俺の緋の眼は曇らない   作:匿名

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4話

 

 

 スポットライトが眩しい。

 目の前には、何百人もの人間。

 

 俺は手足を拘束され、白いドレスを着た姿で椅子に括り付けられている。

 

『次の商品です!』

 

 司会者が声を響かせる。

 

『幻の少数民族、クルタ族。その生き残りとされる少女です。死して定着すると言われる瞳の色は、世界7大美色の1つに数えられ…』

 

 寄ってきたカメラに目線を送ってやる。

 俺の目がモニターに大写しになったことだろう。

 会場の空気が変わった。

 

「…緋の眼だ」

 

「本物か?」

 

 ざわめきが一瞬で広がる。

 人身売買を咎めるような声は1つもない。

 全員、正装こそしているが、内面の下品さが全く隠れていなかった。

 

 そんな客の中には念能力者も多少含まれているみたいだ。

 

「鑑定ならオレに任せとけ。はああああ」

 

──凝。

 

 だめだコイツ。ただの凝に時間かかり過ぎ。

 

 まぁ万が一、強力な操作系能力とかを持ってるやつに買われたら逃げられなくなる可能性があるから、教えてやろう。

 

『私を買うな

 買えば死ぬ』

 

 オーラの文字を頭上に浮かべる。

 これは警告だ。もちろん隠は使わない。

 

 このメッセージを見て、雑魚は「自分が殺される」と思うだろう。

 もし強者がいても「自殺されるから買っても無駄だ」と思わせられるように、誰が"死ぬ"のかはボカしておく。

 

『この商品は歴史上唯一、生きながらにして緋色が定着した無二の個体で…』

 

『健康診断の結果は…』

 

『精神的にも安定しており、従順な性格です』

 

 不意に、笑いそうになる。

 

 笑いを堪えたついでに従順っぽく怯えたような表情を作ってやると、ざわめきが大きくなった。

 

『5億ジェニーからスタートです!』

 

「6!」

 

 もちろん、それでは止まらない。

 

「10億!」

 

「10億が出ましたぁ!」

 

「11億!」

 

 どんどん吊り上がり…

 

『20億5000万でフンゴファミリー!』

 

 20億に決まった。

 緋の眼にして大体4対ぶん。

 4人ぶんの価値は俺には…子供を産める前提ならあるかもな。

 

 俺は台座ごと舞台袖に下げられる。

 黒服が注射器を持っている。

 

 薬で寝かせる気か。

 それは普通に嫌だ。というわけで、オーラで脅す。

 非念能力者をビビらせるのに発はいらない。

 

「薬はやんないでいいよ」

 

 オーラを収めてそう言うと、黒服たちは顔を見合わせた。

 

「ま…まぁ、それでいいだろう。中で叫んだとしてもどうせ誰にも聞こえないさ」

 

「そうだな。うん。このまま詰めよう」

 

 そう言って俺を、冷蔵庫のような箱に詰め込んだ。

 

 真っ暗だ。

 

 中から見た感じだけならファンファンクロスに捕まった時と近いかもしれない。

 もちろん、性能には天と地の差がある。

 この程度の物理的な箱なら、俺は普通に壊して出られる。

 

 とりあえず、金属ですらない──少女の身体に傷を付けないための、手錠と足枷を力尽くで外す。

 ドレスを動きやすい形に切って、即席の戦闘服とする。

 

 箱から出るのは、まだ早い♤

 

 この建物を含むこの街には、陰獣を含めたすごい数のマフィアが集まってきている。

 そんな中、暴れて逃げ出そうとすれば、大騒ぎになることは避けられない。

 だから、ある程度ここを離れてから脱出する作戦だ。

 

 

 

 箱の中で揺られていると突然、ドンと強い衝撃。

 

 箱が横倒しになる。

 急ブレーキなんてもんじゃない。

 車体ごと横転して止まった。

 

(事故ったか?)

 

 タイミング的に、ただの事故なわけ無いか。

 

 とりあえず外に出よう。

 

 合掌し、硬で圧縮したオーラを水にする。

 超高圧の細い水流に極小の氷弾を乗せて噴射する。

 ビバババっと箱を切断して外に出た。

 

 俺を載せたトラックに乗用車が激突したらしい。

 双方の車体が炎上し、夜を夕焼け色に染めている。

 乗用車から、大きな影が降りる。

 

 それは、2メートルは下らないハルクのような巨体。

 意外と身軽な動きで、荷台に飛び乗った。

 

「はっはあーっ! オレ様は旅団死天王、スパイダー・マッスルだあっ!」

 

 誰だよ。

 

 覆面を被ってボディビルのポーズを決めている。

 シルエットはフランクリンに似てるけど…

 まぁ十中八九偽物だろう。

 

「殺せーっ」

 

 車列を作っていた護衛のマフィア達が停めてスパイダー・マッスルを撃ちまくる。

 マッスルは鉛の雨に撃たれながら、に〜っと笑って俺を見た。

 

 やばい。

 

 まさかガチで幻影旅団並み…?

 どんなに低く見積もっても俺と同格以上ではある。

 

 逃げよう。

 

 荷台の影で絶っていた俺は両手から真紅の霧を噴射し、推進力を得ると同時に身を隠しながら疾走る。

 

 モラウのように霧そのもので何かできるってわけではない。強いて言えば円の劣化版程度の感知ができるというだけの、ただの目眩まし。

 

 それでも、凝で見るまでもないオーラの濃霧。

 相手方からはどんな能力かわからない以上、念能力に詳しい者ほど警戒せざるをえないはず。

 

「無駄だあっ」

 

 声がすぐ後ろからする。

 

 速っ。

 てか霧を警戒しろよ筋肉バカが…!

 

 後ろから尻をぶっ叩かれて、トラブルから逃げるように迂回していた車に追突する。

 バシャアっとリアガラスを割り、車内に叩き込まれる。

 

「なんだあっ」

 

「アクセルを踏めぇえええ!」

 

 ドライバーに少女の声で怒鳴る。

 が、マッスルはもうそこにいる。

 

 逃げられない!

 

 氷柱で車の屋根を補強したのと同時、マッスルの拳が振り下ろされた。

 車体後部を叩かれたことで前輪が浮き、車体がメンコみたいにひっくり返る。

 

 緋の眼ごと潰す気なんじゃないかと疑いながら、俺は空中で脱出。

 

 逃げられないなら戦るしかない。

 

──硬。

 

 掌にオーラを集中させ、最大火力を構える。

 

 一瞬の平穏。

 それを破ったのは…

 

 虚空が、マッスルの巨体を撥ね飛ばした。

 遅れてフグタラが姿を顕す。

 

「フン、もろいぜ」

 

 いや、派手に飛んでる時は見た目ほどのダメージじゃない。

 不意打ちで倒すなら上から叩き潰すように攻撃すべき。

 

 そんなことフグタラ本人もわかっているはずで。

 それなのに吹っ飛ばしたということは…

 俺が逃げられるように、敵を引き離したのだろう。

 

「逃がしてくれるって思って大丈夫そ?」

 

「さぁな。フンゴファミリーに渡った商品がどうなろうと知ったこっちゃねえ」

 

「照れ隠しなのバレバレ♡ じゃ、またね」

 

「あぁ次会う時は陰獣だ」

 

「二階級特進ってこと?」

 

「口の減らねえガキだぜ」

 

 フグタラの視線の先、マッスルは何事も無かったかのように起き上がっている。

 

 フグタラは自分の腕を噛んだ。

 そして息を吹き込む。

 その腕が何倍にも膨らむ。

 

「アイツは任せろ」

 

「ん、任せた」

 

 俺は"隠"れながら逃げる。

 

 その時、銃撃。

 

 なんで速攻狙われてるんだよ! と思いながら、弾が飛んできた方を見る。

 

「ホホホ、お前はこのスパイダー・クイーンが逃さないよ!」

 

 だから誰なんだよ。

 

 その偽旅団の女とは、50メートルも離れていない。

 オーラは大したことないが、サブマシンガンを構えていた。

 

 モブマフィアから奪ったか…

 

 路上の車を盾に、霧を再展開。

 氷の槍を投げる。

 赤い霧に赤い投槍が紛れて、命中。

 

「い や あ あ あ あ」

 

 叫べる程度のダメージ。

 ならば銃を奪いに行くのは危険か。

 離れることを優先する。

 

 路地裏に逃げ込み、霧を出た瞬間…

 

 バババババ!

 

「逃さないって、言ってるでしょオ──」

 

 さっきの女…?

 

 瞬間移動でもなければありえない位置から撃たれた。

 頭部を重点的にガードして、脇腹に被弾。

 

 ミスった。

 目が狙いなんだから、頭は撃たれないってわかるだろ。

 

「おべら!」

 

 女の頭が潰された。

 潰したのは…

 

「蛭!」

 

「霧を追ってきた」

 

「そっか」

 

 蛭は、俺の脇腹をチラ見した。

 

「どこ見てんの〜?」

 

「俺なら治せる」

 

「大丈夫。もう止めた」

 

 傷を凍らせて強がると、また"同じ女"が追って来ている。

 カストロさんのダブルと同系統の能力らしい。

 

 厄介そうだな。

 

 人型の念獣は、銃で火力を補うなら相当強力だ。

 本体を叩こうにも場所がわからないし、やっぱりコイツからも逃げるが吉。

 

「行くのか?」

 

 盾になり、こちらに背中を見せながら、蛭が訊く。

 

「まぁ、うん。ありがとね。今日までずっと」

 

 そう言って走り去る俺を、蛭は引き止めなかった。

 

 壁面を登る。流れ弾が当たらないように。

 ビルの屋上から見下ろす地上は、燃えていた。

 偽旅団は非念能力者の構成員も抱えていたらしく、泥沼の混戦だ。

 

 ターゲットの俺は夜闇に紛れ、居場所は誰にも知られていない。

 怒号も銃声も、遠ざかっていった。

 

 

 

 

 脇腹の氷を解除する。

 

 冷凍止血に治癒を促す効果は無く、それどころか長期的には悪化させるから。

 傷口を手で圧迫し、郊外の薬局に入る。

 

 あ、お金持ってないじゃん。

 

 ハンターになれば困らないけど…

 それまでどうしよう。

 




今回でモンスター・ファクトリー編は終わりです

試験編に入って俺達の戦いはここからだ!で締めようかとも思っていたのですが、想像以上の反響をいただけているので続けようかな…

偽旅団について↓
幻影旅団の『メンバーを殺したら入れ替わり』のルールが、地元の劇団にしてはおかしいなというところから
増えすぎた有象無象の偽旅団への嫌がらせとして追加されたルールなんじゃないかと思いました

シャル「こういうルールがあるって情報流したら偽旅団同士で潰し合うと思うんだ」
パク「私達まで狙われるわよ?」
フィン「んなもん全員返り討ちにして終いだろ」

みたいなやり取りがあったと妄想してます
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