転生したら聖園ミカだったけど、どう考えてもここはキヴォトスではない。   作:ガイバーって難しいね☆

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クトゥルフ神話の神格「ニョグタ(Nyogtha)」のことではありません。


記録1 あり得べからざるもの

 遥か数万年前。降臨者(ウラヌス)たちは人類の廃棄を決定し、そこに残る全ての調整体もろとも地球を捨てて外宇宙へと逃げ去った。

 規格外品(ガイバー)。そう名付けられた人類の殖装体、()いては彼らに比肩する『超存在』となり得る、獣神将(ゾアロード)の殖装体を恐れたためであるらしい。

 降臨者たちの呼び寄せた巨大隕石によって滅ぶかに思われた地球生命体たちは、しかしアルカンフェルの執念によって張られた巨大バリアによって絶滅を免れ、以降長い間氷河期をさまよった後、地球文明を築くことになる。

 

 ――これは、そんな『強殖装甲ガイバー』の世界に現れた、『あり得べからざるもの』の物語だ。

 

 

 


 

 

 

 ――ゴボォン。

 

 シラー島、『眠りの神殿』付近地下、バイタル・ポッド群。

 そこで、ある一つの調整体が身じろぎをした。

 それは、降臨者の制作した兵器の中でもとりわけ完成度が高く、だがしかしある理由で量産計画の廃棄された、超兵器の眠る場所だった。

 あるいは担当した降臨者の趣味であるのか、とびぬけて美しい少女の姿をしたその兵器は、破損したバイタル・ポッドから崩れ落ちるように飛び出すと、液面に映る自分の姿を見て、呟いた。

 

 「……えっ、めっちゃ可愛い」

 

 自己の容貌への手放しの称賛。それは、超兵器の身体に、上位次元の現代人の魂を宿した、まさに『あり得べからざるもの』の、何とも締まらない産声だった。

 

 

 


 

 

 

 聖園ミカじゃん。目覚めた俺の最初の感想はそれだった。

 いや、うん。ピンク色のふわふわな髪、どこからどう見てもトリニティ総合学園のお姫様だ。試しに背中……というか腰のあたりをピコピコ動かしてみると、立派な純白の翼がバサァッと広がった。おお、すげえ。本当に生えてる。

 中身が現代の一般人であるという致命的なバグを抱えているが、鏡面代わりの水溜りに映る自分の顔面偏差値の高さに、俺の心は妙な落ち着きを取り戻しつつあった。可愛いって正義だな。

 

 ただ、違和感は山ほどある。

 軽く拳を握っただけで感じる、例えばチタン合金のようなものすら、容易く握り潰せそうな恐ろしいパワーの奔流。まあこれはいいだろう、聖園ミカの身体ならそういうこともある、と納得できる。

 頭上に浮かぶヘイロー。これだって、単なるホログラムや神秘的な浮遊物というよりは、なんだか未知のエネルギーを放つ「生体器官」として、脳髄の奥底と直接リンクしているような生々しい感覚がある。まあこれも、「実は生徒たちみんなが感じてた感覚で、特に説明がなかったのは、人が呼吸する方法のように、彼女らにとって説明できるものではなかったから」として――だいぶ無理やりだが――納得できるだろう。

 ……興味本位で手を(かざ)してみる。ブンブン音を立ててはいるが、触れない。

 

 「……ふーむ」

 

 だが、何よりヤバいのは、周囲の景観だった。

 どう贔屓目に見ても、ここはお洒落なカフェのある学園都市・キヴォトスではない。薄暗い石造りの神殿のような空間に、不気味に脈動する有機的な培養槽の群れ。壁には奇怪な生物のレリーフ。なんというか、徹底して青春要素ゼロの、ゴリゴリの生体兵器SFホラーな内装なのだ。

 

 「……とりあえず、現状把握からだな。ここ、どこだよマジで」

 

 ペタペタと裸足で冷たい石畳を歩きながら、俺はこの禍々しい遺跡の探索を始めた。生体兵器じみた謎の肉体のおかげか、暗闇でも目は信じられないほどハッキリと見えた。

 しばらく入り組んだ地下通路を進むと、やがて巨大な空洞に出た。空洞の中は見上げるほどの巨大ドームが占拠しており、その卵形のドームが、目の前で裂傷めいた進入口を開けていた。

 

 「……?」

 

 何かに導かれるような感覚に身を任せ、そのドームの中に進入する。僅かに湿り気を感じる、主食用パンのような内壁に薄気味悪さを覚えつつも、道なりに進んでいくと、広い空間に出た。

 そしてその空間の中央の地面と天井に、ひび割れ、半ば崩壊しながらも、淡い明滅を繰り返している一抱えほどの球体が鎮座していた。

 

 「なんだあれ……コア? コントロール装置か?」

 

 恐る恐る近づき、その球体の表面にそっと触れてみる。

 ――その瞬間だった。

 

 『――アクセス承認。対象……該当なし。空きストレージ……必要十分。データ転送を開始します。』

 「うおっ!?」

 

 音声にすればそんなイメージの、直接脳内に響く無機質な思念。それと同時に俺は、天井と地面の球体を一直線で繋ぐ位置の中点に吸い寄せられて固定されてしまう。

 濁流のようにドッと俺の脳内へと流れ込んでくる、凄まじい量のデータ。痛い痛い痛い痛い痛い痛い! 情報量が多すぎる!

 

 「ぐぎぃっっ……! があぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 あとから理解したことだが、この巨大な球体は、この化石化した宇宙船の『航行制御球(ナビゲーション・メタル)』の残骸だった。本来ならば、ただの兵器である俺がアクセスできる代物ではないらしいのだが、今回は三つの奇跡的な条件が重なっていた。

 一つ、この「聖園ミカ」の肉体が、強殖生物を用いて造られた、降臨者(ウラヌス)に最も近い特注の超兵器であったこと。

 二つ、俺という「別次元からの転生者の魂」が発する生体パルスの波長が、偶然にも彼ら降臨者のそれに酷似していたこと。

 そして三つ、この破損した航行制御球が、経年劣化による内部記録の消滅を防ぐために、残された莫大なデータの「バックアップ先(外部ストレージ)」を死に物狂いで求めていたことだ。

 

 『……データ転送完了。機体ステータスを開示します』

 「がっ、はぁっ、ふぅっ、はーぁっ……」

 

 脳内の痛みが引くと同時に、自分自身の「仕様書」とでも言うべきデータが綺麗に整理されて脳内に浮かび上がってきた。

 

 『対衝撃用瞬間硬化外皮:最大衝撃力530kN。あらゆる衝撃に対して瞬間的に結合を変性し、極超高硬度の被膜装甲を形成します』

 『武装生成能力:体内の強殖細胞と結合変性能力を応用し、任意の武装を生成します。また、特有の組織形成細胞及び体液分泌腺を励起し、高密度の骨針や生体爆薬を生成することで、遠距離攻撃を可能とします』

 『頭部制御器官(ヘイロー):絶対服従を強いるための生体電波・思念波放射及び受信器官。――警告。未知のエネルギー体の定着により制御機構に致命的な破損を確認。対象の自由意志が優先されています』

 『帯電高周波ウィング:腰部に配置。最大発生電力300MW。発生振動数、20Mhzから450MHzの帯域で周期的に変化。また、対衝撃用瞬間硬化外皮の影響を受けます』

 『重力制御球:臍部と手甲部に配置。空間を歪曲し重力の影響を局所的に増大、または緩和します』

 

 ……なるほど。このヘイローは精神干渉用の超感度アンテナ兼、首輪だったわけだ。それが俺の魂のおかげでブッ壊れて、ただの超強力なサイコ・ウェポンとして使えるようになってるらしい。超ラッキー。……だが、次に読み込んだデータベースの履歴を見て、俺は真顔になった。

 

 『製造履歴:強殖生物によるヒト基軸型多生物融合兵器 個体名 M.I.K.A.』※1

 『製造コスト:一般獣化兵(ゾアノイド)数万〜数千体分(要求性能により大きく上下する見込み)』

 『最終結論:一個体の生産にかかるコストが許容範囲を超過。費用対効果の側面を考慮し量産計画は廃棄。本機体は封印処分とする』

 

 ……おいウラヌスとやら。採算度外視でSSRを作っておいて「コスパ悪いからポイしまーす」してんじゃねえよ! ガチャの引き際を見誤った廃課金者かお前らは!

 ひとしきり脳内でツッコミを入れた後、俺はふと冷静になった。

 

 待てよ、獣化兵(ゾアノイド)? ウラヌス……降臨者(ウラヌス)? そしてこの、化石化した巨大な生体宇宙船。

 俺の偏ったヲタク知識が、絶望的な一つの真実を弾き出す。ここ、『強殖装甲ガイバー』の世界だ。しかも秘密結社クロノスの厄ネタ特盛りセットのど真ん中である。俺はサーッと顔を蒼褪めさせ、慌てて遺跡宇宙船――いや、どうも死んでるヤツみたいだからその残骸か。ともかくその中から飛び出した。

 

 俺の走るスピードは、まさに突風のようだった。かつての俺はお世辞にも運動神経抜群とは言えない人間だったし、スポーツなんかにも特に興味がなかったが、それでもこんな速度で走れる人間は存在しないだろうと思えるスピードだった。

 蒼い顔で走り去る俺を、石造りの壁と高所に掲げられた松明が眺めていたが、そんなものに目を向けてなどいられなかった。

 もうがむしゃらに走って走って、風のする方、光のある方にとにかく向かっていって、見えてきたのは神殿の出入り口。もう確定だと思った。

 

 化石化した遺跡宇宙船の内部。石造りの神殿。そして、俺が入っていたバイタル・ポッドの群れ。

 日本にある魅奈神山の遺跡宇宙船は「生きて」いるし、アリゾナ本部ならもっと人間の研究施設っぽいものがあっていいはずだ。だとしたら……。

 

 そう、ガイバーの世界で、化石化した遺跡宇宙船があって、古代神殿があり、バイタル・ポッドが置かれている場所など、地球上に一つしかない。

 あの、神にも等しいクロノスの最高指導者がスヤスヤ眠りこけている絶対の聖域。

 村上征樹がイマカラム・ミラービリスとなって、限られた数人※2がその存在を知るまで、アルカンフェル本人とハミルカル・バルカスしか知らなかった大西洋上の秘境。

 俺は周囲の底知れぬ静寂と、事の重大さに冷や汗を流しながら、震える声で、誰にともなく呟いた。

 

 「……ここ、シラー島じゃね?」

 

 俺は限界だと思った。

※1
どうやら外見は担当した降臨者の趣味だったらしい。フィギュア趣味みたいなものがあったんだろうか。

※2
シン・ルベオ・アムニカルスとフリドリッヒ・フォン・プルクシュタール




反応があったら続けます。
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