転生したら聖園ミカだったけど、どう考えてもここはキヴォトスではない。 作:ガイバーって難しいね☆
正直、遺伝子工学分野とその歴史についてはあまり理解していないので、専門家の皆様におかれましては、内容について平にご容赦を。この作品はなんちゃってSFですので。
目指した通りアリゾナ州に着陸した俺は、まず今がどのくらいの時期なのかを探った。
原作の『制圧戦』は199X年8月17日とされているので、正確な時期は把握できないが、図書館に置かれている新聞などを見る限り今は1985年6月と言ったところらしい。1番少なく見積っても、原作まで5年の猶予があることになる。……待て、5年?
「もし原作5年前なんだったら、村上さんもう
俺は慌ててニューギニアで記者が失踪した事件や、それに類するニュースが無いか調べたが、そういった類のものは存在しなかった。
それでも安心できなかった俺は、
……結論から言えば、まだ村上さんは日本にいた。ニューギニアどころか、まだ少し前に雑誌社に就職したばかりとのことなので、おそらく今は22歳前後であろう。
これらの内容から推察するに、今は原作開始の7年前か。原作主人公まだ小学生やんけ。ともあれ、本格的に活動するのに2年の猶予があるのは大きい。俺は安心してアメリカに戻り、
まずはヘイローの『認識干渉』の出番である。
適当な田舎町の役場から孤児院、果ては大学の管理システムまで、関わる人間の脳味噌を思念波でこねくり回し、「ミカ・エインジェル」という架空の日系アメリカ人の戸籍とハイスクールまでの学歴を錬成した。
「字面だけ見ると完全に悪の怪人の所業だな……」
悪かどうかは俺が決めることにする※1ので微妙だが、まあ怪人であることは否定のしようがない。まあともかく、ピンク髪をウィッグで隠し背中に翼が収納されている怪しい無国籍美少女は、晴れて『若き天才遺伝子工学研究者』としてアメリカ社会に爆誕したわけだ。
そこからの2年間は、ひたすら「完璧な擬態」と「実績作り」の期間だった。俺の肉体は降臨者の造り出したトンデモ超兵器だが、それ故に人間社会では目立ちすぎる。下手に力を振るえば、バルカスやアルカンフェルといったクロノス最上位陣のセンサー網に間違いなく引っかかってしまう。だから俺は、徹底して「感情を表に出さない、機械のように冷徹で合理的な研究者」という
他人との無駄な交流は一切避け、可能な限り研究室に引きこもり、淡々と研究成果だけを世に放つ。内心では「今日もボロを出さずに済んだ……帰ってポテチ食いながら映画見よ」などと呑気に構えていたが、周囲からは完全に「血の通っていない氷の天才」として畏怖されていた。まあ、舐められるよりはマシだろう。
そして1987年。俺は満を持して、一つの論文を学会に発表した。タイトルは『人工制限酵素を用いた生物ゲノム操作技術の開発』。降臨者の生体データベースの中にあった技術を、現時点の人間の科学レベルでもギリギリ理解・再現できるようにデチューンした代物だ※2。タイトルは前世で見た論文のものを借りた。
ぶっちゃけ降臨者からすれば「小学生の工作キット」レベルの基礎技術なのだが、ヒトゲノムにも十分応用可能なこの技術は、1980年代の地球の遺伝子工学界隈からすれば、オーパーツもいいところである※3。案の定、この論文は蜂の巣をつついたような大騒ぎを引き起こし……そして、俺の狙い通り『彼ら』を引き寄せた。
論文発表から数週間後、俺の前に黒スーツの男たちが現れた。彼らは表向きこそ巨大なバイオテクノロジー系のフロント企業を名乗っていたが、その実態はもちろん、世界を裏から牛耳る秘密結社クロノスの人事部門である。
「エインジェル博士。あなたの卓越した頭脳を、我々の最先端プロジェクトで活かしてみませんか」
――などという胡散臭いスカウトに対し、俺は冷徹な表情を1ミリも崩さず、内心でガッツポーズをしながら頷いた。ギリギリのタイミングだったが、上手く接触できたようだ。クロノスとしても、
入社にあたっての身体検査も、かなりの冷や汗ものだった。レントゲンやMRIで体内の生体兵装が写ったら一発で解剖台送りである。俺は検査の間中、重力制御球による空間の微細な歪みや、細胞の瞬間硬化をミリ単位でコントロールし、検査機器の数値を「極めて健康な一般人」に偽装し続けた。要求される操作精度が精緻すぎて胃に穴が空きそうだったが、なんとかスルーされた。ゲロインになるかと思った。
そして、アリゾナ本部への配属が決まった日。俺たち新規参入の研究員には、「思考をクリアにし、病気を防ぐ特殊な栄養剤」と称して、ある薬液が注射された。
……そう、未調整の末端研究員に投与される『造反防止ウイルス』である。定期的にワクチンを打たなければ発狂死に至るという、あの凶悪極まりない首輪だ。
(ヤバい、これ打たれたらどうなるんだ!? 俺の肉体に効くのか……!?)
注射針が刺さった瞬間、内心でめちゃくちゃ焦った。クロノスに何も知らない一般人として接触するということは、これを投与されると言うことであるのを、完璧に失念していたのである。アホか俺は……。
だが、数秒後。俺の身体の中にある強殖細胞が「なんだ、この程度の異物など屁でもない」とばかりにウイルスを瞬時に捕食・分解。クロノスの誇る必縛の首輪は、俺の世界最強の免疫力によってあえなく咬み千切られることとなったわけだ。しかもウイルスの持つ『頭脳活性効果』というバフの部分だけをちゃっかり取り込み、俺の思考力は以前よりさらに研ぎ澄まされていた。なんだこの都合のいい肉体は。無敵か? あるいはアプトムか?
当然、俺が致死のウイルスを無効化していることも、降臨者の遺した超兵器であるという狂った正体にも、クロノスの誰一人として気づきはしなかった。
こうして俺は、クロノス・アリゾナ本部の一般研究員「ミカ・エインジェル」として、巨大組織の中枢へと完全に潜り込むことに成功した。
――そうして、数ヶ月後。俺の第1の目標が現れる。
――ヴゥオォォォァン。
「――う。こ、ここは……?」
――頭が痛い。何が起こったんだ……? 確か俺は、ニューギニアの奥地で……そうだ、異形の怪物たちにどこかに連行されて……。なら、ここはあの怪物たちのアジトか? もしくは、俺の精神がおかしくなっていて、病院に収容されているのか……?
「目が覚めたようですね、実験体04号、マサキ・ムラカミさん」
「……!?」
唐突にかけられた声に驚いて振り向くと、そこに立っていたのは、鉄仮面のような無表情を貼り付けた、茶髪の美少女だった。なぜこんな少女がここに、と思ったが、羽織っている白衣を見る限り、彼女はここの研究員らしい。
彼女は物々しいヘルメットを装着した連中に何事かを伝えると、連中は俺に手枷を嵌め、ついてくるように誘導した。
「……なあ、教えてくれ。ここは一体何なんだ? 俺は一体どこに連れてこられたんだ?」
「……」
歩きながら問う。が、彼女は振り向かず、また答えることもない。当然か。俺はここに強制連行されてきた、いわば捕虜のようなもの。わざわざ答えてやる義理なんて――。
「ここは、アリゾナ。秘密結社クロノスの総本山です」
……答えてくれるのかい。さっきの間はなんだったんだよ。少し気が抜けた俺は、続けて問いかける。
「『クロノス』というのが何なのかは分からないが……君は俺を実験体と呼んだよな。俺は一体、何をされるんだ?」
「お答えしかねます。ですがどうせ、それはすぐに分かりますので」
俺の問いに彼女は素気無く返すと、カードキーで部屋の扉を開け、そして振り向いた。
「……申し遅れました。私はミカ・エインジェル。クロノスアリゾナ本部の研究員であり、今回の実験の副主任を務めさせていただきます」
――果たして、開いた扉の向こうに広がっていたのは。薬液に満たされた円筒型のポッドに人が浮かぶ、バイオSF映画のごとき、恐ろしい世界だった。