俺の緋の眼は曇らない   作:匿名

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3話

 

 モンスター・ファクトリー内、第1格闘場。

 

 嫌でも目立つ男たちが入室した。

 現役の陰獣──蛭。

 その隣には、陰獣に匹敵すると噂されるフグタラ。

 

 話し声が止まる。練習していた者も、動きを止めた。

 フグタラの不遜な態度は、ここにいる誰もが知っている。

 

 ついにヤキを入れられるか。

 下剋上かもしれない。

 

 彼らが進むのに合わせて、半径10メートルも人がはける。

 

「やる気か? あの2人」

 

「2人じゃねえ。なんか居るぞ」

 

 Sサイズの制服を持て余している。

 落ち着きなく周囲を見回している。

 

 なんか小さくて可愛いやつ。

 

 少女──パメラ。

 

 目が特徴的だった。

 世界七大美色として高額で取引される、緋の眼。

 そうと知らない者でも、ただの目ではないとわかる。

 

 さらに一部の者は…

 

「赤目の化物…」

 

 幻影旅団の襲撃を生き延び、陰獣梟が生け捕りにしたクルタ族が居るという噂を聞いていた。

 

「化物ォ? 所詮ガキだろ」

 

「ちなみに梟にも蛭にも一方的にやられたらしいよ」

 

「まぁそうだろうな」

 

 パメラとフグタラがキャンバスに入ると、パメラの実力を疑問視する声が上がる。

 

 陰獣との実力差なんか言われなくてもわかる。

 当然、フグタラと戦ってもマトモな勝負になるわけがない。

 

 パメラ自身、華奢な身体を竦ませて、細腕で自分を抱きしめていた。

 それなのに、彼女の口元はつり上がっている。

 

「オジサン手加減とか下手そう。念能力は無しでやろーよ」

 

「お互い無しってことか?」

 

「え、なに? もしかして、女の子と戦うのに対等な条件じゃないとやーやーなの? だっっっさ♡」

 

 キャンバスを囲む人垣がクスクスとざわめいた。

 別に、パメラに同意が集まったでも、フグタラがバカにされたでもない。

 

 念能力を使える相手と念能力を使わずに戦うというのは、年齢も性別も超える特大のハンデ。その条件なら陰獣だって負けるだろう。

 

「発は無し。それでいいだろ」

 

 蛭が言った。

 

「わかった。"俺は"そうする」

 

「こっちはなんでもありでいい…ってコト!?」

 

「好きにしろ」

 

 空気が凪いだ。

 フグタラは意外と技巧派だ。

 具現化系である都合、隠も上手い。

 それはそれとして、練も使わないつもりだろう。

 

 パメラは側転の姿勢から、逆立ちした。

 

「なんだその構え? もろそうだぜ」

 

「逆立ちしたら勝てるかなって、ね」

 

「…それでいいのか?」

 

 蛭が訊く。

 

「いいよ」

 

「しゃあっ」

 

 フグタラのローキック。

 逆立ちしたパメラにとってはあばら粉砕コォース。

 パメラは右脚を曲げてそれを受け、同時に左で蹴り返した。

 

「ガキ…すげえ。なんかやりあえてるし」

 

 逆立ちは、十分戦略的だった。

 

 正対すれば体格で勝るフグタラが圧倒的に優位なのに、逆立ちされたことで拳の打ち先が無くなっている。

 タックルに行けば蹴りのエジキ。堅で無理やり押し倒すことはできる。しかしそれはフグタラにとって、自分が技術で負けたことを意味する。

 

 フグタラは、逆立ちして両足を同時に使うパメラの足技に、高速の流で対応していた。

 でも攻めきれない。蹴り足を1本しか使えないからだ。

 

「あのガキ、強化系か?」

 

 フグタラの流に対しても強化系なら攻防力で負けないというのはわかる。

 

 しかし考えてみて欲しい。

 

 オーラ攻防力が拮抗しているだけで蹴り合いになるか?

 逆立ち状態で地に足付いた相手の蹴りを受けて、しかも2人の体重差は下手すれば2倍以上。それでバランスを崩さないなんてありえるか?

 

 ありえない。

 

 バランス感覚だとか体幹の強さだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてない。

 

 パメラの発だ。

 

 見れば、コンクリートのキャンバスに赤い手形が付いている。

 

「摩擦の強化で擦り剥けたっぽいな」

 

「いや、そんな出血量じゃねえだろ」

 

 手首を切ったくらい、あるいはそれ以上の勢いで床を赤が染めていく。

 

「おそらく変化系だ。血の固まる性質をオーラに持たせれば地面に手を接着できる」

 

 間違いである。

 血の色をしていることに意味なんて無かった。

 

 パメラが水に変化させたオーラは、ただパメラ自身の念に反応して赤く染まっている。舐めれば甘い味がする。そういう能力。

 そして、念で出した水の状態は自任意に変化させることができる。

 

 パメラは水のオーラを氷に変えて、手を地面と凍着していた。

 

 そして氷は、凝固した血液には無い性質を持っている。

 

 パメラの蹴り。

 流は間に合っている。ダメージは無い。

 しかしフグタラはバランスを崩し、ロープに追い込まれた。

 

 キャンバスが、踏ん張りのきかないスケートリンクと化していた。

 

「鬱陶しいんだよおーっ」

 

 フグタラが踏みしめると、赤い薄氷にビシリとヒビが広がる。

 

「遊びは終わりだな」

 

 蛭が宣言して、パメラは氷を霧散させた。

 

 

 

×××××

 

 

 

 フグタラは発も使わずノーダメージ。

 一方の俺は、凍傷でそれなりにダメージを受けている。

 

 …んだけど、勝ったように見えすぎたかな。

 

 フグタラと引き分けた(?)あの時から、俺は注目の的にされるようになった。

 

「どこの流派なのか教えてくれよ」とか、そんなこと聞かれても、パメラちゃんの異常な運動神経のなせる業としか言えない。

 

 教えられるとしても、浮き手の修行をした方がいいよってことくらいだ。

 

 スパーリングなんかも誘われるようになったが、そもそも俺はリング上の殴る蹴るに勝ちたいわけじゃない。

 

 俺の目的は、成金野郎から逃げられるだけの力をつける…そんだけだ。

 

 念能力者と殴り合って勝つことよりも、モブとの銃撃戦を制すことの方が重要なのだ。

 

 というわけで、俺の目的地は射撃場。

 

 流石に厳重な警備を蛭に従って通り抜けると、青空の下。刺激的な火薬の匂いがする。

 

 念弾も練習できるし、もちろん実弾も撃てる場所だ。

 

「これ撃ってもいいの?」

 

 拳銃を指さして蛭に訊く。

 

「ゴーグルは付けろ。あと後ろには向けるなよ。撃たれるからな」

 

 ゴーグルを付けて銃を手に取ると、ずっしり重い。

 意外…でもないか。金属の塊だ。

 

「じゃあ、撃ちまぁす」

 

「的はアレだ」

 

 15メートル先に吊るされた鋼鉄の板。

 

 パン。

 

 結構な音と反動。

 

「もっと下だ」

 

 下だ上だと言われながら何度も撃つうちに、連続で当たるようになる。

 念による補正のおかげか、一度感覚を掴めば15メートルではもう外さない。

 

「念弾も試していースか?」

 

「やってみな」

 

 俺は銃身をイメージした円筒形の氷を形作る。

 氷の弾丸を装填。火薬は不要。

 水のオーラを瞬時に気化させれば火薬と同等に働くはずだ。

 

 パンと発砲音がした。

 

 的は…揺れない。

 

 銃身が曲がってたか?

 

 2度、3度、イマイチ再現性が無い。

 

 銃身を廃してオーラの放出で…

 

 なんとか当たっても、パチンという軽い音だった。

 鉛玉の、コォンと響く音じゃない。

 

「念弾は難しいだろ?」

 

 蛭はニヤついていた。

 

「弾の性質が威力を決める」

 

 そうか。氷じゃ軽すぎるんだ。

 

 氷弾がすぐに失速し、狙いが逸れて的から離れた位置に落ちるのは、鉛と比べて軽すぎるせいだ。

 オーラを込めれば強度は上がっても、重量は変わらない。

 

 ならば鉛の能力を作る…?

 

 鉛を舐めてイメージ修行とか健康に悪そうすぎるな。

 

 それよりも相手が撃ってきた弾丸を撃ち返すカウンター型の応用技を作る方が…

 

 いや、銃そのものを使えばいいじゃん。

 

 ハリウッド映画の主人公のように。敵から銃を奪う方がよっぽど効率的だ。

 とすると、念能力で優先すべきは攻撃より防御面か。

 

 

 

 

 蛭が何かを撃った。

 

 それは、森に潜む"誰か"だった。

 金髪の小柄な人影が、奥へ逃げていく。

 

 クラピカ…?

 

 追って来たのか!?

 

 無謀すぎる。

 俺の商品情報かなんかからここまで辿り着いた能力は認めるが、こんなことしてたら間違いなく捕まって殺されるぞ。

 

 俺も捕まってはいる。だが、生活で困ってることは特に無いし、変な所に売られても買い手のことが気に入らなければ隙を突いて逃げるつもりだ。

 俺は念能力者だし、常時緋の眼状態のレア個体だから。

 

 クラピカは違う。

 捕まったら殺されて目として売られるか、首を切られるか…

 

 警告してやらないと可哀想だよなぁ…

 

「クラピカ!」

 

 来るな。って言ったら、絶対に来る。

 クラピカは、レオリオに「来るな」って言われたら毒蛇の巣に突っ込むようなやつなんだ。

 

「ハンター試験で会おー!」

 

 俺はゴーグルを取ってそう言った。

 

「知り合いか?」

 

「気になるの?」

 

「質問してるのは俺だ」

 

「なんかこわ~い♡ まぁ、一方的に知り合ってるって感じなんだよね。言い表すのは難しい関係っていうかぁ…」

 

 ハンター試験の前に、買い主からどう逃げるか考えとかないと。

 

 オークションまで、あと3ヶ月。




念弾については、ジャジャン拳のパーが弱すぎじゃない?というところから↓

ジャジャン拳の威力はナックルの目測で、グーが4000、パーは500。
ゴンは強化系なので放出系の修得率と威力・精度それぞれに0.8掛け、修行時間が山型ということでさらに0.5掛けとして
4000×0.8×0.8×0.5=1280
念弾が純粋な放出系として攻撃できるなら、パーでもグーの1/4強の威力が出るはずなんですよね
しかし実際にはその半分もありません

そこで変化系のぶんも掛けると
1280×0.8×0.8×0.5=409 になります
今度は500というにはちょっと弱いですが、山型の解釈を0.5→0.55に上方修正すれば約500になります

というわけで、念弾は放出系+変化系の技術だから威力を出すのが難しいという設定にしました

どうせ変化系と併用前提なら七色の念矢を撃ち分けるのもメモリのムダ使いなんかじゃないッ!かもしれない
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