「....」
「........」
「............」
「..............釣れないねえ」
「..............釣れんなぁ」
爺さんと俺、二人並んで冬の湖に釣り竿を垂らす。傍から見ればなんだか良い絵画にでもなりそうな光景だが、残念ながら釣果は無し。
御者のおっちゃんはもう既にテントを組み立て始めてるし、マスターはワクワクした顔でパンを焼いている。諦めんなよ大人二人!!
「なあ、ほんとに釣れんのか?」
「知らん」
「えっじゃあこの時間なに」
「....なんとなーく....行けるかなって....」
「....ほな....しゃあないか....」
俺が治してから釣りハマってるって言ってたもんなぁ、まだ見ぬ地(?)に憧れちゃったか。
「けどやばいよ爺さん。俺もう完全に魚の舌だよ。完全にマスターのパンでフィッシュカツサンドの予定だったよ俺」
「ワシも....冬の魚は美味いと聞いての....」
うーんどうしよ。ルーカスが森に肉を獲りに行ったからメインディッシュは確保できてる、できてるんだけど魚が喰いたいよ俺は。
よし。
「ちょっと行ってくる、一匹はいるでしょ」
「....寒いぞ?というか死ぬ....いやお前さんは死なんか....」
よくおわかりで。
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「大漁!!大漁!!」
「なあ、なんで冬の湖にワニがいるんだ?そして何故あいつに懐いてるんだ?」
「さあ....彼は昔からあんな感じだから....」
いやー、思ったより沢山居たわ。何故かワニも襲ってきたけど。
まあ角生えてるだけのワニが海中戦で俺に勝てるわけ無いよね、当然。
よし、こいつはこれからえーっと....ナドゥと名付けよう。うん。なんか響きがいいので。
「マスター、俺はフライでよろしく」
「バターソテーが良い」
「白い方のお坊ちゃんに同じく」
「湖の魚、刺身で食べてもええんかのぉ?」
「多分ダメだけど俺いるからいいよ。寄生虫の類なら気術で殺せる」
「殺すぞお前ら」
ごめんねマスター、ナドゥ撫でて落ち着こ?撫でない?そっかぁ。
なんでこんな状況になったかって?さあ。
なんやかんやあって、爺さん主導で俺の知り合い大体巻き込んでプチ旅行する事になった。最初は二人の予定だったんだけどね。
俺と爺さんだけだと何かやらかしそう、という理由でまず御者のおっちゃんが付いてきた。
旅行行くんだよね、という話をしたらルーカスが滅茶苦茶うきうきし始めたので、連れてこざるを得なかった。
冬の間は客足が少ないらしいし、いつもお世話になってるから連れて来たい&料理人枠でマスターも来た。
二泊三日、男五人でワイワイするだけ。夢だったんだよなぁ、こういうの。
「めっちゃサクサクで美味い。流石」
「....おいしい」
「あんた、こんなもん作れるのになんで酒場やってんだ?シェフの方が稼げるぞ」
「おぉ....新鮮な味わいじゃ。骨抜きもキチンとされとる。ありがとうなぁ」
「........」
嬉しさがギリギリ疲れを上回っている顔をしている....やっぱりマスターは料理人なのでは?俺は訝しんだ。
「グゲゲゲゲゲゲゲゲゲ」
「おおどうしたナドゥ、喰いたいのか?」
「ワニは....揚げ物を食べていいのだろうか....」
「さあ、いけんじゃねえのか?」
「....魚の端材でいいだろ」
おお、美味そうに喰ってる。あとワニの鳴き声ってこんなんだっけ。まあいいや。
うわー、めっちゃ手触り良いなナドゥ。可愛いぞナドゥ。なんかムニムニザラザラの新触感だ。
ルーカスの手がめっちゃうずうずしてる。動物好きだもんね、君。
無抵抗のナドゥを差し出すと夢中になってもちもちし始める。虎耳と尻尾がフラフラと揺れていて見るだけで面白い。
何故かマスターも爺さんおっちゃんも俺の方を見つめている。
「なんだよ」
「お前にあの可愛げがあればなぁ....」
「まあ、そうじゃの」
「聞かせて欲しいんだけどこの顔であのモーションしたらキモいだけでは?」
「「....」」
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男が五人も集まると、始まるのは大抵恋バナになる。
マスターが振られた理由で爺さんが泣いておっちゃんは笑い。
爺さんの奥さんとの馴れ初めは全員中々ジーンときた。公爵家の令嬢と駆け落ちって主人公か何かで?
おっちゃんはド普通で、それはそれで良かった。娘さん今度連れてきたいってさ、此処。
俺?俺は....うん....パスで....
「おいルーカス。イケメンなんだからひねり出せ」
「ぼくは....許嫁がいるから、あんまり恋愛は....」
「えっ」
「はぁ?見たことねえぞ、そんな奴。遠くに住んでんのか?」
そういや私生活あんま知らねえな。金は持ってるから適当に働いてると思ってたんだけど。
....というかルーカスが何処からやってきてどういう生まれなのかも分かんないな....?お坊ちゃんぽい服装な事しか....
「うん、ずっと、遠くだ。ここから馬車で...多分、東に二ヶ月ほど進んで、船に乗って、一ヶ月ほどで、多分、会える」
....なんか、ちょっと嫌な予感がするぞ。斥候の勘が問い詰めろって言ってる。
「なあルーカス。お前の親って何処にいる?」
「その国だ」
「産まれは」
「....一応、第二王子ということになっている」
「なんでこっちに来た?」
「....新聞の記事に、お前が、載ってたから....」
「....親御さんに、許可は?」
顔をぷいっと逸らす。
「馬鹿野郎?!?!」
ガッチガチに外交問題じゃねえかアホカス?!ぷいっじゃないよぷいっじゃ!!!
「帰れ!!今すぐ!!説明してこい!!その後帰ってこい!」
「い、いや、せつめいはしたぁ!けど、ゆるしてもらえなくて....」
「だからって無許可で来るなよぉ!」
ほら見ろ周りの顔!!爺さん以外ドン引きしてるぞ!!爺さんはなんか嬉しげな顔....ああこいつ駆け落ち経験者だった....いや駆け落ちじゃないが??
「うれしくて....はやくあいたくて....ごめん....」
「謝ってほしいわけでは無くてぇ」
ちゃうねん。もし向こうが誘拐だとか勘違いしたらアカンねん。
けど泣いてる人間に俺は弱い。説教など続けられる筈も無く。
議論が続いた結果。
俺が三ヶ月後、一緒に頭を下げに行くハメになった。なんで???
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「大変な目に遭った....」
「ごめん、ますくす....」
「若いって良いですなぁ」
「まったくだ、クソガキが困ってて気分がいいぜ」
「おいゴラ酒の肴にすんな。俺にも寄越せ」
「ほほ、初めて可愛らしいとこを見たやもしれん」
「何処が....?」
美少年にガチ説教する中身オッサンのブスだったけどな....?
「にしてもなんで三ヶ月後にしたんだ?早けりゃ早いほうが良いだろ」
「そりゃそうだが金がねえんだよ。冬は稼げねえし」
完全な客依存だからなぁ、大道芸の稼ぎ。冬の外出が嫌になってくる季節は天敵だ。
「金がいるのか、ほれ」
「いらん。どっから出したそのクソデカ革袋」
宝石が金貨とぶつかる音がしたのは多分気の所為だ。俺の耳だって間違うことはあるだろう。
「結局俺がルーカスに命じて行かせんだから俺の金じゃねえとダメだろ」
「....義理堅いのぉ。ワシも恩があるんじゃが」
「送ってくれたのと最初に貰った分で十分だよ、ありがとうね」
にしても、どうやって稼いだものか。結局、大道芸の稼ぎはどれだけ頑張っても限度があるし。
「それはそれとして、良い稼ぎ方知らない?」
「盗み?」
「賭場でイカサマ?」
「合法でお願いします」
おっちゃんとマスターは俺の事なんだと思ってんだ。盗賊じゃねえぞ斥候だわしゃ。
「ふむ。ワシにしたようにマッサージ稼業でも始めたらどうじゃ」
「あー、アリ、かも?」
街で暮らし始めて、半年とちょっとして気付いたんだけど。
気術のレベルがかなーり下がってんだよな。代わりに文明と魔術があからさまに進んでる。
魔術は理論が発展したらみんな進むけど、気術に関しては完全に才能と努力依存だから、全体で見たらコスパが悪いのが原因....だったり?
昔は気術使えないと毒素で一瞬で死ぬし、ちょっと大事な血管が切れただけで死ぬ羽目になるから一般市民でも死ぬ気で覚えたもんだ。今はなんでも携帯型の聖術だの魔術でなんとかなるらしい。スゲー。
それはそれとして、平和になるってこういう弊害もあるんだなぁ。
「うーん。やるにしても場所がいるんだよな....俺は宣伝とかそういうのも苦手だし....どうしたもんかね」
頭を捻って考えていると。
隣でナドゥに餌をやってたマスターが口を開く。
「....はぁ。ウチの二階で良いなら、使わせてやる」
えっ........?
「....パパって呼んでも良い?」
「やっぱり撤回で」
「冗談ですやん」
ぐへへ、肩揉みますよ兄貴。ナドゥもほら乗っかれ。お前の家主になる男だ。
爺さん
山登りも始めようか悩む
御者
結婚記念日をすっぽかして来た