俺の緋の眼は曇らない   作:匿名

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2話

 

(知らないオッサンだ)

 

 目を覚ました俺は裸に剥かれていた。

 見上げる先に、太った男。

 脂ぎった薄い前髪を額に貼付けている。

 

 脳が状況を飲み込むより早く、ロシアン・フックを叩き込む。

 さらに髪を引っ掴んで、潰れ鼻をボコボコに打ちのめす。

 

 相手が念能力者じゃなければ、事情も知らないまま殺していたかもしれない。

 幸いにも(?)男はダウンすらしていなかった。

 

 数本、引抜いて手にくっついていた髪を床に捨てる。

 男を冷ややかに見ながら、ベッドを降りる。

 男は異形の舌を伸ばし、自らの鼻血をベロリと舐め取った。

 

「ご機嫌ナナメみたいだな」

 

「当たり前だ!!」

 

「生理か? ちなみに、経血を好物とするヒルもいるらしいよ」

 

(陰獣…蛭か!)

 

 頭では相手の正体を察し、口は「きっしょ〜〜!!」と蛭をなじる。

 

「ぐしゅしゅしゅ、まぁ落ち着けよ」

 

 蛭は俺の右目の辺りを指差す。

 触れてみると、銃創が塞がっている。

 

「おっと、あんまり触るなよ。ヒルと俺のオーラで塞がっちゃいるが、まだ完治したわけじゃない」

 

 清潔感の欠片もない見た目のくせに衛生兵なのか…

 

 よく見れば、身体の怪我まで概ね綺麗になっていた。

 

 しかし妙にベタついているような…

 しかもこのニオイ…

 

「くっさぁ♡」

 

 顔が歪む。

 

「ただでくっさいオジサンの唾と軟体動物の生臭さが混じり合ったニオイがするゥ〜」

 

「ぐしゅしゅ、元気そうだな。最後にもうひとつ、ヒルをプレゼントするところだったんだ」

 

 蛭はニチャリと口を開ける。

 俺は半歩下がって身構える。

 

 太い腕で顔を捕まれた。

 異形の舌が顔に向かって伸びてきて、鼻に舌先を突っ込まれる。

 そこから悍ましい何かが体内へ侵入してくる。

 

「そいつはお前の胎内に寄生し、女としての機能を半永久的に奪う」

 

「うげぇ…」

 

 鼻を抓んで思い切り顔を顰める。

 

「"上"はお前が最後のクルタ族になることを望んでいる」

 

 ドン引きだ。

 

 まぁ前世でも"男としての機能"なんて有って無いようなものだったから、別に良いっちゃ良いけど…

 

「意外だな。大抵の女は泣き叫ぶか暴れる」

 

「一応、治療してくれたことには感謝してるし…」

 

 元男だし。

 

「感謝…?」

 

「ん、あぁ、治してくれてありがと」

 

 耳を赤くする蛭。

 

「なに照れてんの? 気持ち悪〜い♡」

 

「女に感謝されることなんか無くてな…あ、いや、言葉のアヤだってことはわかってるんだが」

 

「オジサン童貞すぎクソワロタ。そんなわけないじゃんね」

 

「だから、わかってる」

 

 複雑な表情だった。あるいは「それはどっちの?」と問いたい衝動を抑えるように、蛭は部屋を出る。

 

「ありがとう」

 

 内なるメスガキではなく、俺自身がそう言った。

 

 そして俺だけが残された地下室。

 パンとスープ、替えの服なども置いてある。

 とりあえず洗面台で身体を洗い、服を着る。

 

 綺麗になってみると、それは改めて少女だった。

 ムダ毛が無い。骨は細く、筋肉が浮いていない。

 

 自分の腕を強く握る。

 

 弱くない。

 

 おそらく念のおかげだ。

 少女の細腕が、並の成人男性よりずっと力強い。

 他ならぬ俺がそれを感じていた。

 

 しかし同時に、弱さも痛感していた。

 

 陰獣と比べれば、正しく大人と子供。

 梟には、商品である都合で殺されないという有利条件があったにも関わらず、手も足も出なかった。

 蛭はボコボコに殴ってようやく鼻血。

 

 発が必要だ。闘争と逃走の切り札になるような。

 

 発について考える。

 といっても、俺は義務教育で念能力を妄想していた。

 誰にも見せられないノートの中に、6系統それぞれに対応する能力のストックがある。

 

 あるにはあるが、全部作ろうとしちゃあいけないってのが念能力のつらいところだな。

 得意系統に合っていないと「メモリのムダ使い♡」になってしまう。

 

 

 

──俺の系統は特質系。

 

 分類上はそうなるが、得意系統はおそらく放出・強化・変化系になるのだろう。

 

(この中で能力を作るなら、変化系メインかなぁ…)

 

 理想的には放出系の瞬間移動か念空間。

 それがあれば陰獣からでも楽勝で逃げられるだろう。

 問題は、俺のイメージ力が足りるのかということだ。

 

 たぶん無理。

 

 だから変化系。

 

 俺が持たせたい性質は、水。

 前世から毎日欠かさず触れ、飲み、感じていた。

 

 常温の水の感触、手のひらで結露する水蒸気、触れれば貼り付く氷点下の氷、イメージはできている。

 

 が…駄目っ…!

 

 一発で成功するほど簡単ではないか。

 

 

 

 

……

………

 

 

 

 

 俺は、制約と誓約をかけることに決めた。

 

 キルアが充電するように、俺は給水を必要としよう。

 もう1つ、手からしか水のオーラは出さない。

 

 口や目、あとは…素で水を出せる部位に限定する制約の方が出力は上がりそうだが、さすがに却下。

 目なんか潰れそうだし、体内に逆流したら死にそうだし、何より見栄えが終わってる。

 見栄えで言うと、手から出すのも手汗みたいでカッコよくは無いが…

 

 とにかく、手に決めた。

 

 それからは早かった。

 手汗をイメージしたその日には手から水が滲んだし、それ以降の効率もかなり上がっているはずだ。

 

 

 

「またそれか…」

 

 食事を持ってくるなり蛭は言った。

 

 俺は能力の修行中。

 今日の内容は、発で氷を出しての石割り(強化系)だ。

 

 他の日には、原作にあった浮き手(放出系)と、思い通りの形状に氷を出す形状変化(変化系)をローテーションで。

 具現化と操作(と特質)に関しては完全放置。

 

 発が完成してから2ヶ月(食事の回数を3で割って大体そのくらい)はそれを続けていた。

 発が形になって、ある程度の水量と状態変化を実現するまでにも1ヶ月くらいは掛かったので、もう3ヶ月も経ってしまったことになる。

 

 蛭とは日常会話をするくらいの仲になり、内なるメスガキもそれなりに抑えられるようになっている。

 

 

 

「外に出てみるか?」

 

 蛭は不意にそう言った。

 

「えっいいの?」

 

 最初は自殺されないようにそれなりの待遇をしているのだと思っていた。でも、それだけじゃないっぽい。

 スマホが使えないこと以外、不便してないくらいには高待遇だ。念の修行もできるしな。

 

 少し不審に思いながら、部屋を出る。

 

「外と言っても、モンスター・ファクトリーからは出られないがな」

 

「モンスター・ファクトリー?」

 

「あぁ、昔は堅苦しい名前だったけどな。今じゃみんなそう呼んでる」

 

 そう言って蛭が案内するのは、刑務所を思わせる施設だった。

 囚人は俺と同じ蛍光色の服を着て、時々すれ違う看守はアサルトライフルを持っている。

 

(撃たれたら余裕で死ねるな…)

 

 拳銃ですら死にかけたことは記憶に新しい。

 看守の持つ銃から視線を外し、蛭の背中を追う。

 

「ここはケジメとして"洗礼"を受けた若いのやら、野良の念能力者が集められてる。要請があれば組に出向いて、気に入られれば組員になって、ここは卒業だ」

 

 なるほど…裏社会の念能力者養成施設かな。

 

「お前はあと3ヶ月で出ることになるがな」

 

「もしかして寂しかったりするタイプ?」

 

「なわけあるか」

 

「なんだこいつ!?」

 

 俺を見るなりそう言ってきたのは、原作で見覚えのある男だった。

 

 大柄でタラコ唇。平成ギャル男を更に尖らせたような、独特の髪型。

 俺や他の囚人たちと同じ制服は着ていない。風船のような意匠があしらわれた、特注の服。

 

「本当にこれがあの赤目の化物かよ。もろそうだぜ」

 

(『もろそうだぜの人』じゃん!)

 

「イキリすぎい〜っ」

 

 あ…メスガキが…

 

「あ〜ん?」

 

 もろそうだぜの人が歩いてくる。

 目を逸らすことしかできない。

 

「この俺に、言ってんのか?」

 

「やめとけフグタラ」

 

 蛭が間に入った。

 フグタラっていうのか…もろそうだぜの人…

 

「やめとけェ? そんな口の利き方で良いのかよ? 俺ァ、アンタより強えよ? 俺がここに残ってるのは、十老頭の見る目がねぇからだ」

 

「陰獣になるつもりなら、その態度を改めるべきだな」

 

 原作では陰獣だったはずだが、まだ違うらしい。

 それでも確かに凄いオーラだ。

 

「証明してやるよ。戦えるんだろ?」

 

 フグタラは俺を見て言った。

 

「え、アタシ?」

 

「顔には当てるなよ。もちろん殺しも無しだ」

 

 蛭が応えた。

 

「いや、え?」

 

「来い」

 

「あっはい」

 

 やるしかないか…




パメラちゃんの系統は特質系ですが、本人が思ってるように放出・強化・変化が得意って設定です。
系統図とズレていますが、特質系の得意系統については39巻のモレナの説明を採用すれば矛盾は無いのかな…と思う

多分、イズナビとウイングさんが言ってたのは、具現化、操作から変化した後天的な特質系に限る(限ると言っても先天的な特質系より多い)話なんだと思います


発について↓
ビッグバンインパクト、ダブルマシンガン、マチの念糸…
系統別基礎修行レベルの単純さに見える能力が発(固有の念能力)として成立しているのは何故か。基礎技術と発を分ける要素とは…
私は"制約と誓約"の有無だと思っています。
制約と誓約が無いように見える能力もありますが、そこでメモリの消費というものが関わってるんじゃないかなと。

修行不足や制約と誓約の値が不足していると能力として発動せず(無理に発動するとメモリバカ食い)、それを超える制約と誓約に対しては強化倍率がかかるって感じの解釈

"誓約の先払い"とか色々妄想してることはあるんですが…
直さなくっちゃ。あとがきが長すぎる悪い癖
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