仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人―   作:十六夜 蓮

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第7話 姉、電王になる

 

 

2018年8月17日。

 

その日の東京は、現在と何も変わらないように見えて、どこか空気が違っていた。

 

街を行き交う人々は、これから何が起こるのかを知らない。

 

ホロライブという存在が、これからどれほど大きくなっていくのかも知らない。

 

そして、この日が紫咲シオンにとって、どれほど大切な始まりの日になるのかも。

 

カバー株式会社のビルから少し離れた路地裏。

 

一人の男子高校生が、覚束ない足取りで歩いていた。

 

現在のように、歪んだ執着を隠しきれなくなった男ではない。

 

制服を身に着けた、どこにでもいるような少年。

 

しかし、その体からは絶えず砂が零れ落ちていた。

 

「う……あ……?」

 

少年は自分の体に起きている異変へ気づかないまま、路地の中央で膝をついた。

 

次の瞬間、その背中が内側から引き裂かれるように歪んだ。

 

「ぐあああああっ!」

 

少年の体から、大量の砂が噴き出す。

 

宙を舞った砂は渦を巻きながら集まり、次第に人の形を作っていった。

 

そして、完全な姿となった異形の怪人が地面へ降り立つ。

 

イマジン。

 

未来の契約者が持つ記憶を通じて、この時代へ飛んできた怪人だった。

 

イマジンは気を失って倒れた少年を一瞥すると、すぐにカバー株式会社のビルへ視線を向けた。

 

「ここが、紫咲シオンの始まりか」

 

赤い目が怪しく光る。

 

「ならば、壊す」

 

イマジンはゆっくりと片腕を振り上げた。

 

その腕から砂が溢れ出し、巨大な刃を形作っていく。

 

斬撃が放たれれば、ビルの一部が破壊される。

 

初配信の準備を進めている関係者も、その日を迎えるはずだった紫咲シオンの未来も、すべてが狂い始めるだろう。

 

イマジンが腕を振り下ろそうとした。

 

その瞬間。

 

ポォォォォォ――。

 

東京の空に、列車の汽笛が響き渡った。

 

「何……?」

 

イマジンの動きが止まる。

 

上空の空間が、引き裂かれるように大きく歪んだ。

 

その亀裂を押し広げ、時をかける列車――デンライナーが姿を現す。

 

まるで、時間そのものを切り開きながら走ってきたかのようだった。

 

デンライナーの扉が開く。

 

そこから飛び出した一つの影が、カバー株式会社のビルとイマジンの間へ着地した。

 

紫咲蓮。

 

蓮はイマジンを見据えながら、ディケイドライバーを腰へ当てた。

 

「悪いけど」

 

ベルトが蓮の腰へ装着される。

 

「ここは、大切な家族の初舞台なんだ」

 

ライドブッカーを開き、一枚のカードを引き抜いた。

 

イマジンが憎々しげに唸る。

 

「また貴様か……!」

 

蓮はカードを正面へ構えた。

 

「変身」

 

カードをディケイドライバーへ挿入する。

 

《KAMEN RIDE》

 

蓮はドライバーの両端を押し込んだ。

 

《DECADE》

 

幾重ものカード状の影が蓮の体を通過する。

 

黒とマゼンタの装甲が形成され、頭部へ複数のライドプレートが突き刺さった。

 

仮面ライダーディケイド。

 

2018年の東京に、世界の破壊者が降り立った。

 

イマジンは苛立ちを隠そうともせず、声を荒らげる。

 

「しつこいぞ、ディケイド!」

 

ディケイドはライドブッカーを手に取り、ソードモードへ変形させた。

 

「誰かを傷つけようとするなら――」

 

鋭い刃をイマジンへ向ける。

 

「僕は、どこまでも追いかける」

 

ディケイドが地面を蹴った。

 

一気に間合いを詰め、ライドブッカーを振り下ろす。

 

甲高い金属音が響いた。

 

イマジンが砂の刃を構え、斬撃を受け止めている。

 

「邪魔をするな!」

 

「それはこっちの台詞だ!」

 

ディケイドは力任せに砂の刃を弾き、続けて横薙ぎの一撃を放った。

 

ライドブッカーがイマジンの胸部を切り裂き、激しい火花が散る。

 

しかし、イマジンは自らの体を砂へ崩して衝撃を逃がした。

 

ディケイドの横をすり抜けた砂が背後で集まり、再び怪人の姿を作り上げる。

 

「はっ!」

 

ディケイドは振り返りざまに回し蹴りを叩き込んだ。

 

蹴りを受けたイマジンが吹き飛び、道路の上を激しく転がっていく。

 

デンライナーの入口では、シオンがその戦いを見つめていた。

 

自分の知らない過去。

 

自分の知らない場所。

 

けれど、ここは間違いなく、自分にとって大切な始まりの日だった。

 

そして蓮は、その始まりを守るために戦っている。

 

「蓮……頑張れ!」

 

シオンは思わず声を上げた。

 

その隣では、モモタロスが落ち着きなく体を揺らしていた。

 

「あああっ! 俺も戦いてぇ!」

 

「今は蓮が戦ってるでしょ」

 

「分かってるけどよぉ! 目の前でイマジンが暴れてるのに、見てるだけなんて性に合わねぇんだよ!」

 

モモタロスは苛立たしげに頭を掻きむしる。

 

そして、ふと隣に立つシオンを見た。

 

「……お前、あいつの妹だよな?」

 

シオンの眉がぴくりと動いた。

 

「姉」

 

「あ?」

 

「シオンが姉! 蓮が弟!」

 

モモタロスは一瞬だけ固まった。

 

それからシオンと、戦っている蓮を交互に見る。

 

「……その身長で?」

 

「今、何か言った?」

 

シオンの声が一段低くなった。

 

モモタロスは咄嗟に顔を逸らし、わざとらしく咳払いをする。

 

「いや。何でもねぇ」

 

「絶対何か言ったでしょ」

 

モモタロスは追及を無視し、シオンの全身を観察するように見つめた。

 

「蓮の姉なら、お前も特異点の可能性があるな」

 

「は? 何それ」

 

「時間が変わっても影響を受けにくい奴のことだ。血の繋がった姉なら、多少は同じ素質を持っていてもおかしくねぇ」

 

「いや、説明が雑すぎるんだけど」

 

「細けぇことはいいんだよ!」

 

モモタロスは突然、シオンへ向かって手を伸ばした。

 

「ちょっと、何するの!?」

 

「少し体を借りるぜ!」

 

「はぁ!?」

 

シオンが逃げるより早く、モモタロスの体が赤い光へ変わった。

 

光となったモモタロスが、シオンの体へ吸い込まれていく。

 

「っ……!」

 

シオンの体が大きく跳ねた。

 

髪が僅かに逆立ち、その瞳へ赤い光が宿る。

 

次の瞬間、シオンの口から、本人とは似ても似つかない荒々しい声が響いた。

 

「よっしゃあ! 体は小せぇが、なかなか動けそうじゃねぇか!」

 

直後、シオン本人の声が内側から怒鳴る。

 

「体が小さいって言うな!」

 

モモタロスに憑依されたシオンは、首を回しながら肩を鳴らした。

 

「おお。軽いし、よく動くじゃねぇか」

 

「だから余計なこと言うな!」

 

戦いの最中、その様子に気づいたディケイドが動きを止めかける。

 

イマジンの砂の刃をライドブッカーで受け止めながら、驚きの声を上げた。

 

「あいつ、何してるんだ……!?」

 

イマジンが力を込め、ディケイドを押し込む。

 

「余所見をするな!」

 

「モモタロス!」

 

ディケイドは砂の刃を押し返しながら叫んだ。

 

「シオンに何をしてる!」

 

モモタロス憑依シオンは、ディケイドへ親指を立てた。

 

「俺の格好いい変身を見てやがれ!」

 

「そんなの聞いてない!」

 

「答えは聞いてねぇ!」

 

「それはリュウタロスだろ!」

 

モモタロスは蓮の指摘を気にすることなく、どこからともなく現れた電王ベルトをシオンの腰へ巻いた。

 

シオン本人の意識が慌てる。

 

「ちょっと待って! これ何!? シオンの体で勝手に変身しようとしてない!?」

 

「大丈夫だ! 俺に任せろ!」

 

「一番信用できない!」

 

モモタロスは電王ベルトの赤いボタンを押した。

 

「変身!」

 

《SWORD FORM》

 

ライダーパスを手に取り、ベルトの前へかざす。

 

シオンの体が眩い光に包まれた。

 

赤いレールのようなエネルギーが全身を駆け巡り、黒いプラットフォームの上へ装甲が形成されていく。

 

最後に、桃のような形をした赤い複眼が頭部へ装着された。

 

仮面ライダー電王、ソードフォーム。

 

憑依しているのはモモタロス。

 

しかし、その肉体は紫咲シオンのものだった。

 

電王は勢いよく一歩踏み出し、右手を高く上げる。

 

「俺、参上!」

 

決めポーズが、2018年の東京で盛大に炸裂した。

 

イマジンの刃を受け止めていたディケイドは、呆れたように呟く。

 

「本当にやった……」

 

イマジンは電王を見つめ、怒りと困惑が入り混じった声を漏らした。

 

「ふざけるな……。それは、さっきも見たぞ」

 

電王は首を傾げた。

 

「ああ? 俺の格好いい登場を、もう見たってのか?」

 

「ディケイドが同じことをしていた」

 

「蓮! お前、分かってんじゃねぇか!」

 

モモタロスは嬉しそうにディケイドを指さした。

 

「使ったというか、カードに使わされたというか……」

 

ディケイドはイマジンの刃を弾き返す。

 

「そのせいで、盛大に滑ったんだけど!」

 

「俺の決め台詞で滑るわけねぇだろ!」

 

「実際に滑ったんだよ!」

 

ディケイドはライドブッカーを構え直し、電王へ鋭い視線を向けた。

 

「それより、シオンの体に傷をつけるなよ!」

 

電王は肩を回しながら答える。

 

「分かってるって! かすり傷一つつけさせねぇよ!」

 

内側から、シオンの声が響いた。

 

「本当にだからね!? シオンの体なんだからね!?」

 

「うるせぇ! 戦いに集中しろ!」

 

「シオンは戦いたくてこうなったわけじゃないんだけど!」

 

ディケイドは頭を抱えたくなった。

 

だが、今は文句を言っている場合ではない。

 

イマジンは二人の仮面ライダーを見比べ、砂の刃を構えた。

 

「ディケイドに電王……。邪魔者が増えたところで、過去は必ず破壊する!」

 

「やれるもんなら、やってみろ!」

 

電王が真っ先に飛び出した。

 

デンガッシャー・ソードモードを構え、一直線にイマジンへ突っ込んでいく。

 

「行くぜ、行くぜ、行くぜぇ!」

 

イマジンが砂の刃を振るった。

 

電王はデンガッシャーで攻撃を受け止め、そのまま力任せに押し込む。

 

「軽いぜ!」

 

「どこがだ!」

 

イマジンが怒鳴る。

 

その横からディケイドが回り込み、ライドブッカーを振るった。

 

刃がイマジンの脇腹を切り裂く。

 

二方向から同時に攻められ、イマジンの体が大きく揺らいだ。

 

「ぐっ……!」

 

「蓮!」

 

電王が叫ぶ。

 

「合わせろ!」

 

「シオンの体で無茶をするなって言ったばかりだろ!」

 

「今は俺だ!」

 

「だから不安なんだよ!」

 

それでも、蓮はモモタロスの動きに合わせた。

 

ディケイドが右側から斬り込み、電王が左側からデンガッシャーを振るう。

 

二つの刃が、立て続けにイマジンの体を切り裂いた。

 

イマジンは砂となって攻撃を避けようとする。

 

だが、電王が崩れかけた体へデンガッシャーを叩きつけ、その動きを押さえ込んだ。

 

「逃がすかよ!」

 

ディケイドはイマジンの懐へ踏み込んだ。

 

「ここは壊させない」

 

ライドブッカーの刃が、イマジンの胸部を深く切り裂いた。

 

「ぐあああっ!」

 

イマジンが大きく後退する。

 

体の至るところから砂と火花が噴き出していた。

 

しかし、その赤い目から戦意は消えていない。

 

イマジンはカバー株式会社のビルへ視線を向けた。

 

今日、紫咲シオンの初配信が行われる場所。

 

その未来が始まる場所。

 

イマジンは片腕を大きく掲げた。

 

「ならば……貴様らごと、すべて吹き飛ばす!」

 

周囲に散らばっていた砂が、一斉に宙へ舞い上がった。

 

砂塵が激しい渦を巻き、空を覆うほど巨大な斬撃の形を作り始める。

 

ディケイドはライドブッカーを構え直した。

 

「モモタロス!」

 

「おう!」

 

電王もデンガッシャーを強く握りしめる。

 

シオンの声が、内側から不安そうに響いた。

 

「ねえ……これ、本当に大丈夫なの!?」

 

モモタロスは巨大な砂の刃を見上げながら、不敵に笑った。

 

「心配すんな」

 

「でも……!」

 

「今日は、お前の初舞台なんだろ?」

 

「……え?」

 

「だったら、派手に守ってやるよ」

 

乱暴な口調。

 

根拠のない自信。

 

それでも、モモタロスの声は不思議なほど頼もしく聞こえた。

 

ディケイドはライドブッカーを開き、一枚のカードを引き抜く。

 

電王はデンガッシャーを構え、ディケイドの隣へ並んだ。

 

二人の仮面ライダーが、過去のカバー株式会社を背に立つ。

 

紫咲シオンの始まりを守るために。

 

そして、イマジンとの契約を、この場所で終わらせるために。

 

 

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