異世界帰りの勇者、現実世界で能力を使って悪人を倒し、不治の病を治していたら新世界の神になっていた 作:田所俊三
自宅に到着した。
都内一戸建ての何の変哲もない一軒家――だと思っていたけれど、とても立派な三階建てだ。冒険者ギルドの荒々しい風貌とはまったく違う。人の温かみが感じられる立ち振る舞だ。
そこで心臓がバクバクし始める。魔王直下の死神と対峙したときにも落ち着いていたのに……。
「久しぶり! いや、ただいま~……か?」
僕の記憶が正しければ家に戻るのは一日ぶりなのだ。
学校でいじめられて落ち込んで、家で何があったのと母さんに問い詰められてしまい、逃げるように外に出たっきり。
陰キャで弱虫で泣き虫で内弁慶って最悪だよな……。
「おにーちゃん、なに突っ立ってんの」
後ろから懐かしい声が聞こえて、思わず振り返る。
立っていたのは妹だ。名前は
ショートの茶色っぽい髪に薄茶色のカラコン。制服のスカートは短く、どっからどうみてもリア充。
そうだ、こんな顔だった。
「ちょっと、な、なに!?」
「え? あ、ご、ごめん!?」
気づけば僕は妹を抱きしめていた。いやほんと、なんでだ!?
申し訳ないと離れるも、妹はジィっと僕を睨んでいる。
元々好かれてはいなかったけど、これで完全に嫌われた。最悪のスタートである。
「あのさ」
ああ、終わった。なんて言われるんだろう。
伊府はそう言うと一歩前に出る。ビンタ一発だろうか。痛くないだろうけれど、心は痛む。
「泣くなよ。もう」
けれど伊府は僕の目をこすり始めた。気づけば涙を流していたらしい。これは、感激の涙だけど。
「ご、ごめん!?」
「……確かに私たちってキャラ違うけど、辛かったら何でも言っていいんだよ。無理しないでね」
そっけないような態度をしながら、伊府は玄関のドアを開ける。
当時は完全に嫌われていると思っていたけれど、こんな優しい言葉をかけてくれていたのか。
あーほんと、周りがまったく見えていなかったんだな。
伊府の後ろについていくように中に入る。
石鹸のような匂いがふわりと鼻に顔って、思わず笑顔になった。
異世界の場合、貴族屋敷でもない限りは汗臭いか血生臭いか、魔力の匂いがする。
ちなみに魔力の匂いは僕の知っている限り似たようなものがないので例えようがない。
「おかーさん、おにーちゃん帰って来たよ」
「え? 成義!?」
靴を脱いで玄関を上がったら、今度は母が飛びついてきた。
子供の用に抱きしめて、ごめんねと言う。
何があったのかまったく覚えていない。でも、優しいことだけはわかる。
色々と迷惑かけていたことだけは覚えていた。
学校でいじめられ、唯一、口答えができたのは家族だけだったからだ。
それは全部、ただ僕が甘えていただけだけど。
「母さんごめん。でも、もう大丈夫だから。これからは、迷惑なんてかけないよ」
「何言ってるのよ。母さんもごめんね」
「あのさー、玄関でイチャイチャしないでくれる?」
母さんは伊府に「別にいいでしょ」と笑いながら言って、伊府は呆れた顔でリビングへ戻る。本当に家に戻ってきたんだ。
リビングへ行くとカレーの匂いがした。母さんのカレーはじゃがいもがごろごろしていて、なぜかちくわが入っている。
でもそれがとっても美味しくて、何度もおかわりした。
父さんは出張へ行っているらしく、帰ってくるのは来週だという。
色々話したいこともあるけれど、やっぱり緊張する。
どこぞの貴族よりも貫禄があるタイプだからだ。
自室に戻ると、壁一面にゲームのポスターが入られていた。
異世界のゲームで、これがまた僕の転生した先と似ていた。
こいつのおかげで色々助かったけれど、今はちょっと見たくなかった。
何となくアニメなどは見る気がしなくて、テレビを付けた。
ニュースを付けると、海外では戦争が怒っている。渋谷で傷害事件があったらしい。
新宿で半グレが逮捕されていた。
僕は右手に魔力を集めた。時間もかかるし、酷く弱い。
だけどこの世界では最強だ。おそらく、人類で僕に勝てるものは存在していない。
日本に戻ったら存分に堕落しようと思っていたけれど、やっぱり何かできることがあるんじゃないかと頭から離れない。
海外のヒーローのようにコスチュームを作って、悪人をばったばったと倒す?
いや、さすがにそれはダサいし、なんか恥ずかしい……。
「入るよ」
そのとき、妹がドアをコンコンと叩いた。
扉を開けて入ってきて、お風呂上りでパジャマになっている。
「おにーちゃん、明日空いてる?」
「え、あうん」
多分というか、確実に何もない。
もしかして遊ぼうって? いや、それはないか。
「病院、着いて来てくれないかな。お母さん仕事もう休むの大変そうだから」
病院。
そうだ。妹はずっと右耳が悪くて病院に通っていたんだ。
突発性難聴だったか。もうほとんど聞こえなくて、それでも何とか病状をよくしようとしている。
「いいよ。伊府、ちょっと耳見せて」
「え、なんで」
「いいから、ちょっとだけ」
「……いいけどさ」
僕は伊府に横に座ってもらい、右耳を見る。
突発性難聴のことは正直よくわからない。
でも、要は右耳の聴力を元に戻せばいいだけだ。
気づかれないように、静かに魔力を集めた。
――
「ん、なんか耳に水が入ったような……え、ん、なんか変。変。なにこれ、え?」
「どうしたの」
「なんか、音が聞こえるんだけど。え、なにこれ、え、お母さんー!」
伊府は混乱しながらも母さんのところへ去っていく。
ここで喜びを分かち合ってくれても良かった気はするけれど……まあでも、力に慣れてよかった。
世界を変えるには悪人を倒すだけじゃない。
怪我や病気を治すことだってできるはず。
さすがに異世界ほどの力はないから、死者をよみがえらすことはできないだろう。
でも、どれだけ治せるのか、今後試してみてもいいかもしれない。
評価頂けると幸いです。爽快感のある、気持ちのいい物語にしていきます。