気を出さないと駄目かなって……」
「気持ちは分かるけど」
蓮は床へ落ちていた紫色のコアメダルを見る。
「プトティラは、本気というより暴走一歩手前だから」
「うん……」
まつりは僅かに震える自分の手を見た。
「自分でも、ちょっと怖かった」
蓮はまつりの頭へ、軽く手を置く。
「それでも、ちゃんと戻ってきた」
まつりは目を閉じ、小さく頷いた。
壁へ叩きつけられたハルクは、未だ完全には元へ戻っていない。
だが、ドッガハンマーの直撃によって、その巨体は壁へめり込んだまま動きを止めていた。
低い唸り声は聞こえている。
呼吸も続いている。
再び暴れ出す可能性はあるものの、少なくとも今すぐ動ける状態ではなかった。
ソーはムジョルニアを構えながら、ハルクの様子を見ていた。
その時。
ソーが拘束区画のある方向へ、鋭く顔を向ける。
表情が険しくなった。
「ロキ……」
蓮も同じ方向を見る。
ヘリキャリア内部では、未だ警報と銃声が響いている。
襲撃部隊の大半を制圧したとはいえ、拘束区画にいるロキが大人しくしている保証はない。
むしろ、ここまでの出来事がすべてロキの計画ならば。
今こそ、あの男が動く瞬間だった。
ソーはムジョルニアを強く握る。
「ロキの様子を見てくる」
本来なら、蓮も同行するべきだった。
だが、目の前には変身解除直後の仲間たちがいる。
プトティラの力へ呑まれかけたまつり。
ハザードフォームによって意識を奪われかけたこより。
初変身直後のトワ、あくあ、ぼたんも、決して消耗が小さいわけではない。
そして、壁際ではハルクが未だ低く唸っている。
蓮は短い時間で判断した。
「ソー、任せる」
ソーが頷く。
「分かった」
「僕は、こいつらの看病とハルクの監視をする」
蓮はまつりとこよりへ目を向ける。
「ロキを頼む」
「任せろ」
ソーはそう答えると、ムジョルニアを手に拘束区画へ向かって走り出した。
蓮は、その背中を見送る。
「……嫌な予感しかしないな」
その時、格納庫の入口から足音が響いた。
「蓮!」
シオンが、スバルやあやめたちと共に駆け込んでくる。
蓮はすぐに振り返った。
「シオン。無事だった?」
「それはシオンの台詞!」
シオンは蓮へ駆け寄ろうとした。
だが、床へ座り込んでいるまつりとこより、疲れ切った様子のトワやあくあたちを見て、顔を引きつらせる。
「何これ!?」
格納庫全体を見回す。
「みんな、ボロボロじゃん!」
蓮は困ったように苦笑した。
「初変身ラッシュ」
「そんな言葉で片づけるな!」
シオンは蓮を怒鳴りつけながらも、すぐにまつりの隣へ膝をついた。
「まつり、大丈夫?」
まつりは弱々しく笑う。
「うん……ちょっと恐竜になりすぎただけ……」
「何それ、怖い」
こよりも、あくあへ支えられながら力なく手を上げた。
「こよりは……ちょっと実験しすぎました……」
シオンはこよりを睨む。
「みんな、蓮に似て無茶しすぎ!」
蓮が自分を指さす。
「僕のせい?」
「大体そう!」
「理不尽じゃない?」
「どこが!?」
二人が言い合う間も、格納庫には警報音が鳴り響いている。
壁際からは、ハルクの低い唸り声も聞こえていた。
そして、拘束区画へ向かったソー。
戦いは、まだ終わっていない。
蓮は仲間たちを見回した。
誰もが疲れている。
それでも、立ち上がろうとしている。
「みんな、少し休んで」
蓮は静かに拳を握る。
「ここから、まだ何か来る」
シオンが不安そうに尋ねた。
「何が来るの?」
蓮は答えなかった。
ただ、ソーが向かった拘束区画の方角を見つめる。
ロキが、ここまでのすべてを計算していたのなら。
次に起きるのは。
きっと、今まで以上に最悪の展開だ。
「頼むぞ、ソー……」
蓮は、誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。