仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人― 作:十六夜 蓮
アベンジャーズ・タワー。
ニューヨーク決戦以降、スターク・タワーから名前を変えた巨大なビル。
その一角には、カバー株式会社の臨時事務所が置かれていた。
表向きは、海外長期滞在中のホロライブを支える運営拠点。
しかし、その実態は。
仮面ライダーの力を持つホロライブメンバーたちの待機所。
ライダーシステムを安全に扱うための訓練所。
そして、スターク社が誇る高性能な通信回線を利用した、配信環境完備の仮住まいでもあった。
そんな臨時事務所の自動ドアが開く。
「ねぇ……疲れたぁ……」
ロボ子さんが、ぐったりとした声を漏らしながら中へ入ってきた。
肩は大きく落ち、足取りも重い。
その後ろから、モココも少し疲れた様子で続く。
「トラックを止めるだけかと思ったら、普通に怪人が出てきた……」
ソファへ座っていたスバルが、二人の声に反応して顔を上げた。
「おかえり」
床へ置いていた飲み物を手に取る。
「二人とも大丈夫だった?」
ロボ子さんは、気の抜けた様子で手をひらひらと振った。
「怪我はないよ」
近くの椅子へ腰を下ろす。
「でも、トライドロンで追跡するのって、思ってたより神経を使うんだよねぇ」
ゲーム機を操作していたシオンが、一時停止して顔を上げた。
「いや」
真顔で告げる。
「トライドロンに乗ってる時点で、普通じゃないから」
ロボ子さんは、少しだけ頬を膨らませた。
「シオンちゃんには言われたくないなぁ」
「何で?」
「ウィザードになって、ニューヨークの空で火とか出してたじゃん」
シオンは即座に答えた。
「それはそれ」
一度頷く。
「これはこれ」
「出た。便利な言葉」
モココは苦笑しながら、空いていたソファへ座った。
その横では。
蓮がタブレットを片手に、回収された物品の一覧を確認していた。
ガイアメモリ。
ゾディアーツスイッチ。
どちらもケース単位で押収されている。
それらは間もなく、スターク社とS.H.I.E.L.D.が共同管理する保管施設へ移送される予定だった。
一つでも悪用されれば、人間を怪人へ変えてしまう危険な物品。
まして、今回回収された量が世界へ流通すれば。
ニューヨーク決戦とは異なる、新たな大規模災害へ発展する可能性がある。
しかし。
もっとも大きな問題は、怪人化アイテムそのものではなかった。
誰が、これほど大量に集めたのか。
何の目的で運んでいたのか。
そして。
それらを、どこへ届けようとしていたのか。
ロボ子さんは椅子の背もたれへ体を預けると、フワワへ顔を向けた。
「ねぇ、フワワ」
「なぁに?」
「星の本棚を使って、あのメモリとスイッチの出所を調べられないかな?」
フワワは、少し考えるように首を傾げた。
「検索すること自体はできると思うけど……」
顎へ手を添える。
「もっとキーワードが必要だよね」
蓮はタブレットから顔を上げた。
「そうですね」
ホワイトボードへ目を向ける。
「今の情報だけだと、絞り込むには少し足りない」
モココが不満そうに頬を膨らませた。
「でも、サドラーって名前は出たよ?」
「それはかなり大きな情報です」
蓮は頷いた。
「ただ、サドラーという名前とガイアメモリだけでは、まだ候補の棚が三つ分残ってる」
「三つも?」
「人物名なのか、組織名なのか、それともコードネームなのか。それすら分かっていないからね」
フワワも蓮の説明へ同意する。
「星の本棚の中でも、同じ言葉に繋がる情報が多すぎるんだよね」
「例えば、人の名字かもしれないし」
「何かの作戦名や、企業の名前かもしれない」
モココはソファへ深く座り込んだ。
「せっかく名前を聞き出したのにぃ……」
「でも、前進はしてるよ」
フワワが優しく励ます。
「もう少しキーワードが増えれば、かなり絞り込めると思う」
室内の壁際には、大きなホワイトボードが設置されていた。
そこへ、蓮がこれまでに判明した情報を書き出している。
サドラー。
ガイアメモリ。
ゾディアーツスイッチ。
アナザー1号。
輸送トラック。
ニューヨーク。
こよりはホワイトボードの前へ立ち、腕を組んでいた。
「やっぱり」
並んだ単語を一つずつ見ていく。
「一つの勢力が、複数の怪人化アイテムを集めていると考えるべきだよね」
蓮も頷いた。
「その可能性が高い」
「ガイアメモリとゾディアーツスイッチは、本来ならまったく別系統の技術です」
こよりはペンを手に取り、二つの単語を線で結ぶ。
「製造方法も、使用方法も、怪人化する原理も違う」
「それなのに、同じトラックで大量に輸送されていた」
さらに、サドラーという単語へ線を伸ばした。
「誰かが意図的に集めているとしか考えられません」
ソファへ寝転んでいたおかゆが、眠そうな声で言った。
「ゲームで例えると」
片手を上げる。
「別作品の強化アイテムをまとめて、闇市へ流そうとしてる感じ?」
「大体そんな感じです」
こよりは振り返る。
「しかも、初心者装備を数個売る程度ではありません」
ホワイトボードへ書かれた押収数を指さす。
「大量のプレイヤーを、一気に怪人へ変えられる規模です」
みこが、自分の膝を抱えながら顔を青ざめさせた。
「それ、絶対にやばいやつにぇ……」
「確実にやばいです」
こよりは真剣な表情で答えた。
「一般人へ渡れば、本人の意思に関係なく暴走する可能性もあります」
「あんなのが街中に何十体も出たら……」
フレアは険しい表情で呟く。
「ニューヨーク決戦の後なのに、また街が壊れちゃう」
室内の空気が、少しだけ重くなる。
そんな中。
シオンが、ふと思い出したようにテレビへ顔を向けた。
「事件といえばさ」
「ん?」
「さっきからニュースで流れてる、あの映像」
テレビを指さす。
「あれ、何だったんだろうね」
室内の大型テレビでは、ニュース番組が放送されていた。
画面へ映し出されているのは。
炎上する施設。
大きく崩れた建物。
空へ伸びる黒煙。
そして、空軍基地と思われる場所で救助活動を続ける兵士たち。
画面下には、大きく赤い文字が表示されている。
――テロ速報。
AZKiが静かに答える。
「マンダリンというテロリストでしょ?」
フレアもテレビへ目を向け、眉をひそめた。
「アメリカのニュース、ずっとその話をしてるよね」
画面の中で。
キャスターが緊迫した声で原稿を読み上げている。
『先ほど、アメリカ国内の空軍関連施設が攻撃を受けました』
『犯行声明を発表したのは、マンダリンを名乗るテロリスト集団と見られています』
映像が切り替わる。
薄暗い部屋。
壁へ飾られた旗。
両手の指へ幾つもの指輪を装着した、一人の男。
男はカメラを見つめながら、低い声で演説を続けている。
映像の途中には。
破壊される施設。
逃げる人々。
爆発によって吹き飛ぶ車両。
挑発するような犯行声明と、実際の被害映像が交互に映し出されていた。
みこは膝を抱えたまま、小さく呟いた。
「怖いね……」
蓮はその言葉を聞き。
反射的に、心の中で答えてしまった。
――いや、平成仮面ライダーがこの部屋に集まっている方が怖いと思う。
クウガからジオウまで。
平成を代表する仮面ライダーの力が、ほぼすべてアベンジャーズ・タワーへ集まっている。
しかも。
彼女たちはニューヨーク決戦で、すでに最強フォームまで経験していた。
グランドジオウ。
ディケイド・コンプリートフォーム。
ライジングアルティメット。
シャイニングフォーム。
龍騎サバイブ。
ファイズ・ブラスターフォーム。
ブレイド・キングフォーム。
装甲響鬼。
ハイパーカブト。
電王超クライマックスフォーム。
キバ・エンペラーフォーム。
サイクロンジョーカーエクストリーム。
プトティラコンボ。
コズミックステイツ。
インフィニティースタイル。
極アームズ。
タイプトライドロン。
ムゲン魂。
ムテキゲーマー。
ビルドジーニアス。
アベンジャーズ・タワーの一室に。
地球規模どころか。
世界そのものを揺るがしかねない力が、日常会話をしながら集まっている。
テロリストが危険なのは間違いない。
しかし、冷静に考えれば。
この臨時事務所の方が、世界最大級の危険物保管庫だった。
蓮は、その考えを口に出さなかった。
今ここで口にすれば。
シオンから。
「じゃあ、何でシオンたちに渡したの?」
と詰められる未来が、簡単に想像できたからだ。
そらはテレビの映像を見つめながら尋ねた。
「攻撃されたのは、空軍基地なんだよね?」
蓮は我に返り、頷いた。
「そうみたいですね」
「大丈夫なのかな……」
蓮はニュース画面へ目を向ける。
「まあ」
少し考える。
「大統領も、ローディさんが装着しているアイアン・パトリオットで対抗すると発表していましたし」
スバルが首を傾げた。
「アイアン・パトリオットって」
手で赤、白、青の配色を表現しようとする。
「ウォーマシンの色を変えたやつ?」
「かなり大雑把に言えば、そう」
蓮は苦笑する。
「ただ、外見だけじゃなく、政府向けに調整された装備もあるはずです」
「ローディさんは正規の軍人ですし、スーツの性能も相当高い」
ニュースに映るアイアン・パトリオットの映像を見る。
「マンダリンが相手なら、政府も黙ってはいないでしょう」
トワは腕を組んだ。
「でも」
窓の外へ広がるニューヨークの街を見る。
「ニューヨーク決戦の後だと、どんな事件でも裏に何かいるんじゃないかって思っちゃうよね」
「それは分かる」
ぼたんも窓の外を見ながら答える。
「宇宙人」
指を一本立てる。
「アナザーライダー」
もう一本。
「ドーパントと、ゾディアーツスイッチの輸送」
さらに一本立てた。
「次はテロリストかぁ」
小さく笑う。
「忙しいね」
スバルが即座に突っ込んだ。
「忙しいで済ませていい内容じゃないんだよなぁ!」
「でも、事実でしょ?」
「そうだけど!」
スバルは頭を抱えた。
蓮はテレビへ映るマンダリンの姿を見ながら、落ち着いた声で言った。
「でも」
全員へ聞こえるように続ける。
「アメリカには、キャプテンやトニーがいる」
「ローディさんもいる」
そして、室内にいるホロライブのメンバーたちを見回した。
「僕たちもいる」
テレビの向こうで、マンダリンの犯行声明が続いている。
蓮は僅かに笑った。
「これだけ戦力が揃っていれば」
何気なく言った。
「そう簡単には、こっちへ攻撃してこないんじゃないかな」
室内が、静まり返った。
誰も返事をしない。
先ほどまでニュースの音や会話で賑やかだった臨時事務所へ。
妙な沈黙が訪れた。
蓮は周囲を見回す。
「……何?」
スバルが、ゆっくりと蓮へ顔を向けた。
「いや……」
その目には、少しだけ怯えたような色が浮かんでいる。
「何か今の台詞」
一度言葉を区切る。
「ものすっごいフラグに聞こえたんだけど」
「気のせいじゃない?」
「気のせいじゃないと思う」
シオンも、まったく同じ目で蓮を見ていた。
「蓮」
「何?」
「それ、絶対に言っちゃ駄目なやつ」
「何で?」
「『これだけ強い人がいるから敵は来ない』とか」
シオンは指を立てる。
「そういうことを言った直後に、もっと強い敵が来るんだよ」
「そんな物語みたいな――」
「蓮がそれ言う?」
「……」
蓮は何も言えなくなった。
まつりもソファから上半身を起こす。
「蓮くん」
真剣な顔で告げる。
「そういうことを言うと、だいたいすぐ何か起きるよ」
ポルカも深く頷いた。
「物語的には完全に次回予告の台詞だね」
両手で四角を作り、見えない画面を表現する。
「『だが、その油断を嘲笑うかのように、新たな敵が動き始めていた――』みたいな」
「やめてよ!」
蓮は慌てて周囲を見る。
「みんなして、不吉なことを言わないで!」
おかゆがソファへ寝転んだまま、小さく笑う。
「最初にフラグを立てたのは蓮くんだけどねぇ」
「立ててない!」
「立てたにぇ」
みこも真顔で頷く。
「完全に立ってたにぇ」
こよりはホワイトボードへ、新たな文字を書き加えた。
紫咲蓮の発言。
攻撃される可能性。
「何で捜査項目に追加するの!?」
「念のためです!」
「科学者がフラグを根拠にしないで!」
室内に笑い声が広がった。
誰も、本気で何かが起きると思っていたわけではない。
ニューヨーク決戦は終わった。
新たに見つかった怪人化アイテムも回収された。
アベンジャーズと平成仮面ライダーが揃うこの場所を、正面から襲う者など。
普通に考えれば、いるはずがなかった。
少なくとも。
この時の蓮たちは、そう思っていた。