仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人―   作:十六夜 蓮

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第28話 地球の本棚

 

 

ヘリキャリアのブリッジは、未だ混乱の中にあった。

 

第三エンジンは復旧した。

 

デンライナーとキャッスルドランの支援もあり、墜落の危機はひとまず遠ざかっている。

 

しかし、失ったものも大きかった。

 

多くのクルーが負傷。

 

艦内の各区画は激しく損傷し、至るところから煙が上がっている。

 

そして何より。

 

ロキが逃げた。

 

拘束室は破壊され、ソーは罠へかけられた。

 

警報音が鳴り止まないブリッジの中央で、フューリーは次々と通信を処理していた。

 

「負傷者を医療区画へ運べ!」

 

複数のモニターへ視線を走らせる。

 

「エンジン区画の損傷確認を急がせろ。外部装甲の補修班を第三エンジンへ回せ!」

 

その横へ、蓮が駆け込んできた。

 

すでにディケイドの変身は解除している。

 

しかし、服の至るところには煤がつき、額には汗が滲んでいた。

 

「フューリー、ロキは?」

 

フューリーは片目で蓮を見る。

 

「逃げた」

 

「……やっぱりか」

 

蓮は悔しそうに奥歯を噛んだ。

 

ここまでの混乱は、すべてロキが脱出するために仕組んだものだった。

 

英雄たちの不信を煽る。

 

ハルクを目覚めさせる。

 

操った兵士や怪人を送り込む。

 

ヘリキャリアのエンジンを破壊する。

 

そのすべてが同時に起きれば、拘束室を守る余裕などなくなる。

 

「それより先に、聞くことがある」

 

フューリーが低い声で言った。

 

蓮は顔を上げる。

 

「今?」

 

「今だ」

 

フューリーは蓮へ正面から向き直った。

 

「艦内の監視映像を確認した」

 

その片目が、鋭く細められる。

 

「ホロライブの何人かが、仮面ライダーへ変身していた」

 

蓮は僅かに目を逸らした。

 

フューリーの視線が、さらに鋭くなる。

 

「お前の仕業だな」

 

蓮は観念したように息を吐いた。

 

「自衛のために渡しました」

 

「自衛のために、空飛ぶ空母の内部で仮面ライダーを量産したのか」

 

「言い方が悪くないですか?」

 

「事実だ」

 

「結果的に、ヘリキャリアは助かったでしょう」

 

「それを否定するつもりはない」

 

フューリーは深いため息をついた。

 

「だが、こちらが把握していない超人戦力が、艦内に何人いると思っている」

 

「まだ全員は変身してませんよ」

 

「安心できる要素が一つもない」

 

フューリーは蓮へ手を差し出した。

 

「紫咲。誰が、どの仮面ライダーへ変身するのか」

 

有無を言わせない口調で告げる。

 

「すべて教えろ」

 

蓮は僅かに迷った。

 

本来なら、彼女たちへ渡した力について、S.H.I.E.L.D.へすべて明かすつもりはなかった。

 

だが、今さら隠し通す意味もない。

 

このヘリキャリアは、ホロライブの仮面ライダーたちによって何度も救われた。

 

蓮はポケットから、折り畳まれた一枚の書類を取り出した。

 

「分かりました」

 

フューリーへ差し出す。

 

「これが、僕が事前に整理した適合者の一覧です」

 

フューリーは書類を受け取り、上から順番に目を通した。

 

仮面ライダークウガ――大神ミオ。

 

仮面ライダーアギト――AZKi。

 

仮面ライダー龍騎――夜空メル。

 

仮面ライダーファイズ――湊あくあ。

 

仮面ライダーブレイド――尾丸ポルカ。

 

仮面ライダー響鬼――百鬼あやめ。

 

仮面ライダーカブト――獅白ぼたん。

 

仮面ライダー電王――大空スバル。

 

仮面ライダーキバ――常闇トワ。

 

仮面ライダーW――フワワ・アビスガード、モココ・アビスガード。

 

仮面ライダーオーズ――夏色まつり。

 

仮面ライダーフォーゼ――不知火フレア。

 

仮面ライダーウィザード――紫咲シオン。

 

仮面ライダー鎧武――さくらみこ。

 

仮面ライダードライブ――ロボ子さん。

 

仮面ライダーゴースト――癒月ちょこ。

 

仮面ライダーエグゼイド――猫又おかゆ。

 

仮面ライダービルド――博衣こより。

 

仮面ライダージオウ――ときのそら。

 

フューリーは無言のまま、最後まで読み終えた。

 

それから、ゆっくりと顔を上げる。

 

「平成ライダーと呼ばれる戦士たちの力を、彼女たちへ渡したのか」

 

「正確には、それぞれの力と相性がいい人へ託しました」

 

「十九人も?」

 

「僕がディケイドなので、ちょうど平成ライダーが揃います」

 

「綺麗にまとめるな」

 

蓮はフューリーの片目を真っすぐ見た。

 

「彼女たちは、この力を正しいことに使います」

 

「必ずか?」

 

フューリーの声が低くなる。

 

「強大な力を持った人間が、いつまでも正しくいられる保証がどこにある」

 

「保証なんてありません」

 

蓮は即答した。

 

「でも、信じることはできます」

 

「信頼だけで、世界を守れると思うか?」

 

「少なくとも、疑うだけでは何も守れません」

 

蓮の声には、迷いがなかった。

 

「彼女たちは、誰かを支配するためにライダーの力を使わない」

 

格納庫や通路で戦った仲間たちの姿を思い浮かべる。

 

「ホロライブを守るため」

 

「仲間を守るため」

 

「自分たちの居場所を守るために戦う」

 

蓮は静かに言い切った。

 

「僕は、そう信じています」

 

フューリーは暫くの間、蓮を見つめていた。

 

やがて、手にしていた書類を返す。

 

「お前は、本当に厄介なマネージャーだな」

 

「よく言われます」

 

「誰にだ」

 

「姉に」

 

「納得した」

 

フューリーは再びブリッジのモニターへ顔を向ける。

 

「だが今は、その厄介さへ頼るしかないらしい」

 

蓮は書類を受け取り、ポケットへ戻した。

 

フューリーが尋ねる。

 

「逃げたロキを探せるのか?」

 

「一人、適任がいます」

 

蓮は通信機を起動した。

 

「フワワ、聞こえる?」

 

少しの雑音の後、柔らかな声が返ってくる。

 

『聞こえます。どうしましたか、蓮さん?』

 

「ブリッジへ来て。頼みたいことがある」

 

『分かりました』

 

暫くして、ブリッジの扉が開いた。

 

フワワ・アビスガードが、少し緊張した様子で入ってくる。

 

そのすぐ後ろから、モココも心配そうに顔を覗かせた。

 

「蓮さん、呼びましたか?」

 

「うん」

 

蓮はフワワの前へ歩み寄った。

 

「フワワにしか頼めないことがある」

 

モココが不安そうにフワワを見る。

 

「フワワ、大丈夫?」

 

「うん。やってみるよ、モコちゃん」

 

フューリーが眉をひそめた。

 

「何をする気だ」

 

蓮はフワワへ視線を向けたまま答える。

 

「フワワには、仮面ライダーWの力と一緒に、ある能力も渡してあります」

 

フワワは小さく息を吸った。

 

蓮が静かに告げる。

 

「それじゃあ、検索を始めよう」

 

フワワの表情が変わった。

 

いつもの柔らかで穏やかな雰囲気が消える。

 

その瞳へ、深く静かな集中が宿った。

 

フワワは目を閉じた。

 

 

次の瞬間。

 

フワワの意識は、まったく別の場所へ立っていた。

 

白く、静かな空間。

 

果てなど存在しないかのように、無数の本棚がどこまでも続いている。

 

一本一本の本棚へ収められているのは、通常の本ではない。

 

地球が目撃したもの。

 

地球に存在したもの。

 

人々が生み出したもの。

 

この星が記憶している、あらゆる情報。

 

地球の本棚。

 

フワワの前には、視界を埋め尽くすほど巨大な本棚の森が広がっていた。

 

「キーワードは何ですか?」

 

目を閉じたままのフワワの声が、現実のブリッジへ響く。

 

フューリーは周囲のモニターを見回した。

 

どこにも変化はない。

 

「彼女は何をしている?」

 

「地球へ検索をかけています」

 

蓮が答える。

 

「地球へ?」

 

「この星が記憶している、あらゆる情報へアクセスしているんです」

 

フューリーの片目が僅かに見開かれた。

 

「そんなことが可能なのか」

 

「仮面ライダーWが持つ力の一つです」

 

蓮は目を閉じているフワワを見る。

 

「適切なキーワードで情報を絞り込めば、目的の答えまでたどり着ける」

 

フューリーは黙り込んだ。

 

あまりにも常識から外れた力だった。

 

だが、空飛ぶ列車と龍の城がヘリキャリアを支えた直後である。

 

今さら、常識へ頼る意味などなかった。

 

蓮はフワワへ告げる。

 

「知りたいことは一つ」

 

「はい」

 

「ヘリキャリアから脱走した、ロキの居場所」

 

フワワは静かに頷いた。

 

「最初のキーワードをお願いします」

 

「アスガルド」

 

地球の本棚に、一つの文字が浮かび上がった。

 

――アスガルド。

 

その瞬間。

 

白い空間に並んでいた無数の本棚が、一気に消滅した。

 

残された本棚はまだ多い。

 

だが、最初とは比較にならないほど範囲が狭められていた。

 

フワワが静かに尋ねる。

 

「次のキーワードは?」

 

蓮は即答した。

 

「ロキ」

 

――ロキ。

 

さらに、多くの本棚が消えていく。

 

広大だった白い空間に残された本棚は、数えられるほどまで減少した。

 

フワワは、その間をゆっくりと歩いていく。

 

「かなり絞れました」

 

並んでいる背表紙へ視線を走らせる。

 

「でも、まだ複数の候補があります」

 

フューリーはブリッジのモニターを見回した。

 

依然として、画面には何も映っていない。

 

「本当に探せているのか?」

 

蓮はフューリーを見ずに答える。

 

「信じてください」

 

「根拠は?」

 

「今まで、ライダーの力に何度も助けられたでしょう」

 

フューリーは一瞬だけ黙った。

 

「……続けろ」

 

蓮は次のキーワードを告げる。

 

「四次元キューブ」

 

――四次元キューブ。

 

残された本棚が大きく揺れた。

 

そこから四冊の本が抜け出し、フワワの前へ浮かび上がる。

 

それ以外の本棚が、すべて消滅した。

 

「四冊……」

 

フワワは宙へ浮かぶ本を、一冊ずつ見比べた。

 

「まだ、キーワードが足りません」

 

蓮は眉をひそめた。

 

「あと何がある……?」

 

アスガルド。

 

ロキ。

 

四次元キューブ。

 

これだけでも、ロキの行動へ繋がる情報は十分に絞れているはずだった。

 

しかし、まだ候補は四つ残っている。

 

蓮が考え込んでいると、ブリッジの扉が開いた。

 

入ってきたのは、スティーブとトニーだった。

 

第三エンジン区画での作業を終えたばかりなのか、二人とも煤や油で汚れている。

 

トニーはアイアンマン・アーマーの一部を展開し、荒い息を吐いた。

 

「まったく……」

 

傷だらけになった装甲を見る。

 

「空飛ぶ空母の扇風機係は、二度と御免だ」

 

スティーブは、目を閉じて立っているフワワを見た。

 

「ロキを探しているのか?」

 

蓮が頷く。

 

「地球の本棚で検索してます。でも、あと一つキーワードが足りない」

 

トニーは顎へ手を当てた。

 

「ロキが今、必要としているものを考えろ」

 

指を一本ずつ立てる。

 

「四次元キューブ」

 

「ゲート」

 

「巨大な動力源」

 

そして、自分の胸元にあるアーク・リアクターへ触れた。

 

「アーク・リアクター……」

 

スティーブが口を開く。

 

「セルヴィグ博士はどうだ?」

 

蓮が顔を上げた。

 

「それだ」

 

フワワも静かに頷く。

 

「検索へ追加します」

 

――セルヴィグ博士。

 

地球の本棚全体が、大きく揺れた。

 

フワワの前へ浮かんでいた四冊のうち、三冊が光となって消える。

 

最後の一冊だけが、その場へ残った。

 

本が自動的に開く。

 

無数のページが、高速でめくられていく。

 

スターク・タワー。

 

大型アーク・リアクター。

 

屋上。

 

エリック・セルヴィグ。

 

ロキ。

 

四次元キューブ。

 

そして。

 

空間を引き裂く、巨大なゲート。

 

「――見つけました」

 

フワワが目を開いた。

 

意識が、地球の本棚からブリッジへ戻る。

 

その場にいた全員が、一斉にフワワを見た。

 

フワワははっきりと告げる。

 

「ロキは、スターク・タワーのアーク・リアクターを使うつもりです」

 

ブリッジの空気が凍りついた。

 

トニーの表情から、完全に笑みが消える。

 

「僕のタワーを?」

 

フワワは頷いた。

 

「セルヴィグ博士が、スターク・タワーの屋上へ装置を設置しています」

 

地球の本棚で見た情報を思い出しながら続ける。

 

「アーク・リアクターを動力源にして、四次元キューブを起動させるつもりです」

 

「ゲートは?」

 

スティーブが尋ねる。

 

「ニューヨークの上空へ開きます」

 

フワワの声が僅かに震えた。

 

「チタウリの軍勢を地球へ呼び込むために」

 

近くの端末で情報を確認していたこよりが、画面へ数値を入力する。

 

「理論上は可能です」

 

疲労が残っているにもかかわらず、その指は素早く動いていた。

 

「スターク・タワーの大型アーク・リアクターなら、キューブを活性化させるだけの高密度エネルギーを供給できる……!」

 

「それに、イリジウムでゲートを安定させる装置が完成しているなら……」

 

こよりは青ざめた表情でモニターを見る。

 

「いつ起動してもおかしくありません」

 

フューリーは即座に指示を飛ばした。

 

「衛星監視をスターク・タワー周辺へ集中させろ!」

 

ブリッジのオペレーターたちが、一斉に動き始める。

 

「ニューヨーク市警へ連絡! スターク・タワー周辺の封鎖準備を進めさせろ!」

 

「航空管制にも警告を送れ!」

 

トニーは鋭い目でモニターへ映し出されたスターク・タワーを見た。

 

「ロキの野郎……」

 

両手を強く握る。

 

「僕の家を、宇宙戦争の玄関にするつもりか」

 

スティーブは盾を背負い直した。

 

「行くぞ」

 

その一言によって、ブリッジにいる全員の意識が切り替わった。

 

敵の居場所は分かった。

 

目的も判明した。

 

あとは、ゲートが開く前に止めるだけだ。

 

蓮もディケイドライバーを腰へ当てる。

 

「ロキがゲートを開く前に、四次元キューブを止めます」

 

フューリーが蓮を見る。

 

「ホロライブのメンバーはどうする?」

 

蓮は一瞬だけ迷った。

 

まつりとこよりは、危険な形態を使ったことで大きく消耗している。

 

トワ、ぼたん、あくあ、ポルカも戦い続けた。

 

シオンやスバルも、ライダーへ変身したばかりだ。

 

無理をさせるべきではない。

 

しかし。

 

彼女たちはもう、ただ守られるだけの存在ではなかった。

 

自分の意思で力を手に取り、仲間を守るために戦った。

 

「動ける人だけ連れていきます」

 

蓮は静かに答えた。

 

「負傷や消耗が大きい人は、ヘリキャリアへ残して治療を受けてもらう」

 

「戦える者には、ニューヨークへ来てもらいます」

 

フューリーは短く頷いた。

 

「好きにしろ」

 

そして、鋭い視線を蓮へ向ける。

 

「ただし、死なせるな」

 

「最初から、そのつもりです」

 

トニーは歩き出しながら言った。

 

「ニューヨークへ戻るぞ」

 

傷ついたアーマーの各部を閉じていく。

 

「僕のタワーを、勝手に戦争へ使わせるつもりはない」

 

スティーブも、その後へ続く。

 

「ロキを止める」

 

フワワは少し不安そうに蓮を見た。

 

「蓮さん……」

 

蓮は彼女へ歩み寄り、軽く笑った。

 

「助かった」

 

「本当に?」

 

「うん」

 

蓮は力強く頷く。

 

「最高の検索だったよ」

 

フワワの表情が、少しだけ明るくなった。

 

「はい!」

 

後ろにいたモココも、安心したようにフワワの腕へ抱きつく。

 

「さすがフワワ!」

 

「モコちゃんも、そばにいてくれたからだよ」

 

蓮はブリッジの窓から、外の景色を見た。

 

ヘリキャリアは深い傷を負っている。

 

外部装甲は破損し、黒煙も未だ消えていない。

 

それでも。

 

まだ、この空母は落ちていない。

 

そして今、次の戦場が決まった。

 

ニューヨーク。

 

スターク・タワー。

 

四次元キューブによって開かれる、地球侵略の門。

 

蓮はライドブッカーを強く握り締めた。

 

「みんなを集めよう」

 

スティーブが頷く。

 

「ここからが、本当の戦争だ」

 

トニーは僅かに皮肉な笑みを浮かべた。

 

「それなら、せいぜい派手に始めようじゃないか」

 

フューリーの号令が、ブリッジ全体へ響き渡る。

 

「全員、出撃準備!」

 

オペレーターたちが一斉に動き出す。

 

クインジェットの発進準備。

 

武装の補給。

 

負傷者と戦闘可能な人員の選別。

 

ヘリキャリア内部に、再び慌ただしい足音が満ちていった。

 

ロキの計画は、ついに最終段階へ入った。

 

だが。

 

彼が想定していないものが、一つだけある。

 

地球を守るために集まったのは、アベンジャーズだけではない。

 

この世界には、仮面ライダーがいる。

 

そして今。

 

ホロライブの仮面ライダーたちもまた、ニューヨークへ向かおうとしていた。

 

 

 

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