仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人― 作:十六夜 蓮
ヘリキャリアのブリッジは、未だ混乱の中にあった。
第三エンジンは復旧した。
デンライナーとキャッスルドランの支援もあり、墜落の危機はひとまず遠ざかっている。
しかし、失ったものも大きかった。
多くのクルーが負傷。
艦内の各区画は激しく損傷し、至るところから煙が上がっている。
そして何より。
ロキが逃げた。
拘束室は破壊され、ソーは罠へかけられた。
警報音が鳴り止まないブリッジの中央で、フューリーは次々と通信を処理していた。
「負傷者を医療区画へ運べ!」
複数のモニターへ視線を走らせる。
「エンジン区画の損傷確認を急がせろ。外部装甲の補修班を第三エンジンへ回せ!」
その横へ、蓮が駆け込んできた。
すでにディケイドの変身は解除している。
しかし、服の至るところには煤がつき、額には汗が滲んでいた。
「フューリー、ロキは?」
フューリーは片目で蓮を見る。
「逃げた」
「……やっぱりか」
蓮は悔しそうに奥歯を噛んだ。
ここまでの混乱は、すべてロキが脱出するために仕組んだものだった。
英雄たちの不信を煽る。
ハルクを目覚めさせる。
操った兵士や怪人を送り込む。
ヘリキャリアのエンジンを破壊する。
そのすべてが同時に起きれば、拘束室を守る余裕などなくなる。
「それより先に、聞くことがある」
フューリーが低い声で言った。
蓮は顔を上げる。
「今?」
「今だ」
フューリーは蓮へ正面から向き直った。
「艦内の監視映像を確認した」
その片目が、鋭く細められる。
「ホロライブの何人かが、仮面ライダーへ変身していた」
蓮は僅かに目を逸らした。
フューリーの視線が、さらに鋭くなる。
「お前の仕業だな」
蓮は観念したように息を吐いた。
「自衛のために渡しました」
「自衛のために、空飛ぶ空母の内部で仮面ライダーを量産したのか」
「言い方が悪くないですか?」
「事実だ」
「結果的に、ヘリキャリアは助かったでしょう」
「それを否定するつもりはない」
フューリーは深いため息をついた。
「だが、こちらが把握していない超人戦力が、艦内に何人いると思っている」
「まだ全員は変身してませんよ」
「安心できる要素が一つもない」
フューリーは蓮へ手を差し出した。
「紫咲。誰が、どの仮面ライダーへ変身するのか」
有無を言わせない口調で告げる。
「すべて教えろ」
蓮は僅かに迷った。
本来なら、彼女たちへ渡した力について、S.H.I.E.L.D.へすべて明かすつもりはなかった。
だが、今さら隠し通す意味もない。
このヘリキャリアは、ホロライブの仮面ライダーたちによって何度も救われた。
蓮はポケットから、折り畳まれた一枚の書類を取り出した。
「分かりました」
フューリーへ差し出す。
「これが、僕が事前に整理した適合者の一覧です」
フューリーは書類を受け取り、上から順番に目を通した。
仮面ライダークウガ――大神ミオ。
仮面ライダーアギト――AZKi。
仮面ライダー龍騎――夜空メル。
仮面ライダーファイズ――湊あくあ。
仮面ライダーブレイド――尾丸ポルカ。
仮面ライダー響鬼――百鬼あやめ。
仮面ライダーカブト――獅白ぼたん。
仮面ライダー電王――大空スバル。
仮面ライダーキバ――常闇トワ。
仮面ライダーW――フワワ・アビスガード、モココ・アビスガード。
仮面ライダーオーズ――夏色まつり。
仮面ライダーフォーゼ――不知火フレア。
仮面ライダーウィザード――紫咲シオン。
仮面ライダー鎧武――さくらみこ。
仮面ライダードライブ――ロボ子さん。
仮面ライダーゴースト――癒月ちょこ。
仮面ライダーエグゼイド――猫又おかゆ。
仮面ライダービルド――博衣こより。
仮面ライダージオウ――ときのそら。
フューリーは無言のまま、最後まで読み終えた。
それから、ゆっくりと顔を上げる。
「平成ライダーと呼ばれる戦士たちの力を、彼女たちへ渡したのか」
「正確には、それぞれの力と相性がいい人へ託しました」
「十九人も?」
「僕がディケイドなので、ちょうど平成ライダーが揃います」
「綺麗にまとめるな」
蓮はフューリーの片目を真っすぐ見た。
「彼女たちは、この力を正しいことに使います」
「必ずか?」
フューリーの声が低くなる。
「強大な力を持った人間が、いつまでも正しくいられる保証がどこにある」
「保証なんてありません」
蓮は即答した。
「でも、信じることはできます」
「信頼だけで、世界を守れると思うか?」
「少なくとも、疑うだけでは何も守れません」
蓮の声には、迷いがなかった。
「彼女たちは、誰かを支配するためにライダーの力を使わない」
格納庫や通路で戦った仲間たちの姿を思い浮かべる。
「ホロライブを守るため」
「仲間を守るため」
「自分たちの居場所を守るために戦う」
蓮は静かに言い切った。
「僕は、そう信じています」
フューリーは暫くの間、蓮を見つめていた。
やがて、手にしていた書類を返す。
「お前は、本当に厄介なマネージャーだな」
「よく言われます」
「誰にだ」
「姉に」
「納得した」
フューリーは再びブリッジのモニターへ顔を向ける。
「だが今は、その厄介さへ頼るしかないらしい」
蓮は書類を受け取り、ポケットへ戻した。
フューリーが尋ねる。
「逃げたロキを探せるのか?」
「一人、適任がいます」
蓮は通信機を起動した。
「フワワ、聞こえる?」
少しの雑音の後、柔らかな声が返ってくる。
『聞こえます。どうしましたか、蓮さん?』
「ブリッジへ来て。頼みたいことがある」
『分かりました』
暫くして、ブリッジの扉が開いた。
フワワ・アビスガードが、少し緊張した様子で入ってくる。
そのすぐ後ろから、モココも心配そうに顔を覗かせた。
「蓮さん、呼びましたか?」
「うん」
蓮はフワワの前へ歩み寄った。
「フワワにしか頼めないことがある」
モココが不安そうにフワワを見る。
「フワワ、大丈夫?」
「うん。やってみるよ、モコちゃん」
フューリーが眉をひそめた。
「何をする気だ」
蓮はフワワへ視線を向けたまま答える。
「フワワには、仮面ライダーWの力と一緒に、ある能力も渡してあります」
フワワは小さく息を吸った。
蓮が静かに告げる。
「それじゃあ、検索を始めよう」
フワワの表情が変わった。
いつもの柔らかで穏やかな雰囲気が消える。
その瞳へ、深く静かな集中が宿った。
フワワは目を閉じた。
◇
次の瞬間。
フワワの意識は、まったく別の場所へ立っていた。
白く、静かな空間。
果てなど存在しないかのように、無数の本棚がどこまでも続いている。
一本一本の本棚へ収められているのは、通常の本ではない。
地球が目撃したもの。
地球に存在したもの。
人々が生み出したもの。
この星が記憶している、あらゆる情報。
地球の本棚。
フワワの前には、視界を埋め尽くすほど巨大な本棚の森が広がっていた。
「キーワードは何ですか?」
目を閉じたままのフワワの声が、現実のブリッジへ響く。
フューリーは周囲のモニターを見回した。
どこにも変化はない。
「彼女は何をしている?」
「地球へ検索をかけています」
蓮が答える。
「地球へ?」
「この星が記憶している、あらゆる情報へアクセスしているんです」
フューリーの片目が僅かに見開かれた。
「そんなことが可能なのか」
「仮面ライダーWが持つ力の一つです」
蓮は目を閉じているフワワを見る。
「適切なキーワードで情報を絞り込めば、目的の答えまでたどり着ける」
フューリーは黙り込んだ。
あまりにも常識から外れた力だった。
だが、空飛ぶ列車と龍の城がヘリキャリアを支えた直後である。
今さら、常識へ頼る意味などなかった。
蓮はフワワへ告げる。
「知りたいことは一つ」
「はい」
「ヘリキャリアから脱走した、ロキの居場所」
フワワは静かに頷いた。
「最初のキーワードをお願いします」
「アスガルド」
地球の本棚に、一つの文字が浮かび上がった。
――アスガルド。
その瞬間。
白い空間に並んでいた無数の本棚が、一気に消滅した。
残された本棚はまだ多い。
だが、最初とは比較にならないほど範囲が狭められていた。
フワワが静かに尋ねる。
「次のキーワードは?」
蓮は即答した。
「ロキ」
――ロキ。
さらに、多くの本棚が消えていく。
広大だった白い空間に残された本棚は、数えられるほどまで減少した。
フワワは、その間をゆっくりと歩いていく。
「かなり絞れました」
並んでいる背表紙へ視線を走らせる。
「でも、まだ複数の候補があります」
フューリーはブリッジのモニターを見回した。
依然として、画面には何も映っていない。
「本当に探せているのか?」
蓮はフューリーを見ずに答える。
「信じてください」
「根拠は?」
「今まで、ライダーの力に何度も助けられたでしょう」
フューリーは一瞬だけ黙った。
「……続けろ」
蓮は次のキーワードを告げる。
「四次元キューブ」
――四次元キューブ。
残された本棚が大きく揺れた。
そこから四冊の本が抜け出し、フワワの前へ浮かび上がる。
それ以外の本棚が、すべて消滅した。
「四冊……」
フワワは宙へ浮かぶ本を、一冊ずつ見比べた。
「まだ、キーワードが足りません」
蓮は眉をひそめた。
「あと何がある……?」
アスガルド。
ロキ。
四次元キューブ。
これだけでも、ロキの行動へ繋がる情報は十分に絞れているはずだった。
しかし、まだ候補は四つ残っている。
蓮が考え込んでいると、ブリッジの扉が開いた。
入ってきたのは、スティーブとトニーだった。
第三エンジン区画での作業を終えたばかりなのか、二人とも煤や油で汚れている。
トニーはアイアンマン・アーマーの一部を展開し、荒い息を吐いた。
「まったく……」
傷だらけになった装甲を見る。
「空飛ぶ空母の扇風機係は、二度と御免だ」
スティーブは、目を閉じて立っているフワワを見た。
「ロキを探しているのか?」
蓮が頷く。
「地球の本棚で検索してます。でも、あと一つキーワードが足りない」
トニーは顎へ手を当てた。
「ロキが今、必要としているものを考えろ」
指を一本ずつ立てる。
「四次元キューブ」
「ゲート」
「巨大な動力源」
そして、自分の胸元にあるアーク・リアクターへ触れた。
「アーク・リアクター……」
スティーブが口を開く。
「セルヴィグ博士はどうだ?」
蓮が顔を上げた。
「それだ」
フワワも静かに頷く。
「検索へ追加します」
――セルヴィグ博士。
地球の本棚全体が、大きく揺れた。
フワワの前へ浮かんでいた四冊のうち、三冊が光となって消える。
最後の一冊だけが、その場へ残った。
本が自動的に開く。
無数のページが、高速でめくられていく。
スターク・タワー。
大型アーク・リアクター。
屋上。
エリック・セルヴィグ。
ロキ。
四次元キューブ。
そして。
空間を引き裂く、巨大なゲート。
「――見つけました」
フワワが目を開いた。
意識が、地球の本棚からブリッジへ戻る。
その場にいた全員が、一斉にフワワを見た。
フワワははっきりと告げる。
「ロキは、スターク・タワーのアーク・リアクターを使うつもりです」
ブリッジの空気が凍りついた。
トニーの表情から、完全に笑みが消える。
「僕のタワーを?」
フワワは頷いた。
「セルヴィグ博士が、スターク・タワーの屋上へ装置を設置しています」
地球の本棚で見た情報を思い出しながら続ける。
「アーク・リアクターを動力源にして、四次元キューブを起動させるつもりです」
「ゲートは?」
スティーブが尋ねる。
「ニューヨークの上空へ開きます」
フワワの声が僅かに震えた。
「チタウリの軍勢を地球へ呼び込むために」
近くの端末で情報を確認していたこよりが、画面へ数値を入力する。
「理論上は可能です」
疲労が残っているにもかかわらず、その指は素早く動いていた。
「スターク・タワーの大型アーク・リアクターなら、キューブを活性化させるだけの高密度エネルギーを供給できる……!」
「それに、イリジウムでゲートを安定させる装置が完成しているなら……」
こよりは青ざめた表情でモニターを見る。
「いつ起動してもおかしくありません」
フューリーは即座に指示を飛ばした。
「衛星監視をスターク・タワー周辺へ集中させろ!」
ブリッジのオペレーターたちが、一斉に動き始める。
「ニューヨーク市警へ連絡! スターク・タワー周辺の封鎖準備を進めさせろ!」
「航空管制にも警告を送れ!」
トニーは鋭い目でモニターへ映し出されたスターク・タワーを見た。
「ロキの野郎……」
両手を強く握る。
「僕の家を、宇宙戦争の玄関にするつもりか」
スティーブは盾を背負い直した。
「行くぞ」
その一言によって、ブリッジにいる全員の意識が切り替わった。
敵の居場所は分かった。
目的も判明した。
あとは、ゲートが開く前に止めるだけだ。
蓮もディケイドライバーを腰へ当てる。
「ロキがゲートを開く前に、四次元キューブを止めます」
フューリーが蓮を見る。
「ホロライブのメンバーはどうする?」
蓮は一瞬だけ迷った。
まつりとこよりは、危険な形態を使ったことで大きく消耗している。
トワ、ぼたん、あくあ、ポルカも戦い続けた。
シオンやスバルも、ライダーへ変身したばかりだ。
無理をさせるべきではない。
しかし。
彼女たちはもう、ただ守られるだけの存在ではなかった。
自分の意思で力を手に取り、仲間を守るために戦った。
「動ける人だけ連れていきます」
蓮は静かに答えた。
「負傷や消耗が大きい人は、ヘリキャリアへ残して治療を受けてもらう」
「戦える者には、ニューヨークへ来てもらいます」
フューリーは短く頷いた。
「好きにしろ」
そして、鋭い視線を蓮へ向ける。
「ただし、死なせるな」
「最初から、そのつもりです」
トニーは歩き出しながら言った。
「ニューヨークへ戻るぞ」
傷ついたアーマーの各部を閉じていく。
「僕のタワーを、勝手に戦争へ使わせるつもりはない」
スティーブも、その後へ続く。
「ロキを止める」
フワワは少し不安そうに蓮を見た。
「蓮さん……」
蓮は彼女へ歩み寄り、軽く笑った。
「助かった」
「本当に?」
「うん」
蓮は力強く頷く。
「最高の検索だったよ」
フワワの表情が、少しだけ明るくなった。
「はい!」
後ろにいたモココも、安心したようにフワワの腕へ抱きつく。
「さすがフワワ!」
「モコちゃんも、そばにいてくれたからだよ」
蓮はブリッジの窓から、外の景色を見た。
ヘリキャリアは深い傷を負っている。
外部装甲は破損し、黒煙も未だ消えていない。
それでも。
まだ、この空母は落ちていない。
そして今、次の戦場が決まった。
ニューヨーク。
スターク・タワー。
四次元キューブによって開かれる、地球侵略の門。
蓮はライドブッカーを強く握り締めた。
「みんなを集めよう」
スティーブが頷く。
「ここからが、本当の戦争だ」
トニーは僅かに皮肉な笑みを浮かべた。
「それなら、せいぜい派手に始めようじゃないか」
フューリーの号令が、ブリッジ全体へ響き渡る。
「全員、出撃準備!」
オペレーターたちが一斉に動き出す。
クインジェットの発進準備。
武装の補給。
負傷者と戦闘可能な人員の選別。
ヘリキャリア内部に、再び慌ただしい足音が満ちていった。
ロキの計画は、ついに最終段階へ入った。
だが。
彼が想定していないものが、一つだけある。
地球を守るために集まったのは、アベンジャーズだけではない。
この世界には、仮面ライダーがいる。
そして今。
ホロライブの仮面ライダーたちもまた、ニューヨークへ向かおうとしていた。