仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人― 作:十六夜 蓮
アスファルトの上に落ちたカードを、蓮はしばらく見つめていた。
《NAKERUDE》
泣けるで。
先ほどまでなら、また決め台詞だけが発動するのではないかと警戒しただろう。
だが、イマジンは待ってくれない。
砂で形作られた刃を振り上げ、再び蓮へ襲いかかってきた。
「泣いてる場合じゃないか……!」
蓮はカードを拾い上げ、ディケイドライバーへ挿入した。
《ATTACK RIDE》
《NAKERUDE》
紫色だった電王の装甲が、黄色と黒を基調としたものへ変化していく。
仮面ライダー電王、アックスフォーム。
同時に、デンガッシャーも斧形態へ組み替えられた。
電王となった蓮は、迫ってきた砂の刃をデンガッシャーで受け止める。
激しい火花が散った。
「俺の強さに――」
蓮の口が、勝手に動いた。
「お前が泣いた!」
数秒の沈黙。
イマジンが怪訝そうに首を傾げる。
「……泣いていないが?」
「知ってるよ!」
蓮は思わず叫び返した。
やはり、決め台詞を言わせる効果も付いているらしい。
だが、今度はそれだけではなかった。
先ほどまでとは比べものにならないほどの力が、蓮の全身に満ちている。
電王アックスフォームとなった蓮は、重いデンガッシャーを振るい、イマジンを力任せに押し返した。
「はあっ!」
デンガッシャーがイマジンの胸部へ叩き込まれる。
鈍い衝撃音とともに、怪人の体が大きくよろめいた。
しかし、イマジンもただ力任せに戦うだけではなかった。
その体を砂のように崩して斧の一撃を避けると、蓮の背後で再び怪人の姿へ戻る。
「っ……!」
蓮は振り下ろされた刃を横へ跳んで避けた。
砂の刃がアスファルトを切り裂き、無数の破片が周囲へ飛び散る。
「さっきから、崩れたり固まったり忙しいな……!」
イマジンが唸り声を上げた。
「貴様を殺し、契約を果たす!」
「剣で戦いたいなら――」
蓮はライドブッカーから一枚のカードを引き抜いた。
「こいつで相手をしてやる」
カードをディケイドライバーへ挿入する。
《KAMEN RIDE》
《BLADE》
電王の装甲が消え、青と銀を基調とした新たな装甲が蓮の体を包み込んだ。
仮面ライダーブレイド。
蓮の右手に、醒剣ブレイラウザーが出現する。
その切っ先を、イマジンへ向けた。
「ここからは、力比べじゃない。剣の勝負だ」
イマジンが地面を蹴った。
砂の刃が、横薙ぎに迫る。
ブレイドはブレイラウザーを構え、それを真正面から受け止めた。
甲高い金属音が響き、激しい火花が散る。
蓮は一歩踏み込むと、ブレイラウザーを勢いよく振り上げた。
「はっ!」
斬撃が、イマジンの胸部を切り裂いた。
さらに体を回転させ、二撃目を叩き込む。
イマジンが怯んだところへ、間髪を入れず三撃目を浴びせた。
「ぐああっ!」
イマジンの体が吹き飛び、道路標識へ激突する。
金属製の支柱が大きく曲がり、怪人の体から砂が零れ落ちた。
蓮は追撃の手を緩めない。
ライドブッカーから新たなカードを取り出し、ディケイドライバーへ挿入した。
《ATTACK RIDE》
《MACH》
ブレイドの姿が、一瞬だけぶれた。
次の瞬間には、蓮はイマジンの懐へ入り込んでいた。
「なっ……!」
イマジンが反応するよりも早く、ブレイラウザーが閃く。
一撃。
二撃。
三撃。
目にも留まらぬ高速の斬撃が、イマジンの体を次々と切り裂いていく。
火花と砂塵が、同時に噴き出した。
イマジンは呻きながら、片膝をつく。
「ぐ……貴様……!」
蓮はブレイラウザーを構え直した。
「終わらせる」
ライドブッカーを開き、ファイナルアタックライドのカードを指で挟む。
カードには、仮面ライダーブレイドの紋章が描かれていた。
《FINAL ATTACK RIDE》
蓮がカードをディケイドライバーへ入れようとした、その時だった。
「こっちです! 急いでください!」
カバー株式会社のビルの入口付近から、大きな声が聞こえた。
蓮は反射的に振り向く。
マネージャーたちが、タレントやスタッフを連れて避難していた。
非常口から外へ出し、安全な場所へ誘導するつもりなのだろう。
だが、その避難経路は、蓮とイマジンが戦っている場所に近すぎた。
「待て! そっちはまずい!」
蓮が叫んだ瞬間、イマジンが動いた。
片膝をついていたはずの体が一気に砂へ崩れ、地面を這うように避難者たちへ向かっていく。
「しまっ――!」
蓮も走り出す。
だが、イマジンの方が早かった。
砂の塊が避難者たちの前へ回り込み、一気に立ち上がる。
砂が人の形へ集まり、再び怪人の姿を作り上げた。
「きゃああっ!」
「全員、下がって!」
マネージャーがタレントたちを庇うように、前へ出る。
その人々の隙間から、一人の少女の姿が見えた。
紫咲シオン。
「シオン!」
蓮が叫ぶ。
シオンも、蓮の声に気づいて振り向いた。
しかし、その時にはすでに遅かった。
イマジンの腕が伸び、シオンの体を強引に掴み上げる。
「っ……!」
「動くな」
イマジンはシオンを片腕で拘束し、もう片方の腕から伸びた砂の刃を、その首元へ突きつけた。
周囲の空気が凍りつく。
シオンは顔を青ざめさせながら、仮面ライダーブレイドの姿をした蓮を見つめていた。
「仮面……ライダー……?」
蓮はブレイラウザーを構えたまま、動きを止めた。
踏み込めない。
今攻撃を仕掛ければ、シオンが傷つけられる。
「その人を離せ」
「近づくな」
イマジンの刃が、わずかにシオンの首へ近づく。
蓮は歯を食いしばった。
「……契約者は誰だ。その人をどうするつもりだ」
「契約を果たす。それだけだ」
「こんなものは、願いを叶えることじゃない。ただの誘拐だ」
「人間の願いなど、俺には関係ない」
イマジンの赤い目が、怪しく光った。
「俺は契約を果たし、契約者の過去へ飛ぶ」
蓮の中で、嫌な予感が明確な形となった。
過去へ飛ぶ。
それこそが、イマジンの本来の目的。
契約者の望みを叶え、その人物の記憶に強く残る過去へ飛ぶ。
そして、過去を破壊することで未来を変えてしまう。
「まずい……」
蓮が一歩動こうとした、その瞬間。
イマジンが砂の刃を振るった。
鋭い斬撃が、蓮へ向かって飛んでくる。
避けようと思えば避けられた。
だが、蓮の背後には、逃げ遅れたマネージャーやタレントたちがいる。
蓮はその場から動かなかった。
「ぐあっ!」
砂の斬撃が、ブレイドの胸部を直撃した。
激しい火花が散り、蓮の体が大きく吹き飛ばされる。
アスファルトの上を転がり、背中からビルの外壁へ叩きつけられた。
「蓮!」
シオンの悲痛な叫びが響いた。
蓮は地面へ手をつき、起き上がろうとする。
だが、受けたダメージは大きかった。
ブレイドの装甲が不安定に揺らぎ、細かな光となって消えていく。
変身が解除された。
アスファルトの上に倒れていたのは、仮面ライダーではない。
紫咲蓮だった。
「う……っ」
蓮は胸を押さえながら、なんとか顔を上げる。
イマジンに拘束されたままのシオンが、信じられないものを見るような表情で蓮を見つめていた。
「蓮……あんた……」
その声は、かすかに震えている。
「仮面ライダーだったの……?」
蓮は答えられなかった。
今ここで、自分が仮面ライダーになった経緯を説明している時間などない。
イマジンが、シオンの体を抱え直した。
「契約者の望みは、紫咲シオンに会うこと」
「待て……!」
蓮は再び立ち上がろうとする。
しかし、激痛に襲われ、体が思うように動かなかった。
イマジンはそんな蓮を見下ろし、低い声で告げる。
「邪魔をするなら、次は殺す」
その背中から、砂で作られた翼のようなものが大きく広がった。
「シオン!」
蓮が叫ぶ。
シオンは必死にイマジンの腕から逃れようともがいた。
「離して! 蓮! 蓮っ!」
イマジンは地面を蹴り、シオンを抱えたまま空へ飛び上がった。
風圧によって、ガラス片と砂塵が激しく舞い上がる。
イマジンとシオンの姿は瞬く間に高度を上げ、ビル群の向こう側へ消えていった。
「シオン……!」
蓮は歯を食いしばった。
全身が痛む。
胸が焼けるように熱い。
呼吸をするたび、鋭い痛みが走る。
だが、そんなことはどうでもよかった。
「……ふざけるな」
蓮は震える腕で地面を押し、無理やり立ち上がった。
周囲にいたマネージャーたちが、慌てて駆け寄ってくる。
「蓮さん! 無理です!」
「救急車を呼んで!」
「警察も、もうすぐ到着します!」
蓮は、支えようと伸ばされた手を振り切った。
「シオンを追います」
「でも、その怪我で!」
「僕が行かなければ、間に合わない!」
蓮は走り出した。
ビルの前へ停めていた、自分のバイクへ向かう。
全身が悲鳴を上げている。
一歩踏み出すたびに、胸や背中へ痛みが走った。
それでも、蓮は足を止めなかった。
シオンを守る。
そのためにこの力を持っているのなら、ここで倒れているわけにはいかない。
蓮はバイクへ跨がり、キーを回した。
エンジンが低く唸る。
ヘルメットを被っている時間すら惜しかった。
蓮は空を見上げる。
遠く離れたビル群の間を、砂の軌跡が高速で通り抜けていくのが見えた。
「あそこか……!」
蓮はアクセルを回した。
バイクが勢いよく走り出す。
冷たい風が顔を叩いた。
痛みで視界が僅かに滲む。
それでも、蓮の目はイマジンが飛び去った方角だけを捉えていた。
「待ってろ、シオン」
蓮は低く呟く。
「絶対に助ける」
東京の街を、紫咲蓮のバイクが駆け抜ける。
仮面ライダーとしてではなく。
一人の弟として。
奪われた姉を取り戻すために。