仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人― 作:十六夜 蓮
「さっさと終わらせてよ!」
仮面ライダー電王の内側から、シオンの声が響いた。
現在、体の主導権を握っているのはモモタロスだ。
だが、その肉体は間違いなくシオンのものだった。
だからこそ、シオンは怖かった。
目の前にいるイマジン。
過去のカバー株式会社。
そして、自分の初配信の日が壊されるかもしれないという現実。
それでも、弱音を吐いている暇はなかった。
モモタロスはデンガッシャー・ソードモードを肩へ担ぎ、面倒そうに答える。
「はいはい。分かってるって」
「その言い方、むかつく!」
「うるせぇな! 文句なら全部終わってから聞いてやるよ!」
電王はライダーパスを取り出した。
二人の前では、イマジンが周囲の砂を集め、巨大な斬撃を作り上げている。
狙っているのは、ディケイドと電王だけではない。
二人の背後に建つ、カバー株式会社のビルそのものだった。
ディケイド――紫咲蓮は、一歩も退くことなくイマジンの前へ立っていた。
「ここは壊させない」
蓮はライドブッカーを開き、一枚のカードを引き抜く。
白いカードの表面には、ディケイドの紋章が描かれていた。
「モモタロス、合わせろ」
「ああ? 誰に言ってやがる!」
電王はライダーパスを、もう一度ベルトへかざした。
《FULL CHARGE》
電子音が響き、デンガッシャーへ赤いエネルギーが集まっていく。
それを見たイマジンが吠えた。
「させるか!」
イマジンが腕を振り下ろす。
巨大な砂の斬撃が放たれた。
空気を引き裂きながら迫る刃を前にしても、蓮は動じない。
手にしていたカードを、ディケイドライバーへ挿入した。
《FINAL ATTACK RIDE》
ドライバーの両端を押し込む。
《D-D-D-DECADE》
ディケイドの前方に、五枚の巨大なカードが一直線に出現した。
それはまるで、敵へ続く一本の道。
世界の破壊者が必殺の一撃を放つための、光の軌道だった。
電王はデンガッシャーを構える。
「俺の必殺技――」
刀身の先端が本体から分離し、赤いエネルギーによって繋がれた巨大な刃となる。
「パート2!」
電王がデンガッシャーを大きく振るった。
分離した剣先が空中を走り、迫り来る砂の斬撃へ激突する。
轟音とともに、赤い刃が巨大な砂の斬撃を切り裂いた。
「何っ!?」
崩壊した砂の向こうから、デンガッシャーの剣先が飛来する。
そのままイマジンの胸部を一閃した。
「ぐっ……!」
激しい火花が散り、イマジンの体勢が大きく崩れる。
「今だ、蓮!」
「分かってる!」
ディケイドが地面を蹴った。
目の前に並ぶ五枚のカードへ、真っすぐ飛び込んでいく。
一枚目。
二枚目。
三枚目。
カードを潜り抜けるたび、ディケイドの速度とライドブッカーに宿るエネルギーが増していく。
四枚目。
そして、五枚目。
最後のカードを抜けた瞬間、ディケイドはイマジンの懐へ到達していた。
ライドブッカーの刃が、眩い光を纏う。
「はあああっ!」
蓮は勢いのまま、ライドブッカーを振り下ろした。
一撃目。
光の刃が、イマジンの胸部を斜めに切り裂く。
「ぐああっ!」
イマジンの体から、砂と火花が激しく噴き出した。
蓮はその場で体を反転させる。
「これで終わりだ!」
二撃目。
横薙ぎに放たれた光の斬撃が、イマジンの体を完全に切り裂いた。
「ぐあああああっ!」
イマジンの全身が崩れ始める。
体を構成していた砂が宙へ舞い、内側から赤い火花が次々と噴き出していく。
「馬鹿な……俺の契約が……!」
イマジンは、最後の力を振り絞るようにカバー株式会社のビルへ手を伸ばした。
「まだ……過去を……!」
しかし、その手が届くことはなかった。
次の瞬間、イマジンの体が爆発した。
轟音が2018年の東京に響き渡る。
爆炎と大量の砂塵が周囲へ広がった。
ディケイドはライドブッカーを一振りし、迫る煙を切り払う。
隣では、電王がデンガッシャーを肩へ担ぎ、満足そうに胸を張っていた。
「決まったな!」
「ああ」
蓮は短く答え、背後へ振り返った。
カバー株式会社のビルは、無事だった。
窓ガラス一枚すら割れていない。
紫咲シオンが初配信を迎える大切な一日は、守られたのだ。
電王の体から、赤い光が抜け出す。
光は空中で人の形となり、モモタロスが元の姿へ戻った。
「ふぅ。やっぱり俺の必殺技は格好よく決まるぜ!」
直後、電王の装甲も光となって消えていった。
変身を解除されたシオンは、力が抜けたようにその場でよろめく。
「わっ……!」
倒れそうになったシオンの体を、変身を解除した蓮が慌てて支えた。
「大丈夫!?」
「だ、大丈夫……」
シオンは蓮から離れると、自分の腕や足を慌てて確認する。
「本当に元へ戻ってる……」
「傷は?」
蓮が心配そうに尋ねる。
シオンは体を一通り確認した後、不満そうに頬を膨らませた。
「傷はない。でも……」
「でも?」
シオンは顔を真っ赤にし、両手で覆った。
「あああ……。恥ずかしいポーズした……!」
蓮は堪えきれず、小さく笑った。
「本物の『俺、参上!』は初めて見たよ」
「笑うな!」
「いや、結構似合ってたと思う」
「余計に笑ってるじゃん!」
シオンは真っ赤になったまま怒鳴った。
モモタロスは納得できない様子で声を上げる。
「何が恥ずかしいんだよ! 『俺、参上!』は最高に格好いい決めポーズだろうが!」
「シオンの体で勝手にやらないで!」
「似合ってたぜ?」
「全然嬉しくない!」
シオンとモモタロスの言い争いを眺めながら、蓮は小さく息を吐いた。
全身から緊張が抜けていく。
本当に、間に合った。
自分たちはシオンの過去を守ることができたのだ。
蓮はカバー株式会社のビルを見上げた。
「イマジンも倒したし、そろそろ帰ろう」
そう告げて、デンライナーへ向かおうとする。
しかし、シオンはその場から動かなかった。
「シオン?」
蓮が振り返る。
シオンは、目の前に建つカバー株式会社のビルをじっと見つめていた。
現在よりも、少しだけ小さく見えるビル。
現在よりも、ずっと静かな空気。
まだ自分が、どのような未来へ進むのか知らなかった場所。
そのビルの中には、過去の紫咲シオンがいる。
これから初配信を迎えようとしている自分。
緊張して、不安で、それでも画面の向こうにいる誰かへ、自分の声を届けようとしている自分がいる。
シオンは胸元で、そっと手を握りしめた。
「どうしたの?」
蓮の問いかけに、シオンはビルを見つめたまま小さく口を開いた。
「今日から、頑張るんだよ」
その言葉は、誰かに届くものではなかった。
ビルの中にいる過去の自分には聞こえない。
それでも、伝えたかった。
「あんた、これからすごい未来に行くよ」
シオンの口元に、僅かな笑みが浮かぶ。
「大変なこともある。辛いこともあるし、悔しいこともいっぱいある」
それでも。
「楽しいことも、それ以上にいっぱいあるから」
シオンは、まだ何も知らない過去の自分へ語りかける。
「だから、頑張れ」
その声には、先ほどまでの恐怖も迷いもなかった。
「頑張れ、紫咲シオン」
蓮は何も言わなかった。
ただ、シオンの横顔を静かに見つめていた。
普段はわがままで、自由で、少し面倒くさい姉。
夜中までゲームをして、朝には寝坊し、弟へ責任を押しつけようとする姉。
けれど今、目の前にいる紫咲シオンは、自分の始まりを守り抜いた一人の人間として、確かにそこに立っていた。
「おい」
モモタロスが頭を掻きながら声をかける。
「いつまでしんみりしてやがる。置いてくぞ」
「うるさい赤鬼」
「だから赤鬼じゃねぇ! 俺はモモタロスだ!」
シオンは小さく笑い、デンライナーへ向かって歩き始めた。
蓮もその後へ続く。
二人が乗り込むと、デンライナーの扉がゆっくりと閉まった。
汽笛が鳴り響く。
時をかける列車は砂煙を巻き上げながら、ゆっくりと走り始めた。
時間の砂漠へ戻るように、デンライナーは2018年の東京から離れていく。
窓の外では、過去のカバー株式会社が次第に小さくなっていった。
シオンは、その景色を最後まで見つめ続けた。
「……ありがとう、蓮」
小さく漏れた言葉に、隣に立っていた蓮が目を丸くした。
「え?」
シオンは慌てたように顔を背ける。
「何でもない」
「今、ありがとうって言ったよね?」
「言ってない!」
「言ったと思うけど」
「言ってないってば!」
近くにいたモモタロスが、大きな声で笑った。
「確かに言ってたぞ」
「赤鬼は黙ってて!」
「だから俺はモモタロスだ!」
騒がしい声を乗せ、デンライナーは現在へ向かって走っていった。
◇
2018年8月17日。
過去のカバー株式会社。
その一室では、初配信を控えた紫咲シオンが、緊張した面持ちでパソコンの前に座っていた。
「うぅ……緊張する……」
部屋の中には、当時の蓮もいた。
現在より少し若い蓮は、パソコンや配信機材の状態を確認しながら、落ち着かない様子のシオンを見て苦笑している。
「大丈夫だよ、シオン。いつも通り話せばいいから」
「いつも通りって言われても、初配信なんだけど!?」
「だからこそ、いつも通りでいいんだよ」
「説明が雑!」
その時だった。
ポォォォォォ――。
遠くから、列車の汽笛のような音が聞こえた。
過去のシオンは、反射的に窓の方角へ顔を向ける。
東京の空を、一瞬だけ巨大な列車の影が走り抜けたように見えた。
シオンは何度も目を瞬かせる。
「蓮、見て! 電車が空を走ってる!」
「電車?」
当時の蓮も窓の外へ視線を向けた。
しかし、そこにはすでに何もなかった。
広がっているのは青空と、東京のビル群だけ。
「何もないよ」
「いや、今いたって! 空に電車が走ってた!」
「空に電車は走らないよ」
「本当にいたもん!」
「それより、配信の準備をしないと」
「ちょっと! 信じてよ!」
蓮は笑いながら、パソコンの画面を確認する。
「はいはい。空を飛ぶ電車の話は、配信が終わってから聞くよ」
「絶対だからね!?」
「うん。だから今は、初配信に集中」
「むぅ……」
シオンは不満そうに頬を膨らませる。
それでも、すぐにパソコンのモニターへ向き直った。
配信開始の時間が近づいている。
胸が高鳴る。
手が震える。
不安でいっぱいだった。
それでも、紫咲シオンは前を向いた。
自分の知らないところで、この日が守られていたことも知らずに。
これから始まる未来を、まだ何も知らないまま。
紫咲シオンは初めて、画面の向こうにいる人々へ自分の声を届けようとしていた。
その背中を、当時の蓮が静かに見守っている。
そして、時間の彼方では。
未来の蓮とシオンを乗せたデンライナーが、二人の暮らす現在へ向かって走っていた。
守られた過去。
繋がった未来。
紫咲シオンの物語は、何事もなかったかのように、再び正しい時間の上を進み始めた。