異世界帰りの勇者、現実世界で能力を使って悪人を倒し、不治の病を治していたら新世界の神になっていた 作:田所俊三
『ヤマギ・セイギ――あなたは異世界の勇者として召喚されました。どうか、魔王を倒し、世界を平和にしてください』
十七歳の夏休みの終わり、眩い光に包まれた僕は平和な日本から異世界に召喚された。
初めはそんなことできるわけないと思っていたが、いじめられっ子で泣き虫だった僕も、十年以上も異世界にいればそれなりに立派になっていた。
勇者として召喚されたとはいえ、チートすきるが簡単に手に入ったわけではない。
血のにじむような努力をして、様々な力を手に入れたのだ。
そうして僕は魔王を倒した。何の所縁もない異世界を平和にして、見事に目標を達成したのだ。
もちろん、既に第二の故郷のように感じていたので、心の底から嬉しかった。
残された選択肢は二つ。
異世界に残るか、日本へ戻るか。
さんざん悩んで、後者を選択した。
久しぶりに母さんのカレーを食べたかったこともあるし、妹の小うるさい声を思い出したい気持ちもあった。
何より、漫画やアニメ、ゲーム、ドラマ、学生生活を謳歌したかったのだ。
当時の僕は陰キャでオドオドしていて、不良に絡まれて殴られるだけの日々だった。
でも、今ならきっとそうはならない。
そして僕は、日本へ舞い戻った。
「月が……一つだ! やった! 地球だあああああああ」
大司教に頼んで飛ばしてもらったのはどこかの山奥だった。
どこかさっぱりわからないけれど、綺麗な月を見つけてテンションが上がった。
匂いも全然違う。異世界の山は血生臭いことが多いけれど、ただの草の匂いしかしない。
それに魔物が突然現れても来ない。なんて平和なんだ。
「ん、スマホだ。――日付は……え、やっぱそうなんだ」
時空を超えて異世界へ飛んだ僕を戻すには、再び時空を超える必要があった。
その副作用として、時間が巻き戻ると大司教に言われたのだ。
20xx年xx月xx日。僕が異世界に飛ばされた日。なぜ覚えているのかというと、僕の誕生日だったからだ。
ということは、今は十七歳。来週夏休みが終わり、学校が始まる――やった!
「ということはここ、裏山か? そうだ。なんか覚えてる」
僕は一軒家で父と母、妹と暮らしていた。
裏には山があって、その地形だとようやく気付いた。
はやる気持ちを終えながら帰路につこうとすると、女性の悲鳴が聞こえてきた。
「きゃああああ。誰か、助けてえええええええええ」
……え?
正直、こういった声は異世界で日常茶飯事だった。
森では魔物が人間を襲うなんて当たり前だし、悲鳴かと思えば気合の入った女性戦士だったこともある。
けれど、この声は怯えた、懇願している。
半ば反射のように向かうと、女性が走ってきた。
年齢は二十代前半くらい。当たり前だけど黒髪だ。
服がはだけていることに気づいて、何かに襲われたのだとわかった。
「ハッ、どこへ逃げるってんだよ」
その遥か後ろから男四人が追いかけてきているのがわかった。
同時に聴力が異世界のときとそこまで変わっていないことに。
――地球へ戻っても、力は使える。
大司教が言っていたけれど、やっぱりそうなのか。
そのときはふっと笑って答えた。平和な日本で、この力はもう使わないよ、と。
しかし目の前の光景は明らかに暴行だ。当然だけど、相手はゴブリンなんかよりも弱い。
成人した男性とはいえ、殺し合いもしたことがないだろう。
女性は前のめりに倒れる。この暗闇では僕のことは認識していないだろう。
やがて男たちが到着するまで八秒ほど。
「……そうか、日本って完全に平和ではないんだよな」
虐められていた頃を思い出す。
無抵抗の僕を何度も殴り散らかし、助けてくださいと懇願してもせせら笑う連中たち。
とはいえそいつらはまだ序の口だ。強盗や殺人、闇バイト、半グレにオレオレ詐欺――戦争だってまだ存在している。
「や、やめて」
「へっ、手こずらせやがって。どれだけ叫んでも、こんな山奥には誰もいねえよ」
「もっと叫んでみろよ!」
僕は遠くから右手をかざした。
以前なら跡形もなく消し去ることが可能だったけれど、今はどうなんだろう。
異世界で人を殺したことはあるけれど、日本に戻ってすぐは流石に嫌だな。
「少し黙らせてやるよ」
男が右拳を固めて振り上げる。
僕はその姿を捉えながら、静かに詠唱した。
「――
手のひらからライトが光ったような閃光が走る。
一直線に伸びた白い光は、直前で四つの玉に枝分かれした。
それぞれ男たちの額にぶち当たると、鉄球がぶつかったのような鈍い音が響く。
「――イギッ……」
「ガァッ」
「ギィェ」
直後、女性が悲鳴を上げてその場から逃げ出していく。
殺してないよね? と思いながらゆっくり近づく。
額から血は流れているけれど、呼吸はしているみたいだ。
「うーん、やっぱり力の加減が難しそう」
思っていたよりも威力が弱かった。それ以上に、この人達も弱かったけれど。
きっと地球には
「……警察、呼んでおくか」
間違えて時報にかけてしまったけれど、警察に匿名で電話をかけた。
怪しい四人組が女性を襲い、レイプしようとしていたけれど、突然倒れたと。
どうせ、朝まで起きないだろうし。
時間をかけて山を下りて、ようやく人里が見えてくる。
当たりまだけれど、電気がある。電信柱がある。電線がある!
かえって暖かいお風呂に漬かりながらゲームがしたい。でも、それと同時にもう一つとある思いが頭に過る。
「僕がその気になれば、日本も平和にできるのかな」
新世界の神になる。そんな漫画を思い出しながら、ふとさっきの奴らを思い出す。
この世の中には魔物のようにどうしようもない連中がいる。どうしようもない組織がいる。
僕にしかできない、僕だからできることがいっぱいある。
何より精神力だって強い。多くの仲間を看取り、どうしようもないほど傷ついてきた。今更、人殺しにだってビビったりしない。
真面目で優しい人間だけの世界を作ろう。
異世界だって平和にしたんだ。日本――いや、地球だってできるはず。
でも今日は熱いお風呂に入ってゲームして、アニメみて夜更かししよう。
評価頂けると幸いです。爽快感のある、気持ちのいい物語にしていきます。