仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人― 作:十六夜 蓮
格納庫に、束の間の静けさが戻りかけていた。
まつりはシオンに支えられ、こよりはあくあに肩を貸されている。
トワもドッガハンマーを振るった反動で消耗したのか、僅かにふらつきながら壁へ手をついていた。
ぼたんだけはカブトの変身を解かず、周囲を警戒し続けている。
蓮はまつりとこよりの状態を確かめながら、通信機へ手を当てた。
「ソー、そっちは――」
その時だった。
ドゴォンッ!
下のフロアから、凄まじい金属音が響いた。
格納庫の床が大きく震える。
全員が一斉に顔を上げた。
「今の音……」
シオンの表情が青ざめる。
次の瞬間、格納庫の端にある床が内側から大きくひしゃげた。
金属板の隙間から、緑色の巨大な腕が突き出す。
「グオオオオオオオッ!!」
人間のものではない咆哮が、ヘリキャリア内部を揺らした。
ハルク。
トワの一撃によって壁際へ叩き込まれたハルクは、壁と床を突き破り、そのまま下層区画へ落下していた。
しかし、まだ完全には止まっていない。
むしろ、落下による衝撃で怒りを増したのか、下のフロアで周囲の機材を破壊しながら暴れ続けている。
まつりが苦しそうに顔を上げる。
「まだ……止まってない……」
こよりも悔しそうに歯を食いしばった。
「ハザードを使っても……プトティラでも、まだ……」
蓮はすぐに立ち上がろうとした。
「僕が行く」
だが、その前へ一人の少女が歩み出る。
「こっちは任せて」
蓮は驚いて振り返った。
「ポルカ?」
尾丸ポルカ。
普段のような、ふざけた笑顔は浮かべていない。
僅かに緊張している。
それでも、その瞳は真っすぐ下層区画を見据えていた。
「みんな、今はボロボロじゃん」
ポルカは蓮たちを順番に見る。
「蓮もさっきから、あっちへ行ったりこっちへ行ったり、走り回りすぎ」
「でも、相手はハルクだよ」
「だからこそでしょ」
ポルカは手にしていたブレイバックルを構えた。
「次はポルカの出番」
バックルへ、スペードのカテゴリーAのラウズカードを差し込む。
バックルからベルトが伸び、ポルカの腰へ巻きついた。
ポルカは一度だけ深呼吸する。
そして、力強く右手を前へ伸ばした。
「変身!」
《TURN UP》
ポルカの前に、青白い光で作られた巨大なカード状の壁が出現した。
変身畳。
ポルカは迷うことなく、光の壁へ向かって駆け出す。
そのまま正面から飛び込んだ。
光が弾ける。
青と銀を基調とした装甲。
赤く輝く複眼。
アンデッドを封印し、その力をカードとして使用する剣の戦士。
仮面ライダーブレイド。
尾丸ポルカは醒剣ブレイラウザーを握り締めると、ひしゃげた床の隙間へ向かって走った。
「ポルカ!」
蓮が叫ぶ。
ブレイドは床から飛び降りながら、振り返ることなく答えた。
「大丈夫!」
下層へ落下しながら、明るい声を張り上げる。
「サーカスの座長は、こういう落下演出に慣れてるから!」
「絶対に慣れてないだろ!」
蓮のツッコミは、下層から響いた轟音によって掻き消された。
◇
下層フロア。
そこは機材倉庫と格納庫の中間に位置する区画だった。
壁や天井には、無数の配線と太いパイプが張り巡らされている。
ヘリキャリアが受けた損傷によって、至るところから火花が散っていた。
床は大きく傾き、赤い非常灯が明滅している。
けたたましい警報音も鳴り止まない。
その中央で、ハルクがゆっくりと立ち上がった。
床へめり込んでいた拳を引き抜く。
周囲にあった大型機材を、怒りのままに薙ぎ払った。
「グオオオオッ!」
機材が壁へ叩きつけられ、粉々に砕け散る。
ブレイドはハルクから少し離れた場所へ着地した。
片膝をついて衝撃を逃がすと、すぐにブレイラウザーを抜く。
「次は、ポルカが相手だよ」
ハルクがゆっくりと振り返った。
その瞳は、完全に怒りへ支配されている。
「グルルルル……」
低い唸り声が響く。
ブレイドはブレイラウザーを正面へ構えた。
「バナー博士」
ポルカの声は、僅かに震えていた。
「聞こえてるか分からないけどさ」
怖い。
目の前にいるのは、今まで戦ったことのない巨大な怪物。
一撃でもまともに受ければ、ライダーの装甲ごと吹き飛ばされるかもしれない。
それでも、ブレイドは退かなかった。
「みんな、博士を心配してるんだよ」
ハルクを真っすぐ見つめる。
「だから――」
言葉を最後まで続けるよりも早く、ハルクが突進してきた。
「速っ!?」
巨体からは想像できない速度。
ブレイドは咄嗟に横へ跳び、振り下ろされた拳を回避する。
ドゴォン!
ハルクの拳が、分厚い金属製の壁へ叩き込まれた。
鋼鉄の壁が大きく陥没する。
ブレイドは、その破壊力を見て声を上げた。
「当たったら終わりじゃん!」
ブレイドはハルクの側面へ回り込み、ブレイラウザーを振り抜く。
刃がハルクの太い腕へ直撃した。
火花が散る。
しかし、ハルクの皮膚を僅かに傷つけただけだった。
「硬すぎでしょ!」
ハルクが怒りのままに腕を振るう。
ブレイドは咄嗟にブレイラウザーを盾のように構えた。
巨大な腕と剣が激突する。
「うわっ!」
凄まじい衝撃によって、ブレイドは床の上を何メートルも滑っていった。
両足へ力を込め、どうにか体勢を立て直す。
その時、通信機から声が聞こえた。
『ブレイド、聞こえる?』
マリア・ヒルの声だった。
ポルカは周囲を見回す。
「えっ、ブレイドってポルカのこと?」
『現在位置を確認した』
ヒルの声は切迫していた。
『そこへ護衛機からの射撃が来る。ブレイド、今すぐ射線から離脱して!』
「護衛機!?」
ブレイドは反射的に天井を見上げた。
ヘリキャリアの損傷により、外部ハッチの一部が開いている。
そこから見えるのは、雲に覆われた夜空。
そして、ヘリキャリアの周囲を旋回する一機の護衛戦闘機だった。
ハルクをヘリキャリアの外へ誘導するか。
あるいは、その場で排除するために動いている。
「ちょっと待って!」
ブレイドは慌てて声を上げる。
「まだ中にポルカもいるんだけど!」
『射線から離れて!』
「説明が短い!」
ブレイドは全力で床を蹴り、横へ飛び込んだ。
その直後。
外部ハッチから、護衛機の機銃が一斉に放たれる。
ダダダダダダダッ!
大量の弾丸が、ハルクへ向かって降り注いだ。
着弾するたびに、緑色の巨体から激しい火花が散る。
だが――。
「グオオオオオオオッ!!」
ハルクは倒れなかった。
むしろ、攻撃を受けたことで怒りをさらに増している。
ハルクは護衛機を睨みつけると、両脚へ力を込めた。
「まさか……」
ブレイドが目を見開く。
次の瞬間。
ハルクは床を蹴り、信じられない高さまで跳び上がった。
「嘘でしょ!?」
緑色の巨体が、開いていた外部ハッチから夜空へ飛び出す。
そのまま、旋回していた護衛機の翼へ飛び移った。
ハルクの重量によって、機体が大きく傾く。
『うわああっ!』
パイロットの悲鳴が通信へ混ざった。
機体が激しく揺れる中、ハルクは翼へしがみつく。
そして、拳を振り上げた。
ドゴォン!
一撃目。
ハルクの拳が、エンジン部を粉砕した。
黒い煙と炎が噴き出す。
続けて、二撃目。
バキィッ!
翼の一部が、根元からへし折れた。
護衛機は完全に制御を失う。
炎と煙を噴き出しながら、夜空へ向かって落下し始めた。
「バナー……」
ブレイドは、開かれたハッチの前へ駆け寄った。
落ちていく護衛機。
その翼へしがみついたままのハルク。
怒りの巨人は、墜落する機体と共に、暗い雲の中へ姿を消していった。
ブレイドは、その場に立ち尽くす。
倒したわけではない。
止めることができたわけでもない。
ただ、ヘリキャリアから落ちていっただけだった。
「……博士、大丈夫だよね」
ポルカの問いに、返事はない。
通信の向こうにいる者たちも、すぐには答えることができなかった。
ハルクならば、あの高度から落下しても命を落とすことはないのかもしれない。
だが、ブルース・バナーが無事だという保証はない。
その時だった。
ゴゴゴゴゴ……!
ヘリキャリア全体が、大きく傾き始めた。
「うわっ!?」
ブレイドは床へ片膝をつき、ブレイラウザーを突き立てて体を支える。
床に固定されていなかった機材が、一斉に傾いた方向へ滑っていく。
◇
上層の格納庫でも、蓮たちは急激な傾斜に足を取られていた。
「きゃっ!」
シオンは壁へ手をつき、どうにか転倒を防ぐ。
「また傾いた!?」
カブトとなったぼたんは、周囲の状況を素早く確認した。
「さっきの爆発で、エンジンの損傷が大きくなってるんだと思う」
あくあに支えられていたこよりが、疲労に満ちた顔を上げる。
格納庫の窓から見える雲が、徐々に上へ流れている。
ヘリキャリアそのものが、高度を落とし始めていた。
「このままだと……高度を維持できない……!」
通信機から、フューリーの声が響く。
『スターク。艦が落下している』
少し遅れて、別の通信回線からトニーの声が返ってきた。
『ああ、分かっている』
口調には余裕があるように聞こえる。
しかし、いつものような軽口はなかった。
アイアンマンはすでに、損傷したローターを修復するために艦外へ向かっている。
スティーブもまた、別のルートからエンジン区画へ走っていた。
蓮は傾き続ける格納庫の中で、仲間たちを見回す。
まつりとこよりは、まだまともに戦える状態ではない。
トワやあくあも、初めて使ったライダーの力によって大きく消耗している。
ぼたんは変身を維持しているものの、彼女一人へすべてを任せるわけにはいかなかった。
そして今。
ハルクは、暗い空へ落ちていった。
ヘリキャリアもまた、その後を追うように高度を失っている。
「今度は、こっちが落ちる番か……」
蓮は低く呟いた。
警報音が鳴り響く。
赤い非常灯が明滅する。
エンジンの轟音が不規則になり、格納庫の傾斜はさらに大きくなっていく。
巨人は落ちた。
しかし、戦いは終わっていない。
今度は、この巨大な空母そのものを救わなければならなかった。