変な女だった。
それは服装や雰囲気、という意味ではなくて、俺から見て、奇妙に感じる女だった。
知っている。多分知っている。何処かで絶対に知っているのに、誰か分からないという意味で変だった。
表情が、コロコロと変わる。笑顔と、困惑と、泣き顔を。ほんの数秒ごとに切り替わり続ける様は、見ていて面白い。そして辛い。
すげえ美人さんだ。少なくとも、泣いていても分かるくらいには。
「えーっと、こんばんは?はじめまして....は、ちょっと違うかな」
そんな気がする。誰だか分かんないけど、はじめましては失礼な気がする。
そうすると、何故だか変わり続けていた彼女の顔が泣き顔で固定されてしまった。なんでだ。
「そう、です、ね?こんばんは、ですもん、ねぇ」
「うん。多分だけどね」
マジで誰だー、俺の知ってる子にこんなお清楚な雰囲気の子はいないぞ。見た目だけで言えばセレスは凄い似てるんだけど。
けどなぁ、もしセレスだった場合最初からドアが吹っ飛ぶどころか家ごと聖剣でカチ開けてきてもおかしくないし。絶対違う。
「ねえ、俺と君って何処で会ったのかな。分かんないねぇ」
「う....うぅ....わたしも、わからないです」
「困ったな、そりゃ」
覚えてないのにあの勢いで入ってきたの怖いけどね。
....アレか?まさかセレスの子孫とか?死んだ後、皆が何をしたのか俺は知らない。
彼女はモテていたし、思いつく中では一番現実味がある。
でもそれだと俺に何か用があるらしいのが説明できないなー、うーん。
「君の名前、教えてもらえる?」
「あ、アーダント・セスティです」
知らねぇー、そういえばセレスが嫁入りした場合ぜんっぜん名前は参考にならないのか。俺のおバカ!
「俺はダスト・マスクス。気軽にマスクスって呼んでね」
「........」
ん?
顔が、変わった。表情、とかじゃなくて。
表情筋の使い方自体が、というの、だろうか。
さっきまでは緩く、ほんわりとしていた顔付きが、急に力みを持って----
「あ、お前セレスじゃん。おひさ~」
「....死ね」
セレスやないかーい!!!すげえな、顔って筋肉の使い方だけでこんな変わるんだ。あと顔真っ赤。
当然の様に叩き込まれたハイキックをギリギリ受け流す。何度喰らったと思ってんだ、コレ。
「どうしたんだよ急にさぁ、何?まさかまだお前の財布の件----」
「黙れ」
すみません、チェンジで。さっきまでのゆるふわお嬢様どこに消えた???
どういう原理なのかは分からないが、どうやら今のこの人?はセレスらしい。あいも変わらずお元気(皮肉)で。
疲れてる体で攻撃を避けれているのは、一応手加減....なのだろうか。そういう所はちょっと優しいよな。......優しいか?これ。
色々と懐かしい。何かあったらすぐ暴力を行使する部分は変わっていないようだ。
「セレス、結構ちゃんと疲れてるから止めて」
「........」
ぴたっ、と俺の首辺りで足が止まる。芸術的な肉体制御。流石だね。
最初からそうしてくれるとありがたいんだけど。
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少し、落ち着いたか。二人でマッサージ台に座って、ゆるゆると話を続ける。
「ルーカスも来てるよ、ちょっと歩いた所に居る。回復したら一緒に行こうぜ」
「....そうか」
「いやー、久々に顔見れて嬉しいわ。ありがとうな、わざわざ来てくれて」
正直、結構微妙な関係だった自覚があるんだけど。まさか会いに来るとは。
義理堅い、って事なんだろうか。はたまた、なんだかんだ仲間とは認識してくれていたのか。
「どう、良い所に産まれた?ルーカスすげえぞ、この国じゃねえけど、王族だってさ」
「....公爵の長女に」
「よかったよかった。ご両親は良い人?困ってる事は無い?」
「善人だ。困り事は....大きな物は、無い」
「そっか。嬉しいよ」
うん、頼んだ甲斐があった。神は約束を守るタイプらしい。
「お前は....どうなんだ。最近は、その」
「このお店のお陰で金欠解消って感じ。疲れるけどね、やり甲斐はある」
「金欠って、何故だ。また賭博か」
「違うよ、ルーカスの実家に詫びに行く代金。流石に手土産くらいは必要でしょ」
「そうか」
じっ、とこちらをセレスが見つめる。何だ、なんか付いてるか。
うーん、顔がいい。ルーカスの顔もすげえが、やっぱり女の子だと男目線ちょっと....喰らうね。
「お前の、親は。どうだ」
「いねえけど」
....謎の沈黙が発生。気まずい。ルーカスの時も同じような事無かったか?
「....何故」
「そりゃ、捨て子だったし。死んだとかじゃないよ」
「違う。神に、何を頼んだ。何かの、対価でそうしたのか」
「そうだよ」
お前らに贈ったから、一応その対価って事になるのかな?
「何を頼んだ」
「俺の分をお前らに贈ってくれって」
さっきからすげえデジャブ。
あの、セレスさん顔怖いっす。マジで。美人の怒り顔ってすげえな、ちょっと今肝が竦んだぞ。
「そうか」
「アノ、ハイ、ソウデス」
「お前は、まだそういう人間なのか」
ガシッと胴が抱え込まれた。『体勢で言えば』ハグというやつになる。
問題は咄嗟に強化してなかった場合、俺の全身がバキバキに折れていた程度の力が込められている事だが。
「私が、私達が。それで喜ぶとでも思っているのか」
「嫌だった?じゃあごめんね」
顔顰めないでよ。そんなに嫌だったの?
「....お前は、疑問に思わないのか」
「何を?」
主語が足りてないぞ、主語が。
「お前が、他者の幸せを願うように。私達も、お前に幸せになってほしいと、思っているとは。考えないのか」
「ほへー」
そう言われましても。もし、そうだったとしても。行動は一切変わらない。
「あらゆる人間は」
「おお、急にクソデカ主語」
「お前ほど正しくない」
「何処がぁ?」
「だから....気が、済まない。貰ってばかりは、誰しも」
正しさの....『た』部分くらいしかないぞ。自分を悪人って言う気は流石に無いけど、基本的に自己中だし。
昔から、勘違いをよくされる。確かに、行動は良い人っぽいんだよな、俺は。
けどそれは、俺にとっての楽な道が偶然、世間から見た良い人なだけだし。
あんまりにも褒められすぎると、嬉しさよりも違和感が来ちゃうぜ。
誰かの涙を見るより、自分がちっと頑張ったほうが楽。
仲間が泣くよりジョークに頭を捻った方が楽。
最期だって。四人の内の一人の死体と、俺の死体を想像して。俺の死体が一番綺麗な結果に見えたから、ああしただけ。
それを正しさ、と多分言わない。生まれつきの性格が、便利?優秀?なだけ。
俺には、セレスとかメルクリアみたいな倫理や。ルーカスのように、誇りに従える人間が偉く、そして正しく見えている。
だってそれは、辛い道で頑張ってる。俺より、遥かに苦しいと思う。
だから、皆が好きだった訳だし。幸せになると、俺だって嬉しいよ。
....そういう事を、頑張って説明したんだけど。
頭抱え始めた。どうやら前世と変わらず理解力はゴリラらしい。
「どうしたそんな顔して」
「お前のせいだぁ....」
「やーい他責思考」
なんだ?俺の中身を説明すると、みんな言語化不可能な顔をしなきゃいけない呪いでもあるのか?
人間に出来る顔の中で、一番色々詰め込んだみたいな顔を。今のセレスもしている。
「うーん。じゃあ、俺がセレスに何か頼めばいいの?何か出来れば満足な訳?」
「....そうだと思う。少なくとも、今は」
「じゃあ、その顔やめて」
「笑ってよ。嬉しいから」
もっと酷い顔になった。どうして....?
パーティ出発時の年齢
ルーカス 22
モチヅキ 16
セレス 17
メルクリア 17
マスクス 14