仮面ライダーディケイド×ホロライブ×MCU ―世界を繋ぐ仮面の旅人―   作:十六夜 蓮

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第8話 守られた初舞台

 

 

「さっさと終わらせてよ!」

 

仮面ライダー電王の内側から、シオンの声が響いた。

 

現在、体の主導権を握っているのはモモタロスだ。

 

だが、その肉体は間違いなくシオンのものだった。

 

だからこそ、シオンは怖かった。

 

目の前にいるイマジン。

 

過去のカバー株式会社。

 

そして、自分の初配信の日が壊されるかもしれないという現実。

 

それでも、弱音を吐いている暇はなかった。

 

モモタロスはデンガッシャー・ソードモードを肩へ担ぎ、面倒そうに答える。

 

「はいはい。分かってるって」

 

「その言い方、むかつく!」

 

「うるせぇな! 文句なら全部終わってから聞いてやるよ!」

 

電王はライダーパスを取り出した。

 

二人の前では、イマジンが周囲の砂を集め、巨大な斬撃を作り上げている。

 

狙っているのは、ディケイドと電王だけではない。

 

二人の背後に建つ、カバー株式会社のビルそのものだった。

 

ディケイド――紫咲蓮は、一歩も退くことなくイマジンの前へ立っていた。

 

「ここは壊させない」

 

蓮はライドブッカーを開き、一枚のカードを引き抜く。

 

白いカードの表面には、ディケイドの紋章が描かれていた。

 

「モモタロス、合わせろ」

 

「ああ? 誰に言ってやがる!」

 

電王はライダーパスを、もう一度ベルトへかざした。

 

《FULL CHARGE》

 

電子音が響き、デンガッシャーへ赤いエネルギーが集まっていく。

 

それを見たイマジンが吠えた。

 

「させるか!」

 

イマジンが腕を振り下ろす。

 

巨大な砂の斬撃が放たれた。

 

空気を引き裂きながら迫る刃を前にしても、蓮は動じない。

 

手にしていたカードを、ディケイドライバーへ挿入した。

 

《FINAL ATTACK RIDE》

 

ドライバーの両端を押し込む。

 

《D-D-D-DECADE》

 

ディケイドの前方に、五枚の巨大なカードが一直線に出現した。

 

それはまるで、敵へ続く一本の道。

 

世界の破壊者が必殺の一撃を放つための、光の軌道だった。

 

電王はデンガッシャーを構える。

 

「俺の必殺技――」

 

刀身の先端が本体から分離し、赤いエネルギーによって繋がれた巨大な刃となる。

 

「パート2!」

 

電王がデンガッシャーを大きく振るった。

 

分離した剣先が空中を走り、迫り来る砂の斬撃へ激突する。

 

轟音とともに、赤い刃が巨大な砂の斬撃を切り裂いた。

 

「何っ!?」

 

崩壊した砂の向こうから、デンガッシャーの剣先が飛来する。

 

そのままイマジンの胸部を一閃した。

 

「ぐっ……!」

 

激しい火花が散り、イマジンの体勢が大きく崩れる。

 

「今だ、蓮!」

 

「分かってる!」

 

ディケイドが地面を蹴った。

 

目の前に並ぶ五枚のカードへ、真っすぐ飛び込んでいく。

 

一枚目。

 

二枚目。

 

三枚目。

 

カードを潜り抜けるたび、ディケイドの速度とライドブッカーに宿るエネルギーが増していく。

 

四枚目。

 

そして、五枚目。

 

最後のカードを抜けた瞬間、ディケイドはイマジンの懐へ到達していた。

 

ライドブッカーの刃が、眩い光を纏う。

 

「はあああっ!」

 

蓮は勢いのまま、ライドブッカーを振り下ろした。

 

一撃目。

 

光の刃が、イマジンの胸部を斜めに切り裂く。

 

「ぐああっ!」

 

イマジンの体から、砂と火花が激しく噴き出した。

 

蓮はその場で体を反転させる。

 

「これで終わりだ!」

 

二撃目。

 

横薙ぎに放たれた光の斬撃が、イマジンの体を完全に切り裂いた。

 

「ぐあああああっ!」

 

イマジンの全身が崩れ始める。

 

体を構成していた砂が宙へ舞い、内側から赤い火花が次々と噴き出していく。

 

「馬鹿な……俺の契約が……!」

 

イマジンは、最後の力を振り絞るようにカバー株式会社のビルへ手を伸ばした。

 

「まだ……過去を……!」

 

しかし、その手が届くことはなかった。

 

次の瞬間、イマジンの体が爆発した。

 

轟音が2018年の東京に響き渡る。

 

爆炎と大量の砂塵が周囲へ広がった。

 

ディケイドはライドブッカーを一振りし、迫る煙を切り払う。

 

隣では、電王がデンガッシャーを肩へ担ぎ、満足そうに胸を張っていた。

 

「決まったな!」

 

「ああ」

 

蓮は短く答え、背後へ振り返った。

 

カバー株式会社のビルは、無事だった。

 

窓ガラス一枚すら割れていない。

 

紫咲シオンが初配信を迎える大切な一日は、守られたのだ。

 

電王の体から、赤い光が抜け出す。

 

光は空中で人の形となり、モモタロスが元の姿へ戻った。

 

「ふぅ。やっぱり俺の必殺技は格好よく決まるぜ!」

 

直後、電王の装甲も光となって消えていった。

 

変身を解除されたシオンは、力が抜けたようにその場でよろめく。

 

「わっ……!」

 

倒れそうになったシオンの体を、変身を解除した蓮が慌てて支えた。

 

「大丈夫!?」

 

「だ、大丈夫……」

 

シオンは蓮から離れると、自分の腕や足を慌てて確認する。

 

「本当に元へ戻ってる……」

 

「傷は?」

 

蓮が心配そうに尋ねる。

 

シオンは体を一通り確認した後、不満そうに頬を膨らませた。

 

「傷はない。でも……」

 

「でも?」

 

シオンは顔を真っ赤にし、両手で覆った。

 

「あああ……。恥ずかしいポーズした……!」

 

蓮は堪えきれず、小さく笑った。

 

「本物の『俺、参上!』は初めて見たよ」

 

「笑うな!」

 

「いや、結構似合ってたと思う」

 

「余計に笑ってるじゃん!」

 

シオンは真っ赤になったまま怒鳴った。

 

モモタロスは納得できない様子で声を上げる。

 

「何が恥ずかしいんだよ! 『俺、参上!』は最高に格好いい決めポーズだろうが!」

 

「シオンの体で勝手にやらないで!」

 

「似合ってたぜ?」

 

「全然嬉しくない!」

 

シオンとモモタロスの言い争いを眺めながら、蓮は小さく息を吐いた。

 

全身から緊張が抜けていく。

 

本当に、間に合った。

 

自分たちはシオンの過去を守ることができたのだ。

 

蓮はカバー株式会社のビルを見上げた。

 

「イマジンも倒したし、そろそろ帰ろう」

 

そう告げて、デンライナーへ向かおうとする。

 

しかし、シオンはその場から動かなかった。

 

「シオン?」

 

蓮が振り返る。

 

シオンは、目の前に建つカバー株式会社のビルをじっと見つめていた。

 

現在よりも、少しだけ小さく見えるビル。

 

現在よりも、ずっと静かな空気。

 

まだ自分が、どのような未来へ進むのか知らなかった場所。

 

そのビルの中には、過去の紫咲シオンがいる。

 

これから初配信を迎えようとしている自分。

 

緊張して、不安で、それでも画面の向こうにいる誰かへ、自分の声を届けようとしている自分がいる。

 

シオンは胸元で、そっと手を握りしめた。

 

「どうしたの?」

 

蓮の問いかけに、シオンはビルを見つめたまま小さく口を開いた。

 

「今日から、頑張るんだよ」

 

その言葉は、誰かに届くものではなかった。

 

ビルの中にいる過去の自分には聞こえない。

 

それでも、伝えたかった。

 

「あんた、これからすごい未来に行くよ」

 

シオンの口元に、僅かな笑みが浮かぶ。

 

「大変なこともある。辛いこともあるし、悔しいこともいっぱいある」

 

それでも。

 

「楽しいことも、それ以上にいっぱいあるから」

 

シオンは、まだ何も知らない過去の自分へ語りかける。

 

「だから、頑張れ」

 

その声には、先ほどまでの恐怖も迷いもなかった。

 

「頑張れ、紫咲シオン」

 

蓮は何も言わなかった。

 

ただ、シオンの横顔を静かに見つめていた。

 

普段はわがままで、自由で、少し面倒くさい姉。

 

夜中までゲームをして、朝には寝坊し、弟へ責任を押しつけようとする姉。

 

けれど今、目の前にいる紫咲シオンは、自分の始まりを守り抜いた一人の人間として、確かにそこに立っていた。

 

「おい」

 

モモタロスが頭を掻きながら声をかける。

 

「いつまでしんみりしてやがる。置いてくぞ」

 

「うるさい赤鬼」

 

「だから赤鬼じゃねぇ! 俺はモモタロスだ!」

 

シオンは小さく笑い、デンライナーへ向かって歩き始めた。

 

蓮もその後へ続く。

 

二人が乗り込むと、デンライナーの扉がゆっくりと閉まった。

 

汽笛が鳴り響く。

 

時をかける列車は砂煙を巻き上げながら、ゆっくりと走り始めた。

 

時間の砂漠へ戻るように、デンライナーは2018年の東京から離れていく。

 

窓の外では、過去のカバー株式会社が次第に小さくなっていった。

 

シオンは、その景色を最後まで見つめ続けた。

 

「……ありがとう、蓮」

 

小さく漏れた言葉に、隣に立っていた蓮が目を丸くした。

 

「え?」

 

シオンは慌てたように顔を背ける。

 

「何でもない」

 

「今、ありがとうって言ったよね?」

 

「言ってない!」

 

「言ったと思うけど」

 

「言ってないってば!」

 

近くにいたモモタロスが、大きな声で笑った。

 

「確かに言ってたぞ」

 

「赤鬼は黙ってて!」

 

「だから俺はモモタロスだ!」

 

騒がしい声を乗せ、デンライナーは現在へ向かって走っていった。

 

 

2018年8月17日。

 

過去のカバー株式会社。

 

その一室では、初配信を控えた紫咲シオンが、緊張した面持ちでパソコンの前に座っていた。

 

「うぅ……緊張する……」

 

部屋の中には、当時の蓮もいた。

 

現在より少し若い蓮は、パソコンや配信機材の状態を確認しながら、落ち着かない様子のシオンを見て苦笑している。

 

「大丈夫だよ、シオン。いつも通り話せばいいから」

 

「いつも通りって言われても、初配信なんだけど!?」

 

「だからこそ、いつも通りでいいんだよ」

 

「説明が雑!」

 

その時だった。

 

ポォォォォォ――。

 

遠くから、列車の汽笛のような音が聞こえた。

 

過去のシオンは、反射的に窓の方角へ顔を向ける。

 

東京の空を、一瞬だけ巨大な列車の影が走り抜けたように見えた。

 

シオンは何度も目を瞬かせる。

 

「蓮、見て! 電車が空を走ってる!」

 

「電車?」

 

当時の蓮も窓の外へ視線を向けた。

 

しかし、そこにはすでに何もなかった。

 

広がっているのは青空と、東京のビル群だけ。

 

「何もないよ」

 

「いや、今いたって! 空に電車が走ってた!」

 

「空に電車は走らないよ」

 

「本当にいたもん!」

 

「それより、配信の準備をしないと」

 

「ちょっと! 信じてよ!」

 

蓮は笑いながら、パソコンの画面を確認する。

 

「はいはい。空を飛ぶ電車の話は、配信が終わってから聞くよ」

 

「絶対だからね!?」

 

「うん。だから今は、初配信に集中」

 

「むぅ……」

 

シオンは不満そうに頬を膨らませる。

 

それでも、すぐにパソコンのモニターへ向き直った。

 

配信開始の時間が近づいている。

 

胸が高鳴る。

 

手が震える。

 

不安でいっぱいだった。

 

それでも、紫咲シオンは前を向いた。

 

自分の知らないところで、この日が守られていたことも知らずに。

 

これから始まる未来を、まだ何も知らないまま。

 

紫咲シオンは初めて、画面の向こうにいる人々へ自分の声を届けようとしていた。

 

その背中を、当時の蓮が静かに見守っている。

 

そして、時間の彼方では。

 

未来の蓮とシオンを乗せたデンライナーが、二人の暮らす現在へ向かって走っていた。

 

守られた過去。

 

繋がった未来。

 

紫咲シオンの物語は、何事もなかったかのように、再び正しい時間の上を進み始めた。

 

 

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