仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人―   作:十六夜 蓮

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第25話 落ちる巨人

 

 

格納庫に、束の間の静けさが戻りかけていた。

 

まつりはシオンに支えられ、こよりはあくあに肩を貸されている。

 

トワもドッガハンマーを振るった反動で消耗したのか、僅かにふらつきながら壁へ手をついていた。

 

ぼたんだけはカブトの変身を解かず、周囲を警戒し続けている。

 

蓮はまつりとこよりの状態を確かめながら、通信機へ手を当てた。

 

「ソー、そっちは――」

 

その時だった。

 

ドゴォンッ!

 

下のフロアから、凄まじい金属音が響いた。

 

格納庫の床が大きく震える。

 

全員が一斉に顔を上げた。

 

「今の音……」

 

シオンの表情が青ざめる。

 

次の瞬間、格納庫の端にある床が内側から大きくひしゃげた。

 

金属板の隙間から、緑色の巨大な腕が突き出す。

 

「グオオオオオオオッ!!」

 

人間のものではない咆哮が、ヘリキャリア内部を揺らした。

 

ハルク。

 

トワの一撃によって壁際へ叩き込まれたハルクは、壁と床を突き破り、そのまま下層区画へ落下していた。

 

しかし、まだ完全には止まっていない。

 

むしろ、落下による衝撃で怒りを増したのか、下のフロアで周囲の機材を破壊しながら暴れ続けている。

 

まつりが苦しそうに顔を上げる。

 

「まだ……止まってない……」

 

こよりも悔しそうに歯を食いしばった。

 

「ハザードを使っても……プトティラでも、まだ……」

 

蓮はすぐに立ち上がろうとした。

 

「僕が行く」

 

だが、その前へ一人の少女が歩み出る。

 

「こっちは任せて」

 

蓮は驚いて振り返った。

 

「ポルカ?」

 

尾丸ポルカ。

 

普段のような、ふざけた笑顔は浮かべていない。

 

僅かに緊張している。

 

それでも、その瞳は真っすぐ下層区画を見据えていた。

 

「みんな、今はボロボロじゃん」

 

ポルカは蓮たちを順番に見る。

 

「蓮もさっきから、あっちへ行ったりこっちへ行ったり、走り回りすぎ」

 

「でも、相手はハルクだよ」

 

「だからこそでしょ」

 

ポルカは手にしていたブレイバックルを構えた。

 

「次はポルカの出番」

 

バックルへ、スペードのカテゴリーAのラウズカードを差し込む。

 

バックルからベルトが伸び、ポルカの腰へ巻きついた。

 

ポルカは一度だけ深呼吸する。

 

そして、力強く右手を前へ伸ばした。

 

「変身!」

 

《TURN UP》

 

ポルカの前に、青白い光で作られた巨大なカード状の壁が出現した。

 

変身畳。

 

ポルカは迷うことなく、光の壁へ向かって駆け出す。

 

そのまま正面から飛び込んだ。

 

光が弾ける。

 

青と銀を基調とした装甲。

 

赤く輝く複眼。

 

アンデッドを封印し、その力をカードとして使用する剣の戦士。

 

仮面ライダーブレイド。

 

尾丸ポルカは醒剣ブレイラウザーを握り締めると、ひしゃげた床の隙間へ向かって走った。

 

「ポルカ!」

 

蓮が叫ぶ。

 

ブレイドは床から飛び降りながら、振り返ることなく答えた。

 

「大丈夫!」

 

下層へ落下しながら、明るい声を張り上げる。

 

「サーカスの座長は、こういう落下演出に慣れてるから!」

 

「絶対に慣れてないだろ!」

 

蓮のツッコミは、下層から響いた轟音によって掻き消された。

 

 

下層フロア。

 

そこは機材倉庫と格納庫の中間に位置する区画だった。

 

壁や天井には、無数の配線と太いパイプが張り巡らされている。

 

ヘリキャリアが受けた損傷によって、至るところから火花が散っていた。

 

床は大きく傾き、赤い非常灯が明滅している。

 

けたたましい警報音も鳴り止まない。

 

その中央で、ハルクがゆっくりと立ち上がった。

 

床へめり込んでいた拳を引き抜く。

 

周囲にあった大型機材を、怒りのままに薙ぎ払った。

 

「グオオオオッ!」

 

機材が壁へ叩きつけられ、粉々に砕け散る。

 

ブレイドはハルクから少し離れた場所へ着地した。

 

片膝をついて衝撃を逃がすと、すぐにブレイラウザーを抜く。

 

「次は、ポルカが相手だよ」

 

ハルクがゆっくりと振り返った。

 

その瞳は、完全に怒りへ支配されている。

 

「グルルルル……」

 

低い唸り声が響く。

 

ブレイドはブレイラウザーを正面へ構えた。

 

「バナー博士」

 

ポルカの声は、僅かに震えていた。

 

「聞こえてるか分からないけどさ」

 

怖い。

 

目の前にいるのは、今まで戦ったことのない巨大な怪物。

 

一撃でもまともに受ければ、ライダーの装甲ごと吹き飛ばされるかもしれない。

 

それでも、ブレイドは退かなかった。

 

「みんな、博士を心配してるんだよ」

 

ハルクを真っすぐ見つめる。

 

「だから――」

 

言葉を最後まで続けるよりも早く、ハルクが突進してきた。

 

「速っ!?」

 

巨体からは想像できない速度。

 

ブレイドは咄嗟に横へ跳び、振り下ろされた拳を回避する。

 

ドゴォン!

 

ハルクの拳が、分厚い金属製の壁へ叩き込まれた。

 

鋼鉄の壁が大きく陥没する。

 

ブレイドは、その破壊力を見て声を上げた。

 

「当たったら終わりじゃん!」

 

ブレイドはハルクの側面へ回り込み、ブレイラウザーを振り抜く。

 

刃がハルクの太い腕へ直撃した。

 

火花が散る。

 

しかし、ハルクの皮膚を僅かに傷つけただけだった。

 

「硬すぎでしょ!」

 

ハルクが怒りのままに腕を振るう。

 

ブレイドは咄嗟にブレイラウザーを盾のように構えた。

 

巨大な腕と剣が激突する。

 

「うわっ!」

 

凄まじい衝撃によって、ブレイドは床の上を何メートルも滑っていった。

 

両足へ力を込め、どうにか体勢を立て直す。

 

その時、通信機から声が聞こえた。

 

『ブレイド、聞こえる?』

 

マリア・ヒルの声だった。

 

ポルカは周囲を見回す。

 

「えっ、ブレイドってポルカのこと?」

 

『現在位置を確認した』

 

ヒルの声は切迫していた。

 

『そこへ護衛機からの射撃が来る。ブレイド、今すぐ射線から離脱して!』

 

「護衛機!?」

 

ブレイドは反射的に天井を見上げた。

 

ヘリキャリアの損傷により、外部ハッチの一部が開いている。

 

そこから見えるのは、雲に覆われた夜空。

 

そして、ヘリキャリアの周囲を旋回する一機の護衛戦闘機だった。

 

ハルクをヘリキャリアの外へ誘導するか。

 

あるいは、その場で排除するために動いている。

 

「ちょっと待って!」

 

ブレイドは慌てて声を上げる。

 

「まだ中にポルカもいるんだけど!」

 

『射線から離れて!』

 

「説明が短い!」

 

ブレイドは全力で床を蹴り、横へ飛び込んだ。

 

その直後。

 

外部ハッチから、護衛機の機銃が一斉に放たれる。

 

ダダダダダダダッ!

 

大量の弾丸が、ハルクへ向かって降り注いだ。

 

着弾するたびに、緑色の巨体から激しい火花が散る。

 

だが――。

 

「グオオオオオオオッ!!」

 

ハルクは倒れなかった。

 

むしろ、攻撃を受けたことで怒りをさらに増している。

 

ハルクは護衛機を睨みつけると、両脚へ力を込めた。

 

「まさか……」

 

ブレイドが目を見開く。

 

次の瞬間。

 

ハルクは床を蹴り、信じられない高さまで跳び上がった。

 

「嘘でしょ!?」

 

緑色の巨体が、開いていた外部ハッチから夜空へ飛び出す。

 

そのまま、旋回していた護衛機の翼へ飛び移った。

 

ハルクの重量によって、機体が大きく傾く。

 

『うわああっ!』

 

パイロットの悲鳴が通信へ混ざった。

 

機体が激しく揺れる中、ハルクは翼へしがみつく。

 

そして、拳を振り上げた。

 

ドゴォン!

 

一撃目。

 

ハルクの拳が、エンジン部を粉砕した。

 

黒い煙と炎が噴き出す。

 

続けて、二撃目。

 

バキィッ!

 

翼の一部が、根元からへし折れた。

 

護衛機は完全に制御を失う。

 

炎と煙を噴き出しながら、夜空へ向かって落下し始めた。

 

「バナー……」

 

ブレイドは、開かれたハッチの前へ駆け寄った。

 

落ちていく護衛機。

 

その翼へしがみついたままのハルク。

 

怒りの巨人は、墜落する機体と共に、暗い雲の中へ姿を消していった。

 

ブレイドは、その場に立ち尽くす。

 

倒したわけではない。

 

止めることができたわけでもない。

 

ただ、ヘリキャリアから落ちていっただけだった。

 

「……博士、大丈夫だよね」

 

ポルカの問いに、返事はない。

 

通信の向こうにいる者たちも、すぐには答えることができなかった。

 

ハルクならば、あの高度から落下しても命を落とすことはないのかもしれない。

 

だが、ブルース・バナーが無事だという保証はない。

 

その時だった。

 

ゴゴゴゴゴ……!

 

ヘリキャリア全体が、大きく傾き始めた。

 

「うわっ!?」

 

ブレイドは床へ片膝をつき、ブレイラウザーを突き立てて体を支える。

 

床に固定されていなかった機材が、一斉に傾いた方向へ滑っていく。

 

 

上層の格納庫でも、蓮たちは急激な傾斜に足を取られていた。

 

「きゃっ!」

 

シオンは壁へ手をつき、どうにか転倒を防ぐ。

 

「また傾いた!?」

 

カブトとなったぼたんは、周囲の状況を素早く確認した。

 

「さっきの爆発で、エンジンの損傷が大きくなってるんだと思う」

 

あくあに支えられていたこよりが、疲労に満ちた顔を上げる。

 

格納庫の窓から見える雲が、徐々に上へ流れている。

 

ヘリキャリアそのものが、高度を落とし始めていた。

 

「このままだと……高度を維持できない……!」

 

通信機から、フューリーの声が響く。

 

『スターク。艦が落下している』

 

少し遅れて、別の通信回線からトニーの声が返ってきた。

 

『ああ、分かっている』

 

口調には余裕があるように聞こえる。

 

しかし、いつものような軽口はなかった。

 

アイアンマンはすでに、損傷したローターを修復するために艦外へ向かっている。

 

スティーブもまた、別のルートからエンジン区画へ走っていた。

 

蓮は傾き続ける格納庫の中で、仲間たちを見回す。

 

まつりとこよりは、まだまともに戦える状態ではない。

 

トワやあくあも、初めて使ったライダーの力によって大きく消耗している。

 

ぼたんは変身を維持しているものの、彼女一人へすべてを任せるわけにはいかなかった。

 

そして今。

 

ハルクは、暗い空へ落ちていった。

 

ヘリキャリアもまた、その後を追うように高度を失っている。

 

「今度は、こっちが落ちる番か……」

 

蓮は低く呟いた。

 

警報音が鳴り響く。

 

赤い非常灯が明滅する。

 

エンジンの轟音が不規則になり、格納庫の傾斜はさらに大きくなっていく。

 

巨人は落ちた。

 

しかし、戦いは終わっていない。

 

今度は、この巨大な空母そのものを救わなければならなかった。

 

 

 

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