仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人― 作:十六夜 蓮
アベンジャーズ・タワーの一室。
そこは本来、トニー・スタークが来客を迎えるために用意した応接スペースだった。
しかし現在では、完全にカバー株式会社の臨時会議室と化している。
壁一面を覆う大型モニター。
立体映像を表示するホログラム投影装置。
スターク社製の高性能端末。
そして。
最先端技術に囲まれた室内で、明らかに異彩を放っている物が一つ。
日本からわざわざ持ち込まれた、普通のホワイトボードだった。
その前に。
トニー・スタークが、コーヒーカップを片手に立っていた。
目の下には、誰が見ても分かるほど濃い隈が浮かんでいる。
蓮はトニーの顔を見た瞬間、嫌な予感を覚えた。
「スタークさん」
「何だ?」
「ちゃんと寝てます?」
トニーは少しだけ考える。
そして、真顔で答えた。
「質問を変えよう」
「嫌な予感しかしない」
「人間に睡眠は本当に必要なのか?」
「必要です」
蓮は即答した。
トニーは返答を無視するようにコーヒーを飲み、正面のモニターを操作した。
複数の映像と資料が、壁一面へ表示される。
マンダリンを名乗るテロリストによる爆破事件。
破壊された建物。
炎上する軍事施設。
病院へ搬送される負傷者。
発生日時と被害状況が、一覧となって並んでいた。
「ローディから聞いた」
トニーは九件の事件を時系列順に表示する。
「政府が公表している事件は三件」
六つの項目が赤く点灯した。
「だが、実際にはすでに九件起きている」
室内の空気が、僅かに重くなる。
腕を組んでいたシオンが、画面を見つめた。
「公表されてない事件が、六件もあるってこと?」
「そういうことだ」
「何で隠してるの?」
「国民へ恐怖を与えたくない」
トニーは指を一本立てる。
「捜査に進展がないことを知られたくない」
もう一本。
「軍事施設の防衛能力に疑問を持たれたくない」
さらに一本。
「理由なら、いくらでもある」
こよりは一覧の中から、爆発現場の分析資料を拡大した。
「捜査に進展がないって」
被害現場の写真へ目を向ける。
「犯人が特定できていないということですか?」
「マンダリンが声明を出しているから、表面上の犯人は分かっている」
トニーはコーヒーカップを机へ置いた。
「問題は、どうやって爆発を起こしているかだ」
現場写真が切り替わる。
建物の壁は内側から吹き飛び、周囲は黒く焼け焦げている。
しかし。
爆心地と思われる場所に、爆弾の残骸らしき物は何も映っていなかった。
「爆発の原因が分からない」
トニーは低い声で続ける。
「爆弾の破片も」
「起爆装置も」
「容器も」
「何一つ見つかっていない」
こよりがすぐに反応した。
「爆発後に残骸が出ない……?」
写真へ顔を近づける。
「どれほど高性能な爆薬でも、爆薬を収めていた容器や配線、起爆装置の一部くらいは残るはずです」
「だから眠れない」
トニーは平然と言った。
蓮は片手で頭を押さえる。
「トニー」
「何だ?」
「睡眠時間は、ちゃんと取っている?」
「アインシュタインは、一年に三時間しか寝なかった」
蓮は呆れた顔でトニーを見た。
「それ、絶対に嘘だろ」
「偉人は大体寝ていない」
「偉人を何だと思ってるの?」
「睡眠時間を研究時間へ変換できる人種」
「雑すぎる理論やめて」
横で聞いていたスバルが、蓮を指さした。
「いや、蓮も人のこと言えないからな?」
「僕はちゃんと寝てるよ」
シオンが即座に蓮を睨む。
「昨日、夜中の三時まで資料を見てたでしょ」
蓮は静かに目を逸らした。
「……あれは調査」
「トニーと同類じゃん」
「違う」
「同じ」
トニーが満足そうに頷く。
「ほら、僕は悪くない」
「仲間を見つけたみたいな顔しないでください」
蓮は深くため息をついた。
それから、ふと思い出したようにトニーを見る。
「今日はクリスマスなんだし」
「そうだな」
「ちゃんとペッパーさんと食事して、プレゼントを渡して、寝るんだぞ」
トニーの表情が、一瞬だけ曇った。
「ペッパーなんだが」
「はい」
「仕事の付き合いで、別の相手と食事へ行っている」
蓮は少しだけ目を細めた。
「……それ」
嫌なものを見るような目になる。
「ちゃんと一緒に過ごす予定を立ててました?」
「僕はプレゼントを用意している」
「用意しただけ?」
「高価な物だ」
「渡してないなら意味ないじゃん」
スバルが勢いよく立ち上がった。
「はい、スタークさん!」
トニーが僅かに身構える。
「何だ?」
「今日は家に帰る!」
「ここが僕の家だが?」
「ペッパーさんのところへ行く!」
スバルはトニーの背中を押し始めた。
「プレゼントを渡す!」
さらに押す。
「それから、ちゃんと寝る!」
トニーは眉を上げた。
「僕がアイドルに生活指導されているんだが」
「高校生に言われるよりましでしょ!」
「比較対象がおかしい」
シオンも立ち上がり、トニーを出口へ向けて指さした。
「帰れ」
トニーは一瞬黙った。
「……日本のアイドルは圧が強いな」
蓮は満面の笑みを浮かべる。
「スタークさん」
「何だ?」
「家に帰って、プレゼントを渡して、寝ること」
「君まで何で命令口調なんだ」
「寝てない大人には、これくらいでちょうどいいです」
「君も寝ていないだろう」
「僕の話は今してません」
「ずるいな」
トニーは観念したように両手を上げた。
「分かった。分かったよ」
ジャーヴィスへ顔を向ける。
「ジャーヴィス、調査データを全端末へ共有しておいてくれ」
『承知しました』
トニーは扉の前で立ち止まり、室内を振り返った。
「ただし」
「何です?」
「僕がいない間に、面白い発見をするなよ」
こよりが小さく手を上げる。
「それは保証できません」
トニーは満足そうに頷いた。
「正直でよろしい」
そのまま会議室を出ていく。
自動ドアが閉まった。
数秒間。
室内に沈黙が流れた。
蓮は空いている椅子へ腰を下ろす。
両肘を机へ置き。
指を組み。
口元の前へ構えた。
いわゆる、ゲンドウポーズ。
「さて」
シオンが半眼で蓮を見る。
「何そのポーズ」
「集中するため」
「絶対、形から入ってるだけでしょ」
蓮は気にせず続けた。
「僕たちは暇だし、この事件を調べるか」
「暇ではないでしょ」
「休暇中の自主研究だよ」
「最悪の言い換え」
蓮は正面のモニターへ視線を向けた。
「ジャーヴィス」
『はい、蓮様』
「手伝って」
『もちろんです』
会議室中央のホログラム投影装置が起動した。
青白い光が集まり、立体的なアメリカ全土の地図が浮かび上がる。
蓮は姿勢を正したまま、真剣な声を出した。
「それじゃあ」
一度、室内を見回す。
「捜査会議を始めます」
隣に座っていたそらが、小声で呟いた。
「どうして、アメリカで日本警察みたいな捜査会議をしてるんだろう……」
AZKiが小さく笑う。
「蓮くん、形から入るタイプなのかも」
シオンは呆れたように言った。
「影響されすぎ」
蓮は咳払いをする。
「一先ず」
トニーから共有された資料をモニターへ表示した。
「政府が公表していない事件を、ジャーヴィスが調べてくれた」
九件の事件が並ぶ。
公表されている三件。
非公表の六件。
それぞれの発生場所。
日時。
被害規模。
現地で捜査を担当した機関。
そして。
爆心地で観測された推定温度。
こよりは一番近くの端末を操作し、現場分析を拡大した。
「確認します」
ジャーヴィスへ顔を上げる。
「爆発物は見つかっていないんですよね?」
『はい』
『FBI、CIA、国土安全保障省が捜査を続けていますが、爆発物の残骸は現在も確認されていません』
「起爆装置は?」
『未確認です』
「配線」
『ありません』
「金属片や容器の破片は?」
『爆弾へ使用されたと断定できる物は、発見されていません』
「火薬成分」
『通常の爆薬に該当する化学反応痕は検出されていません』
こよりの表情が、次第に険しくなっていく。
「それなら」
現場写真を何枚も切り替える。
「爆弾ではない可能性があります」
シオンが眉をひそめた。
「爆発が起きてるのに、爆弾じゃないってこと?」
蓮が静かに頷く。
「火元が別にあるのかもしれない」
「あるいは」
こよりが続ける。
「爆発物そのものが、爆発時に完全に消滅しているか」
ジャーヴィスが新たな資料を表示した。
『各事件において』
室内へ、淡々とした声が響く。
『爆心地付近にいた人間は、瞬時に蒸発したと推定されています』
会議室が静まり返った。
みこが、自分の腕を抱くようにして震えた。
「じょ、蒸発って……」
あやめも険しい表情でモニターを見る。
「人が跡形もなく消えるほどの熱ということか」
シオンは爆心地の分析データを見つめる。
「その時の温度は?」
『少々お待ちください』
僅かな間。
ジャーヴィスが複数の測定値を比較する。
『いずれの事件も』
『爆心地周辺では、三千度以上の熱が発生したと推定されています』
蓮は椅子の背もたれへ体を預けた。
「なるほど……」
スバルが顔をしかめる。
「三千度って」
こよりへ顔を向ける。
「普通にやばいよな?」
「普通という言葉では足りません」
こよりは即答した。
「鉄の融点が、およそ千五百三十八度」
「三千度なら、鉄どころか現場の多くの物質が溶融、蒸発、変質します」
「人間の体が耐えられる温度ではありません」
スバルはさらに顔を引きつらせた。
「聞かなきゃよかった……」
蓮は指を組んだまま、熱源データを見つめる。
その時。
そらが静かに手を上げた。
「ジャーヴィス」
『はい、そら様』
「過去十二か月の異常な熱源発生状況を出してくれる?」
『承知しました』
会議室中央に浮かんでいた地図が拡大する。
アメリカ全土へ、過去十二か月に検出された異常熱源が点として表示されていった。
赤。
橙。
黄。
観測された温度に応じ、それぞれ色分けされている。
蓮は少しだけ前のめりになった。
「マンダリンが犯行声明を出した場所を除外して」
『除外します』
公表済みの事件地点が、地図から消える。
しかし。
いくつかの異常熱源は、まだ残されていた。
ジャーヴィスが一つ目を読み上げる。
『カリフォルニア州、サンラファエル』
地点が拡大される。
『最高温度、一千三百十度』
フレアが画面を見ながら呟いた。
「低いね」
こよりはすぐに首を横へ振った。
「三千度と比較すれば低いですが」
「通常の火災としては、十分に異常な高温です」
二つ目。
『ミズーリ州、スプリングフィールド』
『最高温度、八百七十度』
ロボ子さんが腕を組む。
「こっちはもっと低い」
「でも」
こよりが地点情報を確認する。
「建物火災としては、やはり高い方です」
そして。
三つ目の地点が赤く点灯した。
『テネシー州、ローズヒル』
地図へ表示された数値を見て。
室内の空気が変わった。
『最高温度、三千度』
誰も言葉を発しない。
続いて。
別の地点も、真っ赤に点灯する。
『アメリカ中西部』
一瞬の間。
『ラクーンシティ』
表示された温度は。
『三千度』
蓮の目が細くなった。
「ラクーンシティ……」
その名前を聞いた瞬間。
過去に目を通したS.H.I.E.L.D.の機密資料が、脳裏へ蘇る。
一九九八年九月から十月。
アメリカ中西部の地方都市、ラクーンシティで発生した大規模バイオハザード。
製薬企業アンブレラが開発したT-ウィルスが、ネズミを媒介として市内全域へ拡散。
感染した人間や動物が異形の存在へ変貌し。
多くの市民が命を落とした。
事態を隠蔽し、感染拡大を防ぐため。
最終的にラクーンシティは、政府のミサイル攻撃によって地図上から消滅した。
現在も周辺一帯は厳重に封鎖されている。
そして。
現代における、多くのバイオテロ事件。
B.O.W.。
生物兵器。
それらの原点の一つとなったのが、ラクーンシティ事件だった。
蓮も以前。
S.H.I.E.L.D.の保管施設で、厳重に封印されたT-ウィルスのサンプルを見たことがある。
僅かな量でさえ。
管理を誤れば、一つの都市を死滅させる危険性を持つウィルス。
蓮は低い声で呟いた。
「あの街で、また何か起きていたのか……?」
シオンが蓮へ顔を向ける。
「蓮、ラクーンシティについて知ってるの?」
「少しだけ」
「少しだけって顔じゃないけど」
蓮は答えず、ジャーヴィスへ尋ねた。
「この二つは、マンダリンによる攻撃?」
『いいえ』
ローズヒルとラクーンシティの発生日が表示される。
『どちらも、マンダリンによるテロ活動が公に確認される以前の事件です』
「ただし」
こよりが熱分布を比較する。
「温度の上昇速度と爆発後の冷却パターンが似ている」
『その通りです』
ジャーヴィスは波形を重ねて表示した。
『両事件の熱源特性は、マンダリンによる爆破事件と極めて類似しています』
シオンは地図を睨む。
「じゃあ」
ローズヒルとラクーンシティを交互に見る。
「マンダリンが出てくる前から、同じ種類の爆発が起きてたってこと?」
『その可能性があります』
蓮は続けて尋ねる。
「それぞれの事件は、どう処理された?」
『テネシー州ローズヒルの事件は、自殺として処理されています』
「自殺?」
スバルが思わず大声を上げた。
「三千度で爆発する自殺って何!?」
こよりも眉を寄せる。
「明らかに不自然です」
「遺体すら残っていないはずなのに、何を根拠に自殺と判断したんでしょう」
『警察記録では、被害者本人が爆発を起こしたとされています』
「どうやって?」
『詳細は記載されていません』
「怪しすぎる……」
こよりは画面を睨んだ。
ジャーヴィスは、もう一つの資料を表示する。
『ラクーンシティの件は』
封鎖区域の衛星写真が映る。
『B.O.W.を廃棄する作業中、作業員のミスによって発生した爆発事故として記録されています』
その言葉によって。
室内の空気が、さらに重くなった。
B.O.W.
生物兵器。
みこだけが、少し遅れて首を傾げる。
「え?」
周囲を見回す。
「ラクーンシティって、何?」
その瞬間。
何人かが、本気で椅子から転げ落ちそうになった。
シオンが机の縁を掴む。
「みこち!?」
スバルも目を見開く。
「今の話を聞いてて分からなかった!?」
みこは慌てて両手を振った。
「だって、BOWって何!?」
英語の綴りを思い浮かべる。
「弓!?」
おかゆがソファへ寝転んだまま呟く。
「確かにbowは弓だけど」
一度欠伸をする。
「今のは、そっちじゃないねぇ」
蓮は額を押さえた。
「みこち」
「はい」
「B.O.W.は、Bio Organic Weapon」
「ばいお……?」
「生物兵器」
「生物兵器!?」
みこの顔が一気に青ざめた。
蓮は説明を続ける。
「ラクーンシティは、一九九八年に大規模なウィルス災害が起きた都市」
「感染者の多くが異形化して、街全体が壊滅した」
「最終的には政府によって処理され、現在も完全に封鎖されている」
みこはぽかんとした顔で聞いている。
「その封鎖都市の中で」
蓮は地図上のラクーンシティを指さす。
「生物兵器の廃棄中に爆発事故が起きた」
「その情報が表へ出れば、どうなると思う?」
みこは少しずつ考える。
「えっと……」
恐る恐る答える。
「政府が、ちゃんと管理してないって怒られる?」
「そう」
「しかも、ここ数年はバイオテロ事件が増えてる」
「そんな中で、すべての始まりに近い封鎖都市から新しい事故が起きたと知られたら」
蓮は真剣な表情で告げる。
「政府への批判だけでは済まない」
「模倣犯」
「ウィルスやB.O.W.を狙う組織」
「過去の事件を掘り返そうとする者」
「大量の問題が一気に動き始める」
みこはようやく事態の重大さを理解した。
「えっ」
ラクーンシティの地図を見る。
「じゃあ、めちゃくちゃやばいやつじゃん!」
「そうだよ」
「最初からそう言ってよ!」
「今、ずっと言ってたよ!」
シオンが大きなため息をつく。
「みこ先輩、たまに平和すぎる」
「みこは悪くないにぇ!」
蓮は再び地図へ目を向ける。
「政府が隠したくなる理由は分かる」
こよりも顎へ手を添えた。
「ローズヒルは自殺として処理」
「ラクーンシティはB.O.W.廃棄中の事故として処理」
二つの地点へ線を引く。
「どちらも、マンダリンのテロが始まる前に発生しています」
「そして」
爆発の温度変化を比較する。
「マンダリンの事件と、同じ三千度級の熱源を記録している」
そらが静かに呟いた。
「つまり」
二つの地点を見る。
「マンダリンの爆発は、突然始まったわけじゃない」
AZKiが頷く。
「その前段階があった」
フワワも、ホワイトボードへ目を向けた。
「星の本棚で使えるキーワードが増えたね」
モココが指を折りながら数える。
「サドラー」
「ガイアメモリ」
「ゾディアーツスイッチ」
「マンダリン」
「三千度」
「ローズヒル」
「ラクーンシティ」
「B.O.W.」
「かなり増えた」
「でも」
フワワは慎重な表情になる。
「まだ全部が繋がっているとは限らないよ」
蓮は指を組んだまま頷いた。
「そうだね」
「決め手はまだない」
モニターへ映る異常熱源データを見る。
「でも、調べる方向は見えてきた」
スバルが少し不安そうに尋ねる。
「方向って?」
蓮は熱源グラフを拡大した。
「これは爆弾じゃない」
「少なくとも」
爆発前に、熱源が人間ほどの大きさから急速に膨張しているデータを見る。
「普通の爆弾じゃない」
こよりが分析結果を引き継ぐ。
「人間そのものを高熱源化する技術」
「あるいは」
爆発中心部の形状を表示する。
「人体内部へ、異常な熱エネルギーを発生させる何らかの物質や処置」
ロボ子さんが腕を組む。
「それが、ガイアメモリやゾディアーツスイッチと関係してる可能性もある?」
「可能性はある」
蓮は答える。
「ただし、怪人化アイテムの輸送とマンダリンの爆破事件が直接繋がっている証拠はない」
こよりも頷いた。
「サドラーという名前が、両方に関係していると分かれば一気に繋がります」
「現時点では、別の事件が同時に進んでいる可能性も捨てられません」
蓮は椅子から立ち上がった。
「ジャーヴィス」
『はい』
「ローズヒル事件の資料を、可能な限り集めて」
「被害者の身元」
「家族や周辺人物」
「現場写真」
「警察の捜査記録」
「医療記録」
「事件前後の監視映像」
指を一本立てる。
「閲覧権限が必要な資料は、トニーに確認を取って」
『承知しました』
「それから」
ラクーンシティを指さす。
「あの件は、S.H.I.E.L.D.にも問い合わせる」
「フューリーなら、政府の公式記録以上の情報を持っているかもしれない」
シオンが、蓮へじっとりとした視線を向けた。
「蓮」
「なに?」
「今日」
一度、言葉を区切る。
「休みじゃなかった?」
蓮の動きが止まった。
室内にいる全員が、蓮を見る。
同じように調査へ前のめりになっていたこよりも、一緒に固まった。
シオンは続ける。
「トニーには、寝ろって言ったよね?」
「言った」
「仕事をするなとも言った」
「言った」
「自分は?」
蓮は一瞬だけ考える。
「……捜査会議を」
「休み」
「これは仕事というより、自主的な――」
「休み」
「……はい」
蓮は大人しく椅子へ座った。
こよりも、何も言われていないのに隣へ座る。
スバルが楽しそうに笑った。
「完全にブーメランだったな」
「僕は、トニーほど寝てないわけじゃない」
シオンが眉を上げる。
「夜中三時まで起きてた人が?」
蓮は小さくため息をついた。
「じゃあ」
ジャーヴィスへ顔を向ける。
「資料収集だけ任せる」
『承知しました』
「僕たちは、それを見るだけ」
シオンが蓮を睨む。
「見るだけ?」
「……明日、見る」
「よろしい」
こよりが小さく手を上げる。
「集まったデータを、今のうちに自動解析だけ――」
シオンがこよりを見る。
「こより?」
「明日確認します!」
「よろしい」
ジャーヴィスの声が、静かに会議室へ響いた。
『それでは』
『必要な資料収集と一次分析を、バックグラウンドで実行します』
『皆様は、十分な休息をお取りください』
蓮は椅子の背もたれへ深く体を預けた。
「人工知能にまで休めって言われた……」
そらが優しく微笑んだ。
「それだけ、みんなに心配されてるんだよ」
テレビでは。
マンダリンによる新たな犯行声明が、繰り返し放送されていた。
ホログラム地図には。
三千度の異常熱源を示す二つの地点が、赤く光り続けている。
テネシー州、ローズヒル。
そして。
ラクーンシティ。
さらに。
その裏側へ見え隠れする、サドラーという謎の名。
蓮は静かに目を閉じた。
休まなければならない。
それは、自分でも分かっている。
けれど。
一つの確信もあった。
この事件は。
ただのテロでは終わらない。
ニューヨーク決戦の後に生まれた、新たな火種。
それはすでに。
アベンジャーズ・タワーのすぐ近くまで。
静かに迫り始めていた。