仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人― 作:十六夜 蓮
ニューヨークの街は、未だ悲鳴に包まれていた。
スターク・タワーから伸びる青い光の柱が空を貫き、その先に開いた巨大なゲートから、チタウリの兵士たちが絶え間なく降下している。
ビルの谷間を飛び交う飛行艇。
爆発する車両。
崩れ落ちる建物。
逃げ惑う市民。
そのすべてを、アベンジャーズと仮面ライダーたちは必死に食い止めていた。
ディケイドとなった蓮は、アギトトルネイダーの上から街全体を見渡す。
「キャプテン、避難の状況は?」
通信機から、スティーブの声が返ってきた。
『大通りにいた市民は、順次地下へ誘導している。ニューヨーク市警も動き始めた』
スティーブは盾でチタウリの光弾を防ぎながら、逃げる市民たちへ声を張り上げる。
『今のところ、避難は順調だ』
「了解」
ディケイドは飛来したチタウリ兵をライドブッカーで撃ち落とす。
「空の敵は、こっちで抑える!」
そう答えた直後だった。
ニューヨーク上空に開いたゲートが、さらに大きく歪んだ。
青い稲妻が空間の縁を走り、向こう側から巨大な影がゆっくりと姿を現す。
ディケイドは顔を上げた。
「……またか」
先ほど現れたものよりも、さらに巨大なリヴァイアサン。
生物と機械を無理やり融合させたような巨体を、分厚い金属装甲が覆っている。
その表面には、無数のチタウリ兵が張りついていた。
リヴァイアサンがゲートから抜け出すのに合わせ、兵士たちは次々とニューヨークの街へ飛び降りていく。
空中へ展開した魔法陣の上で、ウィザードとなったシオンが叫んだ。
「ちょっと! また大きいのが来たんだけど!」
タジャドルコンボのまつりも、炎の翼を広げながらゲートを見上げる。
「しかも、上から兵士まで降ってきてる!」
ディケイドはライドブッカーをガンモードへ変形させた。
地上へ降下するチタウリ兵へ照準を合わせ、連続で引き金を引く。
「きりがないな……!」
アイアンマンから通信が入る。
『こっちも同感だ』
トニーはビルの間を飛び回りながら、飛行艇へ小型ミサイルを撃ち込んでいた。
『ところで、バナーはまだか?』
ディケイドは一瞬だけ地上へ視線を向ける。
道路を埋める瓦礫。
逃げる人々。
戦い続ける仲間たち。
しかし、ブルース・バナーの姿は見当たらない。
「まだ確認できてない。見つけたら連絡する!」
『急いでもらいたいね』
アイアンマンの背後から、チタウリの光弾が迫る。
トニーは急旋回して回避した。
『こっちは今、巨大なペットの散歩係で忙しい』
「そのペット、絶対に街の中心へ連れてこないでくださいよ!」
『善処する』
「それ、連れてくる人の返事じゃない!」
◇
地上。
ニューヨークの大きな交差点では、別働隊の仮面ライダーたちがチタウリの進軍を食い止めていた。
仮面ライダーカブトとなった獅白ぼたんが、クロックアップで敵の間を駆け抜ける。
《CLOCK UP》
飛行艇から飛び降りようとしていたチタウリ兵を空中で蹴り飛ばし、次々と道路へ叩き落としていく。
《CLOCK OVER》
本来の時間へ戻った瞬間、十体近いチタウリ兵が一斉に地面へ転がった。
「相変わらず、数だけは多いね」
その近くでは、仮面ライダー響鬼となった百鬼あやめが音撃棒を振るっていた。
「はあっ!」
音撃棒がチタウリ兵の武器へ叩き込まれる。
清めの音が衝撃波となって広がり、周囲の兵士たちをまとめて吹き飛ばした。
「空から無限に降りてくるとなると、倒しても倒しても終わらない余」
仮面ライダー鎧武となったさくらみこは、大橙丸を両手で振り回していた。
《オレンジアームズ!》
迫ってきたチタウリ兵の武器を斬り落とし、そのまま回転しながら周囲の敵を薙ぎ払う。
「にぇええええっ!」
大橙丸の刃が敵の装甲へ激突し、火花を散らした。
「多すぎるんだけど!」
鎧武の横を、桃色の仮面ライダーが軽快に跳び越える。
仮面ライダーエグゼイド。
猫又おかゆは、チタウリの光弾をゲームの攻撃パターンでも読むように避けていた。
「右、左、次は上かな」
予想通り、頭上から光弾が飛来する。
エグゼイドは横へ跳んで回避すると、ガシャコンブレイカーをハンマーモードで振り下ろした。
「よいしょ」
チタウリ兵が道路へ叩きつけられる。
「ゲームだったら、敵が湧きすぎて運営にクレームが入るやつだねぇ」
ラビットタンクフォームとなったビルドは、交差点全体へ視線を走らせていた。
複眼の内側へ、敵の位置や移動速度が数値として表示される。
「右側から三体!」
ビルドは飛び上がり、接近していたチタウリ兵の銃だけを蹴り飛ばす。
「上空から飛行艇が二機! みこ先輩、そっち危ないです!」
「こよ、助かるにぇ!」
鎧武が素早く後退する。
直後、先ほどまで立っていた場所へ光弾が着弾した。
爆炎の中から現れたチタウリ兵を、響鬼が音撃棒で殴り飛ばす。
カブトは新たに降下してくる飛行艇を見上げた。
「それにしても、好き放題やってくれるね」
響鬼も空へ視線を向ける。
「この穴を閉じない限り、終わりが見えない余」
その時だった。
戦場の轟音に混じって、遠くからエンジン音が聞こえてきた。
チタウリの飛行艇とは違う。
もっと小さく、聞き慣れた音。
一台のバイクが、瓦礫の間を縫うようにこちらへ近づいてくる。
ビルドが振り返った。
「え……?」
古びたバイクが、交差点の手前でゆっくりと停止した。
乗っていた男が地面へ足をつく。
ブルース・バナー。
衣服は汚れ、顔には疲労が浮かんでいた。
それでも、その様子は驚くほど穏やかだった。
バナーは周囲の惨状を見回し、困ったように苦笑する。
「いやあ……」
崩れたビル。
炎を上げる車。
空を埋め尽くす宇宙人の軍勢。
「随分と酷いことをする奴もいるんだな」
「バナー博士!」
ビルドは思わず駆け寄った。
「大丈夫なんですか!?」
バナーはバイクから降り、穏やかに頷く。
「問題ないよ」
自分の服についた埃を軽く払う。
「少し遠回りしたけどね」
「よかった……」
こよりの声には、心からの安堵が滲んでいた。
ヘリキャリアでハルクとなり、制御を失って暴れたバナー。
あのまま空から落下し、どこへ行ったのかも分からなかった。
しかし今、目の前にいるのは。
こよりが知っている、穏やかなブルース・バナー博士だった。
スティーブもバナーの姿を確認し、通信を入れる。
「スターク、バナー博士が到着した」
上空からトニーの声が返ってきた。
『実にいいタイミングだ』
スラスター音と爆発音が、通信へ混ざる。
『博士、スーツを着ろ。愉快な仲間を連れていく』
バナーは空を見上げる。
「愉快な仲間?」
その直後。
スターク・タワーの向こうから、アイアンマンが猛烈な速度で飛び出してきた。
しかし、トニーだけではない。
その背後から、先ほどゲートを抜けた巨大なリヴァイアサンが迫っている。
ビルの外壁を削り。
周囲の飛行艇を押し退け。
全身からチタウリ兵をばら撒きながら。
巨大な怪物はアイアンマンを追い、交差点へ向かって一直線に突進していた。
ナターシャの呆れた声が通信へ入る。
『どこが愉快な仲間なのよ』
アイアンマンは背後のリヴァイアサンから光弾を浴びながら叫ぶ。
『大きいし、存在感もあるだろ!』
上空から状況を見たディケイドが、顔を引きつらせる。
「トニー!」
アギトトルネイダーの上から叫ぶ。
「本当にこっちへ連れてきてるじゃないですか!」
『文句は後だ!』
アイアンマンは道路のすぐ上を低空飛行しながら答える。
『地上に緑の博士はいるか!?』
スティーブはバナーへ視線を向けた。
「いる」
迫り来るリヴァイアサンの巨体。
ビル群を押し分けるように進み、道路上の車や瓦礫を吹き飛ばしている。
普通の人間ならば、恐怖で立っていられない。
だが。
バナーは静かに、その怪物を見上げていた。
スティーブはバナーへ告げる。
「博士」
盾を構え、僅かに後退する。
「今なら、思いきり怒っていい」
バナーは、ゆっくりとスティーブへ振り返った。
その顔には、穏やかな笑みが浮かんでいる。
「僕の秘密を教えようか」
こよりが息を呑んだ。
「博士……?」
バナーはバイクから離れ、迫り来るリヴァイアサンへ向かって歩き始める。
一歩。
また一歩。
逃げるのではない。
真正面から、巨大な怪物を迎え撃つために。
「僕はね――」
バナーの両手が震え始めた。
皮膚の色が、急速に緑へ変わっていく。
腕が太く膨れ上がる。
筋肉が衣服を引き裂き、背丈が人間の限界を超えて伸びていった。
それでも、その瞳には先ほどのような混乱はない。
怒りを受け入れ。
自分の意思で、その力を解放している。
「いつも怒っている」
次の瞬間。
ブルース・バナーの体が、巨大な緑色の巨人へ変貌した。
ハルク。
リヴァイアサンが目前まで迫る。
アイアンマンは寸前で上昇し、その進路から離脱した。
ハルクは逃げない。
むしろ、一歩前へ踏み出した。
金属製の道路が、その足元で砕ける。
ハルクは右腕を大きく引いた。
全身の筋肉が膨れ上がる。
「グオオオオオオオッ!!」
怒りの咆哮と共に、拳を振り抜いた。
ドゴォォォォォン!!
ハルクの拳が、リヴァイアサンの頭部へ真正面から炸裂した。
凄まじい衝撃波が交差点を駆け抜ける。
周囲に止まっていた車が宙へ浮き上がり、ビルの窓ガラスが一斉に砕け散った。
リヴァイアサンの表面に張りついていたチタウリ兵たちも、衝撃によって次々と吹き飛ばされる。
そして。
ニューヨークのビルすら押し退けて進んでいた巨大な怪物が。
ハルクのたった一撃によって、その動きを完全に止められた。
リヴァイアサンの金属装甲が、頭部から大きくひしゃげる。
巨体全体へ衝撃が伝わり、道路へ沈み込むように停止した。
空中でその光景を見たディケイドは、思わず呟く。
「……やっぱり、切り札だ」
アイアンマンはリヴァイアサンの上空を旋回しながら言った。
『博士、おかえり』
トニーの声には、僅かな笑みが含まれていた。
『今のは、かなりいい挨拶だった』
ハルクはアイアンマンを見上げ、低く唸る。
「グルルルル……」
それは、ヘリキャリアで聞いた暴走の叫びとは違っていた。
怒りはある。
強烈な破壊衝動もある。
だが、その力を向けるべき相手を間違えていない。
ビルドとなったこよりは、安心したように息を吐いた。
「よかった……」
ハルクの背中を見る。
「今度の博士は、ちゃんと味方だ」
スティーブは盾を構え、動きを止めたリヴァイアサンを見据えた。
「全員、今だ!」
その号令に、地上の仮面ライダーたちが一斉に動き出す。
「クロックアップ」
《CLOCK UP》
カブトの姿が掻き消えた。
リヴァイアサンの装甲へ張りついていたチタウリ兵たちを、超高速で次々と蹴り落としていく。
《CLOCK OVER》
響鬼は音撃棒を強く握った。
「はあああっ!」
露出した装甲の隙間へ、二本の音撃棒を叩き込む。
清めの音が内部へ伝わり、巨大な体内を振動させた。
鎧武は大橙丸を構え、リヴァイアサンの脚部へ走る。
「ここだにぇ!」
鋭い斬撃が関節部へ入り、金属装甲を切り裂いた。
エグゼイドも地面を強く蹴る。
ゲームキャラクターのような軽快な動きで巨体を駆け上がり、装甲が薄くなった部分へガシャコンブレイカーの連撃を叩き込んだ。
「弱点を連続攻撃だねぇ」
ビルドはリヴァイアサン全体へ視線を走らせる。
複眼の内側へ、巨大な怪物の構造が数式として表示された。
装甲の厚さ。
関節の可動域。
衝撃の伝わり方。
先ほどハルクが与えた損傷。
無数の情報を瞬時に組み合わせる。
「見つけた!」
ビルドは頭部の後方を指さした。
「頭部と胴体の接続部分です!」
装甲の隙間へ、赤い光が表示される。
「あそこへ攻撃を集中させれば、構造を崩壊させられます!」
ディケイドは即座に通信を開いた。
「聞こえたな!」
アギトトルネイダーの上でライドブッカーを構える。
「空中組、全員で接続部を狙う!」
ウィザードとなったシオンが、炎の魔法陣を展開した。
「任せて!」
タジャドルコンボのまつりも、両翼へ炎を纏わせる。
「まとめて燃やすよ!」
ブレイド・ジャックフォームのポルカ。
ロケットモジュールを装着したフォーゼのフレア。
電王を乗せたデンライナー。
キバと共に飛ぶキャッスルドラン。
クウガゴウラムとなったミオ。
ディケイドを乗せたアギトトルネイダー。
空を駆ける戦士たちが、一斉にリヴァイアサンへ向かっていく。
「座長、先に行くよ!」
ブレイドが翼を大きく広げ、急降下する。
ブレイラウザーから放たれた斬撃が、接続部の装甲を切り裂いた。
「次、フレア!」
「了解!」
フォーゼがロケットモジュールを最大出力で噴射する。
加速を乗せた拳が、ブレイドの作った亀裂へ叩き込まれた。
デンライナーの砲門が一斉に開く。
電王が先頭車両の上で叫んだ。
「狙いは首だ! 撃てええええっ!」
「モモタロス、街に当てないでよ!?」
「分かってるっての!」
無数の光弾が、リヴァイアサンの接続部へ降り注ぐ。
キャッスルドランも巨大な口から衝撃波を放った。
クウガゴウラムが大きく旋回し、角を亀裂へ突き立てる。
「これでどう!?」
「AZKi、正面から突っ込むよ!」
「分かった!」
アギトトルネイダーが一気に加速する。
ディケイドはその上で、ライドブッカーをソードモードへ変形させた。
ウィザードが炎の魔法を放つ。
タジャドルが無数の炎の羽根を撃ち出す。
火炎が装甲の亀裂へ流れ込み、内部で激しく爆発した。
ディケイドは最後に、ライドブッカーを振り抜く。
「はあっ!」
マゼンタの斬撃が、損傷した接続部へ直撃した。
ドォォォォン!
巨大な爆発が、ニューヨーク上空へ広がった。
リヴァイアサンの頭部と胴体を繋いでいた装甲が崩壊する。
巨体から完全に力が抜けた。
しかし、そのまま倒れれば、周囲の建物を巻き込んでしまう。
「ハルク!」
スティーブが叫ぶ。
ハルクは落下を始めたリヴァイアサンの頭部を両腕で掴んだ。
「グオオオオッ!」
圧倒的な怪力で巨体の向きを変える。
誰もいない広い道路へ引き倒した。
ズズゥゥゥン!
リヴァイアサンの巨体が道路へ沈み込む。
大量の土煙と瓦礫が舞い上がった。
周囲で避難していた人々は、遠くからその光景を見ていた。
恐怖だけに満ちていた悲鳴が。
僅かずつ、歓声へ変わっていく。
「やった……!」
「怪物を倒したぞ!」
「ヒーローたちがいる!」
それでも、ゲートからは新たなチタウリ兵が降下し続けている。
戦いが終わったわけではない。
ディケイドは、アギトトルネイダーの上から戦場全体を見渡した。
地上には、盾を構えるキャプテン・アメリカ。
空には、アイアンマン。
ムジョルニアへ雷を集めるソー。
屋上から弓を構えるホークアイ。
逃げ遅れた市民を守るブラック・ウィドウ。
そして。
怒りを味方へ変えたハルク。
その周囲には、ホロライブの仮面ライダーたちが集まっている。
ロキが地球へ呼び込んだ戦争。
圧倒的な軍勢による、一方的な侵略。
だが。
地球は、ただ怯えているだけではなかった。
ここから反撃が始まる。
ディケイドは上空に開いたゲートを睨み、ライドブッカーを強く握り直した。
「さあ――」
空を埋め尽くすチタウリの軍勢へ、刃を向ける。
「ここから押し返すぞ」