仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人―   作:十六夜 蓮

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第6話 特異点とデンライナー

 

 

デンライナーの扉が閉まった。

 

汽笛が鳴り響き、巨大な列車がゆっくりと走り始める。

 

窓の外に広がる砂漠が、流れるように後方へ消えていった。

 

線路など、どこにも存在しない。

 

それでも、デンライナーは確かに走っている。

 

広大な砂漠の上ではない。

 

過去と未来を繋ぐ、時間の中を。

 

シオンは客室の入口付近に立ったまま、いまだに状況を飲み込めずにいた。

 

つい先ほどまで、怪人に攫われていた。

 

その怪人が男の体内へ入り込んだかと思えば、傷だらけの蓮が助けに現れた。

 

そして今、自分は謎の列車に乗り、過去へ向かっている。

 

普通ならば、すべて夢だったのではないかと疑うだろう。

 

しかし、足元から伝わる列車の振動も、窓の外を流れていく砂漠も、隣にいる蓮の手の温度も、すべてが紛れもない現実だった。

 

「おい」

 

赤いイマジン――モモタロスが、シオンを指さした。

 

「その女、チケットを持ってねぇだろ」

 

シオンはびくりと肩を震わせる。

 

「チケット……?」

 

蓮は平然と答えた。

 

「あってないようなものだろ」

 

「お前なぁ……。そういうところが適当なんだよ!」

 

「緊急事態なんだから、仕方ないだろ」

 

「仕方ないで済むか! こっちは時間の中を運行してんだぞ!」

 

「それは分かってるよ」

 

二人のやり取りを見ていたシオンは、ますます混乱した。

 

赤い怪人と、まるで昔からの友人のように会話する弟。

 

しかも、モモタロスは蓮のことをよく知っているようだった。

 

シオンは我慢できず、声を上げた。

 

「待って」

 

蓮とモモタロスが、同時に振り返る。

 

シオンは蓮を真っすぐ見つめた。

 

「蓮って……仮面ライダーだったの?」

 

蓮は僅かに目を逸らした。

 

「……うん」

 

「うん、じゃないでしょ!」

 

シオンの声が、客室内に響き渡った。

 

「なんで今まで黙ってたの!? あんた、普通にマネージャーしてたじゃん! シオンの配信を見守って、スケジュールを管理して、寝坊したらバイクで送ってくれて……それで、裏では仮面ライダーだったってこと!?」

 

「そうなるね」

 

「軽い!」

 

シオンは思わず両手で頭を抱えた。

 

その横から、モモタロスが口を挟む。

 

「ああ。こいつは四年前に、門矢士って男から仮面ライダーディケイドの力を受け継いだんだよ」

 

「かどや……つかさ?」

 

「世界の破壊者とか呼ばれてる、面倒くせぇ男だ」

 

蓮は苦笑を浮かべた。

 

「あの人に聞かれたら、怒られるぞ」

 

「事実だろうが」

 

モモタロスは腕を組んだ。

 

「それで、あの野郎はデンライナーを、この……何て言うんだっけか」

 

「マルチバース」

 

蓮が補足する。

 

「ああ、それだ。マルチバースってやつにまで繋げやがった」

 

シオンは眉をひそめた。

 

「マルチバース……?」

 

蓮はシオンへ向き直った。

 

「簡単に言えば、世界は一つじゃないってことだよ」

 

「世界が一つじゃない……?」

 

「僕たちが暮らしているこの世界では、仮面ライダーは特撮番組だった。テレビの中にしか存在しない物語だった」

 

「うん……」

 

「でも、本当に仮面ライダーが存在している世界もある。怪人がいる世界も、時間を越える列車が走っている世界もあるんだ」

 

シオンは小さく息を呑んだ。

 

蓮は説明を続ける。

 

「門矢士は、仮面ライダーが物語として知られているこの世界へ、ディケイドの力を持ち込んだ。たぶん、いつか世界同士が混ざり始めることを予想していたんだと思う」

 

「それで、蓮がディケイドに……?」

 

「うん」

 

シオンは、蓮の顔をじっと見つめた。

 

そこにいるのは、いつもの弟だった。

 

時々呆れたような顔で自分を見る。

 

寝坊した時には文句を言いながらも、バイクで事務所まで送ってくれる。

 

配信の裏側で、自分が余計なことを口走らないか見守ってくれる。

 

そんな弟が、四年もの間、誰にも知られずに世界を守るため戦っていた。

 

「……なんで、シオンに言ってくれなかったの」

 

その声に先ほどまでの勢いはなかった。

 

怒っているというより、どこか寂しそうだった。

 

蓮は言葉に詰まる。

 

モモタロスは気まずそうに鼻を鳴らした。

 

「まあ、そりゃそうだろ。普通、姉ちゃんに『僕、仮面ライダーになりました』なんて言わねぇよ」

 

「それをどう受け止めるかは、シオンが決めることでしょ!」

 

「お、おう……」

 

モモタロスが、気圧されたように一歩下がった。

 

蓮はしばらく黙った後、静かに口を開く。

 

「危険に巻き込みたくなかったんだ」

 

シオンは何も言わなかった。

 

「シオンには、普通に配信をして、普通にホロライブで活動していてほしかった。怪人とか、仮面ライダーとか、そういう危険なものとは関係のない場所で笑っていてほしかったんだ」

 

「……でも、もう巻き込まれてるじゃん」

 

「うん」

 

蓮は申し訳なさそうに頷いた。

 

「だから、これからはちゃんと話すよ」

 

それから、蓮はモモタロスを指さした。

 

「それと、この赤い馬鹿みたいな奴もイマジンだ」

 

「馬鹿とは何だ! 俺はモモタロスだ!」

 

モモタロスが即座に怒鳴り返す。

 

シオンは目を丸くした。

 

「え、あんたもイマジンなの?」

 

「そうだ! だが、契約者を利用するだけのあんな奴らと一緒にするんじゃねぇぞ!」

 

「見た目は、どう見ても怪人だけど」

 

「だから、ただの怪人じゃねぇって言ってんだろ!」

 

蓮は小さく肩をすくめた。

 

「このデンライナーには、こんなおかしなのが、あと四人いるからね」

 

「あと四人!?」

 

シオンの声が裏返る。

 

「この赤いのだけでも情報量が多いのに!?」

 

「誰が赤いのだ!」

 

「赤いじゃん!」

 

「俺はモモタロスだ!」

 

二人が言い争い始めたところで、客室の奥から穏やかな声が聞こえてきた。

 

「先輩。あまり騒がないでください。お客様が驚いていますよ」

 

シオンが声のした方角へ目を向ける。

 

そこには、青いイマジンが優雅な身のこなしで立っていた。

 

「初めまして、お嬢さん。僕はウラタロス。どうぞよろしく」

 

さらに奥の座席では、大柄な黄色いイマジンが眠そうに欠伸をしている。

 

「俺はキンタロスや……。泣けるで」

 

その隣では、小柄な紫色のイマジンが足をぶらぶらと揺らしていた。

 

「ねえねえ、この子がシオン? 僕と踊る? 答えは聞いてない!」

 

そして、少し離れた席には、白い鳥を思わせる優雅な姿のイマジンが座っていた。

 

紅茶の入ったカップを傾けながら、呆れたように口を開く。

 

「騒がしいにも程がある。姫の前だというのに」

 

シオンは無言で蓮の袖を掴んだ。

 

「……蓮」

 

「何?」

 

「この電車、濃すぎる」

 

「慣れるしかないよ」

 

「無理」

 

即答だった。

 

蓮は思わず小さく笑った。

 

その笑顔を見て、シオンは僅かに肩の力を抜いた。

 

どれほど意味の分からない状況でも、蓮が隣にいる。

 

それだけで、辛うじて踏ん張ることができた。

 

蓮は客室の窓へ視線を向けた。

 

「過去に到着したら、僕はすぐにイマジンを追う」

 

「え、もう?」

 

「着いたら、すぐに動かないと。あいつが初配信の日を壊す前に止める」

 

シオンは不安そうに窓の外を眺めた。

 

「デンライナーって、本当に時間を越えられるの?」

 

モモタロスが腕を組んだまま答える。

 

「ああ。人間が覚えている限りの過去ならな」

 

「覚えている限り……?」

 

「時間ってのは、誰かの記憶と繋がってんだ。完全に忘れられちまった時間には、そう簡単には行けねぇ。だが、誰かの心に強く残っている過去なら話は別だ」

 

モモタロスはシオンを見る。

 

「お前にとって、初配信の日は忘れられねぇ日なんだろ?」

 

シオンはゆっくりと頷いた。

 

「うん……。緊張してたし、怖かった。でも、すごく大事な日」

 

「なら、行ける」

 

蓮が続ける。

 

「それに、僕は特異点だから」

 

「特異点?」

 

「時間が改変されても、その影響を受けにくい存在なんだ。だから、電王の力を使う資格がある。デンライナーを任されているのも、そのためだと思う」

 

シオンは、信じられないものを見るように蓮を見つめた。

 

「そんな大事なことを、ずっと隠してたわけ?」

 

「……ごめん」

 

蓮は素直に頭を下げた。

 

シオンは不満そうに頬を膨らませる。

 

「あとで説教だからね」

 

「うん」

 

「今日は長いから」

 

「うん……」

 

モモタロスが楽しそうに笑い声を上げた。

 

「ははっ! よかったな、蓮! イマジンより姉ちゃんの説教の方が怖そうだぜ!」

 

「笑い事じゃないんだけど」

 

「シオン、本気で怒るからね」

 

「すみませんでした」

 

蓮は即座にもう一度頭を下げた。

 

その時、デンライナーの車内にアナウンスが流れた。

 

『まもなく、2018年8月17日に到着いたします』

 

窓の外に広がっていた砂漠が、ゆっくりと歪み始める。

 

赤茶けた大地が遠ざかり、デンライナーは眩い光が渦巻くトンネルのような空間へ突入した。

 

シオンは窓へ近づいた。

 

「これが……時間を越えるってこと……?」

 

車内が大きく揺れた。

 

シオンはよろめき、咄嗟に蓮の腕へしがみつく。

 

次の瞬間、窓の外の景色が一変した。

 

そこに現れたのは、どこか見覚えのある街並みだった。

 

現在よりも僅かに古い東京。

 

走っている車も、街を歩く人々の服装も、今とは少しだけ違っている。

 

デンライナーは時間の裂け目を抜けるようにして、一つの建物の上空へ近づいていく。

 

カバー株式会社のビル。

 

ただし、その姿は現在のものとは異なっていた。

 

まだ会社もホロライブも、現在ほど大きく成長する前。

 

2018年の時間に存在するカバー株式会社だった。

 

デンライナーは、その屋上へ静かに停車した。

 

扉が開く。

 

蓮はライドブッカーを腰へ装着し、手にしたチケットを確認した。

 

「ここだ」

 

シオンは扉の前で立ち止まり、目の前に広がる景色を見つめた。

 

「ここが……シオンの初配信の日……」

 

蓮はシオンへ振り返る。

 

「シオンは車内にいて。ここから先は――」

 

「嫌」

 

シオンは即座に拒否した。

 

「さっきも言ったでしょ。これはシオンの時間なんだから、シオンも行く」

 

「危険だよ」

 

「危険だからこそ、蓮だけに任せたくない」

 

蓮はしばらく黙ったまま、シオンを見つめた。

 

その瞳に宿る強い意志が変わらないことを悟り、小さく息を吐く。

 

「……分かった。ただし、絶対に僕の後ろから離れないこと」

 

「分かってる」

 

モモタロスは、剣を肩へ担ぐような仕草をした。

 

「よし、行くぞ! イマジン退治だ!」

 

蓮は頷き、デンライナーから屋上へ降り立った。

 

2018年の風が吹き抜ける。

 

まだ誰も知らない未来。

 

まだ破壊されていない過去。

 

その空の下で、蓮は静かに呟いた。

 

「ここで止める」

 

シオンが初めて配信を行った日を守るため。

 

そして、紫咲シオンという存在の始まりを守るために。

 

蓮はシオンとモモタロスを連れ、過去のカバー株式会社へと足を踏み出した。

 

 

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