仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人― 作:十六夜 蓮
ヘリキャリアの一室。
簡素な造りの会議室は、今だけは世界の行方を決める場のような重苦しさに包まれていた。
壁一面に設置されたモニターには、世界安全保障理事会の理事たちが映し出されている。
その視線を一身に受けながら、ニック・フューリーは会議室の中央へ一人で立っていた。
ヘリキャリアは、未だ修復作業の最中にある。
艦内の至るところから工具を打ちつける音が響き、損傷した配線からは時折火花が散っていた。
クルーたちは負傷者の搬送。
破壊された区画の封鎖。
停止したシステムの復旧作業に追われている。
それでも、世界安全保障理事会は待たなかった。
モニターに映る一人の理事が口を開く。
『フューリー長官』
「何でしょう」
『アベンジャーズは、今どこにいる?』
フューリーは表情を変えることなく答えた。
「追跡していません」
『追跡していない?』
理事の眉が僅かに動く。
「ええ」
フューリーは淡々と続けた。
「世界を救った直後です。少しくらい休息を与えてもいいでしょう」
別の理事が、不快そうに顔をしかめる。
『君は事態の重大さを理解しているのか?』
「十分に」
『ニューヨークは壊滅的な被害を受けた。世界中の人間が、宇宙からの侵略を目撃したのだ』
ニューヨークで撮影された映像が、別のモニターへ表示される。
スターク・タワー上空に開いたゲート。
そこから押し寄せるチタウリの軍勢。
巨大なリヴァイアサン。
街を守るアベンジャーズ。
そして。
色とりどりの姿で戦場を駆ける仮面ライダーたち。
『彼らは、その中心にいた』
「だからこそ、今は休ませています」
フューリーは一切怯まなかった。
『四次元キューブはどうした?』
別の理事が尋ねる。
フューリーは即答した。
「あるべき場所へ返しました」
『どこだ』
「我々の手が届かない場所です」
モニター越しの理事たちが、僅かにざわつく。
『アスガルドか?』
「そう考えてもらって構いません」
『君が、ソーへ四次元キューブを引き渡したのか?』
「私が命じたわけではありません」
『では、誰が決めた?』
フューリーは僅かに顔を傾けた。
「私はただ、それを持ち帰ろうとする神へ逆らわなかっただけです」
理事の一人が、苛立った声を上げる。
『つまり、地球への侵略を引き起こした戦犯であるロキを、我々の手で裁くこともなくアスガルドへ引き渡したのか』
「彼は自分の国で裁かれます」
『それを我々が確認できないのなら、意味がない』
「では、地球で拘束しますか?」
フューリーの片目が鋭く細められた。
「雷神ソーの弟であり、アスガルドの王子でもあるロキを地球の法で裁き、神の国との外交問題を引き起こす」
静かに問いかける。
「今の地球に、アスガルドとの戦争まで始める余裕があると?」
理事たちは黙り込んだ。
誰も、即座に反論することはできなかった。
しかし、納得したわけではない。
女性理事が口を開く。
『フューリー』
「はい」
『君は、自分が何をしたのか分かっていないようね』
「分かっています」
『アベンジャーズを管理下へ置かず、自由にした』
女性理事の背後に、新たな映像が表示される。
そこに映っているのは、ニューヨークの大通りへ並んだ平成仮面ライダーたち。
『さらに、平成ライダーと呼ばれる制御不能な超人集団まで、同じように野放しにした』
理事は鋭い目をフューリーへ向けた。
『彼らは危険よ』
フューリーは短く頷いた。
「ええ」
その答えに、理事たちは一瞬だけ言葉を失った。
フューリーは否定しなかった。
擁護もしなかった。
ただ、当然の事実として認めた。
「彼らは危険です」
『ならば――』
「そして、世界中がそのことを知りました」
理事の言葉を遮り、フューリーは続ける。
「地球だけではありません」
ニューヨーク上空に開かれていたゲートの映像へ視線を向ける。
「恐らく、地球の外側に存在する者たちも知った」
理事たちを一人ずつ見回す。
「チタウリも」
「アスガルドも」
「四次元キューブを狙う者たちも」
さらに、巨大なアナザー1号が映る画面へ目を向けた。
「アナザーライダーを送り込んだ、正体不明の何者かも」
『何を知ったというのだ』
一人の理事が尋ねた。
フューリーの声は低い。
しかし、その言葉には一切の迷いがなかった。
「地球には、アベンジャーズがいる」
会議室へ、静かな緊張が走る。
フューリーは続けた。
「そして」
ニューヨークで戦った、紫咲蓮とホロライブのメンバーたちの映像を見る。
「仮面ライダーがいる」
理事の一人が、皮肉げに口元を歪めた。
『君は、その事実を宇宙中へ知らしめたかったのか?』
フューリーは僅かに間を置いた。
そして。
はっきりと答えた。
「決意表明です」
会議室が静まり返る。
世界安全保障理事会の誰もが、フューリーの真意を測ろうとしていた。
地球は無力ではない。
侵略されるだけの星ではない。
この星へ手を出せば。
立ち向かう者たちがいる。
それを、世界へ。
宇宙へ。
異なる世界にまで示した。
フューリーはモニターへ背を向けた。
「報告は以上です」
『フューリー、まだ話は終わっていない』
「こちらは終わりました」
『待ちなさい。アベンジャーズと仮面ライダーの今後について――』
フューリーは通信を切った。
壁一面のモニターが、一斉に暗くなる。
会議室へ静寂が戻った。
フューリーは暫くの間、無言で立ち尽くしていた。
その片目には、僅かな疲労が滲んでいる。
四次元キューブは地球を去った。
ロキもソーに連れられ、アスガルドへ戻った。
アベンジャーズは、それぞれの場所へ散ろうとしている。
ホロライブのメンバーたちも、現在はS.H.I.E.L.D.の管理から離れていた。
それでいい。
彼らは兵器ではない。
誰かの命令だけで動く駒でもない。
必要な時に。
守るべきもののために。
自らの意思で立ち上がる者たちだ。
フューリーは小さく呟いた。
「今のうちに、せいぜい休め」
暗いモニターへ背を向け、会議室の出口へ歩き始める。
「次は、もっと面倒になる」
◇
同じ頃。
ニューヨーク、スターク・タワー。
かつてマンハッタンの街を見下ろしていた巨大なビルは、見る影もないほど傷ついていた。
外壁は抉られ。
無数の窓ガラスが砕け。
屋上には、四次元キューブの装置が残した巨大な焦げ跡が刻まれている。
ペントハウスも、ほとんど原形を留めていなかった。
高級家具は破壊され。
床一面にはガラス片と瓦礫が散らばり。
壁や床には、ハルクがロキを何度も叩きつけた跡が残っている。
その惨状の中心で。
トニー・スタークは、腕を組んで立っていた。
「……ここ、僕の家だったんだけどな」
隣にいた谷郷元昭は、複雑な表情で周囲を見回した。
「かなり……大変な状態ですね」
トニーは破壊された壁を見る。
「随分と控えめな表現だな」
床に転がっているソファの残骸を指さす。
「僕なら、『高級住宅が怪獣映画の撮影現場へ変わった』と表現する」
「確かに、その方が正確かもしれません」
谷郷は苦笑した。
それから、周囲で休んでいるホロライブのメンバーたちへ視線を向ける。
「それでも、全員が生きていてよかったです」
トニーは一瞬だけ黙った。
チタウリの軍勢。
核ミサイル。
閉じかけたゲート。
意識を失ったまま宇宙から落下した自分。
ほんの僅かでも何かが違っていれば。
ここにいる多くの者が、帰ってこられなかった。
トニーは小さく肩をすくめた。
「まあ」
谷郷と同じように、周囲を見回す。
「それには同感だ」
◇
少し離れた場所では。
蓮が、ホロライブのメンバーたちの状態を一人ずつ確認していた。
シオンは壊れたソファの残骸へ座り、腕を組んでいる。
スバルは床へ座り込んだまま、腰を押さえていた。
「腰が終わった……」
「電王で暴れすぎたからじゃない?」
シオンが呆れたように言う。
「スバルが暴れたんじゃない! モモタロスが暴れたんだよ!」
どこからともなく、モモタロスの声が響く。
「お前だって最後はノリノリだったじゃねぇか!」
「うるさい!」
こよりは壊れていない端末を見つけ、全員の医療チェック項目を作ろうとしていた。
「使用フォームごとの負荷と、変身後の身体数値を比較して……」
シオンが端末を取り上げた。
「こより」
「はい?」
「今は休め」
「でも、データを取っておかないと――」
「休む」
「……はい」
まつりは床へ完全に横たわっていた。
その隣では、ぼたんが壁へ背を預けている。
「休みって大切だね」
「ぼたんちゃん、元気そうだから、まつりの分まで動いて」
「それは休みとは言わないんだよね」
トワは両手でキバットを掴んでいた。
「次から噛む時は、ちゃんと事前に言って」
「事前に言ったら身構えるだろ!」
「身構えさせてよ!」
「それじゃあ、雰囲気が出ない!」
「雰囲気のために人の手を噛まないで!」
ポルカは瓦礫へ腰を下ろし、腕を組んで考えていた。
「座長の初ライダー公演……」
何度か頷く。
「ニューヨーク編」
フレアが横から顔を向けた。
「続編があるみたいなタイトルにしないで」
「でも、次は宇宙編とかあるかもしれないし」
「縁起でもないこと言わないで!」
フレアは破壊された窓から、傷ついたニューヨークを見下ろした。
煙を上げるビル。
崩れた道路。
瓦礫を撤去する消防隊や救助隊。
街は救われた。
それでも。
失われたものが、何もないわけではない。
フレアは少しだけ胸を痛めながら、その光景を見つめていた。
別の場所では。
ミオとAZKiが、蓮の前へ立っていた。
「蓮くん」
ミオは穏やかな笑顔を浮かべていた。
しかし、目は笑っていない。
「次からは、本当に先に説明してね」
蓮は素直に頭を下げた。
「ごめんなさい」
AZKiも続ける。
「乗り物に変形するなんて、人生で一番びっくりしたよ」
「本当にごめんなさい」
「体がどうなってるのか、全然分からなかった」
「申し訳ありませんでした」
「しかも、蓮くんが上に乗ったし」
「それも本当にごめんなさい」
蓮は何度目か分からない謝罪を繰り返していた。
その様子を遠くから見ていたトニーは、小さく笑う。
「君の会社のマネージャーは、大変そうだな」
谷郷は穏やかな表情で答えた。
「彼は昔から、何でも一人で抱え込みすぎるところがあります」
トニーは蓮へ視線を向ける。
「それは見れば分かる」
世界を救う戦いを終えた直後。
本人も決して無傷ではない。
それでも蓮は、自分より先に仲間たちの体調を確認している。
「核ミサイルを宇宙へ運んだ僕へ休めと言っておきながら、自分は全員の状態確認か」
「彼らしいです」
「君も苦労しているな」
「慣れました」
谷郷の返答に、トニーは僅かに笑った。
それから、改めて周囲のホロライブメンバーたちを見る。
「それで」
「はい」
「カバーの皆さんは、これからどうする?」
トニーは破壊された室内へ視線を向けた。
「このタワーは、暫く修理が必要だ」
「そうでしょうね」
「S.H.I.E.L.D.の施設も使えるだろうが」
トニーは谷郷を見る。
「君たちは、あそこへ長居したがるような人間には見えない」
谷郷は少し考えた。
「所属タレントたちには、まず安全な場所で休んでもらいます」
疲労困憊しているメンバーたちへ目を向ける。
「その後、日本へ戻すか、復旧が終わるまでアメリカへ一時的な拠点を置くか判断します」
「一時拠点が必要なら、僕が用意しよう」
谷郷が僅かに目を見開く。
「よろしいのですか?」
「僕のタワーを宇宙戦争の入口にされたんだ」
トニーは破壊された天井を見上げた。
「ついでに仮面ライダーアイドル事務所の避難所として使われても、今さら大差ない」
「それは……」
谷郷は深く頭を下げた。
「大変ありがたい申し出です」
「ただし、条件がある」
谷郷はすぐに顔を上げた。
「何でしょうか」
トニーは少しだけ楽しそうな表情を浮かべる。
「ビルドへ変身していた子」
視線を移す。
「こよりだったか」
遠くで端末を取り戻そうとしていたこよりが、反応した。
「えっ!?」
「彼女には、スターク社の研究施設を見せたい」
蓮が即座に振り返った。
「駄目です」
「返事が早いな」
トニーは不満そうに蓮を見る。
「見学くらいいいだろう」
「スタークさんの言う見学が、普通の見学で終わるとは思えません」
「信用がないな」
蓮は真顔で答えた。
「今日一日で、科学分野の信用を積み上げる場面がありました?」
トニーは少し考える。
「核ミサイルを宇宙へ運んだ」
「それは本当に感謝しています」
蓮は一度頭を下げた。
すぐに顔を上げる。
「でも、研究室の見学とは別です」
こよりが控えめに手を上げる。
「蓮くん」
「何?」
「本当に、少しだけなら……」
「こよりも休む」
「でもスターク社のラボ……」
「休む」
「……はい」
シオンが満足そうに頷く。
「そうそう」
端末をこよりから遠ざける。
「まずは全員休み」
谷郷は、そのやり取りを見て小さく笑った。
そして、トニーへ向き直る。
「スタークさん」
「何だ?」
「今回、うちのタレントたちと蓮を助けていただき、ありがとうございました」
谷郷は深く頭を下げた。
トニーは、少しだけ真面目な表情になる。
「助けられたのは、こちらも同じだ」
空飛ぶ列車。
龍の城。
ニューヨークの空を駆けた仮面ライダーたち。
巨大なアナザー1号を倒した平成の力。
「あの子たちがいなければ、ニューヨークの被害はもっと大きくなっていた」
谷郷は右手を差し出した。
「今後とも、協力できる範囲でよろしくお願いいたします」
トニーは差し出された手を見た。
そして、少し笑って握り返す。
「こちらこそ」
力強く握手を交わした。
「スターク社としても、カバーとの関係は大切にしたい」
「ありがとうございます」
「ただし」
トニーは谷郷の手を離す。
「次に宇宙人が来る時は、事前に僕へ連絡してくれ」
谷郷は苦笑した。
「できれば、二度と来ないでほしいですね」
「同感だ」
二人はもう一度、周囲の惨状を見回した。
ボロボロになったスターク・タワーの中で。
世界を救った直後に交わされた。
奇妙な業務提携のような握手だった。
その様子を見ていた蓮は、少しだけ肩の力を抜いた。
ニューヨークの外では、未だサイレンが鳴り響いている。
瓦礫の撤去。
被害状況の確認。
市民の救助。
そして。
世界へ向けた説明。
やらなければならないことは、山ほど残されている。
それでも、少なくとも今は。
全員が生きている。
シオンが蓮の隣へ来た。
「蓮」
「なに?」
「本当に明日は休みだからね」
蓮は苦笑した。
「分かってる」
「絶対に仕事しないでよ」
「メールの確認くらいは――」
「しないで」
「はい」
スバルが横から笑う。
「マネージャーが一番管理されてるじゃん」
どこからともなく、モモタロスの声が響いた。
「おい、蓮! 休みなら俺と一戦――」
シオンが即座に言い放つ。
「赤鬼も休め」
「俺はモモタロスだ!」
トニーは、そのやり取りを眺めながら谷郷へ小声で尋ねた。
「本当に賑やかな会社だな」
谷郷は穏やかに笑った。
「ええ」
休息を取るタレントたちを見る。
「自慢のタレントたちです」
蓮は破壊された窓の外へ目を向けた。
傷ついたニューヨーク。
それでも、空は晴れている。
ロキはアスガルドへ連れていかれた。
四次元キューブも地球を去った。
チタウリの脅威は退けられた。
しかし。
アナザー1号が最期に残した名がある。
サドラー。
その名前が示す新たな謎は、確かに残されている。
蓮は小さく呟いた。
「……明後日から考えよう」
シオンがすぐに反応した。
「明後日も休みでいいんじゃない?」
「さすがに、それは谷郷さんと相談しないと」
蓮は少しだけ笑った。
その会話を聞いていた谷郷が、穏やかな声で告げる。
「三日間、休みにしましょう」
一瞬。
室内が静まり返った。
そして。
「やったああああっ!」
「三連休だ!」
「寝る!」
「ゲームする!」
ホロライブのメンバーたちから、一斉に歓声が上がった。
トニーは肩をすくめる。
「僕も休みたいね」
蓮はトニーを見る。
「スタークさんも、休んだ方がいいですよ」
「そうする」
トニーは真面目な顔で頷く。
「明日から」
シオンが小さく呟いた。
「それ、絶対に休まない人の言い方」
蓮とトニーは、同時に目を逸らした。
その反応まで完全に同じだったことに気づき、周囲から笑い声が上がる。
ニューヨーク決戦は終わった。
だが。
物語は、まだ終わらない。
地球にはアベンジャーズがいる。
そして。
仮面ライダーがいる。
その事実は。
世界中へ。
宇宙へ。
そして、世界の外側にまで知れ渡った。
それは、この星へ手を伸ばそうとするすべての存在へ向けた。
地球からの、決意表明だった。