嫌いだ。
軽薄な人間が嫌いだ。
不真面目な人間が嫌いだ。
何より、男が嫌いだ。
つまるところ、勇者パーティ結成当日。
五分遅刻した上片手に酒瓶を持ち、赤ら顔で現れた彼への好感度は最初から最低だった。
事前に聞かされていた。世界から精鋭を集めた結果の、パーティのメンバーは。
勇者たる私と、聖女であり幼馴染のメルクリア。異国の大魔女であるモチヅキ。最強と名高い戦士であるルーカス。そして一流の斥候であり、前衛もこなすマスクスという男だ、という事は。
ルーカスは、まだ許せた。整った容姿を持つと自負する私にも、同じく見た目の良いメルクリアも目もくれず。予定の十分前に集合し、暇だと分かるや魔王の暮らす魔領への進行計画を確認し始めた。誠実であることは伝わった。
モチヅキも、時間ぴったりに来て、手元の魔導書を読み漁っていた。仲間とするには少し不安だが、許容範囲ではある。
それに、比べ、あの男は。
全てが。彼を構成する全ての要素が苛立たせた。腑抜けた顔。だらしのない服装。酒臭さ。私達を見るなり真っ先にモチヅキの盛り上がった胸元を見る厭らしさ。
『よろしく!!美人が三人もいるじゃねえか、ひゃっほぅ!!!!』
つまるところ、嫌いだ。
嫌いだ。
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嫌いだ。
普段からふざけている癖に、いざという場面でのみ真面目を装うのが嫌いだ。
異国の王へ討伐の協力を頼む時。
魔領で暮らす民族の族長へ交渉する時。
あらゆる対人の交渉において、悔しくもあの男よりも有能な人物は居なかった。甘言に苦言。脅しにハッタリ。
つまるところ、嫌いだ。
ああ。嫌いだ。
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嫌いだ。
海辺の町。祭りの有名な都市。異文化の村。
私達が慣れぬタイプの魔物に頭を悩ませ、攻略法を考えているというのに。
『おい、イカ焼きクソほど美味えぞ!!』
『屋台で詐欺られたぁぁぁぁ!!!!すまんメルちゃん金貸して!!』
『がはは、何言ってるか分かんねえけど酒呑んだら分かり合えるんだよな!!ところでその縄と焚き火って何に使うの?』
くだらない。無意味な。国から支援された筈の金を無駄にすり減らし。
固まった私達の顔をただ緩ませる。理由無き多くの行動が。
私には出来ないことばかりが出来る、彼のことが。
ああ、嫌いだよ。
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嫌いだった。
助けが間に合わなかった村。
敗北した騎士団。
私達の為に死んだ冒険者達。
魔王と人類の戦いが終わりに向かうにつれ、何度も見た。何度も救えなかった。
それを悔やむ為の時間さえ、場合によっては無かった。
ある日、彼が何も言わずに寝床から出ていった。
何を企んでいるのかと後をつけた、私が辿り着いた場所は。
荒れた地面と、それに突き刺さった沢山の墓石だった。
それは荒くて。どう見ても、素人の仕事。
そして、それを為したのであろうアナタは、ただ、手元の石を削っていた。
嫌いだった。
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嫌いだったよ。
救えなかった事が。
弱いことが。出来ないことが。
私に花をくれた少女が小鬼に殺されたよ。
私にアドバイスしたおじさんが私を庇って死んだよ。
剣を教えてくれた父さんも。
魔法を教えたおばあちゃんも。
私が遅くて。私が弱くて。バカだったから。死んだんだ。
自分が一番嫌いだったよ。
夜に沢山泣いたんだ。
貴方は気付けば傍に居て。ただ、ニヤニヤとしながら俗なジョークを押し付けてきて。
何度切りかかったかな。
嫌いだったんだよ。
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嫌い。
綺麗な女の人を見ると、すぐさま話しかけに行くのが嫌い。
目を少しでも離すと、すぐにその土地の花街に行くのが嫌い。
私に綺麗っていつも言うくせに。誰にでもその言葉を渡すのが嫌い。
モチヅキと話す時に。私にはしない顔をするのが嫌い。
メルクリアに褒められた時。見たことのない笑顔をしたのが嫌い。
他の女の子の匂いがするのが嫌い。
誰にでも優しいのが嫌い。
嫌い。
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私の膝の上で、動かないのが嫌いだ。
今すぐ起き上がって、いつも通りにジョークを吐かないのが嫌いだ。
目を開かないキミが嫌いだ。
全部終わったのに。
キミが望んでた、子供が森で遊べる時代が来たのに。
キミが語った、魔領で花火だって打ち上げられるのに。
取り置きしてるお酒が沢山あるって言ってたのに。
甥っ子がおっきくなったら一緒に遊ぶって。
私についてこいっていったのに。
ああ。
嫌い。
勇者ちゃん
死因は餓死。