天星少女ノ魔女裁判 作:【総当たり】の魔法
でもエマちゃんたちが酷い目に遭うのは見たくない!
せや!
と、いう作品になります。
作者のミステリ初挑戦作でもありますので、生温かい目で見守っていただけると幸いです。
とりあえず第一の事件までは必ず投稿しますが、そこから先は反響次第になります。
ご了承ください。
人を救うことは正義だ。
ずっとそう思って生きてきた。
物心つかぬ頃から見続けてきた物語。
正義のヒーローが悪を打ちのめし、みんなを助ける勧善懲悪。
至極単純な行動原理。夢中になった原風景。
誰かを助けるのはいいこと。
悪を断罪するのはいいこと。
そう根付くのは、当然のことだ。
だから、そうした。そのように生きた。
困っている人には手を差し伸べた。残酷な悪意には立ち塞がった。
涙を流す人には寄り添った。暴力が振るわれるなら抗った。
正しい道では救えないなら、外道に踏み込んだ。
それが正しい。
それが正義だ。
だが──
「さよなら。こんな世界」
伸ばした手が掴んだのは、空だった。
少女が落ちていく。視界から途切れていく。
風の音がうるさかった。暮れかけた日差しがうざかった。
喉が渇いた。心臓が痛かった。流れる血が苦しかった。
全部から、感覚を塞ぎたかった。
現実を、否定したかった。
そして少女は、地に堕ちた。
伸ばした手は、何も掴んではいなかった。
「──はっ!?」
飛び起きる。何か、悪い夢を見ていた気がする。
軽い頭痛に目を瞑り、そして開く。
「……ここは、どこだ?」
視界に映る光景に、まだ夢を見ているのかと疑う。
そこはまるで知らない光景だった。冷えた石で組み上げられた壁。無機質で恐ろしい鉄格子。そして自分の寝ていた、簡素で平たいベッド。
その景色を私は知らなかったが、名前は知っていた。
「牢屋……」
それも現代の留置所ではなく、中世にあるような。
私はより状況を詳しく把握するべく立ち上がる。そしてもう一つ気がつく。
「なんだ、この衣装は」
私は不思議な衣装を着せられていた。
ベースは、チャイナドレスだろうか。一つなぎの布。白地に金糸で刺繍が施されたそれは、豪奢なものに見えた。足には深いスリットが入っていて、足が露出している。通常のチャイナドレスと違うところは、ところどころにふんだんとフリルが使われていることだろうか。
肩は露出しているが、袖はある。ただ、長い。腕が完全に隠れている上に更に余り、垂れている。しかも袖の中にもフリルがたっぷりだ。
(キョンシー、か?)
想像したのは空想の怪物。動く屍となって墓場を彷徨うアンデッドだった。
ただしそう呼んでしまうには白く眩く、華美ではあるが。
「コスプレ……いや、今はそんなこといい」
気にはなったが、気にしているだけの状況じゃない。もっと意味不明なことはいくらでもある。
しかしぱっと見で見える以上はそこまでだ。なので私は自分の内面を探った。
(最後の記憶は……明日の準備をしているところか。新品の文房具のチェックを終えて……校則や校内マップを一通り覚えてからホットミルクを飲んで寝た……ハズだ)
明日の入学式に備えて早めに寝たハズだった。しかし、今はこうしてここにいる。
意味不明だった。
(拉致、監禁? だが、誰が何故。どうしてこんなところに)
思考に耽っていると、外から声が聞こえてきた。
「へ、嘘、どこやここ!?」
「ちょっと、出しなさいよ!」
「クソ、硬ぇ!」
悲鳴。怒号。中には鉄格子を蹴り付けたような金属音も混ざっている。
どうやら同じように閉じ込められた少女たちがいるらしい。
「誰か──」
ここについての情報を知っているか。鉄格子越しにそう問おうと口を開いた瞬間だった。
プツン。
石壁に埋め込まれた古臭いモニターに電源が入る。
『あーテステス。んん、聞こえてるかな』
映し出されたのは、奇妙な生き物だった。
例えるならネズミの化け物……だろうか。頭が妙に大きく、丸い耳も大きい。灰色の毛皮や毛のない尻尾からも、やはり例えるに相応しいのはネズミだろう。
しかしところどころがおかしい。ペイント、だろうか。骨のような模様が描かれている。
灰色の毛皮からは肋骨が。指の何本かは肉を纏い忘れたかのように白く。右半面は頭蓋骨が露出し、眼窩は黒々と何も映していない。
まるで、ところどころを齧られてしまった後のように。
『ボクの名前はゴクチュー。ここの管理者をしてるよ。ここ……というのがなんなのか、みんな説明が欲しいよね。これからラウンジで説明するから、集合してね』
少年のような、あるいは少女のような柔らかな口調。しかし丁寧に聞こえるそれは、どこか背筋が凍るような響きを持ち合わせていた。
少なくとも──同等の人間に話しかける声音ではない。
まるで人が犬猫に話しかける時のような。
ゴクチューは細い尻尾の先についた萎れた花を揺らしながら続ける。
『これから監房の鍵を開けるよ。【看守】の案内通りについてきてね。ああ、でも一つだけ、注意事項を伝えておこうかな』
ずる、と音が聞こえた。
気になってモニターから目を離し、そちらを向く──
『抵抗は自由だけど、無意味だよ』
──そこにいたのは、紛うことなき化け物だった。
背丈は三メートルほどか。白い仮面と、兜のようなものを被っている。だが、その不気味さがどうでも良くなるほど、人とかけ離れた姿をしていた。
首が長い。人体ではあり得ないほどの長さだ。そして腕は四本。内の二つは細く気味悪いが、まだ人に近い形をしている。だが残りの二本は指すらない。手首から先が、鎌になっていた。
鋭い、そして刃の部分が妙に赤い、鎌。嫌な予感を彷彿とさせるには十分だ。
悲鳴を堪える。
アニメやら特撮で、似たような怪物は見たことがある。
だがそれはフィクションだ。お話で、本物じゃない。
しかし、あれは、リアルだ。質感がある。
間違いない。
アレは、私たちを最も簡単に殺せる。
怯えていると、ネズミの化け物──ゴクチュー、だったか──のいう通り、鍵の開いた音がした。
どうするかと戸惑っていると化け物がじっと覗き込んでくるので、私は急かされるように扉を開けた。
廊下はやはり牢の中と同じように殺風景で、右側を見ると同じような鉄格子がいくつも並んでいた。
左を見ると、上に続く階段が。どうやら私の房は一番手前にあったらしい。
外へ出た私に満足したように、化け物は一つずつ房を覗いていく。
「なっ、なんだよテメェっ!?」
「ケロロっ!?」
「ああもう! 出ればいいんでしょ、出れば!」
看守に脅され、ぞろぞろと少女たちが出てくる。それで気づいたが、どうやら他の少女たちは二人部屋らしい。一応もう一度私の部屋を見てみるが、もう一人いる気配はない。
(私だけ一人か。特別扱い……ではないだろうなぁ。端数か)
恐らくは監房に押し込められた少女たちが奇数で、私だけが余ったのだろう。……いや、そんなこと、どうでもいいか。
看守が戻ってくる。少女たちを全員廊下に出したので、これから先導するのだろう。階段へと向かう看守を、私は大人しく追いかける。
今逆らう少女たちはいないのだろう。全員着いてくる。
「あっ……」
その中の一人、杖をついた少女が転びかける。私は手を伸ばそうとしたが、それよりも早く隣の少女が支える方が早かった。
「大丈夫?」
「ええ。おかげさまで」
杖の少女はホッと息をつき、支えた少女も小さく笑う。
「階段があるから、手を繋ぐね。嫌だったら言って」
「はい。ありがとうございます」
……少なくとも、善性の少女はいるようだ。
私は出しかけた手を引っ込め、看守へと続いた。
連れてこられたのは広い部屋だった。赤い絨毯が敷き詰められ、中央には十人以上がかけられそうな巨大た机が鎮座している。
壁には暖炉とその上にモニター。そして絵画を始めとする不気味な調度品が飾られている。
(……ボウガン。こういう屋敷なら、調度品として不自然ではないが)
壁にかかっている中にあからさまな凶器があるのを見て、眉を顰める。極限状態で、些細なことが神経に障るのだろうか。
そしてラウンジに、少女たちは一堂に会した。
その顔ぶれは個性的だ。着ている服もまた、私と同じように派手な衣装だ。
「……チッ。んだよ、これ」
舌打ちするのは赤紫のパーカーを着た少女。その目つきは悪く、イライラを隠していない。
「ひうぅ……」
怯えきって両目に涙をいっぱいに溜めているメイド服の少女。
「やっばー! チョー豪華やん。豪邸ツアー当たったんかな!?」
などと呑気そうに呟いている少女はなんとバニーガールだ。
(知り合いはいないな。それに、互いに知っている顔もなさそうだ)
ほとんど全員が警戒して距離をとっている。中にはそうしていない少女たちもいるが。
そんな少女の筆頭、バニーガールの少女が手を挙げた。
「折角だから自己紹介せえへん!? そこの君、どう思う!?」
ピシリと指さされた少女が戸惑いの表情を浮かべる。
「へ!? え、ええと、ええと……」
水を向けられたのはいかにも気弱そうなメガネをかけた少女だった。……振るにしても、もう少し人選というものがあるだろう。
気の毒なので、助け舟を出すことにする。
「そうだな、私は賛成だ。こんなワケの分からない状況では、情報収集の手を止めるワケにはいかないだろう」
「お、分かってくれる?」
「ああ」
メガネの少女を助けただけなのだが、言っていることはもっともだ。
頷いた私はツカツカと歩みを進め、暖炉の前、一番目立つ場所に立った。
「ではまず、私から行こう。私は
──天野セイラン 〈
「次は君が言ってくれるのだろう。言い出しっぺなのだからな」
「えー、あーしは提案しただけやで? でも君が言うんならそうしよかな。……あーしは
──幸村レッキス 〈勝敗の
答えたバニーガール──レッキスはやはり際どい格好をしていた。肩や腕は露出して、足元は網タイツ。しかし浮かべた笑顔や明るいオレンジ髪のおかげか、色気などよりも彼女の人柄の方を感じる。煽情的な格好には相応しくない、元気印の少女のようだった。
「では次は……君だ」
「わ、わわわ、私ですかっ」
「自己紹介はしてもらわないとな」
私が指名したのは先ほどレッキスに問われて戸惑っていた少女だ。
衣装のイメージはまさに文学少女。セーターにチェックのスカートは秋らしい季節感を感じさせる。三つ編みにされた髪は紫がかった黒髪で、黒縁メガネの下にある瞳は自身なさげに揺れている。抱えているのは本、だろうか。
少女は少しあわあわと視線を彷徨わせていたが、意を決したように口を開いた。
「わ、私は
──本条スピカ 〈
「あ、あーしもそうやよ」
「そうか。ではみんな同い年なのだろうな。次から違う場合を除いて省略してしまっていい」
「ご、ごめんなさい……」
「いや、責めているワケじゃないんだが」
気弱すぎてどうにも扱いづらい少女だ。
気を取り直して次を促す。
「では次、君だ」
「ケロ?」
小首をかしげるのはカエルのニット帽を被った少女だった。ポーチやスニーカーもカエルモチーフ。スカートも池に浮かんだ蓮と、カエルづくしの出で立ちである。
「ケロはーケロだケロ!
──喜多添ケロ 〈井の中の
キャラグッズで纏めたかのような服装に小柄な体格やあどけない表情も相まって、幼く見える。だが年齢を言わなかったということは同い年……なのだろう。とてもそうは見えないが。
しかしケロケロと、変わった喋り方だな。
「では次は君」
「…………」
次に指名した少女は沈黙したままだった。
白いコートを着た銀髪の少女。鋭利な瞳はまるで氷のようだ。色味の少ない中で、マフラーだけが鮮やかな水色をしていた。
「……自己紹介を頼む。せめて名前だけでも」
「……
──冬樹トワ 〈エンドブレイカー〉──
トワと名乗った少女は本当にそれだけを述べて黙ってしまった。
せめて名前だけと言ったのは私な手前、それに文句を言うこともできない。仕方ないので次に行く。
「では、次は」
「あ、では」
手を挙げたのは先程杖をついていた少女だった。纏っている雰囲気も儚く、透けてしまいそうなほどに肌は白い。髪も純白で、病人服のようなワンピースの上に羽織っている上着と髪飾りの緑色がなければ幽霊と見紛ってしまったかもしれない。
少女は針葉樹色の瞳を揺らしながら糸のように細い声で名乗った。
「わたくしは
──華陶ユーリカ 〈虫籠の
ユーリカはやはり儚げな笑みを浮かべて言った。
「迷惑とは思わないが……杖は必須なのか?」
「はい。足がうまく動かなくて。先程もご迷惑を……その」
ユーリカは申し訳なさそうな目線を隣の少女へ向ける。彼女の言う通り、ここにくる途中で介助した少女だ。
なんて呼んだらいいのか分からず困っている気配を感じ取ったのか、少女は自分から名乗った。
「私は
──月暈ハジメ 〈還れない旅人〉──
ハジメは古い時代の和洋折衷、いわゆる女学生風の衣装を着ていた。セピア色をした袴姿はまるで色褪せた写真をそのまま切り取ったかのようだ。髪色と瞳も茶色なのが拍車をかける。褪せた色の中で唯一、月と雲を模した簪だけが銀色の光を放っていた。
人の良さそうな笑みを浮かべてハジメはユーリカの言葉を否定する。
「迷惑だなんて、そんなことないよ。困った時は助け合いだから。特に見知らぬ土地ではね」
「……ありがとうございます」
ユーリカはその言葉に安堵したようだ。私も異常事態の中で人の優しさに触れたことで少し心が温かくなる。
そんな少し和らいだ空気を金切り声が引き裂いた。
「あー、もう! 何よこれ! あたしをこんなところに、こんなワケの分からない連中と一緒に閉じ込めるなんて!」
異常事態のストレスに耐えきれなくなったのだろう。ヒステリックに叫ぶのは金髪の少女だった。身に纏った黒いドレスはゴシック調で、フリルたっぷりでいかにも重そうだ。しかし立ち上がった少女にはそれに振り回されている様子はなく、どこか着慣れた印象を持った。それとイヤーカフ、だろうか。黒い耳飾りをつけている。大きなそれはまるでコウモリの耳のようにも見えた。
「この中にこんなことを仕組んだ元凶がいるんでしょう!? 名乗り出なさいよ!」
「……そうは思えない。むしろ先程モニターに映ったネズミの化け物の方が元凶じゃないか?」
「何、アンタ。このあたしに逆らうつもり?」
「意見を述べたまでだ」
少女はふんと鼻を鳴らして私を睨む。
「それが逆らっているって言うのよ」
「どうでもいいが、まずは名乗ってほしい。キミのことをなんて呼んだらいいのかも分からない」
「はぁっ!? あたしの名前を知らないの!?」
「知らないからこうして聞いているんだが……」
頭が痛くなってくる。どうしてこうも不遜なんだ。
少女は仕方ないと言う風に不機嫌に名乗りをあげた。
「
──歌雅和メリーベル 〈
「歌雅和? それは確かに、聞き覚えが」
「あっ、もしかして、大手電化製品メーカーの、【UTAGAWA】?」
思い至ったスピカは目を瞠る。私も同じだ。
それはこの国に暮らす人間なら誰もが聞き覚えのある大企業だったからだ。大人は冷蔵庫や電子レンジの大型家電で、子どもなら大人気のゲーム機で。余程のこだわりがなければ、誰もが一度は世話になっているだろう。
「そ。その歌雅和よ。つまりこの中にはあたしみたいな高貴な人間を拉致したとんでもなく不遜な輩がいるってことよ」
ふふん、とメリーベルは胸を逸らす。
メーカーの社名と同じ苗字。つまりは創業者一族の令嬢ということだろう。彼女の不遜な態度にも──それに苛つかないかは別として──頷ける。
「ハッ! 何が高貴、だよ」
「……あんですって?」
そんなメリーベルに、つっかかる少女の声。声の主は赤紫のパーカーの少女だ。
どうやらパーカーはドラゴンを模しているらしい。三白眼の鋭い目や牙、鱗のような模様などにそれが現れている。その下にある少女の顔つきもどこか凶暴だ。
硬質な髪質なのかハリネズミのように尖った髪を苛立たしげに掻きながら、少女は赤い瞳でメリーベルを睨みつけた。
「お前みたいな勘違いヤロウを見てると虫唾が走るんだよ。失せろ、バカ女」
「はぁ!? 見るからに落ちこぼれた不良が偉そうに……! そっちこそ消えなさいよ!」
「待て、待て。争うにしても後にしてくれ」
私は睨み合う二人を諌める。喧嘩するにしても立て込んでいる今はやめてほしい。
「自己紹介の流れは止めたくない。キミも、名前だけは教えてくれ。頼む」
縋るように小さく頭を下げたのが効いたのか、ドラゴンパーカーの少女は小さく舌打ちをした後名乗ってくれた。
「……アタイの名前は
──鱗堂リュシア 〈ハグレモノ〉──
「ああ。ありがとう」
「チッ」
態度は悪いが素直に応えてくれた。案外、根は素直なのかもしれない。
メリーベルとリュシアはまだ睨み合ったままだが、一旦は矛を収めてくれたのかお互いに黙っている。その隙に私は次の少女へ水を向けた。
「キミは……」
「………」
私と見つめ合うのは小柄な少女だ。ここに集まった中では一番小さいだろう。
真っ白なツインテールに真っ白なロリータドレス。私やトワやユーリカも白い格好をしているが、それが及ばないくらい正真正銘に真っ白な装いだ。
唯一色付いている灰色の瞳で、私のことをジッと見上げている。
「………」
「名乗ってほしいのだが……」
私が頼んでも少女は言葉を発してはくれない。少女は小さく小首を傾げたのち、隣にいた大柄な少女に耳打ちをした。
大柄な少女は頷いて口を開いた。
「
「そうか……あまり喋りたくないのか?」
「……大声が嫌なだけらしい」
「そうか……」
──蜜璃シロエ 〈
シロエは無口な少女、らしい。非協力的、というワケではなさそうだが……。
「そして、キミは」
「
そしてシロエの言葉を伝えてくれた少女。
こちらは隣のシロエとは対照的にこの中で一番大柄な少女だ。赤いメッシュの入った銀髪をポニーテールにしている。服は……赤いスーツ、だろうか。ただし胸元などは大きくはだけていて、だいぶ着崩している。額には鉢金めいた金属製の飾りをつけていて、尖った二つの突起がまるで鬼のようだ。
「手向かいしなければ、誰にも何もしない。が、降りかかる火の粉は払うと宣言しておこう」
そう言って、ドミニカは少女たちを鋭い双眸で睥睨した。
──二重ドミニカ 〈泣けない
「……ご忠告、痛みいるよ」
何故そうも威嚇するようなことを言うんだ。スピカやメイドの少女が怯え切っている。
そんな可哀想な少女の緊張を解くために、次に指名する。
「では、メイド服のキミ」
「ひゃ、ひゃいぃ!」
声をかけられてビクンと跳ね上がる姿はまさに小動物。
灰色のセミロングの上にはヘッドドレス。ミニスカートのメイド服を着た少女は暗い赤茶色の瞳にいっぱいの涙を溜めていた。
「は、ははは、
──灰司ハルル 〈ドジっ娘メイド〉──
「そんなことはしないから、落ち着いてくれ」
「うぅぅ……」
優しく言ってみるが、到底無理のようだ。こんな状況では、仕方のないことではあるが……。
「さて、あと聞いていないのは……」
「そこのお嬢ちゃんだけやな」
レッキスの言う通り、残っている少女はあと一人。
ビビッドなピンク色をしたパーカーを着た少女だった。パーカーはサイケデリックな色をしたケーブルのような装飾が幾重にも張り巡らされている。サイバーパンクな装い、と言うべきか。
パステルブルーのボブカットに、瞳は蛍光グリーンと蛍光ピンクと両方で違う色をしている。なかなかに派手な色使いの少女だ。
少女は私たちに自分のことを言われてると気付いたのか、目を落としていたスマホから顔を上げ……って、
「待て、スマホだと?」
「ちょっと待ちなさい、それマジなの!?」
少女たちが色めき立つ。まさかスマホを持っているのか? もしかしたら外部と連絡が……!?
一斉に向いた少女たちの視線に対し、パーカーの少女はフルフルと首を横に振った。
『残念だけど、このスマホで外部とは連絡は取れない』
「何だと……?」
『その代わり、全員に支給されてるっぽい。各自ポケットを確認されたし』
パーカー少女の言葉に従って、少女たちは各々の服を弄る。身体にピッタリと張り付くような私のドレスにポケットがあるかは疑問だったが……なんと、袖の中にあった。そんな昔の和服みたいな。
「本当だ。しかし確かに、ネットなどには繋がりそうにないな……」
『ミーの言うことが本当だと分かったかネ』
「ああ……ん? 待て、今、キミはどうやって声を出している?」
少女は口元を紫色のマスクで覆っており口元は見えない。しかしその喉も震えているようには見えなかった。
少女は片手でスマホを振って答える。
『このスマホの中にあった合成音声ソフトを使って話してるよ。ミーの魔法は【機械操作】だから』
「魔法……?」
『あ、自己紹介だっけ。ミーの名前は
「え、あ、ああ……」
──光ケ坂ビビィ 〈
ビビィは私の疑問を無視したが、自己紹介してほしいと言う要求には応えた。
これで少女たち十三人の名前が判明したことになる。
「お話はひと段落したかな」
「!!」
その時、私たちの誰でもない声が響いた。
声の方を振り向けば、壁に開いた小さな穴から不思議な生き物が姿を現したところだった。
ところどころ白骨化したネズミの化け物。ゴクチューだ。
「テメェ……!」
この事態の元凶と思われる存在の登場に、リュシアが立ち上がる。が、それを遮るように横切ったのは巨大な影、看守だった。
「っ!」
流石に三メートルを超える巨体には躊躇してしまうものらしい。リュシアが硬直している間に、看守はゴクチューの隣へと控えるように収まった。
モニターの前、一番目立つ場所にゴクチューはちょこんと立った。
「ボクもキミたちに倣ってもう一度自己紹介しておこうか。ボクはゴクチュー。この屋敷の管理を任されているか弱いネズミさんだよ。よろしくね」
ゴクチューは淡々とした、温度を感じさえない声音でそう告げる。
「キミたちが今一番知りたいのは、ここに集められた理由だよね」
「!!」
「端的に言うとね、それは【危険】だからなんだ」
ゴクチューの告げた言葉に少女たちはザワめく。
「危険? 危険ですって? そこのトカゲはともかく、このあたしが?」
「あぁ? 誰がトカゲだ、テメェ……!」
「納得でけへんなー。あーしのどこが危険なんやねん」
少女たちから文句が噴出する。当然だ。私だって納得できない。
しかしゴクチューの態度は変わらない。
「残念だけどこれは真実なんだ。何せキミたちは……【魔女】になる因子を持っているからね」
「魔女……?」
魔女、というと……フィクションに出てくる、あの?
あるいは中世で語られた、化け物扱いされた人たちのことだろうか。どの道……あまりいい響きではない。
「魔女はこの世界に害をなす【悪】。だから、隔離して管理しなければならないんだ。キミたちは我が国が実施した検査によって、【魔女因子】が多く検出された……だから、この牢屋敷への収容が決定されたんだ」
ゴクチューは語った。
私たちにとって都合の悪すぎる真実を。
「つまり、キミたちは……ここで一生を過ごしてもらいたいんだ」
シン、と場が静まる。
誰もが、受け入れ難い真実に戸惑っていた。
「ああ、急に言われても信じ難いよね。人間、目で見たもの以外は信じられないって人もいるだろうし。……なら、証拠を見せようか」
ゴクチューはまるで私たちを気遣っているとでも言いたげに語った。
そんなゴクチューの言葉に応えるように、看守が一歩前に出た。
「この子が、証拠だよ」
「え……」
「魔女になった少女。その【なれはて】。……つまり、キミたちの未来の姿さ」
看守は、化け物だ。
三メートルを超える巨体。長い首。細く節くれだった四本腕。そして生気を感じさせない、仮面のような顔。
これが、私たちの未来だと?
「魔女になった少女はその身を醜い化け物に変容させてしまうんだ。その中から与し易い子をマインドコントロールして、看守として利用しているんだ」
現実を突きつけられて、少女たちは全員息を呑む。
私も例外ではない。看守は見るからに怪物。それも、意思もほとんど感じられない。
そんな存在に自分がなれはてるかもしれない……その可能性に、背筋を振るわせない者などいない。
「当然、こんな化け物になった存在を放置はできないよね。……だから」
そしてゴクチューは、告げた。
「魔女となった少女は、【魔女裁判】で処刑する。……それがここのルールだよ」
私たちに降りかかる、残酷な運命の名を。
こうして、私たちの獄中生活が幕を開けた。