仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人― 作:十六夜 蓮
ニューヨーク、スターク・タワー。
赤と金の装甲が、夜の高層ビル群を切り裂くように飛んでいた。
誰よりも早くニューヨークへ到着したアイアンマンは、スターク・タワーの屋上へ向かって急降下する。
屋上には、巨大な装置が設置されていた。
複雑に組み上げられた機械。
その中心に据えられた、青く輝く四次元キューブ。
装置を操作しているのは、エリック・セルヴィグ博士だった。
四次元キューブから放出されたエネルギーは、タワーの大型アーク・リアクターと接続されている。
青白い光が屋上全体を包み込み、上空の空間を内側から押し広げるように歪ませていた。
アイアンマンは屋上へ着地する。
「博士!」
セルヴィグへ右手を向けた。
「今すぐ装置を止めろ!」
セルヴィグはゆっくりと振り返った。
だが、その瞳に本来の理性は残っていない。
ロキの杖によって支配された、虚ろな目。
「もう遅い!」
セルヴィグは狂気を含んだ笑みを浮かべた。
「こいつは止まらない! 我々に本当の宇宙を見せてくれる!」
「そうかい」
トニーは短く答えた。
掌のリパルサーが強く発光する。
「なら、機械の方へ直接聞いてみる」
閃光が放たれた。
リパルサー光線が、四次元キューブを収めた装置へ直撃しようとする。
しかし、その寸前。
装置の周囲へ、青いエネルギーの膜が展開された。
光線が膜へ激突する。
次の瞬間、すべてのエネルギーがアイアンマンへ跳ね返された。
「ぐっ!?」
激しい衝撃を受け、アイアンマンの体が屋上から吹き飛ばされる。
トニーは空中でスラスターを噴射し、どうにか体勢を立て直した。
『強力なエネルギー障壁です』
ジャーヴィスの冷静な声が響く。
『現行装備では突破できません』
「見れば分かる」
トニーはタワーの外壁へ片手をつき、姿勢を安定させた。
アイアンマン・マーク6の装甲から、断続的に火花が散っている。
シュツットガルトでの戦闘。
ソーとの激突。
ヘリキャリアへの襲撃。
第三エンジン内部への突入。
高速で回転するローターへ巻き込まれかけた損傷。
マーク6はすでに、限界へ近づいていた。
「仕方ない。プランBへ移行する」
『マーク7は、未だ実戦運用段階に達していません』
「だからプランBなんだ」
『使用は推奨できません』
「推奨されることだけをしていたら、僕は今頃退屈で死んでる」
トニーはジャーヴィスの返答を待たず、スターク・タワー上層部のバルコニーへ飛んだ。
◇
バルコニーへ着地すると、床と壁に収納されていた機構が一斉に起動した。
複数のアームが伸び、傷だらけのマーク6を固定する。
金属音と共に、装甲が順番に取り外されていった。
腕。
脚。
胸部。
背面。
最後にヘルメットが開き、トニー・スタークの顔が現れる。
すべての装甲が外された後も、胸へ埋め込まれた小型アーク・リアクターだけは、青い光を放ち続けていた。
トニーはネクタイを緩めながら、そのまま室内へ入る。
そこには、一人の男が待っていた。
緑と黒を基調とした衣装。
金色の装飾。
右手に握られた、青く輝く杖。
アスガルドの王子、ロキ。
ロキは無防備な姿で現れたトニーを見て、薄い笑みを浮かべた。
「私の良心へ訴えかけるつもりか?」
トニーは歩みを止めなかった。
「いや」
ネクタイをさらに緩める。
「脅しに来た」
ロキは面白そうに眉を上げた。
「それならば、なぜ鎧を脱いだ?」
「見ての通り、あちこち壊れかけていた」
トニーはカウンターへ向かう。
「それに、今の装備では屋上の障壁を破れないらしい」
いつもと変わらない足取り。
いつもと変わらない軽口。
しかし、その目だけは笑っていなかった。
トニーはカウンターから酒瓶を取り出し、グラスへ注ぐ。
「飲むか?」
ロキは冷ややかな目を向ける。
「時間稼ぎのつもりか」
「違う」
トニーはグラスを掲げた。
「さっきも言っただろ。これは脅しだ」
二つ目のグラスを取り出しかけ、ロキが受け取る様子を見せないことに気づく。
「飲まないのか?」
グラスを元へ戻した。
「なら、一人でやらせてもらう」
ロキはバルコニーの外へ視線を向けた。
スターク・タワーの屋上では、四次元キューブのエネルギーが増大し続けている。
上空の一点が、青い光によって歪み始めていた。
「間もなく、チタウリの軍勢が到着する」
ロキの声には、絶対的な勝利を確信する響きがある。
「私は無敵だ。恐れるものなど何もない」
トニーはグラスを手にしたまま、その背中を見た。
「アベンジャーズと仮面ライダーは?」
ロキが振り返る。
「何?」
「チーム名だ」
トニーは軽く肩をすくめた。
「地球最強の英雄たち。名前としては悪くないだろ」
ロキは鼻で笑う。
「ああ。顔を合わせたことはある」
「そうだろうな」
トニーはグラスの中身を一口飲んだ。
「チームとしてまとまるには少し時間がかかった」
カウンターへグラスを置く。
「今日の昼頃まで、空飛ぶ空母の中で言い争っていたくらいだからな」
ロキの笑みが深くなる。
「それこそが私の狙いだ」
「だろうね」
トニーは静かに答えた。
「でも、あんたはやりすぎた」
ロキの目が僅かに細められる。
トニーは指を折りながら、一人ずつ数え始めた。
「あんたの兄貴である雷神」
「七十年ぶりに目を覚ました、歩く伝説みたいな超人兵士」
「怒らせると緑色になる天才科学者」
「二人の凄腕エージェント」
トニーは一度言葉を止めた。
そして、ロキを真っすぐ見据える。
「それから、日本で誰にも知られず怪人と戦ってきた男」
「世界の破壊者と呼ばれる、仮面ライダーディケイド」
ロキの表情が僅かに動いた。
「紫咲蓮か」
「ああ」
トニーは頷く。
「しかも、あんたは蓮が連れてきたホロライブの仮面ライダーたちまで怒らせた」
指を折りながら思い出そうとする。
「ファイズ、ブレイド、カブト、キバ、オーズ、ビルド、電王、ウィザード……」
途中で諦めるように手を下ろした。
「正直、多すぎて全部覚える前に地球が滅びそうだ」
ロキは冷たく笑った。
「数を揃えれば、私に勝てるとでも?」
「違う」
トニーの声から、軽薄さが消える。
「人数の話じゃない」
一歩、ロキへ近づく。
「あんたは、その全員を怒らせた」
ロキは杖を強く握り直した。
「私には軍隊がある」
「こっちにはハルクがいる」
「その怪物なら、空母からどこかへ落ちていっただろう」
トニーは首を横に振った。
「分かってないな」
さらに一歩、前へ出る。
「残念だが、あんたが王座へ座る未来はない」
ロキの笑みが少しだけ消える。
トニーは構わず続けた。
「どれだけ巨大な軍隊を連れてこようと、僕たちは最後まであんたを追う」
その瞳に、強い怒りが宿る。
「地球を滅ぼしてみろ」
「必ず報復する」
室内の空気が、張り詰めた。
ロキは黙ってトニーを見つめる。
その瞳には、怒り。
侮蔑。
そして、僅かな苛立ちが浮かんでいた。
「君の仲間たちは、これから忙しくなる」
ロキが静かに告げた。
「何しろ、君自身と戦うことになるのだからな」
トニーの眉が動いた。
「どういう意味だ?」
ロキは杖を持ち上げる。
青く輝く先端が、トニーの胸元へ向けられた。
「君も跪け」
ロキは杖の先端を、トニーの胸へ押し当てた。
カン。
硬い物へぶつかる音が鳴った。
トニーの胸部に埋め込まれているのは、小型アーク・リアクター。
ロキの杖は、トニーの心臓へ直接触れることができなかった。
何も起こらない。
ロキが目を細める。
「……何だ?」
トニーは自分の胸を見下ろした後、ロキへ顔を上げた。
「性能のいい心臓でね」
ロキは苛立ちを隠さず、もう一度杖を押し当てた。
カン。
先ほどと同じ音。
やはり、トニーの精神は支配されない。
トニーは口元へ僅かな笑みを浮かべた。
「一度、電源を入れ直してみるか?」
次の瞬間。
ロキの左手が、トニーの首を掴んだ。
「黙れ」
凄まじい力で持ち上げられ、トニーの両足が床から離れる。
「ぐっ……!」
ロキはトニーを窓際へ叩きつけた。
ガラス全体が激しく揺れる。
「お前たちは、いつもそうだ」
ロキの声は、怒りで低く震えていた。
「自分たちの小さな世界こそが、宇宙の中心だと思い込んでいる」
首を絞められながらも、トニーは苦しそうに笑った。
「少なくとも……」
視線だけをロキへ向ける。
「今夜は僕のタワーが、中心になりそうだな……」
「減らず口を」
ロキはトニーを掴んだまま、破壊された窓の外へ突き出した。
眼下に広がるニューヨーク。
林立する高層ビル。
無数の車が行き交う道路。
何も知らず、日常を過ごしている人々。
その遥か上空で、四次元キューブの光はさらに強くなっていた。
「落ちるがいい」
ロキは、トニーから手を離した。
◇
トニーの体が、スターク・タワーから落下する。
強烈な風が耳元で唸る。
高層ビルの窓が、猛烈な速度で上へ流れていく。
眼下の地面が、急速に近づいていた。
その瞬間。
バルコニー内部で待機していた装置が起動する。
赤と金を基調とした、新型アーマー。
アイアンマン・マーク7。
装甲全体が一つの飛行ユニットとして射出され、落下するトニーへ向かって飛んでいく。
『マーク7、展開』
ジャーヴィスの声が響く。
トニーは落下しながら両腕を広げた。
「遅いぞ、ジャーヴィス」
『実戦運用段階ではないと、先ほど申し上げました』
「今から実戦運用段階だ」
飛来したアーマーが、空中で展開する。
両腕を装甲が覆う。
続いて、脚。
胸部。
背面。
複数の部品が、次々とトニーの体へ装着されていく。
最後にヘルメットが閉じた。
《システム起動》
両脚と背中のスラスターが、一斉に炎を噴き出す。
地面へ激突する寸前。
アイアンマンは落下を止め、そのまま急上昇した。
ロキはバルコニーから、その姿を見下ろしている。
アイアンマンは空中で一回転し、ロキの目の前まで戻ってきた。
「さて」
トニーの声が、スピーカーを通して響く。
「今のは、かなり痛かった」
両手のリパルサーが発光する。
ロキも杖を構えた。
だが。
二人が攻撃を放つより早く、スターク・タワー屋上の装置が臨界へ達した。
ドォォォォン!
四次元キューブから放たれた青い光が、一直線に空へ伸びた。
雲を貫き。
夜空を突き破り。
その先にある空間そのものを、内側から押し開いていく。
そして。
ニューヨークの上空が割れた。
巨大な円形の穴。
その向こうに広がっているのは、地球とは異なる暗い宇宙。
無数の星々。
巨大な構造物。
そして。
こちら側へ向かってくる、無数の影。
チタウリの軍勢が、ゲートの向こうから姿を現し始めていた。
アイアンマンは上空を見上げる。
「……プランCが必要だな」
通信回線が開かれた。
『スターク、状況は?』
スティーブの声だった。
トニーは、ゲートを抜けてくる無数のチタウリ兵を見た。
「悪い知らせだ」
一機目の飛行艇が、ニューヨーク上空へ侵入する。
「ゲートは開いた」
少し間を置く。
さらに多くの飛行艇が、次々と地球側へ押し寄せてくる。
「もっと悪い知らせだ」
トニーは両手のリパルサーへ出力を集中させた。
「軍隊も来た」
別の回線から、蓮の声が入る。
『スターク・タワーを確認した。今、そっちへ向かってる』
トニーはバルコニーへ立つロキを一瞥した。
「急げ、世界の破壊者」
上空から迫るチタウリの群れへ顔を向ける。
「僕の家が、宇宙戦争の玄関になった」
『了解』
蓮の声が一瞬だけ途切れる。
『あと、僕の姉がかなり怒ってる』
「それはロキにとって悪い知らせか?」
『相当ね』
トニーは小さく笑った。
「なら、最高だ」
その直後。
チタウリの先遣隊が、ゲートから一斉に飛び出した。
金属製の飛行艇が、空を埋め尽くすようにニューヨークへ降下していく。
地上では、突然現れた異星人の軍勢を見た人々が悲鳴を上げた。
車が急停止する。
人々が逃げ惑う。
チタウリ兵の武器から、青いエネルギー弾が放たれた。
ドォン!
道路が爆発する。
ビルの壁面が砕け、破片が地上へ降り注ぐ。
ニューヨークの日常が、一瞬で戦場へ変わった。
ロキはスターク・タワーのバルコニーへ立ち、広がっていく混乱を見下ろしていた。
「始まったぞ」
その声には、勝利を確信する響きがあった。
だが。
遠くの空から、一機のクインジェットがスターク・タワーへ向かって接近している。
その機内にいるのは。
キャプテン・アメリカ、スティーブ・ロジャース。
ブラック・ウィドウ、ナターシャ・ロマノフ。
ホークアイ、クリント・バートン。
雷神ソー。
仮面ライダーディケイド、紫咲蓮。
そして。
ホロライブの仮面ライダーたち。
ロキが想定していた以上の戦力が、ニューヨークへ集まりつつあった。
アイアンマンは上空へ飛び上がる。
こちらへ向かってくるチタウリ兵へ、両手のリパルサーを構えた。
「地球へようこそ」
閃光が放たれる。
飛行艇へ乗っていた最初のチタウリ兵が、ニューヨークの上空で爆発した。
地球の存亡を懸けた、ニューヨーク決戦。
その幕が上がった。