転生したら聖園ミカだったけど、どう考えてもここはキヴォトスではない。   作:Othuyeg

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原作が難しくて困ってます。長くても25巻の内容までと決めてはいますが、そもそもそこまでたどり着けるかどうか……。
今回も主人公はガバチャーです。申し訳ない。作者は多角的にものを見るのが苦手なのです。俺の不徳の致すところでございます。


記録6 聖園(ミソノ)未花(ミカ)とガイバー

 「な、なんだ!? 今の音……!!」

 

 哲郎さんが、飛び上がるようにして声を荒らげた。沼の横を抜けて帰ろうとしていた俺たちを襲ったのは、鼓膜が破れるかと思うほどの、凄まじい轟音だった。

 

 地面が微かに揺れ、びりびりと空気が振動する。俺たちが驚いて振り返ると、成沢山の方から、夕暮れの空に向かって、黒い煙がモクモクと立ち上っているのが見えた。

 

 「ば、爆発……? 成沢山の方だ……事故かな、心配ですね」

 「事故にしたってあの爆発はおかしいだろ……。どうする? 様子見に行くか?」

 「や、やめましょうよ……俺たちが行っても邪魔になるだけですって」

 

 哲郎さんと俺が、そんな風にヤイヤイやり合っていた時。

 

 ――ドサリ。

 

 「ん?」

 

 何かが沼の(ほとり)に落ちてきた。

 

 ……後から思い返せば、これが全ての運命を決定付けた瞬間だったかもしれない。

 

 もし、哲郎さんの誘いに乗らなければ。

 もし、沼の横を抜けるルートを通らなければ。

 もし、クロノスの回収班がD59号と言う実験体の人を見つけるタイミングが全然違っていれば。

 もし、D59号さんの自爆が失敗していれば。

 いや、もっと言うなら、D59号さんのユニット窃盗が失敗していたなら。

 

 そんな、無限に存在する『もしも』の確率の、ほんのわずかな隙間。神の導きでもなければ、世界を救うべき英雄の宿命でもない。ただの、偶然。

 サイコロの目がたまたまそこを指したというだけの、極めて理不尽で、あまりにも不条理な、100%の『確率の悪戯』がもたらした、ただの事故。

 

 「……なんだ、これ?」

 

 泥を払い落とすようにして転がったのは、不気味な、金属と有機物が融合したような六角盤状の物体だった。

 中央には、鈍い光を放つ金属のような球体が埋め込まれ、その周囲を、まるで生き物の筋肉や血管を思わせる、グロテスクな繊維状のパーツが覆っている。

 

 「おい、晶、触るな! 危ないモンかもしれないぞ!」

 

 哲郎さんの制止の声が、耳に届いていたはずだった。けれど、俺の身体は、不思議なほどの好奇心によって、勝手に動いてしまっていた。

 ただの、珍しいゴミを見つけた時の子供のような、浅はかな一瞬の動作。

 

 俺は、落ちてきたその不気味な物体の、中央の球体に――そっと、触れた。触れて、押してしまった。

 

 「……あっ」

 

 ――ピキィ。

 

 触れた指先から、冷たい金属の感触ではなく、まるで濡れた生肉のような、おぞましい「生気」が伝わってきた。

 

 ――ジュュウゥゥゥゥ……。

 

 「あ……。て、哲郎さん……こいつ、生きて……?」

 

 ――グバァッ!!

 

 その瞬間、六角盤の裏側から、ドロリとした無数の触手のような生体繊維が、爆発的な勢いで飛び出した。

 それは生き物のように俺の全身に吸い付き、全てを飲み込むようにして、肉の奥深くへと繊維を潜り込ませていく。

 

 「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 「し、晶!!?」

 

 息ができない。耳から、口から、鼻から……全身の毛穴から。何かが染み込んでくる。

 グジュリ、グジュリと。それはまさしく、日常が壊れる予感の音だった。

 

 

 


 

 

 

 あー、結局こうなるのか……。俺は顔を覆った。深町晶はガイバーになる運命ということなんだろうか。まあ考えていてもしょうがない。とりあえず1つは確保したし、あと1つを……。

 

 「お嬢さん、ちょっといいかな?」

 「えっ?」

 

 背後から唐突にかけられた声に、肩を跳ねさせて振り返る。そこに居たのは、クロノスの戦闘工作員だった。正直出くわすと思っていなかったので、驚きを隠せなかったのだが、工作員もまた驚いた顔で固まっていた。ははーん、さてはこいつ、俺が美少女すぎて頭がフリーズしたな?

 

 「……お嬢さんが今持ってるそれ。多分、おじさんたちが探してる重要なものだと思うんだ。あ、そうそう。大人しく渡してくれたら、ちょっとしたお礼をしようと思うんだけど、いいかな?」

 

 再起動した工作員は柔和な笑み――顔の半分以上が隠れているので、口元で判別するしかないが――を浮かべ、手を差し出している。

 「ちょっとしたお礼」ねぇ……。まあ、順当に考えれば金一封ってところだろうか。でも、俺の美少女フェイスを見て付け加えたところを見るに、なんか下世話な話の予感が……。

 どうする? 使うか? いやでも、俺は多分殖装できないんだよなぁ……。ユニットの強殖細胞と俺の体内の強殖細胞が喧嘩して共倒れになる予感がする。

 

 「え、えっとー……。警察の特殊部隊の人、とかかな?」

 「え? あ、あぁ。まあそんな感じだよ。だから、それを回収させてもらえないかな」

 

 ……ふむ。若干の焦りを感じる。確かに、ロストテクノロジーの結晶で、降臨者の重要な遺物だからな。何としても取り戻せと厳命されているのだろうし、焦りもするか。

 ……だが。俺はユニットを見遣る。外殻装甲が煤けているくらいで、制御装置(コントロールメタル)に目立った外傷はない。このまま渡せば、オズワルド・A・リスカーが殖装する未来はないだろう。何事もなくギュオーの手に渡り、アルカンフェルに謀反を起こし、この地球の王になろうとする未来が見える。

 

 ……仕方ない。細工を掛けるか。

 

 「分かった。でもちょっと待ってね、お礼をしてくれるって言うなら、住所のメモを渡すから、そこにお願い」

 「あ、あぁ……」

 

 俺はそう言ってユニットを身体の陰に隠し、ユニットの中に「光量の大きな変化に反応して制御球を押下しユニットを起動させる」プログラムを施した強殖細胞を潜ませた。これで、ユニットを確認しようとしたリスカーが事故によって殖装する、という流れを作ることができるだろう。あとは、ギュオーが粛清されるまでリスカーとユニットを分離させないように守れば良い。

 それに、ギュオーからリムーバーを奪えれば、そのまま分離して俺が回収しておくというのもありだ。その後のことは……まあうん、ちょっと思いつかないけど。我ながらウイルスを捕食したとは思えないガバチャーっぷりである。

 

 仕込みを素早く終えた俺は、いくつかあるセーフハウスのうちの1つの住所を書いたメモとユニットを工作員に渡した。

 

 「ありがとう。お礼は確かにこの住所に送ろう。じゃあ、気をつけて帰るんだよ」

 「うん、わかってるよ。おじさんも気をつけてね☆」

 

 ……なんだろう、最初から最後まで随分と爽やかな態度を保っていた工作員だったな。もし()()にしても、彼は最後にしてあげよう。

 

 ――グギュルル。

 

 「あ、そういえば最近()()()()()()()()()()()()()っけ……。どっかで4、5体は喰わなきゃな」

 

 俺は腹を擦りながら、リスカーが殖装することを祈って帰路に就くのだった。

 

 

 


 

 

 

 ミカがユニットを渡したその少し後、成沢山から少し離れた、N市の一角。

 クロノス日本支部が入る高層ビルの上層階、N市の景色を一望できる支部長室は、ひりつくような緊張感に包まれていた。

 

 成沢山方面の通信回線からは、実験体D59号の自爆に伴って飛散したはずの「ユニット」を巡り、日本支部の獣化兵(ゾアノイド)部隊が「正体不明の異形の戦闘体」と遭遇、交戦したという信じがたい報告が舞い込んでいた。また、派遣された回収班の一部が次々と消息を絶っているという。

 

 「馬鹿者! 我々クロノス以外に獣化兵(ゾアノイド)のノウハウを持つ者はいないのだぞ!? 貴様たちが出くわしたその怪人(モンスター)がユニット・ガイバーでなくて何だというのだ!」

 

 日本支部の支部長、巻島玄蔵が怒鳴る。その金切り声のような怒声を聞きながら、執務室の窓際に立つ大柄な男――オズワルド・A・リスカーは、内心で深い溜息を吐いていた。

 

 (無能め。己の失態を部下の責任にすり替えるか)

 

 彫りの深い端正な顔立ちには一切の感情を浮かべず、リスカーは冷ややかな双眸で玄蔵を一瞥した。

 

 彼はクロノス本部から派遣された監察官である。魅奈神山の遺跡基地から発掘された、世界にたった三つしか存在しないという『ユニット・G』を、一介の実験体に強奪されるという前代未聞の失態を犯した日本支部を調査し、査定するのが彼の本来の任務であった。

 先ほどの通信によれば、奪われた三つのうちの一つは、あろうことか部外者と同化し、回収に赴いた獣化兵(ゾアノイド)部隊のグレゴールを惨殺したという。失態に失態を重ねる玄蔵とその支部の無能ぶりに、彼はもはや呆れるほかなかった。

 

 そして、翌日の昼。深町晶が熱を出して看病されている頃。

 

 「ま、巻島支部長! 例の工作員から、回収したユニットが届きました!」

 「おお! よくやった、こちらへ持ってこい!」

 

 部下が恭しく抱えてきた分厚いジュラルミンケースを前にして、玄蔵は縋るような、引き攣った笑みを浮かべた。

 

 「リ、リスカー監察官。ご覧ください。三つのうち、一つは完全に無傷の状態で奪還いたしました。これでなんとか、最悪の事態は免れたかと……」

 

 自身の保身のために必死に取り繕う玄蔵を鼻で笑い飛ばしたい衝動を抑え、リスカーは革靴の音を響かせて静かに歩み寄る。

 

 「……確認しよう」

 

 短くそれだけを告げ、リスカーはケースのロックに手を掛けた。

 

 監察官たるもの、回収された重要物品の状態を自身の目で直接確認し、本部に報告する義務がある。リスカー自身、その『ユニット』なるものが具体的にどのような兵器なのか、詳細なメカニズムや内包する危険性までは知らされていない。ただ、それが本部の上層部や総帥が血眼になって求める未知の超技術の結晶であるということだけは理解していた。

 

 ――カチリ。

 

 重々しい音と共にケースが開かれる。

 部屋の天井から降り注ぐ眩い人工の照明が、ケースの内部に収められた不気味な六角盤状の物体を照らし出した。金属のようでありながら、どこか生々しい脈動を感じさせる外観。そして中央に鎮座する、鈍い光を放つ無傷の『制御球(コントロールメタル)』。

 

 「……ふむ。確かに外殻装甲にわずかな煤が付着しているようだが、ユニットそのものには特に損傷は見られないな。見事な……ん?」

 

 リスカーが状態を詳細に確認しようと顔を近づけ、より強い光量のペンライトをユニットの中央部へ向けた、その時だった。強い光を浴びたユニットの隙間から、極小の生体繊維のようなものが蠢いたのを、リスカーの鋭い目は見逃さなかった。

 ――だが。気付いた時には既に遅すぎた。

 

 その生体繊維――ミカがユニットに仕込んでいた強殖細胞は、光量の劇的な変化をトリガーとしてプログラム通りに躍動し、自らの力で中央の制御球を押し込んだのだ。

 

 「な……!?」

 

 ――グバァッッ!!

 

 次の瞬間、ジュラルミンケースの中に沈黙していたユニットが爆発的に膨張した。ドロリとした無数の触手状の強殖細胞が、まるで獲物を狙い澄ましていた獣のように飛び出し、覗き込んでいたリスカーの顔面、そして全身へと一瞬にして絡みついた。

 

 「ぐっ!? おおおおおぉぉぉぉっ!?」

 「なっ、監察官!? 何事だ!!」

 

 突如として起きた異常事態に、玄蔵が悲鳴を上げて腰を抜かし、後ずさる。

 リスカーの屈強な肉体は、名状しがたい有機的な塊によって完全に飲み込まれていく。全身に強殖細胞が浸透し、戦闘に不要な内臓を作り変え、表面に未知の装甲が形成されていく悍ましい音が響き渡る。

 

 「う、うあぁぁ……! ユ、ユニットが……ユニットが、人を、喰って……!?」

 

 玄蔵が絶望的な声を漏らした直後、ふらり、と殖装が完了したリスカーの体が倒れる。

 

 「ヴァル、キュ……リ、ア……」

 

 玄蔵は目の前の存在を信じられなかった。圧倒的な力と暴力の気配を纏う、黄色がかった異形の超生体兵器。

 ミカというイレギュラーな存在の介入により、破損のない完全な状態で産声を上げた新たな殖装体を。後に『ガイバーⅡ』と呼ばれることになる存在の、あまりにも劇的な誕生の瞬間に立ち会ったことなど、椅子に固執する小心者には到底信じることが出来なかった。




※お知らせ
今後は更新頻度がやや落ちます。さすがに原作みたいな期間放置することはしませんので、今後ともよろしくお願いいたします。
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