仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人―   作:十六夜 蓮

29 / 30
第29話 脅しに来た男

 

ニューヨーク、スターク・タワー。

 

赤と金の装甲が、夜の高層ビル群を切り裂くように飛んでいた。

 

誰よりも早くニューヨークへ到着したアイアンマンは、スターク・タワーの屋上へ向かって急降下する。

 

屋上には、巨大な装置が設置されていた。

 

複雑に組み上げられた機械。

 

その中心に据えられた、青く輝く四次元キューブ。

 

装置を操作しているのは、エリック・セルヴィグ博士だった。

 

四次元キューブから放出されたエネルギーは、タワーの大型アーク・リアクターと接続されている。

 

青白い光が屋上全体を包み込み、上空の空間を内側から押し広げるように歪ませていた。

 

アイアンマンは屋上へ着地する。

 

「博士!」

 

セルヴィグへ右手を向けた。

 

「今すぐ装置を止めろ!」

 

セルヴィグはゆっくりと振り返った。

 

だが、その瞳に本来の理性は残っていない。

 

ロキの杖によって支配された、虚ろな目。

 

「もう遅い!」

 

セルヴィグは狂気を含んだ笑みを浮かべた。

 

「こいつは止まらない! 我々に本当の宇宙を見せてくれる!」

 

「そうかい」

 

トニーは短く答えた。

 

掌のリパルサーが強く発光する。

 

「なら、機械の方へ直接聞いてみる」

 

閃光が放たれた。

 

リパルサー光線が、四次元キューブを収めた装置へ直撃しようとする。

 

しかし、その寸前。

 

装置の周囲へ、青いエネルギーの膜が展開された。

 

光線が膜へ激突する。

 

次の瞬間、すべてのエネルギーがアイアンマンへ跳ね返された。

 

「ぐっ!?」

 

激しい衝撃を受け、アイアンマンの体が屋上から吹き飛ばされる。

 

トニーは空中でスラスターを噴射し、どうにか体勢を立て直した。

 

『強力なエネルギー障壁です』

 

ジャーヴィスの冷静な声が響く。

 

『現行装備では突破できません』

 

「見れば分かる」

 

トニーはタワーの外壁へ片手をつき、姿勢を安定させた。

 

アイアンマン・マーク6の装甲から、断続的に火花が散っている。

 

シュツットガルトでの戦闘。

 

ソーとの激突。

 

ヘリキャリアへの襲撃。

 

第三エンジン内部への突入。

 

高速で回転するローターへ巻き込まれかけた損傷。

 

マーク6はすでに、限界へ近づいていた。

 

「仕方ない。プランBへ移行する」

 

『マーク7は、未だ実戦運用段階に達していません』

 

「だからプランBなんだ」

 

『使用は推奨できません』

 

「推奨されることだけをしていたら、僕は今頃退屈で死んでる」

 

トニーはジャーヴィスの返答を待たず、スターク・タワー上層部のバルコニーへ飛んだ。

 

 

バルコニーへ着地すると、床と壁に収納されていた機構が一斉に起動した。

 

複数のアームが伸び、傷だらけのマーク6を固定する。

 

金属音と共に、装甲が順番に取り外されていった。

 

腕。

 

脚。

 

胸部。

 

背面。

 

最後にヘルメットが開き、トニー・スタークの顔が現れる。

 

すべての装甲が外された後も、胸へ埋め込まれた小型アーク・リアクターだけは、青い光を放ち続けていた。

 

トニーはネクタイを緩めながら、そのまま室内へ入る。

 

そこには、一人の男が待っていた。

 

緑と黒を基調とした衣装。

 

金色の装飾。

 

右手に握られた、青く輝く杖。

 

アスガルドの王子、ロキ。

 

ロキは無防備な姿で現れたトニーを見て、薄い笑みを浮かべた。

 

「私の良心へ訴えかけるつもりか?」

 

トニーは歩みを止めなかった。

 

「いや」

 

ネクタイをさらに緩める。

 

「脅しに来た」

 

ロキは面白そうに眉を上げた。

 

「それならば、なぜ鎧を脱いだ?」

 

「見ての通り、あちこち壊れかけていた」

 

トニーはカウンターへ向かう。

 

「それに、今の装備では屋上の障壁を破れないらしい」

 

いつもと変わらない足取り。

 

いつもと変わらない軽口。

 

しかし、その目だけは笑っていなかった。

 

トニーはカウンターから酒瓶を取り出し、グラスへ注ぐ。

 

「飲むか?」

 

ロキは冷ややかな目を向ける。

 

「時間稼ぎのつもりか」

 

「違う」

 

トニーはグラスを掲げた。

 

「さっきも言っただろ。これは脅しだ」

 

二つ目のグラスを取り出しかけ、ロキが受け取る様子を見せないことに気づく。

 

「飲まないのか?」

 

グラスを元へ戻した。

 

「なら、一人でやらせてもらう」

 

ロキはバルコニーの外へ視線を向けた。

 

スターク・タワーの屋上では、四次元キューブのエネルギーが増大し続けている。

 

上空の一点が、青い光によって歪み始めていた。

 

「間もなく、チタウリの軍勢が到着する」

 

ロキの声には、絶対的な勝利を確信する響きがある。

 

「私は無敵だ。恐れるものなど何もない」

 

トニーはグラスを手にしたまま、その背中を見た。

 

「アベンジャーズと仮面ライダーは?」

 

ロキが振り返る。

 

「何?」

 

「チーム名だ」

 

トニーは軽く肩をすくめた。

 

「地球最強の英雄たち。名前としては悪くないだろ」

 

ロキは鼻で笑う。

 

「ああ。顔を合わせたことはある」

 

「そうだろうな」

 

トニーはグラスの中身を一口飲んだ。

 

「チームとしてまとまるには少し時間がかかった」

 

カウンターへグラスを置く。

 

「今日の昼頃まで、空飛ぶ空母の中で言い争っていたくらいだからな」

 

ロキの笑みが深くなる。

 

「それこそが私の狙いだ」

 

「だろうね」

 

トニーは静かに答えた。

 

「でも、あんたはやりすぎた」

 

ロキの目が僅かに細められる。

 

トニーは指を折りながら、一人ずつ数え始めた。

 

「あんたの兄貴である雷神」

 

「七十年ぶりに目を覚ました、歩く伝説みたいな超人兵士」

 

「怒らせると緑色になる天才科学者」

 

「二人の凄腕エージェント」

 

トニーは一度言葉を止めた。

 

そして、ロキを真っすぐ見据える。

 

「それから、日本で誰にも知られず怪人と戦ってきた男」

 

「世界の破壊者と呼ばれる、仮面ライダーディケイド」

 

ロキの表情が僅かに動いた。

 

「紫咲蓮か」

 

「ああ」

 

トニーは頷く。

 

「しかも、あんたは蓮が連れてきたホロライブの仮面ライダーたちまで怒らせた」

 

指を折りながら思い出そうとする。

 

「ファイズ、ブレイド、カブト、キバ、オーズ、ビルド、電王、ウィザード……」

 

途中で諦めるように手を下ろした。

 

「正直、多すぎて全部覚える前に地球が滅びそうだ」

 

ロキは冷たく笑った。

 

「数を揃えれば、私に勝てるとでも?」

 

「違う」

 

トニーの声から、軽薄さが消える。

 

「人数の話じゃない」

 

一歩、ロキへ近づく。

 

「あんたは、その全員を怒らせた」

 

ロキは杖を強く握り直した。

 

「私には軍隊がある」

 

「こっちにはハルクがいる」

 

「その怪物なら、空母からどこかへ落ちていっただろう」

 

トニーは首を横に振った。

 

「分かってないな」

 

さらに一歩、前へ出る。

 

「残念だが、あんたが王座へ座る未来はない」

 

ロキの笑みが少しだけ消える。

 

トニーは構わず続けた。

 

「どれだけ巨大な軍隊を連れてこようと、僕たちは最後まであんたを追う」

 

その瞳に、強い怒りが宿る。

 

「地球を滅ぼしてみろ」

 

「必ず報復する」

 

室内の空気が、張り詰めた。

 

ロキは黙ってトニーを見つめる。

 

その瞳には、怒り。

 

侮蔑。

 

そして、僅かな苛立ちが浮かんでいた。

 

「君の仲間たちは、これから忙しくなる」

 

ロキが静かに告げた。

 

「何しろ、君自身と戦うことになるのだからな」

 

トニーの眉が動いた。

 

「どういう意味だ?」

 

ロキは杖を持ち上げる。

 

青く輝く先端が、トニーの胸元へ向けられた。

 

「君も跪け」

 

ロキは杖の先端を、トニーの胸へ押し当てた。

 

カン。

 

硬い物へぶつかる音が鳴った。

 

トニーの胸部に埋め込まれているのは、小型アーク・リアクター。

 

ロキの杖は、トニーの心臓へ直接触れることができなかった。

 

何も起こらない。

 

ロキが目を細める。

 

「……何だ?」

 

トニーは自分の胸を見下ろした後、ロキへ顔を上げた。

 

「性能のいい心臓でね」

 

ロキは苛立ちを隠さず、もう一度杖を押し当てた。

 

カン。

 

先ほどと同じ音。

 

やはり、トニーの精神は支配されない。

 

トニーは口元へ僅かな笑みを浮かべた。

 

「一度、電源を入れ直してみるか?」

 

次の瞬間。

 

ロキの左手が、トニーの首を掴んだ。

 

「黙れ」

 

凄まじい力で持ち上げられ、トニーの両足が床から離れる。

 

「ぐっ……!」

 

ロキはトニーを窓際へ叩きつけた。

 

ガラス全体が激しく揺れる。

 

「お前たちは、いつもそうだ」

 

ロキの声は、怒りで低く震えていた。

 

「自分たちの小さな世界こそが、宇宙の中心だと思い込んでいる」

 

首を絞められながらも、トニーは苦しそうに笑った。

 

「少なくとも……」

 

視線だけをロキへ向ける。

 

「今夜は僕のタワーが、中心になりそうだな……」

 

「減らず口を」

 

ロキはトニーを掴んだまま、破壊された窓の外へ突き出した。

 

眼下に広がるニューヨーク。

 

林立する高層ビル。

 

無数の車が行き交う道路。

 

何も知らず、日常を過ごしている人々。

 

その遥か上空で、四次元キューブの光はさらに強くなっていた。

 

「落ちるがいい」

 

ロキは、トニーから手を離した。

 

 

トニーの体が、スターク・タワーから落下する。

 

強烈な風が耳元で唸る。

 

高層ビルの窓が、猛烈な速度で上へ流れていく。

 

眼下の地面が、急速に近づいていた。

 

その瞬間。

 

バルコニー内部で待機していた装置が起動する。

 

赤と金を基調とした、新型アーマー。

 

アイアンマン・マーク7。

 

装甲全体が一つの飛行ユニットとして射出され、落下するトニーへ向かって飛んでいく。

 

『マーク7、展開』

 

ジャーヴィスの声が響く。

 

トニーは落下しながら両腕を広げた。

 

「遅いぞ、ジャーヴィス」

 

『実戦運用段階ではないと、先ほど申し上げました』

 

「今から実戦運用段階だ」

 

飛来したアーマーが、空中で展開する。

 

両腕を装甲が覆う。

 

続いて、脚。

 

胸部。

 

背面。

 

複数の部品が、次々とトニーの体へ装着されていく。

 

最後にヘルメットが閉じた。

 

《システム起動》

 

両脚と背中のスラスターが、一斉に炎を噴き出す。

 

地面へ激突する寸前。

 

アイアンマンは落下を止め、そのまま急上昇した。

 

ロキはバルコニーから、その姿を見下ろしている。

 

アイアンマンは空中で一回転し、ロキの目の前まで戻ってきた。

 

「さて」

 

トニーの声が、スピーカーを通して響く。

 

「今のは、かなり痛かった」

 

両手のリパルサーが発光する。

 

ロキも杖を構えた。

 

だが。

 

二人が攻撃を放つより早く、スターク・タワー屋上の装置が臨界へ達した。

 

ドォォォォン!

 

四次元キューブから放たれた青い光が、一直線に空へ伸びた。

 

雲を貫き。

 

夜空を突き破り。

 

その先にある空間そのものを、内側から押し開いていく。

 

そして。

 

ニューヨークの上空が割れた。

 

巨大な円形の穴。

 

その向こうに広がっているのは、地球とは異なる暗い宇宙。

 

無数の星々。

 

巨大な構造物。

 

そして。

 

こちら側へ向かってくる、無数の影。

 

チタウリの軍勢が、ゲートの向こうから姿を現し始めていた。

 

アイアンマンは上空を見上げる。

 

「……プランCが必要だな」

 

通信回線が開かれた。

 

『スターク、状況は?』

 

スティーブの声だった。

 

トニーは、ゲートを抜けてくる無数のチタウリ兵を見た。

 

「悪い知らせだ」

 

一機目の飛行艇が、ニューヨーク上空へ侵入する。

 

「ゲートは開いた」

 

少し間を置く。

 

さらに多くの飛行艇が、次々と地球側へ押し寄せてくる。

 

「もっと悪い知らせだ」

 

トニーは両手のリパルサーへ出力を集中させた。

 

「軍隊も来た」

 

別の回線から、蓮の声が入る。

 

『スターク・タワーを確認した。今、そっちへ向かってる』

 

トニーはバルコニーへ立つロキを一瞥した。

 

「急げ、世界の破壊者」

 

上空から迫るチタウリの群れへ顔を向ける。

 

「僕の家が、宇宙戦争の玄関になった」

 

『了解』

 

蓮の声が一瞬だけ途切れる。

 

『あと、僕の姉がかなり怒ってる』

 

「それはロキにとって悪い知らせか?」

 

『相当ね』

 

トニーは小さく笑った。

 

「なら、最高だ」

 

その直後。

 

チタウリの先遣隊が、ゲートから一斉に飛び出した。

 

金属製の飛行艇が、空を埋め尽くすようにニューヨークへ降下していく。

 

地上では、突然現れた異星人の軍勢を見た人々が悲鳴を上げた。

 

車が急停止する。

 

人々が逃げ惑う。

 

チタウリ兵の武器から、青いエネルギー弾が放たれた。

 

ドォン!

 

道路が爆発する。

 

ビルの壁面が砕け、破片が地上へ降り注ぐ。

 

ニューヨークの日常が、一瞬で戦場へ変わった。

 

ロキはスターク・タワーのバルコニーへ立ち、広がっていく混乱を見下ろしていた。

 

「始まったぞ」

 

その声には、勝利を確信する響きがあった。

 

だが。

 

遠くの空から、一機のクインジェットがスターク・タワーへ向かって接近している。

 

その機内にいるのは。

 

キャプテン・アメリカ、スティーブ・ロジャース。

 

ブラック・ウィドウ、ナターシャ・ロマノフ。

 

ホークアイ、クリント・バートン。

 

雷神ソー。

 

仮面ライダーディケイド、紫咲蓮。

 

そして。

 

ホロライブの仮面ライダーたち。

 

ロキが想定していた以上の戦力が、ニューヨークへ集まりつつあった。

 

アイアンマンは上空へ飛び上がる。

 

こちらへ向かってくるチタウリ兵へ、両手のリパルサーを構えた。

 

「地球へようこそ」

 

閃光が放たれる。

 

飛行艇へ乗っていた最初のチタウリ兵が、ニューヨークの上空で爆発した。

 

地球の存亡を懸けた、ニューヨーク決戦。

 

その幕が上がった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。